アルナイルに新たなメンバー、シーザリオちゃんが入ったわけだが。
「あ、あの!トレーニング前の準備、終わらせておきました!」
「え、もう?早いね。トレーニングまでまだ時間あるけど」
「早めに終わらせておけばその分トレーニングできると思ったので!」
「気合十分だね。じゃあ、しっかりトレーニングしようか」
「はい!」
この数日で分かったことがある。
「やいやい新入りよぉ!先輩に対して茶の1つでも……」
「用意しておきました!ジャーニーさん!」
「お、おう」
「その他にもやって欲しいことがあったら言ってくださいね?ぼく、頑張りますので!」
「あ、あ~……じゃあ別に茶を持ってこなくても良いぞ?冗談みたいなもんだし」
「ジャーニーさん、まさか本当にお茶を持ってきてくれるとは思ってなかったのか驚いてますね」
「いびりとして言ったはいいもののまさか本当に用意しているとは思わなかったみたいだねぇ」
「うるせぇよ!」
シーザリオちゃんは。
「──シーザリオ。勉強か?」
「あ、クリス先輩。そうです、明日の予習を今のうちに済ませておこうと思って」
「偉いな、シーザリオ。予習は──important、大事、だ」
「えへへ……クリス先輩に褒められてぼく、嬉しいです!」
初見のインパクトが強すぎただけで、滅茶苦茶真面目で良い子だということを……!
「なんてことだ……普通に真面目で良い子じゃないかっ!」
「本当です。アルナイルに入るくらいだから一癖も二癖もあると思ったのに、根は真面目な良い子ちゃんです」
「いや、一癖はあるけどね?」
主に僕に対する態度とか。だがそれを除けばシーザリオちゃんは真面目な良い子である。タキオンみたいな変人枠ではなく、タルマエさんやファインさん側に分類されるウマ娘だ。
何よりシーザリオちゃんは気配り上手。部室の掃除も率先してやるような、予習復習は当たり前みたいな、こう、根っこから凄く真面目な生徒であるということがうかがえる。習慣として身に沁みついているのかもね。
「そう言えばシーザリオちゃんって交友関係どうなんだろう?」
「あの性格なら友達ぐらい普通にいると思うです」
「も、もしかしてアルナイルに入ったことで友達と過ごす時間が少なくなっちゃったら……っ!」
「そんな心配はないと思うです。というか、アルナイルだってトレーニング時間は他のチームとさほど変わらないです」
う~ん、確かにそうかもしれない。シーザリオちゃんの性格を考えれば友達は多いタイプかも知れないね。
「あ!アンカ様!」
あ、やっべ。見つかった。
シーザリオちゃんは目を輝かせて僕のところへとやってくる。
「お疲れ様ですアンカ様!アンカ様の席、温めておきました!」
「うん、別に大丈夫だからね?後様付けは止めてね?」
「そんな!?呼びやすくていいと思うんですが……アンカ様」
「普通に先輩って呼んでよ。ジャーニーとかクリスさんとか呼ぶ時みたいにさ」
「アンちゃんの背丈だと先輩感がないです」
「うるさいよ!」
僕より小さい癖になにいってんだヴィッパーは!
「……分かりました。では、アンカ先輩と呼ばせていただきます」
お?分かってくれたみたいだ。うんうん、良いね!
「……アンカ先輩というのも悪くないかもしれません」
「なにか言った?シーザリオちゃん」
「い、いえなにも!?それでは、今日もトレーニング頑張りましょう!」
おっと、そろそろ集合時間だな。んじゃ、早速向かうとしましょうか。
アルナイルのトレーニングが終わって寮に帰ってきた。部屋にはぼくと同室のブエちゃんがいる。
「お疲れ様シーザリオ。それで?アルナイルはどんな感じ?」
「最高の環境です……っ!」
「ま、セクレタリアトさんやニジンスキーサブトレーナーがいるんだからあたりま「あれほどまでにアンカ先輩を近くに感じれるなんて!まさしく神環境!」そっちかい!」
どうしたんだろうブエちゃん?まるでそうじゃない!と言わんばかりのツッコミだけど。
「もっとこう……ないの!?トレーニングのことについてとか!」
「トレーニング?」
「そう!あぁ、やっぱりキツいな~とか、凄いトレーニングしてるな~とか!そんな感じの感想はないわけ!?」
「凄いトレーニング……あっ!」
トレーニングと言えば!
「やっぱり何かあるんだ!ねぇねぇ、聞かせてよシーザリオ!」
ブエちゃんは興味深そうに、目を輝かせて聞いてくる。そう、トレーニングと言えば!
「アンカ先輩のおみ足……とても輝いていました!やはりアンカ先輩はブルマ姿も似合っています!」
「あんたに聞いたわたしがバカだったよ!」
い、痛い!?枕ぶん投げられました!なして!?
「じ、冗談だよブエちゃん。トレーニングといっても、他のチームとさほど変わらないと思うよ?」
「ようやく真面目に話す気になったみたいね……あんたは本当に、アンカさんが絡むと変になるんだから」
そうかな……いや、そうかも……。良く暴走しがちだし、ぼく。
「う~ん……トレーニングメニュー自体は、トレーナーさんが立てたメニューをこなす感じかな?そのメニューも他のチームとあんまり変わんないと思う。はいこれ、ぼくのトレーニングメニュー」
「へ~、そうなんだ。ちょいと拝見……うわすご、これ。トレーニングメニューが細かく書いてある」
「しかもこれ、個別に考えられてるみたい。ぼくたち全員が違うメニューをこなしてるよ」
ぼくの言葉にブエちゃんは大層驚いた様子だった。そんなに驚くようなことかな?
「こ、これ!誰が考えてるの!?」
「トレーナーさん。ニジンスキーサブトレーナーがたまに口添えするらしいけど、基本的には全部トレーナーさんだって」
「え~……助言があるとはいえ、これだけの量を7人分?気が遠くなるな……」
「ブエちゃんとこはそうじゃないの?確か……スぺ先輩と同じスピカだよね?」
同室であるブエちゃんはスぺ先輩と同じスピカに所属している。
スぺ先輩。ぼくも尊敬している、凄い先輩だ。天皇賞春秋連覇にダービーでの走りは目に焼き付いている。ジャパンカップも、それはもう凄いレースだった!世界中からとても強いウマ娘がたくさん集まったのに、上位入賞したんだから!だからぼくもブエちゃんも、スぺ先輩を尊敬している。でもぼくは、それよりもアンカ先輩の走りが目に焼き付いていて……アルナイルの方を選んだ。
『ま、いいんじゃない?それがシーザリオの選んだ道なら』
ブエちゃんはこう言ってくれたけどね。
そんなブエちゃんだが……スピカでなにがあったのか分からないけどぷりぷり怒ってる。なにがあったのかな?
「そうなんだけどさ……聞いてよシーザリオ!スピカのトレーナー!」
「何かあったの?」
「どうしたもこうしたもない!良く分かんないトレーニングばっかさせるし!この前なんかツイスターゲームだよツイスターゲーム!それがトレーニングになるかっての!」
おぉう、ブエちゃん怒り心頭といった様子。よっぽどのことだったのかな?
「それに、わたしがそれを指摘しても先輩達み~んな宥めてくるしさ!なんなの本当!イメージと全然違う!」
「もっと、リギルみたいな感じを想像してたの?」
「そう!」
キツいトレーニングで有名と言えば、やっぱりリギル。徹底したトレーニング管理によって実績を上げている、トレセン学園最強チームの一角。噂では、期待の新入部員も入ったとか。
ブエちゃんはまだ怒ってる……わけじゃないかな?多分。
「でも、きっと意味があることなんじゃないかな?スピカだってあのテイオー先輩やスぺ先輩、トップロード先輩を育て上げたチームなんだし」
「……まぁ、そうだけどさ」
ブエちゃんだってそれは分かっているのだろう。だけど、それでも心配になるものだ。
「トレーニングとは思えない内容をやってるとさ、こんなんで本当に強くなれるのかなって。そう思うのは悪いこと?」
それは個人の尺度。でも、これだけは確実にいえると思う。
「ブエちゃんの考えは別に間違ってないと思う。ツイスターゲームなんて、トレーニングとはぼくも思えないし」
「でしょ?だから「だけどさ。無意味なことではないと思う」……シーザリオ?」
ベッドに腰掛けて、ブエちゃんを真っ直ぐに見て。ぼくの意見を伝える。
「きっとなにか意味があることなんだよ。確かにトレーニングとは思えないかもしれないけど、それはぼくたちの先入観かも知れないし。それが分かっているからこそ、スピカの先輩方もブエちゃんを宥めたんじゃないかな?」
「うっ……」
「ブエちゃんだって本当は分かってるでしょ?これは意味のあるトレーニングなんだって」
ブエちゃんだってそれは分かっているはず……だけどまぁ、やっぱり納得いかないみたいで。ベッドの上で脚をじたばたし始めた。は、はしたない……。
「そうだけどさ~……やっぱり認めるのはなんか癪~!」
「アハハ……まぁ、長い目で見ていけばいいんじゃないかな?それに、憧れのスぺ先輩と一緒のチームなんだから」
「それよ!シーザリオ!」
「そ、それ?」
それって何だろう?何かあるのかな?
「あんたがスピカに入らなかったこと、スぺ先輩凄く気にしてた!今からでも遅くないからスピカに来なさい!」
「えぇ~!?ブエちゃん最初はぼくがアルナイルに入ること応援してくれてたじゃん!」
「知らないそんなこと!今すぐにでもスピカに来なさい!スぺ先輩、シーザリオちゃんスピカに入ってくれないんですか!?って落ち込んでたわよ!」
「そ、そんなこと言われても!?」
スぺ先輩が残念がってくれたのはちょっと嬉しいけど、もうぼくアルナイルに入ったんだから!無理だよ今更!それにアンカ先輩のお姿を毎日拝めなくなるかもしれないし!
そんなすったもんだがあったものの。ぼくたちの時間は何事もなく過ぎていった。
同室のブエちゃん……一体何ナビスタなんだ……!