トレセン学園の生徒に、アンカデキメルゼとはどのようなウマ娘かを聞いてみた。
Q.あなたにとって、アンカデキメルゼというウマ娘は?
「う~ん……いっつも仏頂面で、何考えてるのか分からない子……かな?悪い子じゃないってのは分かるんだけど」
「無表情で黙々とトレーニングをこなしているから、ちょっと不気味……。どうしてそんなに鍛えるんだろう?って思ってる。でも、たまに宿題忘れた時に無言で見せてくれるから悪い子じゃないよね」
「なんか、たまに変なことしてるのを見かけるよ。この前なんか練習場の内ラチでスケボーしてたし。それでエアグルーヴ副会長に怒られた」
「私の方が速いってことを証明してみせるわ「お姉ちゃん、そう言うことじゃないと思う」」
「ものすごく強いよね。どのチームもレースで彼女が出てきたら最優先で警戒してるもん。後お尻が大きい」
「あのゴールドシップさんですら普段は避けるような方です。曰く、あれはあれで別次元の狂気を感じるからやべぇと仰っていましたが……というか、彼女は彼女でかなり食べるのにどうして太らないのでしょうか?今度秘訣でも聞いてみるのも……え?止めた方が良い?ど、どうしてでしょうか?」
「毎日凄い量のトレーニングしてるよね。トレーニングしてない日がないってぐらいには練習漬け。そりゃ強いよねって気がする」
「アンカちゃんのヒップはビッグデース!まるでグラス「エルっ」ケッ!?」
「この前アドマイヤベガさんに遊びに連れてかれてるのを見たよ。あの時のアンカさんは楽しそう?というか嬉しそうだったね。雰囲気がそうだった」
「あの子はこっちから遊びに誘わないと絶対にトレーニングをするような子よ。全く……手のかかる子なんだから」
「あの子はね、人には言えないようなものを抱えているの。それは誰にも言えないようなもの……胸の内に秘めておきたいものよ。だから、あまり触れない方が得策ね……創作のネタの宝庫でもあるけど」
「サポート科のスミニンヴィッパーちゃんと一緒にいるのをよく見るよ。あの2人って仲良いよね」
続いて、街の人達にも同じ質問をしてみた。
「アンカデキメルゼ……めっちゃ有名ですよね!鉄面皮の絶対女王!トゥインクル・シリーズのファンなら知らない人はいないと思いますよ!」
「見た目は小さいのに、凄くガッツのある子ですよね。どんな苦境でも絶対に折れない精神があるっていうか!」
「確かにあの子表情は変わらないし、仏頂面ですけど……そこが良いっていうか!あの目で蔑まれてみたい……!」
「お尻大きいですよね。というか、下半身ガッチリというかムチムチしてますよね」
「あの子、CMとか雑誌で全然見ないんだよな~。雑誌で表紙飾ったら絶対に買うのに!く~、惜しいなぁ!」
「……アンカデキメルゼのレースを見て、踏み止まれたんです。もうちょっと頑張ってみようって、あの子の走りを見たら……そう思えてきたんです。だから、凄く感謝してます」
「アンカデキメルゼ、良いよね」
「良い……」
「あの子の走りやレースを見ていると、どこまでもいけるんじゃないかって。どんな無茶なことでも成し遂げるんじゃないかって思えるんです。不思議ですよね」
「もうマヂ応援してます!アンカちゃんサイコー!」
「謎に包まれた私生活……!だが、それが良い!」
「たまに、ホントにたま~に、スーパーとかで見かけますよ。雑な変装でコソコソしながら商品買ってるのがなんか微笑ましいです」
「この前ゴールドシップと路上ライブやってたね。木魚とシンバルだったけど、なんだったんだろうあれ……」
「トレセン学園の駿川さんにゴールドシップ共々補導されてるのを見ましたよ」
一部変なものがあったが、アンカデキメルゼというウマ娘に対する印象は好印象が多かった。
アンカデキメルゼ。トゥインクル・シリーズで史上初となるクラシックの5大レース──桜花賞・皐月賞・オークス・日本ダービー・菊花賞のレースを全て制した彼女。さらには日本のウマ娘として初となるエクリプスステークス・KGVI & QES・果てには凱旋門賞を制したウマ娘。他にもいろいろなレースを制してきた。
そんな彼女の、最も特筆すべき点はその頑丈さと異常なまでの回復速度だろう。普通、ウマ娘にとって連闘というのはかなり厳しいものだ。中1週のローテでもかなりきついのに、アンカデキメルゼは平気で中0週のローテを組んでいる。最初こそ、彼女やトレーナーに批判の声が集中していたが……最近は色々な事情も相まってそのような声はなくなってきた。その中0週のローテを実行できるからくりは、彼女の異常なまでの疲労の回復速度にある。
なんと、彼女は1週間もあればほとんどの疲労は回復してしまうらしいのだ。事実、最も疲労が蓄積していたであろう日本ダービーも彼女のトレーナー曰くほとんど回復した状態だったらしい。恐ろしいことこの上ない回復速度だ。
加えて、アンカデキメルゼを取り巻く環境もすごい。彼女の師匠であるアメリカの二代目ビッグ・レッド、セクレタリアトを筆頭に、イギリス最後のクラシック3冠ウマ娘ニジンスキーをコーチに、欧州最強と呼ばれているデイラミも彼女に熱烈なアプローチをしているのは周知の事実だ。噂では、【ターフの偉大なる演出家】と名高いクラシック3冠ウマ娘、ミスターシービーも彼女の動向に注目しているのだとか。
【葦毛の魔王】【偉大なる赤の後継者】【嘲笑う道化】【銀色の勇者】……彼女には様々な異名がある。どんな状況でも、どんな不利を受けても。彼女はそれすらも自らのレースの演出に変える。劇的な勝利を演出し続けてきた。
そんな彼女は今──
「YO!SAY!夏が!胸を刺激する!生足魅惑のマーメイドォ!」
上半身魚のコスプレをしながらトレセン学園の野外ステージの上でHOT LIMITを熱唱していた。奇怪な光景この上ない。なお、トレセン学園生徒はそんなアンカデキメルゼの姿を冷ややかな目で見ている。その様子を、彼女の友人であるスミニンヴィッパーがビデオカメラに収めていた。
「で?野外ステージで何をしていたんですか?」
「別に使用許可は取っていたので問題ないと思うのですが」
「そうですね。使用許可はありました。ですが何故マグロのコスプレをしながら『HOT LIMIT』を熱唱していたのかを聞いているんです。しかも中途半端に上半身だけマグロですし」
「たづなさん、これはマグロではなくキハダマグロです」
「どうでもいいんですよそんなことは!」
学園の理事長秘書を務める駿川たづなはアンカデキメルゼを問い詰めていた。傍から見たら上半身マグロのコスプレをした変な奴を問い詰めているなんとも珍妙な絵面だが。
「たづなさん……僕は思うんです」
アンカデキメルゼは、駿川たづなの言葉に神妙な声色になる。あまりにも真面目な雰囲気にたづなも気を引き締めた。たづなさんの目の前にいるウマ娘は、上半身だけマグロのコスプレをしているのでどうにも締まらない絵面だが。
「……何がですか?」
きっと、何か重大なことがあるんだろう。そう思ったたづなは気を引き締める。このふざけた格好にも、何か意味があるはずだと……そう断定する。
そして、アンカデキメルゼが……その口を開いた。
「生足魅惑のマーメイド……生足見えてるマーメイドってことは、上半身は魚なんじゃないかって」
「クッソどうでもいいことじゃないですか!?真面目に考えようとした私の時間を返してください!」
結論から言えばどうでもいいことだったのだが。ちなみにスミニンヴィッパーはとっくに帰っている。またアンカデキメルゼに付き合わされているとして無罪放免となった。
「そうだたづなさん。もう一つ」
「……なんですか?」
頭を痛そうに抱えている駿川たづなにアンカデキメルゼが恐る恐る告げる。
「な、なにか手伝えることってあります?この前の路上ライブの件、まだ怒ってますよね?」
「……ハァ」
(これがあるから、一概に悪い子だって言えないんですよね……。トラブルメーカーなのは間違いないですけど……)
アンカデキメルゼという少女は、確かに奇行が目立つ。だが、その根は純粋な良い子だというのはたづなも承知の上だった。だからこそ、怒りが霧散することも多々あった……トラブルメーカーなのは間違いないのだが。それは本人の意図しないことが多いので、たづなも大目に見ていた。
たづなは深いため息を吐く。アンカデキメルゼは、肩をビクッと震わせた。さながら小動物のようだ。
「ややや、やっぱり怒ってる……!」
「……まぁ少しは怒っていますけど。もう過ぎたことです。でしたら、今度作業を手伝っていただけますか?」
「ッ!よ、喜んで!なんでもお手伝いします!」
「はい。では、このステージの件もそれで手打ちにしましょう。早く片付けて戻ってくださいね」
「はーい!」
アンカデキメルゼは元気よく返事をしてステージの上を片付け始めた。その様子を見て、たづなは苦笑いを浮かべる。
「あの子もまた、ここの生徒です。元気なのは良いことですから。元気が良すぎるのも考えものですけど、ね……さ~て!お仕事頑張りますか!」
たづなは仕事に戻る。これからのことを考えながら……。
次回の短編はアンカとデイラミのデート回です。ところで宝塚記念のイクイノックス凄かったですね。プボ君……いつか君がG1を勝つ日を待ってるで……。