8th.STAGEのゴール地点、ニュージャージー州ユニオン・ビーチ。一番最初に辿り着いたのは──。
《8th.STAGE決着ゥゥゥゥ!8th.STAGEを制したのは
アンカデキメルゼ。単独出走でありながら、彼女は全区間をトップで通過するという離れ業をやってのけた。
「……フゥ」
アンカデキメルゼはそのままホテルへと向かう。出走者であるウマ娘達が利用できるホテルが無償で提供されているのでそこに向かっていた。
続々と他チームのウマ娘達もゴールする。彼女達は同じチームのウマ娘達に。
「ゴメン……!追いつけなかったっ!」
「クソ、クソ!勝てなかった!ごめんなさいリーダー!」
「……できるだけ不利を受けないようにしようとしたのにっ!」
悔しそうに歯噛みしながら、謝罪の言葉を口にしていた。だが、彼女達が一生懸命、力の限り走っていたことは同じチームのウマ娘達が誰よりも知っている。だからこそ、誰も彼女達を責める者はいなかった。
そんな彼女達に、拍手が送られている。
「惜しかったなー!もう少しだったぞー!」
「まだFinal.STAGEがある!最後にそこで一矢報いてくれー!」
「シルバーラビットもだけど、お前らのことも応援してるぞー!」
「よく頑張ったなー!」
ここユニオン・ビーチに集まった観客達が、スティール・ボール・ランを走ったウマ娘達に賞賛の拍手を送っている。自分達にそんな拍手を送られる権利はあるのだろうか?一瞬そう思ったウマ娘達だが。
「……ありがとうございます!」
一礼して、身体を休めるためにその場を去っていった。
ホテルで身体を休めるウマ娘達。それぞれが明日のレースに向けてのプランを考えている。
「ようやく完成した……!このルートなら!」
「行けるっ、勝てるッ!」
「明日のマンハッタンの情報をありったけかき集めろ!道路の情報を1つ残らずキャッチしておけ!」
すでに総合優勝はアンカデキメルゼに決まっている。このFinal.STAGEを他のチームが勝利したところで、総合優勝はアンカデキメルゼで揺らがない。だが、彼女達には最早そんなことは関係なかった。
「リーダー、ごめんなさい……」
「お願いします。後は、後は!」
「私達の分まで!お願いします!」
ただこのFinal.STAGEを勝ちに行く。ただ勝利を貪欲なまでに欲する。勝利に飢えているウマ娘の姿があった。
「これが、正真正銘のラストチャンス……ッ!」
「負けない、ここで勝って、私は前にッ!」
「覚悟しろ、シルバーラビット!」
そして、次の日──Final.STAGEの朝を迎える。
ニューヨーク州のマンハッタンの観客席。所狭しと観客達が見物に来ていた。
「おい!押すなって!」
「お前こそ!クソ、もうちょっと前の方で見たいのに!」
「あぁ……速く始まらないかしら!?」
スティール・ボール・ランの開始を、今か今かと待ちわびている。昨今のスティール・ボール・ランでは見られなかった光景だ。アメリカ大統領は思いに耽る。
(これほどの大観衆が、スティール・ボール・ランを見に来ている……これほどの観客は、一体いつぶりだろうか?やはり、彼女に頼んだのは間違いではなかった)
その時大統領の脳裏によぎるのは──アンカデキメルゼに対する尊敬の念だ。
(彼女は素晴らしいウマ娘だ。私も──覚悟はできている)
大統領が物思いに耽っていると、花火が打ち上がり始めていた。これは、もう少しで出走するウマ娘達がこのマンハッタンに上陸する合図である。一度思考を打ち切り、大統領はレースを観戦する。
《さぁいよいよ最初のウマ娘が上陸するぜ!最初に上陸するのは勿論このウマ娘だ!誰もが彼女に夢を見る!道なき道を駆け抜けて!無茶な挑戦も全て蹴破って走破してきた葦毛の魔王!お前ら夢を見る準備はできたか?さぁ!この私に夢を見ろ!
アンカデキメルゼが軽やかにマンハッタンに上陸した、が。
「おい?シルバーラビットが動かねぇぞ!?」
「ここでアクシデントか!?」
「何で動かないんだよ!?」
アンカデキメルゼはスタート地点から微動だにしなかった。
「……あぁ、そういうことね」
何かを理解したように、アンカデキメルゼと
「……おい、最後のデカい花火一個だけ残しとけ」
「え?な、なんでですか?」
「良いから残しとけ!」
「は、はい!?」
次に上陸したウマ娘も、そのまた次に上陸したウマ娘も。アンカデキメルゼ達と同じように立ち止まった。そして150人目のウマ娘が上陸した後──全員が一斉にスターティングのポーズを取る。
全員の目がギラついていた。彼女達の目に映るのは、13km先にあるゴールだけ。その先にある勝利を目指して、誰もが勝利に飢えていた。
その光景を見て、大統領は自然と涙を流していた。
(──あぁ、この光景が見れたのであれば……悔いはない。本当に、本当にありがとう……アンカデキメルゼ)
しかしと。大統領は涙を拭う。このレースの結末を見るために、勝者をこの目で確かめるために。大統領はスティール・ボール・ランの様子を見る。
《スティール・ボール・ランFinal.STAGE!総距離13kmの市街地戦高速ステージ!全員が一斉にスタートのポーズを取ってぇ!》
刹那、一際大きい花火が打ちあがる。その轟音とともに。
「「「ウオオオオォォォォ!!」」」
ウマ娘達は、一斉に駆け出した。
《スタートだぁ!スティール・ボール・ランのFinal.STAGEが幕を開ける!先陣を切ったのは……やはりこのウマ娘!アンカデキメルゼだぁぁぁぁ!》
最後の勝負が始まる。
150人のウマ娘達がマンハッタンの市街地を縦横無尽に駆け抜ける。
「負けるかぁぁぁぁ!」
「ここを抜ければ……!よし!ショートカット!」
時に裏路地に入ることも厭わず。
「うわ、すっごいとこ。だけど、ここ抜ければ!」
「うわっ!?っとと。な、なんとかなるもんだね!」
時に建物から建物にパルクールのように飛び移り。
「シルバーラビットの姿が見えない……でも、気を緩めない!」
「勝つ……勝つんだ!」
安全面を最大限考慮しつつ、最短のルートに挑戦し続けていた。
トップチャット∨ ︙ |
\10,000 全員頑張れ! ・今のちょっと際どかったぞ!?だけどすげぇ! \20,000 なんて熱い勝負だ……スパチャを送らざるを得ない \10,000 熱い勝負をありがとう!最後まで絶対に見るぜ! ・全員すげぇルート通ってんなwwwワクワクが止まらねぇぜ! \50,000 シルバーラビット様頑張ってくださーい! ・マジでどうなるんだ!?このステージ面白すぎんだろ! ・マジで最高!全員頑張れ! \30,000 楽しすぎる!最後まで目が離せない! |
無論良く思わないものもいただろう。だが。
「……」
「あの、抗議しなくていいんですか?」
「黙ってなさい。今はただ……この勝負の行く末を見ていたいの」
「……俺達もです」
誰もがそのレースに夢中になっていた。
再三になるが、スティール・ボール・ランの総合優勝はアンカデキメルゼに決まっている。このFinal.STAGEで必死になる意味はほぼないに等しい。他チームのウマ娘達は1つでも順位を上げるため、といった理由があるが。アンカデキメルゼは最下位であっても優勝だ。他者からすれば一生懸命になる意味なんてないと思うだろう。
だが、
「ァァァァアアアア!」
「勝つ、勝つんだぁぁぁぁ!」
ただ目の前にある、
誰もが勝利に飢えるスティール・ボール・ラン。その姿に人々は目が釘付けになる。この勝負を永遠に見ていたい、そう願う観客で溢れかえっていた。
しかし勝負には必ず終わりがある。先頭集団はすでにブルックリン橋へと入っていた。残すところ3km。決着の時は着実に近づいている。
《先頭集団はブルックリン橋に突入するぅぅ!先頭集団の中にシルバーラビットの姿は……ない!?なんとシルバーラビットは34番手付近に位置している!集団に囲まれているぞシルバーラビット!これはどうしたことか!?彼女は囲まれるとピンチになるが……!?も、もしやこれはぁ!》
アンカデキメルゼは前から34番目の位置。周りには沢山のウマ娘。橋の歩道は観客で埋め尽くされている。その状況でアンカデキメルゼは忙しなく視線を動かしており、
(油断はしない!アイツは絶対に仕掛けてくる。だから絶対に、気を緩めたりはしない!)
(残りの距離は3km!コイツを今のうちに引き離しておく!)
(勝つ、シルバーラビットに勝つんだ!)
そうして橋を渡り終え。残すところ──後1,000m。
《ブルックリン橋を渡り終える!先頭集団がブルックリン橋を渡り終える!だが集団はまとまっている!150人のウマ娘はほぼ固まっているぞ!誰もが勝利を目指して飢えている!ゴールであるトリニティ教会目指して走り続けている!
150人のウマ娘がブルックリン橋を越えて。ゴールであるトリニティ教会に向けて疾走する。誰もが勝利を目指して必死な表情を浮かべる中。
「……アハハハ」
瞬間、膨れ上がるプレッシャー。走っているウマ娘全員が察する。
(ッ!来る!)
(やっぱり、あんたは来るでしょうね!)
(だけど、負けない!)
(勝つ!みんなのために、私のために勝つ!)
だが、それで気を緩めるウマ娘は
「
そして、アンカデキメルゼが加速する。次々と順位を上げていき──残り500を切ったところで先頭へと躍り出た。
《前方にトリニティ教会が見えてきた!先頭に立ったのはアンカデキメルゼ!アンカデキメルゼが先頭に躍り出た!やはりこのウマ娘が勝つのか!?やはりこのウマ娘がスティール・ボール・ランを制するのか!?しかし、しかぁぁぁぁし!誰一人として諦めていない!その目には炎が灯っている!誰もがこのFinal.STAGEを勝とうと死力を尽くしている!これは最後の最後まで分からない!残り300!200!まだ集団だまだ集団!全員が必死に食らいついている!その差は全くといっていいほどない!勝つのは、勝つのはどのウマ娘だ!?》
近づいていくゴール。先頭集団は塊であり、その差はほとんどがクビ差ハナ差の大接戦。
「「「ウオオオオォォォォ!!」」」
「「「ァァァァアアアア!!」」」
雄たけびを上げて、自らを鼓舞する。残り100mでもそれは変わらない。150人の叩き合いを制したのは──。
《しかしアンカデキメルゼ!アンカデキメルゼがわずかに前に出たぁぁぁぁぁ!勝者はアンカデキメルゼ!アンカデキメルゼだぁぁぁぁ!シルバーラビット、アンカデキメルゼ!スティール・ボール・ラン全区間トップで完走ゥゥゥゥ!》
決着ゥゥーーー!!