今日も楽しく安価だ!   作:カニ漁船

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タキオンの弥生賞ですわ。


探求者の挑戦

 この弥生賞は、私にとっての転換点だ。

 

 

(ふふ、柄にもなく熱くなっているのか?だが、それほどまでに楽しみにしているのかもしれないねぇ)

 

 

 これは、元々考えていたプランから大きく逸脱するわけではない。私の目的はいつだって変わらないのだから。

 

 

(今日は不良バ場か。ま、特に問題は無し。入念に準備を済ませておこう)

 

 

「アグネスタキオン……今日こそは!」

 

 

「追いつく、追いつく……」

 

 

「負けっぱなしじゃいられない!」

 

 

 ウォーミングアップも終わって、私はゲートへと入る。しっかりと気分を落ち着かせて、ゲートが開くその瞬間を待つ。

 

 

(……ッ!今!)

 

 

 ゲートが開いたその瞬間、私は弾かれたようにゲートから飛び出す。絶好の最内枠、さてさてどうしようか?

 

 

(……ふぅン、真ん中から内へと切り込んでくるか)

 

 

 5番の子が内へと進路を取ってハナを奪いに来る。私は……まぁ前に行く必要はないか。

 

 

(このバ場でスタミナを削られることは避けたい。唯一の懸念点はスタミナの不足。ここで不足しているようでは、私のプラン成功はないも同然)

 

 

 もっとも、さすがにあり得ないだろうがね。これでもアルナイルでトレーニングを積んでいるわけだから。

 

 

 

 

《始まりました!皐月賞の前哨戦弥生賞!各ウマ娘が綺麗なスタートを切ります。1番人気最内枠の1番アグネスタキオンも好調なスタート!ホープフルステークスを圧巻の9バ身差で勝利した彼女、弥生賞ではどのような走りを見せてくれるのか?そのアグネスタキオンに待ったをかける他のウマ娘達、皐月賞に向けて弾みをつけたいところ!》

 

 

《おっと、これはゲートの真ん中からデルマポラリスがいきましたね。あっという間にハナを取りました》

 

 

《先頭に立ったのはデルマポラリス!5番のデルマポラリスがハナを取りました先頭。アグネスタキオンは内で展開を窺っています。アグネスタキオンに並んでボーンキングとニシノフェニックス、この2人がいます。その後ろにはミスキャスト、マンハッタンカフェ、ダイイチダンヒル、ハリケーンルドルフと続きます。各ウマ娘が第1コーナーを回って第2コーナーへと向かう、先頭はデルマポラリスです》

 

 

 

 

 

 それにしても、我ながら随分と心変わりがあったものだ。元々、アンカ君という素晴らしいモルモ……研究対象……違うな。素晴らしいウマ娘を目的にアルナイルへと加入したわけだが。

 

 

(私も、柄にもなくアンカ君にあてられた……というわけかな?)

 

 

 不思議と悪い気分じゃない。むしろ自分がどこまでいけるのか興味があるとさえ思っている。プランBを考えていた頃とはえらい違いだ。

 さて、雑念はここまで。現在バックストレッチを走っている。前から3番手と前目の位置。

 

 

(2番手との差は3バ身と少しってところか。追走するのに手間取るってこともない、バ場を考えれば少し早めか?それなりに飛ばしていると考えられる)

 

 

 ……前との差を詰めておくか。すでに1000mを過ぎて残り半分。先頭との差は10バ身程。

 

 

 

 

《1000mを通過しました。1000mの通過タイムは61秒7。61秒7で通過、バ場を考慮すれば少し早めのペースか?隊列はかなりばらけています。先頭を走るのはデルマポラリス、そこから5バ身離れて2番手の位置にボーンキング、3番手はボーンキングからさらに3バ身から4バ身離れてアグネスタキオン。1番人気アグネスタキオンはこの位置だ》

 

 

《落ち着いてレースを展開していますね。このままの調子でいきたいところ》

 

 

《4番手はアグネスタキオンから差はなくニシノフェニックス、5番手はミスキャスト。ミスキャストから4バ身離れてマンハッタンカフェ、マンハッタンカフェはこの位置。ハリケーンルドルフとダイイチダンヒルが最後方組です。第3コーナーに入りました、先頭はデルマポラリス。しかしボーンキングとアグネスタキオンがじりじりと差を詰めている!ニシノフェニックスとミスキャストはまだ動かないが前2人はデルマポラリスを捕らえようと動き始めた!さぁ~じりじりと差を詰めるボーンキングとアグネスタキオン!デルマポラリスは逃げ切れるかどうか!?》

 

 

 

 

 第3コーナーから進出を開始。この位置からなら十分に追いつける。それにこの速いペース……データ通りならば先頭の彼女は落ちる。

 

 

(3番の彼女もデータを比較すれば私に軍配が上がる。後はミスをしないように気をつけるだけ、か)

 

 

 ……それにしても不思議なものだ。かつてはプランBなどというものを作り出して、自分で果てへと至ることを諦めるプランすら考えていた私が、ねぇ。

 天性のスピードと引き換えに、脆さも併せ持った私の脚。これを覆すことは容易ではなく、トゥインクル・シリーズ中にいつ壊れてもおかしくないという状態、だったかな?

 しかし、そんな中で出会ったのが──天性の頑丈さを持つアンカ君だ。

 

 

(彼女のことは調べれば調べるほどに興味が湧く。あれほど頑丈なウマ娘もいまい)

 

 

 あんな無茶なトレーニングを実行できるのは世界中探しても彼女だけだろう。そう断言できる。そんな彼女に私は……興味を惹かれた。

 彼女で実験を行い、彼女の身体の秘密を暴こうとした。ま、結果は失敗だったけどね。どういうわけか、彼女の頑丈さに納得のいく説明が得られなかった。まさしく、神様が作り出した天性の肉体……とでもいうべきか。ただまぁ、彼女の存在が私のプランに大きな影響を与えたのは確かだがね。

 

 

(諦めずに、夢を魅せる……か)

 

 

 全くアンカ君はどうしてくれようか?君のせいで──私はプランBに逃げるなどという選択肢を除外してしまったじゃあないか。果てへと至るのであれば絶対に自分の身体で、なんて思ってしまうぐらいには、私は君に影響されてしまったよ。

 

 

 

 

《第3コーナーを抜けて第4コーナーへと入ります!デルマポラリスが必死に逃げているが……ここでアグネスタキオンが捕らえた!アグネスタキオンとボーンキングがデルマポラリスを捕らえた!デルマポラリスも必死に逃げるがっ、アグネスタキオンが躱した躱した!アグネスタキオンが先頭で最後の直線に入ります!さぁここからアグネスタキオンが突き放す!アグネスタキオンが他のウマ娘を突き放す!》

 

 

 

 

 アンカ君が信条としている【夢を魅せる走り】……恥ずかしながら、私もそれに影響されてしまったねぇ。

 

 

(彼女はいつだって諦めなかった。無茶という道理に真っ向から立ち向かい、その手で数多の栄誉を手中に収めた。そして、私はダービー以降それを近くで見続けた)

 

 

 本当に、とんでもないウマ娘だ。人の心を動かし、困難に立ち向かう勇気を与えるウマ娘……同じレースで走ったウマ娘も、差に絶望するどころか彼女の走りにあてられて奮起するものも珍しくない。

 

 

「彼女はいつだって困難に立ち向かっている」

 

 

「だから、自分だって」

 

 

 そう、思わされるのさ。

 

 

「さぁ──」

 

 

 中山の最後の直線。私は──()()()()()()()()

 

 

「可能性を導き出そう!」

 

 

 

 

領 域 発 現

 

U=ma2

 

 

 

 

 身体の奥から力が湧き上がってくる感覚……成程、これが領域というやつか。実際に体感するのは初めてだねぇ!

 

 

「だが、悪い気分ではない。さぁ、このまま駆け抜けようか!」

 

 

 後続を突き放す。誰も私に追いつけない。身体も一切問題はない。この勝負は……貰った。

 

 

 

 

《タキオン先頭!タキオン先頭!アグネスタキオンが先頭だ!アグネスタキオン独走状態!2番手ボーンキングを突き放す!すでに6バ身から7バ身の差!これがさらに開く!2番手と3番手の争いはどうか!?2番手はボーンキング!3番手と4番手にミスキャストとマンハッタンカフェ!しかし先頭アグネスタキオンの姿は遥か彼方!独走独走!アグネスタキオン大楽勝!アグネスタキオンが圧倒的強さで弥生賞を制したゴールイン!》

 

 

《これは凄い!本番の皐月賞に向けて完勝といった内容。クラシックの主役は間違いなく彼女でしょう!》

 

 

《2着はボーンキング!3着はミスキャスト!マンハッタンカフェは惜しくも届かなかった4着!1着アグネスタキオンと2着ボーンキングの着差は大差!大差です!皐月賞に向けて弾みをつけましたアグネスタキオン!》

 

 

 

 

 さて、先頭でゴールをした。ということは……。

 

 

(ここから()()()()()()()というわけだ)

 

 

 早速インタビューで発表してやろう。勝った喜びからかそれとも別の理由か。私は軽い足取りでウィナーズサークルへと向かった。

 そしてインタビュー。トレーナー君を交えて記者の質問に答える。ま、大体はトレーナー君が答えるがね。

 

 

「弥生賞勝利おめでとうございます!見事な勝利でした!」

 

 

「ふぅン、まだまだこれからさ。前哨戦を勝っただけに過ぎないからね」

 

 

「おぉ……!これは凄い貫禄!トレーナーからも一言お願いします!」

 

 

「盤石の勝利だったと思います。ひとまずお疲れ様と」

 

 

「それでは!弥生賞を勝ったということは……次はいよいよ皐月賞ですね!」

 

 

 お、ついに来たか。トレーナー君は……ほほう!中々楽しそうな表情をしているじゃあないか!*1さてさて、では早速発表しよう。

 

 

「あぁそのことなんだがね」

 

 

「?どうされましたか?このままクラシック三冠に向かう予定では……」

 

 

「私は皐月賞には出走しないよ」

 

 

 静まり返るウィナーズサークル。ついで響き渡る──驚きの声。

 

 

「「「ええええぇぇぇぇええええ!?!?」」」

 

 

「どどど、どういうことですか!?」

 

 

「どうもなにも、私は皐月賞に出走するつもりはないというだけだが?」

 

 

「いやいや!弥生賞を勝ったのにどうしてですか!?」

 

 

「私がそう決めたからだ。それ以上の理由が必要だとでも?」

 

 

「えぇ……!?」

 

 

 さて、言うべきことは言った。後はもう一つ……()()()()()

 

 

「で、では!どのレースに出走するつもりですか!?まさか、日本ダービーに直行!?」

 

 

「日本ダービーにも出走するつもりはない。いや、ダービーには出るがね」

 

 

「……は?」

 

 

 私は記者達の前で宣言する。

 

 

「私の次走は──英2000ギニー。そのままダービーステークスへと向かう。私が挑むのは……イギリスのクラシック三冠だ

 

 

 私の挑戦──イギリスクラシックへの挑戦を。

*1
タキオンの主観。実際のトレーナー君は苦い表情をしている




タキオンはクラシックに挑戦します。ま、クラシックはクラシックでもイギリスのクラシックですが。
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