あ、書き方に関しては今後は今話の書き方に統一します。いつかこれまでのお話の方も修正する予定です……192もあんのかこの作品()
始まったSLRCアメリカダート短距離戦。師匠やドクター相手に戦わなきゃいけなくなった僕ですが。
え~はい、大絶賛やっべーいことになっています。
(きっっっつ! いや、マジできっつい! この2人相手に逃げて差さなきゃいけないのマジでしんどいんだけど!?)
現在先頭は僕と師匠、そしてドクターの3人。3人が仲良く併走しているように見えるだろう……傍目には。
けど、僕に余裕なんてもんはない! ちょっとでも手を抜いたら置いていかれる!
理由なんて決まってる。この2人、とにかく速いんだよ! でたらめにハチャメチャに速い!
(アメリカ二大巨頭の一人、英雄セクレタリアト! アメリカレース界のスピードキングドクターファーガー! どっちも洒落にならないって! 本当にヤバい、マジでヤバい、ヤバいしか言えなくらいヤバい!)
「ほんっとーにもうさなんで師匠もドクターもこんなに競り合うわけ、こっちとしては競り合ってほしくないわけですよ本当に勘弁してくれないかなこの場から逃げ出したいいや逃げてんだけどね、逃げてんだけど逃げ出したいんだよ僕は」
「『無駄口叩く暇があるたぁ素敵だな我が弟子ぃ! まだまだエンジン上げていくぞ!』」
「『これがシルバーラビットのぼやきか、本当に面白いなウサギちゃんは! もっと、もっと……おれをアゲさせろよぉ!』」
僕はそもそも最大速度が速い方じゃない。鍛えたら鍛えた分だけ速くなるとはいえ、師匠の速度と大して変わらない。
《さぁお前ら、ここは短距離戦だ。短距離戦ということは? そうだ! あっという間に決着がついちまうってことだぁ! 永遠に見たいこの勝負もいよいよ大詰め、最後の直線に入ってきたぞぉ! 先頭を走るのはやはりこの3人! セクレタリアトにドクターファーガー、そしてシルバーラビット、アンカデキメルゼだぁぁぁ!》
「わあああぁぁぁ!!」
周りの声に耳を傾けている余裕なんてない。てか、ここからどうやって差し返せばいい!?
(安価は逃げ差し、つまりは一度退いてから抜き返す必要がある……え? この2人相手に?)
ちょっとでも気を抜いたら置いていかれる相手に、一度でも退かなきゃいけない。安価を達成するためには、逃げて差すためには一度退かなきゃいけないんだけど。
……いや、追いつけるわけねーでしょうよ!? 英雄とスピードキング相手に、どうやって一度退いてから追いつけってんだよ!
てか、この2人だけじゃない。後ろからの圧も増してきてるし、どんどん追いついてきている!
《3人だけじゃねぇ、後続からダマスカスを先頭にしてギアを上げてきた連中が来たぜぇぇぇ! その中にはレディーズシークレットの姿もあるぞ! ここいらで一矢報いたい後続、さぁ追いつけるかどうか! 激闘の幕はまもなく降りるぞ!》
どーしよどーしよ、マジでどうしよう!? もうゴール近いし、考える時間が無くなってきた! つっても余裕もないし、どうしちゃえばいいんだよ僕!
「なーんでこうよりによってこのタイミングでアレを引くんだよマジでスナイプしているやついるんじゃないでしょうね本当にどうしようどうしようあーもう考えるのやめたなるようになれだ!」
「『何をする気だ? 我がで、しっ?』」
「……は?」
周りの声を聞く余裕なんてなかったのに、師匠とドクターさんの素っ頓狂な声が鮮明に聞こえた。なんで、とか明らかに困惑したような声が。
残り200m。1着でゴールするためには絶対に下がっちゃいけない状況で──僕は下がった。
《あーっと!? ここでシルバーラビットが脱落かぁぁぁ!? やはりこの2人相手に競り合い続けるのはキツかったのか!? シルバーラビットが半バ身後退、半バ身後退! ダマスカスら後続に飲まれようとしている! 先頭はセクレタリアトとドクターファーガーの2人だぁぁぁ!》
あぁ、うん。もう取り返しがつかない段階まで来た。これしちゃったらもう、後戻りはできないんだ。
師匠やドクター相手に半バ身の遅れを取る。それだけならまだ何とかなったかもしれない。後ろから追い上げる分には。
でも、僕はさっきまで競り合っていた。そのまま競り合えば勝てたかもしれないのに、わざわざ下がったんだ。
つまりは、スピードを落としている。落とした上で、再加速してもう一度追いつかなきゃいけない。
(僕には等速ストライドがある。再加速自体は問題なく終わるだろう)
だけど、この電撃戦においては0.1秒の遅れすら命取り。下手すればそのままジ・エンドになってもおかしくないわけで。
絶体絶命だ。一度落としたスピードを戻すだけじゃ足りない、さらに上のスピードを出して師匠達に勝たなきゃいけない。
(はは、本当に)
マージで、こんな安価しやがって。本当の本当に。
「愛してるぜ
最高の状況を作ってくれてなぁ!
そりゃあ、今の僕は最悪の状況だ。負けたっておかしくない、追いつけるかどうかも分からない瀬戸際だ。
絶望的な盤面。夢が潰えるような場面。八方塞がりの絶体絶命、誰もが諦めるような状況かもしれない。
だけど、そんな状況でもし逆転したら? 当然、めっちゃ盛り上がるに違いない。
「ははは」
「『っ、この局面で、笑うかぁ、
「『クハハ、ハーッハッハ! そうだ、そうだ! おれを、このスピードキングを楽しませろ!』」
最高だ、最高に楽しい状況だ! ゾクゾクが止まらない、先の未来を想像したら──ワクワクして仕方がない!
それが一度も勝てたことがない師匠と、その師匠に並ぶくらい速いドクターさんだ。ワクワクが2倍、相乗効果で上がっていく!
最高に生きている、この瞬間こそが僕の活力が沸く時間!
「さぁ、
追い抜いてやるよ、全員!
◇
観客は騒然としていた。競り合っていた3人のうち1人、アンカデキメルゼが競り落とされたのだから。
「あぁ!? し、シルバーラビットが!」
「さすがにあの2人相手にはキツかったのかっ?」
「仕方ねぇよ、アメリカでも最強クラスの2人と競り合ってたんだ。よく保った方だよ」
仕方ないと割り切る人もいる。あのセクレタリアトとドクターファーガーの2人と競り合って、無事な方がどうかしている。そう口にする人々。
ただ、納得のいかない者もいる。シアトルスルーだ。
「……腑に落ちないっスね」
「あ゙? なにがだよ?」
「ウサギちゃんが落ちた意味っスよ。どう考えても、あそこで落ちるはずがないじゃないっスか」
競り落とされた意味が分からない。怪訝な表情で主張する。ちゃっかり近くで観戦していたサンデーサイレンスもまた、言われてみればと納得した表情を見せた。
「ウサギちゃんはSBRを単独走破するスタミナがある。どう考えても、先にくたばるのはものぐさビッグレッドかドクターの方。ウサギちゃんが落ちるなんて、本来あり得ないんスよ」
「ってーとなにか? てめーはアイツがわざと落ちたって言いてぇのか? それこそ何のために?」
「けど、それしか説明がつかなっ」
会話の途中で、シアトルスルーはなにかに気づいたように身を乗り出す。一度下がったアンカデキメルゼ、彼女の走りに視線を注ぐ。
注意深く観察して、脚の方へと視線を向けると……合点がいった。
「そうか、そうっスか、そういうことっスかウサギちゃん! あぁなるほど、確かにそうするしかないっスねぇ!」
「なにがだよ? てめー、何に気づい」
「脚。ウサギちゃんの脚、めちゃくちゃ力込めてるっスよ」
シアトルスルーの言葉を聞いて、驚愕の表情を浮かべたままサンデーサイレンスも注視する。アンカデキメルゼが蹴り上げた地面に注目して、同様に笑みを深めた。
「く、は、クハハ! あぁそういうことか! そうするっきゃないわな! つっても、この土壇場でそれするか普通!?」
「ウサギちゃんはやるっスよ。やるかやらないかで言われたら、間違いなくやる! そう」
歓喜の表情を浮かべて、シアトルスルーは。
「より強い力で踏み込むために、より速いスピードに到達するために! 一度下がらざるを得なかった!」
周りにも聞こえるような大声で、断言した。
アンカデキメルゼが落ちたのは、より強い力で蹴りこむためだ。今のままではスピードが足りない、そう判断したからこそ、より強い力で踏み込むことを望んだ。
そのためにはグッと溜める必要がある。いつも以上に力を込める必要があった。
下がったように見えたのは、溜めの時間があったからだ。力を込めたからこそ、セクレタリアト達よりも下がることになった。
加速を得るためには仕方がない。今の力を維持しても敵わないなら、今以上の力を発揮するしかない。
だからこその溜め。残り200mしかないこの局面で、さらに溜めて走ることを選択した。
一歩間違えれば負けにまっしぐらの破滅。しかし成功すれば──追いつくばかりか勝てるかもしれない道筋が見えてくる。
「あと少ししかないって局面で、そんな選択するのかよあのシルバーラビット様は! ギャハハ、こりゃ、とんでもねぇクレイジーウマ娘だ!」
「しかも相手がセクレタリアトとドクターファーガー。アメリカでも最強格の2人! 本っ当……最高に楽しませてくれるっすねぇ……!」
「めーっちゃ面白そうだねん2人とも。まー……あたしもどーかんだね」
アンカデキメルゼの作戦に気づき、笑いが止まらないと高笑いする2人。その横で、同じく観戦していたスペクタキュラービッドもまた、目を細めていた。獲物を狙う肉食獣のように。
状況は残り100m。気づけばバ群は密集し──一度落ちたはずのアンカデキメルゼがまた、先頭に並んでいた。
《おいおい……おいおいおい! お前はどこまで楽しませてくれるんだ!? シルバーラビットが再加速して、セクレタリアトとドクターファーガーに並んだぁぁぁ! それだけじゃねぇ、ダマスカスにレディーズシークレット、アメリカの英傑達が先頭2人に襲い掛かっているぜぇぇぇ!》
「そうこなくっちゃなぁ!」
逃げて、さらに差す。二の足を使って、一度落ちたウマ娘が再加速して並ぶ。
セクレタリアトとドクターファーガーに、後続のウマ娘達を引き連れて、アンカデキメルゼは突っ走る。
彼女の表情は──万人を魅了する笑顔だった。
《差した、差した。差した! 差し返したァァァ! これがシルバーラビットの魔法だぁぁぁ! セクレタリアトとドクターファーガーを、最後は差し返したァァァ! SLRCダート短距離、勝ったのはアンカデキメルゼだぁぁぁ!》
電撃戦の決着。公式記録には残らないものの、当然のレコード決着に観戦していたファンは沸き上がる。
英雄達の戦い。時代を超えて、世代を超えて集まった英雄が戦う夢舞台。
そんな夢舞台を制したのは──新時代の若武者。
「この僕に、夢を見ろっ!」
アンカデキメルゼ。
走り終わったドクターファーガー。呼吸は整わず、全力の疾走に足が悲鳴を上げていた。
それでも、彼女の表情は笑顔だ。見たいものが見れた、そう言わんばかりの。
(これが、シルバーラビット本来の走り。併走では表れない、彼女の完成形!)
奇想天外、複雑怪奇の摩訶不思議。全くもって予想がつかないことをしてくる、アンカデキメルゼの走り。ドクターファーガーが惚れた、アンカデキメルゼの走りだ。
ドクターファーガーの全身を突き抜ける喜び。疲れているはずの体、なのにすぐにでも動き出したいほどに刺激されている。
勝者であるアンカデキメルゼを見て笑みを深め、もう一度走りたいという欲求に駆られる。
いや、一度だけでは済まされない。何度でも、それこそ無限に走りたいと思わせるほどに。
(逆境で追い込まれてこそ輝く彼女の本領、追い詰めるほどに輝きを増す、あまりにも異質な領域! おれは、これが見たかった!)
「普通、あそこで脚を溜めるために下がる判断をするか!? あの極限状態で、俺とセっちゃんの2人と競り合ってだぞ!? いや、ありえねぇだろ普通!」
「そのありえねぇをするのが、我が弟子の恐ろしいところだ。すげぇだろ? 俺の弟子は」
「あぁ、最高の弟子だね! セっちゃんより早く知り合ったらおれが弟子にしていた!」
「渡さねぇぞ。アイツは俺の弟子だ」
お互いにアンカデキメルゼへと視線を注ぐ2人。その目は、楽しくて堪らないといった感情が見え隠れしていた。
なお、2人のレジェンドから視線を注がれて、アンカデキメルゼは冷や汗を流している。
(何何何!? なんで師匠ら僕を見て笑ってんの!? やめろやめろ、僕は美味しくないぞ!)
相も変わらず、変なことを考えるウマ娘である。
もう何言っても弁解の余地がないので次の更新については何も言いませんご了承ください。