(フフフ……ついに、ついにこの日が来たようだね!)
ショーケースを利用して身だしなみを確認する。今の私はさながら意中の相手とのデートに浮かれる初々しい若者……といったところかな?彼女が来るのを今か今かと待ちわびている!
「ねぇ、あれってもしかしてデイラミ様?」
「きっとそうよ!あぁ……!いつ見てもカッコいいわ!」
「わ、私声かけちゃおうかな?」
おっと、私のことが気になっているファンの方がいるようだね。そのようなファンの声に応えるのもまた私の役目。彼女達の元へ近づいて。
「フフ、そう恥ずかしがらずに。遠慮なく声をかけてくれていいんだよ?」
「で、デイラミ様!?」
「あ、あの……その……」
おっと、彼女達は戸惑っているようだ。彼女達の気持ちも分からなくはない。彼女達の内1人の髪を触り、囁きかけるように。
「遠慮はしなくていい。私に……何を望んでいるのかな?」
「は、はわわ……!あ、あの。一緒に写真を……!」
「なんだそんなことか。無論構わないとも!さぁ、存分に撮ろうじゃないか!」
本当はダメかもしれないが、まぁいいだろう。これもファンサービスというヤツだね。彼女達一人一人とツーショットで写真を撮り、最後にみんなで写真を撮った。彼女達はその写真のデータを見ながらキャーキャー声を上げてくれている。フフ、これだけ喜んでくれるのは嬉しいね。
「あ、ありがとうございますデイラミ様!この写真、大切にします!」
「そう言ってくれると嬉しいよ!それじゃあ、またどこかで。私を応援してくれる愛らしい少女達」
「「「~~~ッ!」」」
彼女達は顔を赤くして逃げるように去っていった。ふむ、日本人のファンは相変わらずシャイのようだ。いや、向こうでも同じような反応をする子達はいたな。それにしても、あぁも顔を赤くして走り出すと思い出す……っ!?
『今日、楽しかったので。お礼です』
「う、う……うあああぁぁぁぁぁ……っ!?」
くっ!お、思い出してしまった!私の生涯において、思い出すのも憚られる失態ッ!いや、思い出した方がいい!いややっぱりダメ!?でも思い出さないとアンカとの、そ、その……あの記憶は!
「うぅ……!し、羞恥心と嬉しいという気持ちでごちゃごちゃになってしまう……!」
くぅ……!アレはいただけない!私らしくない!それに、このことをダラカニにいつまでも茶化されるし!
『意中の相手とのキスで顔を真っ赤にする姉上……大変可愛らしかったですよ?』
お、おのれダラカニめ!いつまでも姉の痴態で笑って!しかもこのデート前にも!
『それではダラカニ!私はいってくるよ!』
『えぇ姉上。……アンカデキメルゼさんといいこと、あるといいですね?』
『いいいいい、良いことだと!?お前は何を言っている!?』
『おや?私はいいこと、としか言ってませんよ?別に深い意味などありません』
『う、うぐ……!』
『……ま、この調子だと程遠そうですが』
「な、なにが程遠いだ!私とて不意打ちでさえなければ!」
「不意打ちでなければ、なんですか?」
「決まっているだろう!あ、あ、アンカときき……ってぇぇぇぇ!?あ、アンカ!?」
「はい。アンカデキメルゼですが」
な、なんてことだ!?気づいたらアンカが来ていたじゃないか!これは失態だ、あまりにも大きすぎる失態!考え事に夢中で、彼女を蔑ろにしてしまうとは……!これはいただけない!
「あぁすまないアンカ!君を蔑ろにして、他のことというわけじゃないがに没頭してしまっていた!どうか愚かな私を許してほしい!」
「いえ、別に気にしてませんが……それにしても相変わらず早いですね。集合時間30分前ですけど」
「勿論だとも。君との待ち合わせに遅れるわけにはいかない。なにより、私から誘ったのに遅れたら格好がつかないだろう?」
アンカの格好は、あの時と同じ。否応なしにあの時の記憶が蘇りそうになるがなんとか気合で我慢だ!
(悟られるわけにはいかない!特にアンカには絶対に!)
彼女の前では、私はカッコいい自分でいたいからね!
「さぁアンカ!どうやら近場には水族館があるらしいんだ、今日はそこに行ってみようじゃないか!」
「はい……あ、そうだ」
早速水族館に行こう。そう思った私の手をアンカが握ってきてぇ!?
「はぐれないように手を繋いでおきましょう」
「あ、ハハハ!そうだね、もしはぐれたりでもしたら大変だ!さぁ改めて行こうじゃないか!」
あ、危なかった……!さっきからバクバクしてるし、本当に心臓に悪い!だ、大丈夫だよな?手汗でヤバくなってたりしないよね!?
「ほう……これは中々圧巻だね。凄く幻想的だ」
「結構久しぶりに来ましたけど、中々乙なものですね」
そして水族館内を歩き回る私達……勿論、手をつないだまま。アンカは平然とした表情を浮かべているが、私は気が気でなかった。
(私の手と比べても明らかに小さい。だが、それでいて相当なトレーニングを積んでいることを感じさせる手をしている……だけど!それ以上に!や、柔らかい……!)
アンカと手を繋いでいることもそうだし、何よりさっきから近いんだよ彼女!私の腕に抱き着きそうなぐらい近いぞ!?ほ、本当に何があった!?いや、近くて嬉しいんだけど、嬉しいんだけども!
(しっかりしろ私!私は誰だ?葦毛の王子、欧州最強と呼ばれる……デイラミだろうが!この程度のこと、私ならば問題なくッ!)
「あ、デイラミさん服に糸くずついてますね。ちょっとジッとしててくださいね」
「はぐっ!?」
「……はい、取れましたって、どうしました?」
(むりぃ……!いい匂いするし、問題大有りだよぉ……!)
な、何故だ?何故私は彼女の前だとこうも上手くいかない!?こんなこと、あっていいはずがないのに!
……いや待て。意識し過ぎるから悪いんだ!ならば逆に意識しない方が!
(無理に決まってるだろう!?あ、アンカだぞ?アンカと手を繋いでいるんだぞ!?)
クソ!このままではダラカニの言ったままになるではないか!そんなことは断じて許さない!
「さぁ行こうアンカ!もうすぐショーの時間ではないかな?」
「あ、本当ですね。結構時間近づいてます」
「ならば早速向かおう!良い席で見るためにも、ね?」
私はウインクして彼女の手を引く。ふ、そうだ。これでいい、これでこそ私だ!私は白銀の妖精を楽しませエスコートする王子!あのような痴態は、あってはならないのだから!
そして迎えたイルカのショー。私達は最前列にいたのだが。
「思いっきり水被りましたね」
「ふっ、君にかからなくてよかったよアンカ」
「そりゃあ誰かさんが身を挺してかばったわけですからね」
モロに水を被ったわけだ!まぁ最前列にいることからこれも想定内ではあるがね。しかしさすがに寒いな。
「クシュ!」
「全く……ほら、しゃがんでください。拭いてあげますので」
「へ?」
言われた通りしゃがむと、アンカが私の身体を拭いてぇぇぇぇぇ!?
「~~~っ!?!?」
「あ、ちょっと暴れないでくださいよ。拭けないじゃないですか」
(それどころじゃないよこっちは!)
ししし、しかも……!私はしゃがんで、アンカは私のことを立って拭いている!つつ、つまるところ、彼女の、そ、その……胸の辺りが私の顔の前に来るわけで……!
(そ、それにしゃがんでいるとあの日のことを思い出して顔が熱く!?)
う、うううう!早く終わってくれ!いや、終わらないでくれ!やっぱり早く終わって!?
「……ほら、拭き終わりましたよ」
「あ、あぁありがとうアンカ!ふふ、君の優しさにますます惚れこんでしまいそうだ!」
「相変わらずデイラミさんってあれですね。こんな僕のことを好きでいてくれるというか」
「おっと、今の言葉はいただけないねアンカ」
「へ?」
私は彼女の言葉に、どうしても我慢できない部分があった。彼女の顎を持ち上げて、瞳の奥を覗き込む。アンカは戸惑っているようだが、こればかりは伝えておきたい。
「で、デイラミさん?」
「こんな僕、なんて悲しいことを言わないでおくれ。私は君の輝きに魅せられた、君の素晴らしさに触れた。君は自分のことを過小評価しているかもしれないが……そんなことはない。君は、とても好かれているよ」
「……はぁ」
「そしてそれは、他ならない君自身が魅力的だからだ。君が魅力的だからこそ、我々は君のことが大好きなんだ。だから……こんな僕だなんて悲しいことを言わないでくれ」
こんな僕、と言われると大体が自虐的な意味で捉えるだろう。自分のことを過小評価している、自分は魅力に乏しい存在だと言っているようなものだ。そんなことは断じてないというのに。
さて、言いたいことは言った。また元のように手を繋いで館内を歩くとしよう!
「すまないねアンカ!それじゃ、改めて水族館を見て回ろう!」
「あ、あぁ。はい」
「ふふふ、ときめいてくれたかな?」
おっと、この質問は少し意地が悪かったかも「まぁ、少し」っしゃあ!これで面目躍如だ!
その後も館内を歩き回って、アンカとのデートを楽しんだ。本当に、本当に……夢のような一時だ。
(やはり彼女といると浮足立ってしまうね。どうしても……この時間を永遠のものにしたくなる)
もっとも、その時間ももうすぐ終わりなのだが。
《もうすぐ閉館時間となります。館内のお客様は速やかに……》
「おっと、もう閉館時間のようだね。君といると、時間の流れをとても早く感じてしまうよ」
「そうですね。同感です」
「っ!そ、それはどういう?」
「楽しい時間はあっという間ですから」
それもそうだ。楽しい時間というのはあっという間に過ぎていく。私もアンカの言葉に頷いて、手を繋いで水族館から出ることにした。それにしても……相変わらず鉄面皮だっただな、アンカ。
(もっとも、それがアンカのチャームポイントでもある。いつも変わらない鉄面皮、それもまた彼女の魅力なのだから!)
彼女は仮面の下でどんなことを思っているのだろう?そう考えるだけでも楽しいものだ!
そのまま、どちらが先に言いだしたわけでもなく。あてもなく歩いていた。無論、手をつないだまま。……うん、アレだな。朝からずっと手を繋いでるからかさすがに慣れてきた。
(どうだダラカニ!お前の姉はやる時はやるのだぞ!)
流石です姉上……、ダラカニもきっとそんな風に考えているだろう!さて、このまま時間まで歩いているのもいいがっ!?
「おっと!少し失礼するよアンカ!」
「え?きゃっ!?」
前から自転車が来ていた!それも、アンカの歩いているところに突っ込もうとしていたね。しかも、向こうは気づいているかどうかすら怪しかった。アンカを抱き寄せなければ、アンカと自転車はそのまま激突していただろう。全く、どこにでもああいう輩はいるのだな。嘆かわしいことだ。
それにしても、手を繋いでいて助かった。咄嗟の判断だったがすぐさま抱き寄せることができたのだから。
「ふぅ、大丈夫だったかな?アンカ。君に怪我……でも、あったら……」
「……」
ふと、自分の置かれている状況を俯瞰してみる。私はアンカを庇った。抱き寄せる形で。うん、これはまぁいい。我ながらナイス判断と言わざるを得ない。
問題は、私の手が──アンカの胸のところにあったということだ。おそらく、咄嗟だったから彼女の胸の位置に手をまわしてしまったのだろう。それにしても、私の掌はがっちりと彼女の胸の辺りを掴んでいるわけだが。なんなら、かすかながらもその膨らみを確かに感じることができて!?
(……最後の最後でやってしまったぁぁぁぁぁ!?)
なんで、こう!最後で締まらないんだ私は!?ここはカッコよく決めさせてくれてもいいだろう神様!?
ひ、ひとまず謝らねば!アンカもきっと怒ってっ?
「ッ!」
「あっ」
アンカは、私の手から逃れて自分の身を庇うようにしていた。しかも顔は朱色に染まっているというおまけ付きで。え、あ、あの?アンカ?
「す、すまないアンカ!咄嗟とはいえ、君の胸に手を……」
「……エ」
「エ?」
彼女は、恥ずかしさからか顔を真っ赤にして。
「エッチ……ッ!」
そのまま逃げ出してしまった。……えっち?だれが?あ、わたしかぁ。そうだよねぇ、だって彼女の胸に手をやってしまったわけだから。
「……どうやってアンカにあやまろうかなぁ」
そのままぼーっと過ごしてていたら、いつの間にかダラカニが来ていた。
「あの、姉上?そんなこの世の終わりみたいな顔をしてどうしたんですか?」
「……ダラカニ。どうやら私はエッチらしい」
「何言ってんですか姉上」
そんなダラカニの声も聞こえず。私は途方に暮れたまま帰路に着いた──
「そうだ姉上。先程アンカデキメルゼさんから連絡が。庇ってくれてありがとう、そして逃げ出してごめんなさい、とだけ」
「あぁ、うん……」
「後、また機会があったら遊びましょう、とのことです」
「っしゃあ!」
「急に元気になりましたね姉上。まぁ詳しくは聞きませんよ」
今度はアンカとどこを見て回ろうかなぁ!楽しみだなぁ!
こんなんなんぼあってもいいですからね。