「さ~て……どうする?トレーナー君」
アルナイルの部室。目下作戦会議中の僕とトレーナーさんでござい。何の作戦会議かって?そりゃ決まってますよ。スーパー……長いな。SLRCでいいや。SLRCに向けての作戦会議です。
僕が最初に挑むのは芝の短距離。これはまー良いでしょう。そしてその会場もつい先日発表されたのですが……これがまた厄介なところでして。
「よりによって新潟1000mっていうのがね。展開も何もあったもんじゃない」
「そこなんですよね~……」
芝の短距離部門に選ばれたのは、新潟の千直でしたとさ。
日本国内で唯一の直線
さてさてそんな新潟の千直ですが……僕にとってはメリットとデメリットの差があまりにもデカすぎるレースだ。
「アンカにとって良いことは、まずスタートダッシュだ。アンカは等速ストライドもあってか、他の子達よりもマックススピードに到達するのが早い。逃げならばそこから逃げ切り勝ちだって狙えるレベルだからね」
「もっとも、ここでも僕のやることは変わらん。神の啓示(安価)……それ次第で走る」
「それは分かってるよ。それがデメリットでもあるんだけど……それ以上のデメリットとして、やっぱりトップスピードで劣るって点があるね」
うぐっ、トレーナーさん容赦なくえぐりますね。僕の最大の弱点を。
僕の最大の弱点は、ソラを使う癖を除くとトップスピードの遅さだ*1。いくら鍛えて速くなっているとはいっても、その上昇量は微々たるもの。大体がスタミナトレーニングや根性になっているという都合上、どうしてもスピードがおろそかになりがちなんですよねぇ。それにこういうのは日々の積み重ねですし。というか師匠やコーチに負けている大体の理由はこのトップスピードが劣っている問題のせいなんですよね。
それでも勝てる自信というものはある。伊達に世界中で結果を残してませんよ僕は。
「一番良いのは外枠の逃げ。コーナーがないからそのまま外を飛ばして勝つってのが良いんだけど」
「枠もまだ決まっていない。仕方なしなとこもあるだろう。逃げに関しても神の啓示(安価)次第だ」
「とりあえず、対戦相手の資料とかまとめておいたから目を通しておいてね」
「20分くれ」
「分かった。じゃあ20分後にトレーニング再開ね」
さてさて、資料に目を通すとしましょう。う~ん……やはり最大の障害になるのはサクラバクシンオーさんですねぇ。歴代最強クラスのスプリンター、この千直でも実力をいかんなく発揮してくるでしょう。タケシバオーさんは……この距離だとそこまで警戒する必要はないかもしれない。長距離だと厄介極まりないけど。後はほうほう、フラワーパークさんにサクラシンゲキさんと……。
「なんでケツデカ葦毛は普通の教科書ぐらいはありそうな資料の束をあんなすらすら目を通せるんだよ?」
「アンちゃん普段の行動で分からないですけど無茶苦茶頭いいです。毎回学年主席です」
「──勤勉、なんだな。良いこと、だ」
「後記憶力も抜群にいいです。大体のことは一目見たら覚えるです……人の顔以外は」
「そこには記憶力の良さが活かされなかったんですね……」
な~んか小声でひそひそと言われてる。なんだよ、なんか文句でもあるんか!?
そのまま黙々と資料に目を通していきましたとさ。記録は14分でした。
日は変わって今日はトレーニングお休みの日。適当に安価取ってトレーニングしようかな~って思っていたところ。
「あれは……サクラバクシンオーさんのチーム?」
確か、チーム・アルケス*2。サクラシンゲキさんも所属してるチームだっけか?後は長距離に出走するサクラローレルさん。
「来るレースに向けて!バクシィィィィィィン!」
「わぁ、気合入ってるねバクちゃん!私も負けていられないな~!」
他のメンバーはいないのか、トレーニングしているのはバクシンオーさんとローレルさんだけだ。後はトレーナーさんぐらいしか見当たらない。
(ここは1つ、敵情視察とでも行きますかね!)
そうと決まればまずやるべきことは!段ボールを用意することです!段ボールを被って、トレーニングを観察しますよ!
アルケスのトレーニング風景を段ボールを被りながら観察します。う~ん、それにしてもバクシンオーさん速いな。さすがは歴代最強スプリンターだ。下手したらトップスピードは僕より上なんかじゃないか?
「ちょわっ?ローレルさん見てください!」
「どうしたのバクちゃん?……なにか、段ボールがあるね」
ふっふっふ……バレてないバレてない。やはり段ボールは偵察にマストアイテムですね。完璧ですよ!あ、ちょっと待ってなんか持ち上げられた!?
「ごみの不法投棄とは学級委員長として見過ごせません!ローレルさん、私はこの段ボールを速やかに捨ててきますね!」
「うん、それは良いんだけどバクちゃん。誰かいるみたいだよ?」
「ちょわっ?」
……バクシンオーさんと目が合った。
「は、ハロー?」
「「……」」
あらやだ気まずい。このまま立ち去ろう「ちょわあああぁぁぁぁ!?」ハイダメですよね知ってましたとも!
「誰ですかあなた!さては不法侵入者ですね!」
「ちちち違う!ここの生徒だ!」
「学園の生徒ならば段ボールに入ってコソコソする必要などないでしょう!」
「ごもっとも!」
賢さ1200はありますね!
「落ち着いてバクちゃん。アンカちゃんだよ」
「ちょわ?アンカさん?」
バクシンオーさんはまじまじと僕を見る。少しばかりの緊張の後、バクシンオーさんは手を叩いて。
「成程!確かにアンカさんですね!これは失礼しました!」
「わ、分かってくれたようで何よりだ……」
「バクちゃんも分かってくれたみたいだから改めて聞くけど……なにやってたの?アンカちゃん。段ボールなんかを被ったりして」
「……そ、そういう気分だったから?」
「段ボールを被りたい気分ってどんな気分なのかな?」
「そ、それはきっと段ボールを被りたかったんでしょう」
「そうなんだ!じゃあ私にも教えてくれる?どんな気分なのか」
「……ごめんなさい本当は偵察に来てました!」
怖いよ!?そんなじりじりと距離を詰めてこないでよ!しかも笑顔で迫ってくるから余計怖いよ!
あぁ……僕の冒険はここで終わってしまうんだな。きっとこれから裏の山に人知れず埋められるんだ……トレセン学園の裏に山とかないけど……。
「なんと!偵察ですか!でしたら存分に見ていってください!」
だけど掛けられた言葉は予想外の一言で。え、偵察だよ?良いの?
「……良いのか?仮にも情報を抜かれるようなことだぞ?自分の状態とか、走りとか研究されるかもしれないんだぞ?」
「えぇ!全く問題ありませんとも!」
バクシンオーさんは、自信満々に答える。一切の、揺るぎない覚悟を持った目だった。
「
確固たる自信。自分が負けることなんて微塵も考えていない、自分が負けることなんてありえない。そんな風に考えているのが見てとれるぐらいの宣言だった。
(……あぁ、成程)
これが歴代最強スプリンターとしての自信ってヤツか。成程、これが分かっただけでも収穫になった「あぁ!?ンだテメェ!アルケスに何の用だオラァ!」ヒエッ!?なんかヤンキーみたいなウマ娘が来た!?
「おうおうテメェ!このアルケスに
鹿毛の髪をボサボサにしたショートカットのウマ娘さんだ。手入れされてないとかそんなわけじゃなく、癖っ毛のようなもんなのだろう。少なくとも僕よりは体格がずっといい。160ぐらい?そんぐらい。すんごい荒々しい雰囲気を感じさせる。いや、実際の口調はかなり荒々しい。今だって僕めっちゃビビってるからね。脚が震えてますよさっきから。
「落ち着きましょう?シンゲキさん。アンカちゃん怯えちゃってるから」
「あ?……あ、マジだ。わりぃわりぃ!つい気が昂っちまってな!」
「あ、あぁ……ども」
シンゲキさん……ということは、このウマ娘さんがサクラシンゲキさん、ということだろうか?成程。
(気の強そうなウマ娘さんだなぁ)
第一印象はまさしくヤンキー。でも悪い人じゃなさそう!すぐに謝ってくれたし!
「……ン?待てよ、アンカってことは……SLRCでアタイと走るヤツじゃねぇか」
「ぎ、ギクッ!?」
「っつーことは、偵察に来たってことか?」
「ギクギクゥ!?」
「ふーん……」
や、ヤバい。シンゲキさんにめっちゃジロジロ見られてる。怖ッ、素直に怖い。
ただ、シンゲキさんは嘆息して?
「まぁいい。何の目的があるかは知らんが……お前の噂は聞いているぜ、葦毛の魔王」
「ほう?どんな噂だ?」
ちょっと気になりますね。もしかしてもしかして~、僕のことを素敵だとか憧れてるとかって噂だったり!?
「どれだけ勝利を得ても決して満足することのない簒奪者……冷徹な表情でただ淡々とレースをする氷の女王……そいつと同じレースで出会ったら自然災害にあったと思えと言われるほどの実力者……ハハッ!相手にとって不足は無しだッ!」
おいなんだその物騒な噂は!?もうちょっとマシな噂はねぇのかよ!?
そして、シンゲキさんはすぐに殺気を出してッ!?怖い怖い!
「勝つのはアタイだ。良いか?葦毛の魔王……
そう告げて、バクシンオーさんと併走しに行った。に、逃げんじゃねぇぞ?どういうことだ?
「フフ。アンカちゃん、シンゲキさんに果し合いを申し込まれたね」
「……果し合いだと?」
「そう」
ローレルさんは1つ手を叩いて。
「お互いの全力逃げ勝負!きっとシンゲキさんはそれを望んでいるんじゃないかな?」
……あ、あ~。成程、そういうことですか。とは言っても僕は安価で戦法決めて走るわけだしなぁ……まさしく神のみぞ知る、って感じになると思うが。
「……フン。僕がどんな戦法で走ろうが自由だ。挑発に乗る気はない」
「ふーん……そうなんだ」
ローレルさんは興味深そうに僕を見て……あ、あの。あんまり見ないでくれます?陰キャは視線に弱いんですよ。
「収穫はあった。この辺りで失礼させてもらう」
「うん!じゃあねアンカちゃん!今度は一緒にご飯でも食べようか!」
「……気が向いたらな」
アンカデキメルゼはクールに去るぜ……。
「無表情だけど分るよ、アンカちゃん。アンカちゃんもちょっとは意識してるんじゃないかな?」
聞こえないふり聞こえないふりっと。
これからもたまに日が空くこともあると思います。