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アンカデキメルゼのメイクデビューは無事勝利で飾ることができた。今はウイニングライブも終わって帰ろうとしているところである……というか、アンカの携帯がさっきから鳴りっぱなしだけどアンカは無視している。大丈夫なのだろうか?
「さて、じゃあ帰る……前に」
「どうかしたのかトレーナー君?」
「もうやることはないはずです」
「いや、ちょっとした打ち上げでも……と思ってね。焼肉でも食べに行かないか?」
「「ッ!」」
正直まだメイクデビューを勝っただけ、と言われたらそれまでなんだけど……やっぱりこういうお祝い事はしておいた方が良いんじゃないかと思う。だからこそ2人に提案したわけだ。
「ふ、ふふん。トレーナー君?まだ僕達はメイクデビューを勝利しただけだ。この勝利に浮かれるわけにはいかない。それに……これから先、神の啓示はどんどん厳しいものになっていく。それに備えるためにも、ここで浮かれるわけにはいかないんじゃあないかな?」
とは言っているが、アンカの耳と尻尾は忙しなく動いている。ま、正直言葉では断られると思っていた。
「いや、浮かれるわけじゃないよ。ただアンカも頑張ってくれたからね。だからそのご褒美ってのと、これからのレースに備えて……ってとこかな?それにヴィッパーもこのメイクデビューまで本当に助かったからね。そのお礼とこれからもよろしくという意味も兼ねてるんだ」
「ヴィッパーは勿論いくです。タダ飯万歳です」
「アハハ……。アンカはどうする?」
「……」
アンカは気難しい表情を浮かべている。や、やっぱりダメだろうか?
「……トレーナー君の厚意を無下にするわけにはいかないね。良いだろう、僕も来るべき聖戦に向けて英気を養おうではないか!」
良かった!アンカも来てくれるみたいだ!提案して良かった。
「素直に行きたいって言えばいいのです」
「何か言ったか?ヴィッパー」
「いえ、何も」
「じゃあ早速向かおう……って、言いたいとこなんだけど」
「「……」」
もう我慢できなかった。アンカの携帯が鳴りっぱなしだということに。さっきから、というかウイニングライブの前からずっと。
2人も俺が何を言いたいか気づいているのだろう。揃って目を背ける。電話に出ればいいのに何故頑なに取らないのだろうか?
「なぁアンカ。携帯鳴ってるけど……取らないのか?」
「……幻聴だろう。そんなことよりさっさと焼肉屋に行こう。善は急げ、時は金なりだ。今こうしている間にも時間は過ぎている。過ぎ去った時間は戻らない。1分1秒を大切にしていかねばな」
「いや、絶対に幻聴じゃないと思うんだけど……」
「……取る必要はない。面倒になるのは目に見えている」
そういうアンカの表情は……心底面倒くさそうな表情を浮かべていた。心なしか、いつもの不機嫌そうな表情が何倍にも増して不機嫌に見える。
「多分アンちゃんの両親です」
ヴィッパーがそう耳打ちしてきた。両親なら、なおさら出た方が良いんじゃないだろうか?というか、メイクデビューの事言ってないのか?
「じゃあなんで出ないんだ?アンカは両親と仲悪いのか?」
「……そういうわけじゃないです」
「……何か深い事情があるんだね?」
ヴィッパーは黙って頷く。なら……俺が突っ込むのは野暮ってもんだろう。電話に出ないのもきっと、彼女なりの優しさなのかもしれない。
「……ま、深くは聞かないよアンカ。電話に出たくないのならそれでもいい」
「トレーナー君……」
「ただ、親御さんとは仲良くね?」
「……僕だってあれさえなければ仲良くしたいんだがね」
「ぶっちゃけアンちゃんの両親が過保護なだけです。でもそれ言ったら面白くないです。だからヴィッパーは教えないです」
?ちょっとよく聞き取れなかったが……まぁいいか。早速焼肉屋に行くとしよう。
そして着いた焼肉屋。アンカとヴィッパーは目を輝かせている。
「食べ放題のお店で悪いけどね。ただ好きなだけ頼んでいいよ」
「食べ放題でもいいです。どれから食べるか目移りするです」
「さてさて、メニューの写真を貼って、早速スレ立てして……っと。お、早速レスがついた!さぁ、安価の始まりだ!」
2人とも楽しそうにしている。楽しそうにしている2人の姿が見れただけでも、連れてきた甲斐があったかもしれない。
2人が最初に注文したのは……ヴィッパーはカルビ、アンカはチョレギサラダだ。
「アンカは野菜から食べるんだね?」
「うん?……まぁそんなところだ……まだ一発目だからね~。こんなとこでしょ」
俺も好きな肉を注文していく。しばらく待つと頼んだものが到着してきた。
「「「いただきま~す!」」」
3人で手を合わせて食べていく。俺は基本的に焼く係に回った。今回の目的はアンカのメイクデビュー勝利とヴィッパーに対するお礼を兼ねている。だから、2人には存分に食べてもらいたい。ただ、アンカの方に肉をやろうとすると断られた。
「僕が食べるものは自分で決める。僕よりもヴィッパーの方に回してくれ」
とのことだったので焼いた肉は基本的にヴィッパーの方に回した。
……それからしばらく経って。ヴィッパーは美味しそうに肉を頬張っている。だがアンカは……
「な、なぁアンカ?」
「……どうした?」
「俺の気のせいだったら良いんだけど……さっきからサラダしか食べてなくない?」
せっかくの焼肉屋だというのに、アンカはサラダしか食べていない。肉は嫌いなのだろうか?
「何を言っている?ちゃんといろんな種類のサラダを食べているだろう?最初はチョレギサラダ、次はコーンサラダ、その次はシーザーサラダと多種多様だ」
「いや、確かにそうだけどもね!?」
でも全部サラダじゃないかなソレ!?
「……問題ない」
「も、問題ないんだったらどうしてさっきからヴィッパーと俺の方を羨ましそうに見ているんだい?」
「問題ないったら問題ない!」
アンカはそれだけ言ってまたサラダを注文した。……そんなにサラダ好きなのかな?
「クッソこいつら……!結託して僕にサラダしか食わしてこないじゃないか!?肉を食わせろ肉を!何のための焼肉だよ!?」
「あぁ……!アンちゃんが物欲しそうな顔でヴィッパーの肉を見ているのです!でもあげないのです。だって、アンちゃんにとって安価は絶対です。だから仕方ないのです。でもヴィッパーは優しいです。せめてアンちゃんにも良く見えるように美味しそ~に食べてあげるです」
「ぐぬぬ……!安価だ安価!どうせたくさん食べるし、いっぱい安価すればどれか一つぐらい肉を食べさせてくれるだろ!」
アンカはウマホで何かしているが生憎とこちらからは見えない。だが、ヴィッパーや俺が食べる肉を物欲しそうに見ているのが印象的だった。なんというか、良心が痛む。
「な、なぁアンカ。そんなに肉が食べたいならこの肉を……」
「必要ない!」
「あ、はい」
何故ここまで頑なに……と考えて気づく。彼女がここまで頑なになる理由……もしかして!
(神が、彼女に今日は肉を食べるなと言っているのか!?)
だとすれば、最初に俺の提案を断ったのにも納得がいく!嬉しそうな態度こそ取っていたが……それはきっと、俺の厚意を無下にしないための演技だったかもしれない!だとしたら……俺はなんてことをしてしまったんだ……!
(今日は肉を食べるなという神託を受けていたのに……!そんな彼女に向かって俺は、なんて仕打ちを……!)
これならば、寿司とかにすれば良かったんだ……!そうすれば、彼女だって腹いっぱい寿司が食えただろうに……!俺が原因で、彼女は焼肉でサラダしか食べれないような状況にしてしまった……!
「よしよし……!安価が決まった!5つも安価したんだ……きっと肉だってあるは……なんで今度は冷麺とビビンバしかねぇんだよ!?サラダよかマシだけどさぁ!僕辛い物苦手なんだよ!……え?【俺達は優しいからサラダ以外のもん食わせてやるよ】?だったら肉食わせろバーーーーーカッ!しかもなんでよりによってビビンバなんだよ!辛いもん苦手って書いてるだろうが!」
「はーーーーっ!アンちゃんが苦手な辛い物食べさせられそうになってるです!こーれはメシウマです!アンちゃんがヒィヒィ言いながら食べる姿が目に浮かぶです!その姿だけでヴィッパーはご飯何杯でもおかわりできるです!」
「アンカ!」
「ッ!?な、なんだいトレーナー君?生憎だが僕は問題ない……」
「すまない!君の立場や気持ちも考えず……!不甲斐ないトレーナーですまないッ!」
謝ってすむような問題じゃない。でも、俺は彼女に頭を下げずにはいられなかった。頭を下げる俺に、アンカは優しく微笑む。
「僕は大丈夫さトレーナー君。これもまた、僕が背負うべき宿命……言うなれば、僕に課せられた罰なんだ。だから、君が気に病む必要はない」
「……優しいな、君は」
「フッ、僕は優しくなんてないよ」
そう言って、寂しげな笑みを浮かべていた。俺は本当に……なんてことを……!
(もっと彼女についてしっかりと理解しないと!じゃなきゃ、彼女に申し訳が立たない!)
これからもっとトレーナーとして精進しなければ!俺はそう決意を新たにした。
「はーーーーーっ!ゆ・え・つ!愉悦なのです!ご飯がすすむ君です!箸が止まらねぇです!」
「ああああぁぁぁぁぁぁあああ!?辛い、滅茶苦茶辛い!どんだけ辛いのさコレ!?……え?これでも辛くない方?嘘でしょ!?滅茶苦茶辛いじゃん!チックショー!恨むからなスレ民ー!」
そうして、俺達の打ち上げ焼肉は終わっていった……。そして、アンカが肉を食べることはついぞなかった。
沢山食べれてよかったねアンちゃん。