非常に、ひっじょーに由々しき事態です。
(アンちゃんはコミュ障です。そんなアンちゃんの良さを知っているのはヴィッパーだけだと思っていたのにです……!)
ただ、最近のアンちゃんは……!
「アンちゃんは色んな人から好かれ過ぎですッ!」
誰もいない部室で1人そう叫ぶヴィッパー。これは由々しき事態です!メーデーです!
(いやまぁ?アンちゃんの活躍は留まることを知らないです。出走するレースは連戦連勝、どんな状況からでも勝ってみせる、あらゆるレースで劇的な勝利を演出するエンターテイナー気質もあるです。それは認めるです)
実際脳を焼かれているスレ民も沢山です。しかもスティール・ボール・ラン以降アンちゃんはウマチューブにアカウントを作ったのでさらにファンが増えること間違いなしです。
まぁそれはいいです。ファンはファンなのでアンちゃんに近づこうとする輩はさすがにいないはずです。だけど問題は……ッ!
「ぐぬぬ……!セクレタリアトさんにニジンスキーさん、モンゴルダービーに出走した方々!さらにはさらにはドバイミレニアムさんにアメリカのゼニヤッタさん!しかもアメリカ大統領に英国女王様!同じチームにもタキオンさんやファインさんもいるし、学園内にもアドマイヤベガさんやテイエムオペラオーさん、ナリタトップロードさんもいるです!そしてにっくきデイラミ!アンちゃんは色んな人から好かれ過ぎですッ!」
しかも当の本人はのほほんとしてるです!この前もヴィッパーが忠告してやっても!
『アンちゃん色んな人から好かれ過ぎじゃないです?もうちょっと自重した方がいいと思うです』
『んなこと言われても……というか僕って言うほど好かれてる?』
って!のほほんとしてたです!というか、自覚無しって質が悪いです!
ただでさえヴィッパーはレースには出ないサポート科のウマ娘です。出番なんて減る一方です*1。そんな限られた出番の中で後方正妻面待機しているというのに……!そのポジションも奪われつつあるです!
(というか、最初の頃に比べてトレーナーさん成長し過ぎじゃないです!?どうなってるんですあの人!?)
なんでチームメイト全員の体調を管理しつつ最適なトレーニングプランを立ててタキオンさんのレースプランも並行して進めているです!?しかもアンちゃんに至っては神の啓示(安価)でランダム性が強いというのに、今や平気な顔で対応しているです!とんでもねー仕事量なのに、ほっとんど1人でこなしてるです!
(人畜無害なトレーナーさんだったのに、今はもう覚悟ガンギマってるです!アンちゃんのためならなんでもやる凄味があるです!)
初期の頃のあわあわしてたトレーナーさんはどこいったです!?*2いや、ヴィッパーの仕事もないわけではないです。ニジンスキーさんの業務を手伝ったり、チームメイトのトレーニングメニューを管理してたりするです。だけど、トレーナーさんの仕事量に比べればヴィッパーの仕事量なんて天と地どころか月と地球ぐらいの差があるです。
(さすがにお役御免ってことはないですけど……)
それでも心配にはなるです。最初こそ、ヴィッパーだけがアンちゃんの良さを知っていたのに……それもなくなりつつあるです。
「このままだとヴィッパーの地位が危ういです……!由々しき事態です!」
「なんだ?どうかしたのかヴィッパー」
「うひゃあああああああ!?」
き、気づいたらセクレタリアトさんがきていたです!ビックリしたです!
「由々しき事態って言ってたが……なんか緊急の案件でもあったか?」
「い、いえ!個人的なことなので何もです!」
「そうか?ならいいが」
「あら、今日は早いのねセクレタリアト」
ニジンスキーさんも来て、その後もアルナイルのメンバーが続々と入ってきたです……アンちゃんはいないですけど。
「いや~それにしてもよ」
とりあえずお茶でも用意するです。
「相変わらずシルバーラビットは面白れぇよな!本当にアメリカに欲しいぜアイツはよ」
……なんですと?
「随分と冗談が好きなようねセクレタリアト」
「あ?冗談じゃねぇよ。アイツさえよければ、俺はいつだって良いポストを空けておくぜ?それにシルバーラビットだからな。大統領もファンだし、アメリカに行けば間違いなく最高の贅沢ができるだろうよ!」
「──確かに、アンカの功績を考えれば。Americaでも最高クラスの待遇が用意されるだろう」
「それは間違いないねぇ。なんていっても、あのスティール・ボール・ランを復活させた立役者でもあるわけだ。しかもシアトルスルーさんにドクターファーガー氏もアンカ君にご執心……間違いなくVIP待遇で迎え入れられるだろう」
ぐ、ぐぬぬ……!た、確かにそうですっ!
「笑えない冗談ね……アンカはイギリスに来るに決まってるでしょう?」
ニジンスキーさんはそういう意味です!?
「アンカのことは女王陛下だって気に入っているわ。つまりは国賓待遇で迎え入れられる……一生働かないで生きていくことだって可能だわ」
「女王陛下のお気に入りって、凄いことですよね本当」
「あのケツデカ葦毛はゆく先々でとんでもねぇ面子と知り合ってんな。つーかもう働かないでも生きていけるだろアイツ」
「アンカさんがイギリスに来れば、アイルランドにもすぐ来れるね!そうなったらデイラミ様もすぐにアンカさんに会えるから喜びそう!」
アイツの喜びはどうでもいいです!それだけはなんとしても阻止です!
そ、そうです。アンちゃんはみんなから好かれているです。別にヴィッパーがいなくても、アンちゃんは色んな人に好かれてて……。
(……ヴィッパーの価値ってなんです?)
セクレタリアトさんはアンちゃんの師匠です。ニジンスキーさんはアンちゃんのコーチです。他の人達だって何かしら持っている。あのデイラミだって、アンちゃんのために色んなことをしているです。
だけど、ヴィッパーがアンちゃんにしてあげられることは……他の人でもできることで……。
(ヴィッパーはアンちゃんにとって必要ない?)
……いや、まぁ?ヴィッパーはアンちゃんが困難に挑戦する姿を見て愉悦できればそれでいいですし?別にこのポジションに拘る理由だってなくて……だけど、どことなく納得できなくて。
「いーや!シルバーラビットはアメリカだね!自由の国アメリカこそアイツに相応しい!」
「何言ってるの?イギリスに決まってるでしょう?そもそも言うほど自由じゃないでしょうアメリカなんて」
「うるせーよ!つーかニジンスキー!テメェもどちらかといえば
「知らないわねそんなこと。ワタシはイギリスのクラシック三冠ウマ娘よ」
「裏切りもんが!」
「なんとでも言いなさい」
アンちゃんがアメリカやイギリスに渡ったら、ヴィッパーとは会わなくなるです。そんなの……そんなの!
「……です」
「ん?どうしたんだヴィッパー……」
「あ、アンちゃんは!日本の方がいいに決まってるです!」
絶対に嫌です!
「第三勢力参戦だねぇ」
「いいぞいいぞ!やったれやったれ!」
「わ~!ヴィッパーちゃん珍しいね!」
「いやいや!そんなこと言ってないで止めましょうよ!?」
アンちゃんは日本の方がいいに決まってるです!そもそも、アンちゃんと離れるなんて嫌です!日本ならまだいいですけど、国ごと変わるのは嫌です!
「アンちゃんは住み慣れた日本の方がいいに決まってるです!」
「ほーう?……本当にそれだけか?」
「な、なんです?」
セクレタリアトさんはやたらとニヤニヤしている。というか、顔が熱いです。気温高くないです?
「なぁに。別に国が変わったところでお前の要請とあればすぐにでもシルバーラビットは会うだろうさ。だけど、なんで嫌なんだ?そこんとこ詳しく聞かせてくれよ?」
き、決まってるです!
「ヴィッパーがアンちゃんと離れるのが「おはよー。凄い賑やかですけどなんかありました?」嫌だから……で……すぅ……」
アンちゃんと離れるのが嫌だから。そう言った次の瞬間、扉を開けてアンちゃんが入ってきて……!なんでこう、間の悪いタイミングで入ってくるですアンちゃんは!?というか、絶対今の会話聞かれてたです!は、恥ずかしい……!
「え?何々ヴィッパー?僕と離れるのが嫌なの?というか、なんかあるの?別に僕どこにも行く予定ないけど?」
話の流れがつかめないからかそんな声を上げるアンちゃん。だけど、それどころじゃなくて!
「……ちゃんの」
「え?何ヴィッパー?というか、本当に何の……」
「アンちゃんのデカケツー!ヒップサイズ92ー!」
とにかくアンちゃんと顔を合わせられないです!このまま逃げ去るです!
「とんでもねぇこと口走りながら走り去るんじゃねぇぇぇぇぇ!?というか人のヒップサイズを暴露するなぁぁぁぁぁ!?」
「……ケツデカ葦毛。テメェそのヒップサイズでケツがデカくないは無理があるだろ」
「うるせぇクソチビ!」
後ろからはそんな会話が聞こえてきたです。
僕のヒップサイズを暴露しながら去っていったヴィッパー。いや、本当になんで?というか、なんの話の流れでこうなったんだよ……。全く訳が分からない。
そんなことはあったものの。僕とヴィッパーは同室なわけで。
「……」
「ヴィッパーもう寝てるし。昼間の話聞こうとしたのに」
すぐにでも会えるわけだ。というか、僕と離れるのが嫌とか言ってたけど。
「ヴィッパー。僕と離れるのが嫌って言ったけどさ」
「ッ!」
あ、反応した。ということは起きてるな?コレ。
「別に一生一緒ってわけじゃないけど……それでも僕はヴィッパーから離れる気はないよ。チームから脱退したら凄い悲しむし」
「……」
「それに何があったか知らないけどさ、僕にとってヴィッパーは
とりあえず言いたいこと言ったから寝ますかね……あ、布団から耳と尻尾がはみ出てる。
「~~~~ッ!!」
あ、めっちゃ機嫌良さそうにピコピコしてる。とりあえずいいのかな?
ま~僕にとってヴィッパーは一番の親友だ。それはこの先ずっと変わることがない。絶対にね。てかヴィッパーが布団からはみ出てきたな。僕をジッと見てるけどどうしたんだ?
「……い」
「ん?どしたの?」
「一緒に寝て、欲しいです……」
「なんだそんなこと。別にいいよそれぐらい。じゃあ一緒に寝ようか」
ヴィッパーが僕の布団に潜り込んできて。一緒に寝た。うんうん、なんていうか。
(相変わらず妹みを感じるな~)
そんなことを考えながら寝た。ちなみに次の日のヴィッパーはすこぶる機嫌が良さそうだった。
間の悪いアンちゃんである。