今日も楽しく安価だ!   作:カニ漁船

22 / 194
会長とアンカの会話。


安価ウマ娘と会長

 神の啓示と呼んでいるものに縛りつけられているウマ娘……アンカデキメルゼにトレーナーがついた。これで彼女も少しはろくでなしの神々から解放されて大人しくなるかもしれない……そんな、淡い期待を私は抱いていた。

 目の前の光景を見る。目の前では……

 

 

「フー……ッ!フー……ッ!」

 

 

 どこぞの野球漫画で見たことのあるようなギプスを装着しながら根性トレーニング用のタイヤを引いている、アンカデキメルゼの姿があった。あぁ、彼女は──。

 

 

「何も……変わってないじゃないか……!」

 

 

 思わず声に出す。その声を聞いた他の生徒達が身体を震わせていたが……今はそれどころではない!

 

 

「アンカデキメルゼ!君は……何をやっている!?」

 

 

「……これはシンボリルドルフ会長。この道化に何の御用で?」

 

 

「今すぐトレーニングを止めろ!君の身体が壊れるぞ!」

 

 

 私の様子に、彼女は不機嫌そうな態度を隠さずにトレーニングを中断した。だが、私が目を離せば……否、私との会話が終われば彼女はまたトレーニングを始めるだろう。

 

 

「それで?僕の貴重なトレーニング時間を削ってまで何の御用です?早くトレーニングに戻りたいのですが」

 

 

「トレーニングだと?これがトレーニングであるものか!どう考えても度を過ぎているだろう!?」

 

 

「度を過ぎている?……なにを仰っているのかよく分かりませんね。この程度、僕からすれば大したことではありませんが」

 

 

 大したことはないだと?そんなはずはない!

 

 

「君のその汗の量……、かなりの時間このトレーニングをしていたな?」

 

 

「そうですね……まぁ2時間程でしょうか?」

 

 

「その間に休憩は?周りの生徒達は何をしていた?」

 

 

「休憩……一応取ってましたよ。周りの生徒達は僕に近づきませんでしたよ。まぁいつものことだと思っているのでしょう」

 

 

「このトレーニングも……神の啓示とやらによるものか?」

 

 

「よくご存じで。此度の神託は中々のものです……特にこのギプスを装着してやるというのがキモですね。それなりの負荷がかかっていますよ」

 

 

 彼女は、当然とばかりにそう言い放つ。だが、これ以上は……ッ!

 

 

「アンカデキメルゼ。生徒会長として、君のそのトレーニングを見過ごすわけにはいかない」

 

 

「……なに?」

 

 

 アンカデキメルゼが私を睨みつける。だが、関係ない。これ以上は……彼女の身体が壊れてしまう!

 

 

「今すぐ止めろ。それに、君のトレーナーは何をしている?この無茶なトレーニングを……君のトレーナーは許容しているのか!?」

 

 

「……許容しているに決まっているだろう?僕のトレーナーは素晴らしい人物だ。僕のやりたいこと、成すべきことに文句を言うどころかむしろ支えてくれる……。あれほどまでに献身的に支えてくれるトレーナー君に巡り合えて、僕は幸せ者だよ」

 

 

「素晴らしい人物だと?担当がこのような無茶なトレーニングをしているのにか!?明らかに限界以上のトレーニングをしているだろう!?」

 

 

 私の言葉を聞いたアンカデキメルゼの圧が増した。彼女の怒気がさらに強まる。

 

 

「シンボリルドルフ会長……あなたは僕が限界以上のトレーニングをやっていると思っているみたいですが……何故あなたが僕の限界を決めるのですか?」

 

 

「……は?」

 

 

「この程度、まだまだ僕の限界ではありません。僕の限界は……あなたに測れるものじゃない。それにこれ以上僕の邪魔をするようであれば……あなたであっても容赦はしません」

 

 

 それだけ言って、アンカデキメルゼは踵を返してトレーニングを再開した。私は……何も言えずに立ちすくむ。

 

 

(何故……彼女はこれほどまでにッ)

 

 

 それほどまでに成したいなにかがあるのか?そしてその成したいこととは……それほどまでに達成が難しいことなのか?

 

 

(……せめて、疲労が回復できるような何かを差し入れてやるとしよう)

 

 

 私もやるべきことのために踵を返す。それにしても……アンカデキメルゼのトレーナー君はあの場にいなかったが、何をしていたのだろうか?たまたま席を外していたのか?どちらにせよ……。

 

 

(……いかんな。分からなくなってきた。アンカデキメルゼの意思を尊重する彼女のトレーナーが良き人物なのか、それとも担当の無茶を止められない悪い人物なのか)

 

 

 少なくとも、アンカデキメルゼからすれば良きトレーナーなのであろう。彼女自身がそう言っていたように。だが、世間的に見れば彼は悪いトレーナーに分類されるやもしれない。アンカデキメルゼのトレーニング量は度を過ぎている。それを止めないトレーナーは……悪だと思われかねない。

 

 

「理事長に報告すべき案件でもあるな……あぁ、それにしても……」

 

 

 もうお家帰りたい……お仕事辛い……。でもウマ娘のよりよい未来のために、学園のために頑張らないと……。胃が痛くなりそうな思いになりながらとりあえずアンカデキメルゼの差し入れを考えることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 というわけで今日も今日とて安価で決めた練習をしていきますよー!今日は何と……!大リー〇ボール養成ギプスみてぇなもんをつけてタイヤを引くことになりました!いや~これが結構キツいんですよね。効果は……うん、別にないよねこれ。だって普通に動けるし。何なら動く時クッソ邪魔なだけだし。

 

 

「安価で決まった以上はやるけどさ~。効果がないんじゃねぇ。ま、これもまた醍醐味ってことで」

 

 

 というか前から思ってたんですけどトレセン学園ってこのタイヤどこで用意してるんでしょうね?もしかして市販してます?それとも特注品?……普通に気になるな。あ、トレーナーさんは後で合流する予定です。今は僕1人で練習してますよ。ヴィッパーは先生方の手伝いがあるのでその内来るでしょう。

 ……な~んて考えてたのが2時間前。時々タイヤのロープに体重を預けて休憩を取りながらタイヤ引きをしていると……うえっ!?会長さんが血相変えてこっちに来た!?や、ヤバい!なんか怒ってる!いや、心当たりはあります!会長ならきっと分かっているんでしょう……このトレーニングが、何の意味もないことに!

 

 

「アンカデキメルゼ!君は……何をやっている!?」

 

 

 ほらー!やっぱ怒ってるじゃないですかー!?でも安価で決まった以上はやり遂げないといけません……!考えろ、考えろ僕!とにもかくにもまずはトレーニングを止めて反応だ!

 

 

「……これはシンボリルドルフ会長。この道化に何の御用で?」

 

 

 とまぁ。ここからは会長さんに今やってるトレーニングを今すぐ止めろー、とかこんなのトレーニングじゃないー、とか色々言われました。いや……もう……

 

 

(全くもってその通りです!)

 

 

 だってこれ邪魔なだけだもん!絶対意味ないって!けど、これは安価なんだ。どんなに意味のないことでもやらなくちゃいけないことなんだ。

 後はまぁ、僕のトレーナーさんがこのことを知っているのかー、みたいなこと聞いてきましたけど。フフ、ここは1つ僕のトレーナーさんの素晴らしさを教えてあげましょう!

 

 

「許容しているに決まっているだろう?僕のトレーナーは素晴らしい人物だ。僕のやりたいこと(安価)、成すべきこと(スレ民に決められたクソみたいな目標)に文句を言うどころかむしろ支えてくれる……。あれほどまでに献身的に支えてくれるトレーナー君に巡り合えて、僕は幸せ者だよ」

 

 

 実際かなり良い人だよねぇトレーナーさん。普通だったら契約切られても文句言える立場にないよ僕。僕の安価ライフはトレーナーさんの優しさで支えられています。

 ですが会長さんは少し難しい表情をしていますね。どうしました?なんか辛いことでもありました?

 

 

「素晴らしい人物だと?担当がこのような無茶なトレーニングをしているのにか!?明らかに限界以上のトレーニングをしているだろう!?」

 

 

 う~ん……そうは言いますけど会長さん。

 

 

「シンボリルドルフ会長……あなたは僕が限界以上のトレーニングをやっていると思っているみたいですが……何故あなたが僕の限界を決めるのですか?」

 

 

「……は?」

 

 

「この程度、まだまだ僕の限界ではありません。僕の限界は(実質ないみたいなもんなので)……あなたに測れるものじゃない。それにこれ以上僕の(安価の)邪魔をするようであれば……あなたであっても容赦はしません」

 

 

 やっべ、何か喧嘩売ってるみたいな口調になってしまった。し、しょうがないじゃん!下手したら安価達成できないし!き、気づきませんように気づきませんように!どうか生意気な口調になったことが気づかれませんように!いや、こえぇからもうトレーニング戻りましょう!うんうん!そうした方が良い!だって会長さんに何言われるか怖いし!

 ……あ、追及してこないみたいだ!よ、よかったぁ……どうやら僕の発言はお咎めなしみたいだ。でも会長さんのことだから気づいてるんだろうなぁ……。でも、何も言ってこないってことは……。

 

 

(僕のこのクソみたいな行動を許してくれて……生意気な言動も許してくれて。会長さんって凄く優しいのでは?)

 

 

 いや、優しいに違いありません!やはり学園の生徒をまとめているお方だ!心の器が大きい!

 そのままトレーニングを続けていると……会長さんが戻ってきました。あぁ、やっぱり許されなかったよ。僕の冒険はここで終わりみたいだ……

 

 

「……アンカデキメルゼ」

 

 

「……改めて何の御用かな?シンボリルドルフ会長」

 

 

「何。君に差し入れだ。粉骨砕身、これからも頑張りたまえ」

 

 

 そう言って渡してきたのは……疲労回復のスポドリ?しかも……丁度いい温度で保たれている!僕はそれを一気にあおって喉を潤します。あぁ~染み渡るぅ……。

 

 

「……私には、これぐらいの事しかできない。この程度の事しかできない無力な私を、どうか笑うといいさ」

 

 

 え?何言ってるんですか?まさに最高の差し入れだったんですけど!しかも生意気な後輩みたいなことやってる僕に対してここまでやってくれるなんて……!なんて優しい方なんだ会長さん!良い人!

 

 

「……いえ、本当に助かります。会長さんのおかげで、疲労が旅立っていきましたよ」

 

 

「そうか。なら重畳だ」

 

 

 会長さんは今度こそ去っていきました。いやぁ……本当に良い人すぎひん?慕われる理由がよく分かりますよ~。僕みたいな生徒にも優しくしてくれるんですから!

 

 

「さて、会長さんのおかげで元気出たし……もうひと頑張りしちゃいますか!」

 

 

 ……にしてもマジで邪魔だなこのギプス。とっとと外したいよ全く。




よしっ!楽しく会話できたな!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。