「『それではアンカデキメルゼ、前に』」
「は、はい」
9月下旬から始まったスティール・ボール・ランもついに終わって。僕の勝利ですよー!イェイイェイ!なんてする暇もなく閉会式へと移った。現在僕は大統領の前に立っている。
いや、ヤバいヤバい。とんでもねぇ人数いるよ。見渡す限りの人、人、人。僕さっきからガッチガチだよ。緊張しっぱなしだよ。
「『君は素晴らしい成績を残した。スティール・ボール・ランの単独完走、全区間トップでの通過、また挑戦の数々……君の勇姿が、我々の心をつかんで離さなかった』」
「え?そ、『そうですかね?』」
「『誇ってくれ。君は──スティール・ボール・ランの勝者であると』」
大統領からの惜しみのない賛辞。周りからは拍手喝采。い、いやぁ!まぁ?僕頑張りましたし?調子に乗ってもいいですよね!やってやったぜぇ!
「『それではまずはトロフィーの授与から行こう。まずは南極の氷に入ったこのトロフィーだ』」
冷たそう。なんでも南極の氷に穴をあけてこのトロフィーを埋め込んでいるらしい。なんて業前なんだ……。普通に凄い。
「『そして合計獲得賞金だが……まずは優勝賞金の五千万ドルを君の口座に支払おう』」
五千万ドル……五千万ドルかぁ……。いざ受け取るとなると全然実感が湧かねぇな。なんていうんだろう、宝くじが実際に当たったらこんな気持ちになるんだろうか?額が額だけに現実味がない。てか、これだけじゃないというのが恐ろしい。
「『そして各区間ごとのトップボーナスで1万ドル……それが8つだから全部で8万ドル。さらにファイナルステージの特別賞金で……日本円にして10億円だ』」
わぁい、お金がいっぱいだぁ。マジでいくらぐらいなんだろうなこの賞金……。
「『それでは最後に!この小さな英雄に惜しみのない賞賛の拍手をお願いします!おめでとうシルバーラビット、アンカデキメルゼ!』」
「「「わああああぁぁぁぁ!」」」
「おめでとーう!カッコよかったぞー!」
「痺れるレースだったぜー!またレースの世界でもすげぇ走りを見せてくれよー!」
「ありがとーう!シルバーラビットォ!」
観衆からの賛辞の嵐。これ聞いてると本当に頑張ってきてよかったなぁってつくづく実感するなぁ!やっぱり良い気分ですよ!えへ、えへへ!
そしてトレーナーさんのもとへと戻ろうとすると……今回のスティール・ボール・ランを走ったウマ娘達が僕のところに来てた。な、なんだろう?どうしたんだろうか?
「……『シルバーラビット』」
「な、『なんだ?』」
彼女達は、一斉に頭を下げて!?ちょちょ、なんですかなんですか一体!?
困惑する僕をよそに、彼女達は。
「『ありがとう。あなたのおかげで……目が覚めたわ』」
「『うん。私達は甘かった。確かに完走することは大事だけど……それ以上に、ウマ娘として大切なものを失っていた』」
「『アンタがいなかったら、私達はそれに気づかないまま落ちぶれていってたと思う』」
「「「『だから、ありがとうシルバーラビット』」」」
僕にお礼を言ってきた。……うん、これなら大丈夫そうですかね。
「『序盤こそ酷いものだったな。やれ完走できるよう頑張るだの精一杯走るだの。とても闘志を感じられなかった』」
「うぐっ」
心当たりがあるのか気まずそうな表情をする彼女達。だけど。それも序盤だけの話だ。
「『だが、ステージが進むにつれて変わっていった。徐々に熱が高まっていき……ファイナルステージではとても楽しい時間を過ごすことができた。勝利のために己の全力を尽くす……素晴らしい時間だったよ』」
「……『そうだね、あそこまで白熱したのは久しぶりだった。だけど!』」
あん?急に地団駄を踏み始めてぇ!?
「『もうめーっちゃくちゃ悔しい!後もうちょっとだったのに~!』」
「『そうだそうだ!また届かなかったじゃん!』」
「『シルバーラビットの勝ち逃げ!畜生めぇ!』」
「『フハハハハ!僕の!完!全!勝!利!だな!』」
「『ムッキー!ムカつくわねこのデカケツラビット!身長に対して尻が大きすぎんのよ!』」
「『テメェライン越えやがったな!?』」
そっからギャーギャー騒いで。ひとしきり言い合った後、彼女達は清々しい顔つきで。
「『とにかく、ありがとねシルバーラビット!』」
「『私達みんな、あんたに感謝してる!』」
「『また一緒に走りましょう?スティール・ボール・ランじゃなくてもいい、別の機会に!』」
「……『あぁ!また一緒に走ろう!』」
そう約束を交わして。僕達は別れた。
その後は大統領のスピーチに入って。僕の出走の問題とか僕がレースでやったことへの謝罪なんかをしていた。いくら僕とはいえ、やっぱり非難は免れないと思っていたのだろう。真摯に謝罪をしていた……のだが。
「『何言ってんだよ大統領!アンタのおかげですげぇレースが見られたじゃねぇか!』」
「『そうだそうだ!これが俺達の見たかったスティール・ボール・ランだ!』」
「『大統領万歳!大統領万歳!』」
割と好意的な意見で溢れていたというね。これには大統領も困惑の表情を浮かべ。
「……『そうか。ならばよかった』」
そう零した。大統領は後日責任を取るつもりらしい。本当は辞任とかするつもりだったらしいけど……国民の支持的にそうなることはなさそうだというのがSP談。大統領は大統領のままになりそうだ。
そして今度は。
「アンカデキメルゼ」
「うん?……ゲッ」
1st.STAGEを走破した時に僕にいちゃもんつけてきた人達じゃん!な、なんだなんだ!この期に及んでいちゃもんでもつけに来たのか!?や、やってやろうじゃねぇですかよこの野郎!
と思ったのだけど。なんだろう、凄いしおらしい態度だ。本当になんだ?言いにくそうにして、それでも決心のついた表情で。
「『確かにあなたの走りは凄かったけど……だからといって単独出走は許されることじゃないわ』」
そう告げた。……まぁ、それはそう。
「『やっぱり危険だし、第1回からも見てとれる通り、怪我が続出するし最悪の場合……なんてケースも勿論ある。だから、おいそれと賛成するわけにはいかないわ』」
「……『そうか』」
いやまぁ仕方ない話である。危険っていうのは本当だし。僕だから大丈夫だったってだけの話だ。
「『でも』」
ん?まだ何かあるんでしょうか?
「『私達も私達で……間違っていた。安全にすることばかりを考えて、肝心のスティール・ボール・ランの意義を見失っていた』」
「『思い出させられたよ……本来のスティール・ボール・ランは、挑戦の物語だったってことを』」
「『誰もが勝利を目指して挑戦し、時に過酷な環境下でもしのぎを削って走る……そんなスティール・ボール・ランに憧れてたってのに、いつの間にか随分間違えてしまった』」
後悔するように。団体の方達は自らの行いを反省していた。だけど、俯いていた顔を上げると──晴れやかな表情をしていた。
「『今度はもう間違えないわ。スティール・ボール・ランをより良いレースにするために……私達は尽力する』」
「『あぁ。スティール・ボール・ランを誇れるようなレースにするために。手を尽くしていこうと思う』」
「『ありがとうシルバーラビット。僕達の目を覚まさせてくれて。君のおかげだ』」
ふ、ふふーん!そうですかそうですか!
「『1つ、あなた方に質問しよう』」
「『何かしら?』」
「『僕の走りに……夢を見ることができたか?』」
僕の質問に、彼女達は笑顔を浮かべて。
「『えぇ、とっても!』」
そう、答えた。
そしてトレーナーさんとヴィッパーの元へと戻り。
「ただいま、トレーナー君、ヴィッパー」
「うん。お疲れ様アンカ」
「お帰りですアンちゃん」
「それにしても……つっかれた~!」
僕はホテルに辿り着くとすぐさまベッドに身を投げ出して楽な姿勢を取る。いや、本当に疲れた!スティール・ボール・ランもそうだし、ここに帰って来るまでも疲れた!
「クッソ~!人の帰り道を塞ぐように報道陣が詰め寄ってきやがって!おかげで大変だったじゃないですか!」
「アハハ。でも大統領のおかげで無事に帰ってこれたから良かったね」
「大統領様様です。ベッドにダーイブです」
それにしても、明日には日本に帰るのか。みんなどうしてるんだろ?
「明日には飛行機だな。久しぶりの日本だ」
「そうだね。アンカは……半年ぶりになるのかな?」
「マンノウォーステークス以降帰った記憶がないからな」
ガチで久しぶりの日本じゃん僕。みんなどうしてるんだろ?
「そう言えば、ハグに頭ナデナデは良かったのアンカ?」
ちょ!?その話蒸し返します!?
「あ、あれは冗談だといっただろう!?」
「あ、そうなんだ。アンカがそういうなら別にいいけど」
「だ、第一!君は良いのか!?ぼ、僕と、アレだぞ?ハグするんだぞ!?」
「別にそれぐらいいいけど。頭を撫でるのだって俺は別に構いはしないよ?」
え?マジだったの?……そうなるとなんかもったいなく思えてきたな。
「それで?どうするのアンカ?」
「……じゃあ、お願いしてもいいですか?」
「なんで敬語。別にいいけど」
と、とりあえずトレーナーさんに近づいてハグしてもらいましょう。とは言っても、ぶっちゃけそんなにっ!?
(な、なんだこれは……!)
た、多幸感が凄い!ハグには幸福効果があるとは聞いていた。ぶっちゃけ信じてなかったけど。だけど……これは!ほうほう!
「よしよし、よく頑張ったねアンカ」
「ッ!」
そこに頭ナデナデのオプション付きだとぉ!?な、なんてことだ……幸せがヤバい。とてつもなくヤバい。凄い凄くヤバい!話は本当だったんだ!ハグに幸福効果はありまぁす!もう二度と疑いません!でも心臓がバクバクするのは止めていただきたい。
それから少しの間やってもらって。
「どう、アンカ。満足した?」
「……」
「アンカ?」
僕はバッと顔を上げて!
「最ッ高でしたね!また頼みますよ!」
「あ、あぁうん。別にいいけど」
あ、そうだ。じゃあヴィッパーともやってみよう。
「ヴィッパー、僕とハグしてくれない?」
「え?なんで?……まぁ別にいいです」
「うん、ありがとう」
ヴィッパーともハグすればさらに幸福が!……なんて思ったけど。
(……幸福感は得られるけど、別にドキドキはしないな)
心臓は痛くならない。え?なんでトレーナーさんとだけ?良く分かんね。
それから僕達は食事を取って就寝した。なんていうか、終始暑かった気がするけど気のせいですかね?まぁいいや。お休み~。
次回辺りシニア1年目のエピローグ。その後はステータスを更新した後また短編を10個ほど書いていこうと思っています。