──時は遡って契約が成立する前日の夜。
「う~ん……良い安価が思い浮かばないな~」
「どうしたです?アンちゃん」
僕は困っていた。ひっじょ~に!困っていた!……あ、朝の登校時にするべき安価にレスついてる!さてさて、こっちの安価はどうなったかな~っと……お、安価決まった。
「ふむふむ……逆立ちで登校ね……さすがに制服でやるのは恥ずいからジャージに着替えてやろうかな。とりま逆立ちで登校了解……と」
「まーた変な安価やってるです。いい加減安価で全てのことを決めるのは止めるです」
「いや、さすがに全部が全部安価で決めてるわけじゃないからね?」
確かに僕は安価廚だが、さすがに全部が全部を安価で決めてるわけじゃない。ただ、面白いと思ったものには安価をする!それだけの話。
「ところでです、何を唸っていたのです?」
「あ、そうだったそうだった!ヴィッパーも何かいい意見ないかな?実は……トレーナーの事なんだけど」
「トレーナーです?アンちゃんなら引く手あまたです。どのトレーナーにすればいいか悩んでるです?」
僕は今現在困っていることをヴィッパーに打ち明ける。それは……。
「トレーナー安価の件なんだけどさ……良い安価が思い浮かばないんだよね。ヴィッパーはなんかいい案はない?」
「……ハァです」
溜息吐かれた!?なんで!?
「アンちゃんくらいです。大事な大事なトレーナー選びを安価で決めようなんてウマ娘は」
「え~?でもさ……安価楽しいよ?」
「そういう問題じゃないです」
じゃあどういう問題なんだろう?別に僕の好き勝手にやるからトレーナーなんて関係ないと思うけど……。
「まず第一にです。アンちゃんのことだからどーせトレーナーなんて誰でも変わらないーなんて思ってるです」
「そそそ!そんなことないやい!」
「慌ててるです。図星です」
また溜息吐かれた!?
「第二に、安価でリギルのトレーナーに決まったらどうするです?リギルは練習の量をキッチリ管理してるです、アンちゃんとは相性最悪です」
「うっ……で、でもそれも安価の醍醐味だし……それに合わなかったら」
「それに合わなかったら辞めればいい、なんて考えてるです。でも、それを何回も繰り返すつもりです?リギルはあくまで一例ってだけです、アンちゃんの練習の量だったら、他のトレーナーだって止めるです。間違いなく何回も安価をすることになるです」
た、確かにそうかも……。特にリギルになった場合、僕は東条トレーナーには目をつけられてるし……フジキセキ寮長を使って監視でもされた日には僕の素敵な安価ライフは終わりを告げてしまう!
「第三に、たとえ中央のトレーナーでも一般の人は有名どころしか抑えてないです。ド新人や平のトレーナーなんかは一般人は目もくれないです。だから安価で選ばれるのは有名どころです。そして、有名どころは一部の例外を除いてどこも練習の量をキッチリと管理しているです。だからアンちゃんとはとても相性が悪いです」
「そ、そうだよねやっぱ……」
「第四に」
まだあんの!?どんだけあるのさ!
「辞めればいいの話の続きになるです、そうやってトレーナーとの契約を何回も破棄するとです、間違いなく理事長に目をつけられるです」
「うげっ!?そ、それは嫌だ!」
「そうですそうです。最悪は退学なんてことになりかねないです。たとえアンちゃんが強くても、何回もトレーナーとの契約を破棄するようなウマ娘と契約したいなんて考える物好きトレーナーはいないです。そうなるとアンちゃんは……」
「ど、どうなるのさ?」
「実家に帰ることになるです。ドナドナです」
じ、実家に!?そ、それだけは……!
「それだけは嫌だ!実家に帰ったら滅茶苦茶甘やかされるし……!何よりネットなんて絶対に禁止されるもん!だから実家には帰りたくない!」
「そういうことです。だから大人しく安価は諦めるです……そもそもの話です」
「な、何さヴィッパー?」
「人に迷惑を掛ける安価は、アンちゃんも望まないことではないです?」
「うっ……」
「アンちゃんに振り回されて、アンちゃんが気に食わないからってトレーナー契約を一方的に破棄される……トレーナー側からすればたまったもんじゃないです。それが、アンちゃんの望む安価です?」
「それは……違う。や、やっぱそうだよね……」
……はぁ、仕方ないけど今回は諦めるか。
「あぁ……!しょげてるアンちゃん可愛いです!ご飯3杯は固いです!」
「何か言った?ヴィッパー」
「いえ、何も」
ヴィッパーは1つ咳払いをする。
「まぁなにかいい案が思いつくかもしれないです。だからいい案が思いつくまで考えるのもアリです」
「……そうするよヴィッパー」
結局いい案は思いつかず。僕とヴィッパーは眠りにつくのだった。
逆立ちで登校して。授業を受けて。僕はお昼を食べ終わって教室へと帰ってきた後上機嫌で今日の練習内容の安価をしていた。
(ふんふふ~ん♪今日はにんじんハンバーグだったからなぁ、久々の当たり安価だ!でも練習安価の方はマンネリ化が酷いな~なんか別の安価を思いつかないと)
マンネリ化は良くない。非常に良くない。だから練習に加えるような何かをするべきかな?な~んて思ってると……お昼のことを思い出した。
(ヴィッパーめ……あの時のトレーナーさんになにを吹き込んだんだ?絶対変なこと吹き込んだだろヴィッパー!)
だって、あのトレーナーさん僕のこと凄く可哀想なものを見る目で見てきたし!絶対僕がぼっちだのコミュ障だの口下手だの吹き込んだだろ!全部その通りだけどさぁ!っとと、チャイムが鳴ったから携帯は仕舞わないと。まぁ無事に練習安価も決まったしもう問題ない。レスだけつけて……と。
(陽が沈むまでペース走了解……と。さてさて、トレーナーの件についてはどうしようかな~?)
一応、あの選抜レースの後何人ものトレーナーが僕のもとにやってきた。いやぁ、僕ってモテモテですなぁ!……まぁ、逃げ回ったけど。しょうがないよね、だって怖いし。みんな目血走ってるし。どんだけ僕のこと逃したくないのさ。
授業を適当に聞き流してその日の授業が終了する。……さて、練習安価で決められた内容をやりますか。
「じゃあね~アンカさ~ん」
「あぁ。また」
クラスメイトの言葉に素っ気なく返事をする。……やっぱ僕のダメなとこってこういうとこなんだろうなぁ……。ここで気の利いた一言でも言えたらいいんだけど……。
「ハーッハッハッハ!アンカ君、今日も不機嫌そうな表情を浮かべているね!ほら、ボクの顔を見て機嫌をよくしたまえよ!おっと、あまり見るのは良くないね。君のその翡翠の目があまりの眩しさに潰れてしまうかもしれないからね!」
おや?コレは珍しい。
「オペラオーか。僕に何の用だ?」
オペラオーですね。特段仲が良いとかそういうのではないと思いますけど、向こうは良く私に絡んできてくれてます。こんな僕にも絡んでくれるなんて……やっぱいい子だなぁオペラオーは。
「廊下を歩いていたらアンカ君の姿を見かけたのでね。ついつい声を掛けてしまったよ!今日も1人でトレーニングを?」
「そのつもりだが」
「あぁ……!君のトレーニングはかの暴君ネロですら裸足で逃げ出す程の量だ!君の身体が壊れてしまわないか、ボクは心配でならないよ!」
「案ずるな。僕はこれまで一度だって身体を壊したことがない。全くの健康体だ」
「ならば結構!……時にアンカ君、君はトレーナーはどうするつもりだい?」
あ、そういえばトレーナーの件忘れてましたね。どうしましょう本当に。
「まだ決めてないな。そういうオペラオーは……確かリギルだったか?」
「そうさ!トレセン学園のどのチームよりも輝くチーム……まさにボクにふさわしいチームだ!」
まぁそうですね。オペラオーに似合ってると思います。とりあえず早く練習行きたいから切り上げましょうか。オペラオーには申し訳ないですけど。
「すまないが、神託を受けているのでね。時間は有限だ、僕はこの辺で失礼させてもらうよ」
「あぁそうだ。アンカ君、君に言っておきたいことがある」
「なんだ?手短に頼むぞ」
「君はこのテイエムオペラオーのライバルとして舞台に上がってもらう!ボクが倒すべき魔王としてね!だから、早くトレーナーを見つけたまえ!そして一緒にトゥインクル・シリーズを駆け抜けようじゃないか!」
「……ふん、僕に魔王なんて役職は似合わない。僕は……道化さ。君が出走するレースを……精々盛り上げさせてもらうよ」
「結構!それではトレーニング頑張りたまえよアンカ君!」
いやぁ……本当にオペラオー良い子!眩しすぎる!アレが陽キャってやつですよ!僕もあぁなりたいなぁ……。
そしてやってきました安価で決まった日が沈むまでペース走。これがまぁ中々キツいわけでして。ただ……さっきのことを思い出します。
(おのれヴィッパーめ……!やっぱり僕の事コミュ障だの口下手だの言ってたじゃないですか!)
余計なこと言うんじゃねーですよ全く!いや、合ってますけども!ふーんだ!良いですもん!どうせ僕は口下手でコミュ障ですよ!
……それにしても、演じてる……ですか。
(別に演じてるわけじゃない……だってこれは、この口調は……ヴィッパーが僕のために提案してくれたことだから)
友達が欲しいって相談した僕に、ヴィッパーが提案してくれたこと。この芝居が掛かった口調は、ヴィッパーが由来だ。正直自分でもどうかと思ってる。多分、これじゃあ友達は増えないだろうなって思ってる。でも……友達であるヴィッパーが僕のために一生懸命に提案してくれたんだ。だからこれは、僕にとってはもう一つの素、言うなればもう一人の自分だ。いや、別に二重人格とかじゃないけど。
だからまぁ、あのトレーナーさんの言葉は事情を知らないとはいえちょっとカチンときた。
(ま、事情を知らないから仕方ないか。それよか練習練習~)
僕は無言でペース走を続ける。
「やっぱアンカさんの練習量おかしいって」
「もう何時間走ってんの?」
「しかもあれ、ペース走でしょ?ヤバすぎ」
そうですかねぇ?小さい頃から結構走ってたんでその辺よく分からないんですけど……かれこれ何時間ぐらい走ってます?僕……気づいたら陽が暮れてますね。でも安価は陽が沈むまで、だからもっと走らねば!
「アンカさ~ん!私達はもう上がるね~!」
「……あぁ。お疲れ」
「アンカさんも!身体に気をつけてね~!」
「あぁ」
素っ気なく返事をして僕は走ります。それからどれくらいの時間が経ったでしょうか……気づけば陽は沈んでいました。
(これで今日の安価も終了……。映像は、っと……うん、バッチリ撮れてる!)
後はこれをスレに投げるだけ!さぁ~て、今日も帰ろ~っと「ハァ……ハァ……ッ!いたっ!」って、トレーナーさんじゃないですか。そんな息を切らしてどうしたのやら。
「……今度は何の用だ?」
やっべ、さっきの一件も相まって不機嫌そうになってしもうた。別にそんなつもりなかったのに!でもトレーナーさんは特に気にした様子を見せていません。あ、良い人!
「アンカデキメルゼ!君に……言いたいことがあるんだ!」
ま、まさか……告白!?いや、んなわけ。
「僕に言いたいことだと?ふざけたことだったら今度こそ蹴っ飛ばすよ?」
そう吐き捨てる僕にトレーナーさんは決意の籠った表情をしています。一体何を言われるんでしょう?ドキドキ。
「俺に!神の啓示とやらの手助けをさせてくれないか!?」
……え?ちょっと待ってください。情報を整理させてください。と、とりあえず答えないと!な、何でもいいから早く!
「……ほう?意味が分からないと言っていたのに、どういう心変わりだ?」
「正直!君がどうしてそこまで神の啓示に傾倒するのかは分からない!だから……まずはその神の啓示に近づいてみるのが一番だと思ったんだ!そのために……俺の、担当ウマ娘になってくれないか!?」
「……」
ま、まさかこの人……!い、いえ。まだです。まだ判断するのは早いです。ここは1つ、質問してみましょう。
「ップ、ハハ!成程成程……神の啓示を知るために、まずはその神託を受け取る僕に近づこうということか」
「……そういうことだ。無論、君の神の啓示とやらにも最大限の理解を示そう。極力邪魔はしない。だから……受けてくれるか?」
まさか、この人……!
安価に興味を持っていますね!?いえ、そうに違いありません!私は詳しいんです!
ふふっ、まさか新しい安価民が釣れるとは思いもしませんでした……!歓迎しますよ、盛大に!それに、提示されたメリットも僕にとっては極上のものばかりです!
(私のやることに理解を示す……極力邪魔はしない……。つまりは、安価し放題……ってコト!?)
「……愉快愉快!良いだろう!」
これほどの好条件……逃すわけにはいきません!私の楽しい安価ライフのためにも、この好条件は逃せない!大切な何かを忘れている気がするけど私は即座に食いつきます!僕はトレーナーさんに手を差し伸べます。
「ここに契約は成立した。これから末永く頼むよ、トレーナー君?」
トレーナーさんは私の手を取る。フフッ……まさかこれほど好条件を出してくれるトレーナーに会うとは!……でも、なーんか忘れてるような……?
「そういえばアンちゃん。いい案は思い浮かんだです?」
「いい案?何のこと?」
「トレーナー安価です。良い考えは浮かんだです?」
瞬間、僕は凍りつく。
「あ、ああ、あああああぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「……その表情、忘れてたです?」
「わ、忘れてた……!あまりの好条件に、新しい安価民の誕生に……!完ッ全に忘れてた!」
安価廚の名折れだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
「あー……愉悦愉悦です」
ヴィッパーの言葉は僕には聞こえない。ち、ちくせう!だったら別の安価で気を紛らわせてやるぅぅぅぅぅぅぅ!
安価はあくまで他人に迷惑を掛けない範囲で!とまぁ、安価でトレーナーを決めなかった理由は色々考えてたらあまりの好条件に頭からすっぽ抜けてたが正解です。ちなみにこれ以降はほぼ全てのことを安価で決めていきます。
レースローテとかレースの作戦とか。