ふっふっふ~、ふふふのふ~! つ~いにやりましたよ僕は、やってしまいましたよ僕は!
「ついに師匠に勝ったぞー! いやっふぅぅぅ!」
「テンション高いな我が弟子。まだ1回勝ったぐらいで」
「その数十倍は負け越してるです」
「うるさいよヴィッパー! それでも勝ちは勝ちだもんね!」
SLRCアメリカダートの短距離。師匠やドクターさん、レディさんとの勝負となったけど、勝ったのは僕だ。ダート短距離で名を馳せた伝説たちを下して、僕がレースを勝ったんだ。これが嬉しくないはずがない!
勿論今までのレースも全部嬉しい。相手は時代の最強を名乗っても許される人達ばっかだし、その中で勝ち星を積み上げることができてるんだから。
でも、今回に限っては本当に特別だ。なんせ、同じレースに師匠がいたんだから。
(今までずっと負け続けてきた相手が、練習で一度も勝てなかった相手と走って勝てたんだ。喜びだって人一倍だね!)
「フフ、フフフ……!」
「『なんかウサギちゃん不機嫌そうすね。勝ったのになんかあったんすか?』」
「『笑いながら怒るなんて器用な真似ができる子だね~ウサギちゃん』」
誰が不機嫌じゃい! 嬉しくて笑ってるだけじゃい!
で、この声には聞き覚えがある。振り返ると、想像していた通りの2人……シアさんとスーちゃんさん、後は知らないウマ娘さんが1人。ケラケラ笑いながらこっちを見てますね。
ケラケラ笑ってる人は、なんというか。
(見覚えがあるような、ないような。なんか、日本で見たことある気がするんだよな~)
つい最近どこかで見たことがあるような気がするウマ娘さんだった。シアさん達と一緒にいるってことはアメリカの人だろうし、知らないはずなんだけど。どうも黒髪ロングの立ち姿に既視感のようなものを感じる。
「よ~ぅ、『こうして会うのは初めましてだなぁ? 銀色兎』」
「……『僕に何の用だ? あいにくと、僕はあなたに用事はないぞ』」
「クッハ! 『そう邪険にすんなよ、ちょっとじゃれ合いたいだけなのによぉ』」
なんというか、The・不良みたいな感じの人だ。笑いながらこっちに迫ってきているけど、警戒は怠っていない。何があってもいいように、万全の準備を整えている。
後、さすがに場数を踏んできたから分かる。この人は、凄く強い人だ。
「『オレはサンデー、サンデーサイレンス。こっちの二冠ウマ娘でなぁ。ま、六冠ウマ娘様にゃさすがに勝てねぇが、これでもそれなりの強さはあるって自覚はしてる』」
ほーらやっぱり強い人! こっちの二冠を取るだけでも十分に凄いことなの、僕は知ってるんですからね!*1 僕と関わってきた人達ほぼ三冠達成者だからあんまり凄みを感じないけど!
サンデーサイレンスさんは、それはもう素敵な笑顔だ。でも、この笑顔にはとても見覚えがあるんですよね。
「『見てたぜぇ? ダートの短距離。クソドクターやビッグレッド相手に、バカみてぇな作戦敢行して勝利を勝ち取ったテメェの姿。ありゃとんでもねぇ傑作だった。思わず笑いが出ちまうほどにな』」
「……『だから、なんだ?』」
肩にポンと手を置かれて、それはもう素敵なお誘いですよ。
「『必ずアメリカのダートに戻ってこい……中距離以上でテメェをぶっ殺してやるよ』」
「『サンデーが大きく出たもんすねぇ。ま、勝つのはウチだけど』」
「『ちょいちょ~い、あたしもいるんだなぁこれが。ダート2000ならあたしが最強ってこと、お忘れで?』」
僕が会うウマ娘こんなのばっか! レースジャンキーしかいねぇよやっぱり! アメリカのウマ娘さんってアレなのか? 血気盛んな人しかいねぇのかよ! まともなのはレディさんだけか!
(しかも、揃いも揃って怖いんですよ! 僕を睨みつけおってからに! ええんか? こちとらビッグレッドに勝ったウマ娘ぞ? 我最強ぞ!)
今までは臆されるだけでしたが、これでも成長してますからね。臆されるだけじゃありませんよ、睨み返したりもできるんですよ。これが成長って奴です!
「『とんでもねぇ眼光だなぁおい。オレらを殺そうって、銀色兎もバチバチってことかい』」
「『ゾクゾクする目をしてくれるじゃないっスかウサギちゃぁん。そうそう、それでこそ潰しがいがあるってもんすよ……!』」
「『楽しみだねぇ。あたしも、久しぶりに高鳴っちゃうよ』」
ダメだ逆効果でしかねぇ! バトルジャンキーに睨み返しても何の意味もねぇ! 後殺そうなんて微塵も考えてないよ物騒な! 負けないぞって視線を送っただけじゃ!
なにかと賑やかになっているレース後の空気。そんな空気を変えたのは、師匠だった。
「『まさか、これで俺に勝っただなんて思ってねぇだろうなぁ? 我が弟子』」
「ふっふ~ん、『師匠がなんて言おうと、勝ったのはぼ、く……で……っ』」
鬼すらも逃げ出しそうな形相で、阿修羅のごとき立ち姿で、悔しさなんて微塵も感じさせないくらいの素敵な笑顔をしながら僕を見ていましたとさ。
いや、あの。怖すぎやしませんかね。
(こっっっわ!? 過去一で怖いんだけど師匠! 何何何、何されるんの僕! 生きて朝日を拝めるよね!?)
「『つっても、俺が負けたのは事実だ。そこに言い訳を重ねるつもりは少しもねぇ。事実は事実だしな』」
「『そうだそうだー。大人しく負けを認めろビッグ・レッドー』」
「『アヒャヒャ! アメリカの象徴様が、新時代の英雄に負けるたぁなぁ! もう引退した方が……いや半ば引退してる身だわこのものぐさ』」
「『引退してる身でこれってのがコイツのヤバさっすよね~。ま、ウサギちゃんに負けたけど』」
周りの方々も煽らないでいただけますでしょうか? 師匠の圧を受けるのは僕なんですよ。師匠の熱い視線が僕にずっと注がれているんですよ。誰か変わってくださいよ今なら喜んで変わりますよ。この師匠の圧から逃げられるんだったら、僕は喜んでこの権利を放棄しますよ。
とはいっても、師匠の言うことももっともだ。負けたのが事実なのもそうだし、僕が手放しで喜べるくらい勝ったと言えないのも事実。
(師匠にとって短距離は一番分が悪い勝負だ。師匠ってそもそもスタートがよくないし、今回に関してはドクターさんもいたし)
つまるところ、短距離は師匠にとって一番弱い距離だ。等速ストライドがあるから何とかなっているだけで、本来であれば走ることが厳しい距離。
適性が全くかみ合っていない。師匠のやりたいことが短距離では半減してしまう。一番力を発揮できない土俵で勝ったところで、って話になる。
(……それでも3着に滑り込めるあたり、師匠って本当師匠って言うか。マジでアメリカの英雄だなこの人)
本来なら前衛をやれない後衛職のキャラが前衛キャラとタメ張ってるようなものだよね。ステータスがあまりにもぶっ飛びすぎてるからどこでもやれますよ、みたいな位置づけのキャラ。それが師匠だ。
だから、あまり調子に乗るなみたいな警告もあると思う。実際問題、ダートの短距離でこれなんだから、師匠が本領を発揮できる舞台では……どうなるのか。
(よし、安価でダートの中距離を引かないことを祈るか!)
ふっふ~ん、師匠達には悪いですけど、僕ってば基本的に出るレースは神の啓示(安価)で決めますからね。こればっかりはなんと言われようが変える気はありませんよ! たった1つの例外として、今度の有馬記念がありますけど。
いや~こればっかりは運だからな~! 運だから仕方ないよね、うんうん! 運だけにね!
「『やたらニコニコしてんな我が弟子。そんなに俺らと戦えるのが嬉しいのか?』」
「うえっ!? い、『いや~、どうなんでしょうね~』」
「『な~んか、邪な気持ちを感じんな。まさか逃げようなんて考えてねぇだろうな?』」
「『いやいや、んなことないでしょサンデーちゃん。まさか天下の銀色兎様が下々のあたしらから逃げるわけないって~』」
逃げようなんて気持ちはありませんよ。でも、選ばれなかったら仕方ない! うん、それだけの話ですからね! よ~し、選ばれるんじゃないぞダート中距離! 絶対に、絶対にだ! 僕ってば最近は善行積んでるしきっといけるはず!
と、いろいろとあったアメリカダートの短距離ですが、これにて無事に終わりました。次はどこが選ばれるのやら。
「そういえばトレーナー君。タキオンのダービーがそろそろだったはずだが」
「そうだね。タキオンはもう少しでダービーステークスがあるよ」
勿論、僕だけじゃない。アルナイルのメンバーも3人ほどレースを控えていますから。
ダービーステークスに出走予定のタキオンに、7月あたりにはクリスエスさんとファインさんのデビューもある。2人がどんな道を選ぶのかも、ちょっとは気になったりする。
(というか僕もアレだな。そろそろレース安価しないとな。SLRCばかりにかまけていられないから)
「さて、そろそろ神の啓示(安価)を賜るとしよう。レース、出れてないからな」
「思えばSLRCばっかりでレースに出てないです。そろそろせっつかれそうです」
「せっつかれるものなんだね、神の啓示」
ま、それよりもまずは僕のレース安価の方だ。他の安価はやってるけど、レース安価はそれなりにしかやってないし。ギアを上げていきますよー!
◇
その月のSLRCは、波乱が起きていた。
《ついにニジンスキーの牙城が崩れる! ここまで無敗のニジンスキーを破ったのは英国が誇る【神のウマ娘】ラムタラ、レースを支配し神の威光を示したラムタラ1着!》
「……やるわね、ブレーヴ。それに、ラムタラ達も」
「クハハ、我らとてやられっぱなしは性に合いません。この神のウマ娘は、必ずや頂点に立ちますともっ!」
欧州では無敗だったニジンスキーをラムタラが破り、無敗記録を途絶えさせ。
《シンボリルドルフ、この5戦目でついにシンボリルドルフが神を破る! 皇帝の策略が、神を謀ったシンボリルドルフ1着ゥゥゥ!》
「やられたねぇ。これまでの全部、布石に使ってきたとは」
「そうでもしなければ、あなたには勝てませんでした。もっとも……この先のレースは、私が全て勝ちますが」
「……言うねぇ。たかが1回勝ったぐらいで調子に乗るんじゃないよ、ひよっこ。シンザンの首は、安くない」
「存じていますよ。痛いほどにね」
日本ではシンザンの無敗をシンボリルドルフが止めた。SLRCの他のウマ娘達も、続々と結果を残しつつある。
その中でも特に注目されていたのは、アメリカのダート短距離。新世代の英雄アンカデキメルゼとアメリカの英雄セクレタリアトの激突。さらにはアメリカレース界のスピードキング・ドクターファーガーの激突は世界中で注目された。
無敗同士の対決。軍配が上がったのは──アンカデキメルゼ。
「やっぱりシルバーラビットこそが最強だ! 無敗記録を継続したのは、アンカデキメルゼだ!」
「セクレタリアトにすら勝っちまうなんて、マジでやべーぜアンカデキメルゼ! 最高の女王だぁぁぁ!」
そして、これにより1つの事実が確定する。世界中を巻き込んだお祭りレース、英雄達の祭典SLRC。無敗記録を継続しているのはたった1人──アンカデキメルゼのみだと。
ニジンスキーもシンザンも敗れた。同じく無敗だったセクレタリアトもドクターファーガーもアンカデキメルゼに敗れた。残った無敗はアンカデキメルゼのみ。
この事実が、人々を熱狂させる。
「ど、どこまで無敗記録を継続する気なんだ、アンカデキメルゼは?」
「どこまでだって? そりゃ終わるまでに決まってんだろ!」
「アンカデキメルゼの無敗は終わらねぇ。俺達は……どこまでも夢を見ていいんだ!」
どこまで無敗が続くのか、何時まで勝ち続けることができるのか。最後まで……勝ち切ることができるのか?
無謀なことかもしれない。都合の良い夢に過ぎないかもしれない。
しかし、その都合の良い夢を現実にしてきたのがアンカデキメルゼだ。誰もが夢を見る、誰もが理想を語りたくなる。それこそがアンカデキメルゼというウマ娘。
果たして彼女の挑戦はどうなるのか? 最後まで無敗を貫くことができるのか。注目は、さらに集まることになった。
まぁこの作品最大の問題点は当時実装されてなかった公式ウマ娘達をどうするか問題なんですけどね。力業で解決する手段はありますけど。