へいへいへい、アメリカに来ている僕ですけどへい。
「『んあ~……眠い。君もそうは思わないかい?葦毛仲間ちゃん』」
「……『初対面なのに何言ってるんだ?お前は』」
「『え、そうだっけ?何となく会った気がするんだけどなぁ』」
知らん葦毛のウマ娘さんに絡まれてます……本当に誰だよアンタ!
事の発端はトレーニングのために外へと繰り出していた時のことである。ちなみにヴィッパーは部屋にこもってやることがあるからとついてこなかった。
トレーニングのためにランニングをして、ちょっと大きめの広場で簡単なトレーニングをしていたわけですよぼかぁ。
「『ヒュー!見ろよシルバーラビットのトレーニング!』」
「『えぇ、相変わらずあの小さい身体のどこにあんなパワーがあるのか不思議でならないわ!』」
「『あんなに重そうなバーベルを片手間で動かしながら1人ショーギとは……とんでもねぇぜ!ショーギの意味は分かんねぇけど!』」
なんか周りから黄色い声が上がってたけど無視していたわけですよ。周りのことなんか知らんわけですし。
そんなわけでトレーニングをしていた僕ですけど……ふと気づいたら後ろのベンチにウマ娘さんが来たわけです。
(え~?なんでベンチなんて他にもあるのにわざわざぼくの後ろに来るのさ?どっか行ってくれないかな~)
と、切に願っていたわけですが。そんな願いも空しくそのウマ娘さんはベンチに腰掛け……どころじゃないな。寝っ転がったわけですよ。しかもそれだけじゃない。僕のトレーニングの様子をじーっと見てくるんですよ?気が散ってしょうがないんですよ!つーかトレーニング見ながら欠伸してるし!
でもまぁ、気にしたら負けだろってことで無視を決め込んでたわけです。そしたら唐突に。
「『ちょいちょ~い。こんな熱烈な視線を送ってるのに、無視ってのは悲しいねぇシルバーラビット』」
「はっ?」
こうやって話しかけてきたわけだ。……本当になんでだよ。
というわけで冒頭の会話。なんとなく会った気がすると言っているが、僕はこの葦毛のウマ娘さんに見覚えなどこれっぽっちもない!一度だって見たことねぇよ!灰色がかかった葦毛の髪をセミロングのウルフカットにしたウマ娘さんなんてなぁ!しかも胸もデカけりゃたっぱもデケェ!なんだなんだ?僕への当てつけか!?
うんうん唸る葦毛のウマ娘さん。やがて、合点が言ったようにポンと叩くと。
「『ゴメンゴメン、こっちが一方的に知ってるだけだった』」
軽い調子でそう答えた。……会ったことねぇじゃねぇか!
まぁいいや。このウマ娘さんが知り合いじゃないと分かった以上関わる道理はない。とりま無言でトレーニングを続ける僕なのだが。
「『にしても凄いトレーニングだねぇ。なんか意味あるのそれ?』」
「……」
「『はは~ん、さては効率重視と見た。筋肉を鍛えながら賢さも鍛える。時間も短縮できるしイッセキニチョーというやつかな?』」
「……」
「『おいおい、無視は悲しいなぁ。お姉さん泣いちゃう。兎は寂しいと死んじゃうらしいよ?あ、兎は君だったねゴメンゴメン』」
メッッッッッチャ話しかけてくるやないかいこの人!なんなんだよもう!分かりました分かりましたよ!相手すりゃいいんでしょう!?
「『さっきからブツブツと。僕に何か用でもあるのか?』」
「『あ、聞こえちゃってた?そんなつもりはなかったんだけどなぁ』」
「『無視は悲しいって思いっきり言ってただろうが!』」
本当になんなんだよ!
目の前の葦毛さんはポヤポヤした感じだ。なんていうか……つかみどころがないというか。何考えてるのか分からないというか。とにかくそんな感じがする。相変らずぽや~っとした様子で話しかけてくる葦毛さんである。
「『にしても、噂のシルバーラビットに会えるとはこれまた良い機会だ。役得ってやつだね』」
「『そりゃどうも』」
ほほう?役得と来ましたか。……ヨシッ!
「『それにしても、凄い筋肉だねぇ。太もも辺りなんて特に凄い』」
「『ふふん。そうだろうそうだろう、なんせ鍛えて「『凄くむっちりしてるね。触ったら柔らかそうだ』」うるさいよ!触らせないからね!?』」
「it's ジョ~ク。『ま、凄い筋肉っていうのは本当のこと。レースの強さも頷けるってもんだね』」
本当になんなんだこの人……相手してて凄く疲れる。
そういや、まだ名前聞いてないな。
「『今更だが……あなたは誰だ?さっきも言ったように、見覚えがないのだが』」
「『あたしのこと?う~ん……好きなように呼んでくれていいよ。スーちゃんとか白助とか』」
「……『言うほど白いか?』」
どっちかっていうと灰色な気がするんですけど。
「『ま~、ならスーちゃんで良いんじゃない?』」
「『僕はフルネームが知りたいのだが……まぁいい。それで?スーちゃんさんは僕に何か用でもあるのか?』」
さっきから露骨に絡んでくるぐらいですし、用があるんだと思いますけど。でも……なさそうだな~、この感じだと。今もなんか唸ってるし。
「『いや、ね。噂のシルバーラビットがどんな子なのかな~って思って。アメリカ中で話題だもの、君』」
つまり……僕のファンか!?そういうことか!な~んだそれならそうと「『言っておくけど別にファンとかじゃないからね』」あ、そう。
「『でも、まぁ。気になる子、って意味ならファンになるのかな?』」
「『気になる子?』」
「イエスイエス。『あたし、君、気になる』。OK?」
おーけー。ということは……単純に気になる相手を偶然見かけたから声をかけたと。そういうことですかね。
「『それで?実際に会ってみてどうだった?』」
「う~ん……」
またも唸るスーちゃんさん。今必死に感想を絞り出そうとしているのだろう。やがて、口を開いた──大変素敵な、闘争心剥き出しの笑顔とともに。
「『強そうだねぇ。一緒に走ったらとても楽しそうだ』」
……なんだよ!僕に惹かれるヤツ、レースジャンキーばっかじゃねぇか!シアさんとか師匠とかコーチとかのこと悪く言いたかねぇけど!止めろよそんな楽し気な笑み浮かべんの!こちとら兎だぞ!?
なんかクックックとか悪役っぽく笑っているスーちゃんさん。けど、ふとした拍子にその笑いは止む。
「『そろそろ帰ろうかなっと。んじゃね~シルバーラビット。
そのまま帰っていった……本当に偶然会っただけなんだな、あの人。
「……まぁいいや。トレーニングしておこ」
トレーニングに打ち込む。SLRCももうすぐですからね。トレーニングしまっしょい。
先程までアンカデキメルゼと話していた
「~~~♪」
鼻歌を口ずさむくらいに上機嫌のようだ。その理由はやはり、アンカデキメルゼというウマ娘に会っていたからだろう。
そんな浮かれた彼女に1人のウマ娘──シアトルスルーが話しかけた。
「奇遇じゃないっすか。なにしてんすかこんなとこで」
「おや、シアちゃんじゃないか。相変らず真面目ちゃんな雰囲気出してるね」
「なんすか真面目ちゃんな雰囲気って。つーか、お前には関係ないっしょ」
呆れた様子のシアトルスルー。どうやらこのスーちゃんさんはシアトルスルーと知り合いらしい。それも、それなりに親しい仲のようだ。
「……んで?えらい上機嫌だった見たいっすけど。なんかあったん?」
「ん~……そうだねぇ。とても良いことがあったんだよ」
「そりゃ鼻歌口ずさみながらスキップしてるぐらいだから分かんだよ。ウチはその良いことの
「あ、そうなの?ま、それもそうか」
そうだねぇ、と顎に手をやるスーちゃんさん。先程の出来事を話し始めた。
「実はねぇ、話題沸騰中のシルバーラビットちゃんに会ってきたわけだよ。
「へぇ、ウサギちゃんに」
シアトルスルーの興味が一気に惹かれる。前のめりになって聞こうとしていた。
実はスーちゃんさん。あの場では偶然と言っていたが……
「あの子目立つからねぇ。特定は容易だったよ」
「……まぁ、ウサギちゃんは奇行が目立つっすからね。嫌でも目に付くというか」
「それでまぁ、接近したわけですよあたしは」
飄々とした態度を崩さないスーちゃんさん。シアトルスルーは興味深そうな笑みを浮かべていた。
「……それで?どうだったっすか?ウサギちゃんに会った感想は」
シアトルスルーの質問。スーちゃんさんは──アンカデキメルゼに向けた時のような笑みを浮かべた。
「
「でしょでしょ?楽しみだな~、一緒に走るのが」
「分かりみ深し~」
「なんすか?それ」
「日本ではやってるらしいギャル語。よく分かんないけどね~」
お互いに面向かって笑い合う2人。周りのことなどお構いなしに笑っていた。もっとも、シアトルスルーというビッグネームのウマ娘がいることに先程からざわめき立っているが。しかし。
「おい、あれって……」
「あぁ。シアトルスルーに……あの葦毛のウマ娘は!」
「間違いねぇ……あのお方だ!」
その原因は、シアトルスルーだけではなかった。
ひとしきり笑った後、シアトルスルーはスーちゃんさんに問いかける。
「んで?やる気は出たっすか?SLRC」
「あ~……そんなのもあったねぇ」
「出走しておいて、今更何言ってんすかお前は」
呆れ口調のシアトルスルー。スーちゃんさんは適当に謝り倒していた。
「んまぁ、ビッグ・レッドはやっぱり強いねぇ。ここまで全勝ときたもんだ」
「……ま、ここで終わるウチらじゃないわけですけど」
「本当にね。そろそろ、他のヤツらもギアが入ってきた頃でしょ」
舌なめずりをするスーちゃんさん。
「アメリカダートのSLRCは……
「違いねぇっすね。いやぁ、ようやくドリームマッチが叶うってもんすよ」
大体芝に行ったりしてたヤツがいたし、と口にするシアトルスルー。
そしてシアトルスルーはスーちゃんさんの──
「で?手始めにどうするっすか──スペクタキュラービッド」
否、スペクタキュラービッドの名前を呼ぶ。スペクタキュラービッドは、笑みを深めて答えた。
「ま、とりあえずぅ……
いつもと変わらない、軽い調子で言い放つ。SLRCは近づいてきていた。
レジェンドホイホイアンカちゃん。