さて、いつぞやのブリーダーズカップ*1でやってしまった失態。その埋め合わせ……みたいなもんになるのかな?まぁデイラミさんとのデートの日だ。
「それにしても夢の国に行きたいとは……なんというか、意外だ」
こういうとこ好きなんだろうか?あ、ちなみに僕の格好は普通だ。へそ出しのシャツの上に紺色のパーカーを羽織って、スカートをはいている。ただ、トレーナーさんからお願いされて一応の変装はしているが……それもサングラスぐらいのものか。
集合時間まで後1時間近くはある。それでもすでに待ち合わせ場所まで来ているのは……なんというか、あれだな。
「この辺はもう癖だな……アヤベさん達と遊ぶ時は最後まで服を悩んでいたから遅刻しかけたけど……?」
まぁ近くで時間潰しとけばいいかな?なんて考えていると……僕の視線の先に、とても見覚えのある葦毛のショートカットのウマ娘さん。遠目に見たら、男性に見えなくもないけど胸へと視線を移したらそんなことはないなと気づく。うん、デカいな。
何故か待ち合わせ場所にデイラミさんがいた。え?早ない?僕も大概だけど。
あまりの出来事に呆然としていると、向こうが僕に気づいたのかすんごい嬉しそうな顔で近づいてきた。
「やぁアンカ!随分早いじゃないか?まだ待ち合わせまで1時間はあるが?」
「……いや、デイラミさんがそれ言います?」
「おっと、それもそうだね。しかしこれも仕方のないことなんだよアンカ……君とのデートの日が楽しみ過ぎて、眠れぬ夜を過ごしていた……あぁ、早くこの日にならないだろうか?この日を迎えないだろうかと!私は焦がれていた!」
「ハァ」
「フフ、それにしても……素敵な装いだねアンカ。レースでの凛々しい君もまた美しいが……私服姿の君もまた、可憐だ!伝承において、妖精はしばしば人を惑わす……彼らが妖精に惑わされる気持ちが良く分かるよ!何故ならばそう、私が今、まさに体験しているのだから!だが、アンカ。君という妖精に惑わされるなら、私は本望さ」
「ハァ」
うん、いつもの調子だな。
「さて、ここで歓談するのも悪くないが。早いところパークの中に入るとしよう。そろそろ始まる時間だろうからね」
「あ、本当だ。もうすでにチラホラといる」
「さぁ行こうアンカ!今日は、忘れられない一日にしようじゃないか!」
デイラミさんに手を引かれて僕は歩く。ま、今日は目一杯楽しむぞー!
パークに入って、まず乗ったアトラクションといえば……。
「ジェットコースターですか」
「あぁ。まだ並んでいる人達が少ない間に楽しまないとね」
絶叫系のアトラクションである。こういうのってかなり並ぶからなぁ。人が少ない今の内に乗っておくのが良いだろう。すでに若干並んでいるけど。
待つこと少し。僕達の番が来た。ガイドアナウンスに従って乗り込む。そして、発進した。
「フフ……!ワクワクするね!一体どんな体験をすることができるのだろうか!?」
「……」
頂点に立って少し止まった後……一気に下降する!
「「「キャアアアアアアアアアアアアア!」」」
「ハハハハ!これは楽しいね!まるで、本当に宇宙を旅しているようだ!」
「ギャアアアアアアアア!?」
デイラミさんがなんか言ってるけどこっちはそれどころじゃねぇ!?お、思ったよりスピードあるんですけど!?結構臨場感あるなおい!でも……楽しい!
「大丈夫だったかい?アンカ。結構な悲鳴を上げていたが」
「あ、はい……。まぁ、楽しかったです」
「それは良かった!では、どんどんアトラクションに乗ろうじゃないか!」
デイラミさんと手をつないで、僕はパーク内のアトラクションへと移動していった。せっかくだから、パーク内のアトラクションを全部制覇するぐらいの勢いで!
カリブの海賊になったり。
「ほうほう!これは凄いな……!本当に物語の中に入り込んだかのような気分だ!」
「うわすっご……本当に作り物なのか?って疑っちゃうレベルだ」
ハチミツ大好きクマさんのアトラクションに乗ったり。
「ハハ!中々コミカルじゃないか!うん、良いね!」
「……ホーム〇ンダービーの古傷が!?」
「ど、どうしたんだいアンカ!?凄く苦しそうだが!?」
「だ、大丈夫ですデイラミさん……ちょっと苦い記憶を思い出しまして……」
ティーカップでのんびりと過ごしたり。
「こうやって小休憩も挟もう。時間は有限だが、あまり急ぎ過ぎるのも良くないからね。たまには立ち止まって休むことも重要さ」
「これ思いっきり回してもいいですかね?」
「私達の力で回したら壊れかねないから止めようか」
そんな風にアトラクションに乗っていたら、あっという間に午前中は過ぎていった。現在はお昼ご飯を食べている。
「うんうん!とても楽しいね!」
「そうですね」
実際凄く楽しい!いや、久しぶりに遊園地に来たけどマジで楽しいなコレ!後遊園地のご飯舐めてたわ!滅茶苦茶うめぇ!
「アンカも楽しんでくれているようで何よりだ!」
「……表情変わってないのに分かるんです?」
普段からよく言われていることだけど。僕がそう言うと、デイラミさんは微笑みながら答えた。というか、デイラミさん変装とかしなくて大丈夫なのかな?パークに来た時からずっと注目されてるけど。
「雰囲気で大体分かるさ。君は今楽しんでいるんだな、ここの料理を美味しいと感じているんだなって。雰囲気で良く分かるよ」
「ハァ。そういえば、デイラミさん変装とかしなくて大丈夫なんですか?凄い注目されてますけど」
僕が周りを見ていると、デイラミさんがこっちに近づいてきて!?
「おっと、それはいけないね」
「ど、どうしました?」
「私は今、君とデートしているんだ。あまり周りに注意を向けられてしまうと……少し、嫉妬してしまいそうだ」
「は、ハァ……」
凄い。周りがキャーキャー言ってる。ちなみに僕とデイラミさんの距離は凄い近い。ガチ恋距離とか言うヤツだ。とは言っても、デイラミさんは悪戯っ子のような笑みを浮かべながら離れていく。
「フッ、冗談だよ。変装をしていない理由はそうだね……君とは素面の状態で接したいから、さ」
「そうなんですか?」
「あぁ。変装して、偽った姿で君と会うというのもお伽噺のようで中々悪くはないがね。それに、注目されるならされるで別に構わない。それに応えるのまた、私の役目だからだ」
「フーン……」
「さて、お昼を食べ終わったら少し休憩を挟もうか。食べてすぐ動くのは身体によくないからね。君に万一のことがあったら……!く、想像しただけで耐えられないッ!」
本当にデイラミさんはオーバーリアクションだなぁ。そんなことを思いながら僕はお昼を食べていた。
それから午後もいろんなアトラクションに乗った。時間の許す限り、デイラミさんと手をつないでパーク内を歩き回った……道中、マスコットとの写真をねだられたから撮ったけど、デイラミさん滅茶苦茶嬉しそうだったな。
「おぉ……!これは現像して額縁に入れて飾ろう!うん、そうした方が良い!」
「そんなにですか?」
どんだけ嬉しかったのだろうか?まぁ僕もデイラミさんも楽しく過ごせたと思う。
すでに日は落ちて。もうすぐこのパークの一大イベント──パレードの時間だ。小さい時にテレビ越しに見たっきりで、実物を見たことはない。楽しみだなぁ……!きっと、凄いんだろうなぁ!
「……見えねぇ」
人多すぎて見えねぇけどな!クッソ……!ここにきて低身長が仇になったか……!そう考えていると。
「さすがに見えにくいね。では、私に掴まっていただけますか?我が麗しのプリンセス」
「へ?まぁ、良いですけど……」
そう答えると、デイラミさんは僕を持ち上げた!?なんで、と思ったけど……おぉ、これは!
「見やすい!」
「お気に召したようで何よりです。とは言っても、他の方々のことも考えなければならないから、そんなに長くはできませんが」
それでもいい!うわぁ……凄いなぁ!これは一大イベントって言えるのも納得だよ!色んなキャラクター達が手を振ってる!
「……フフ、君が楽しそうで何よりだよ、アンカ」
それからそれから。夢のような一時はあっという間に終わりを告げた。まもなく、閉園を告げるアナウンスが聞こえてくるだろう。現実に引き戻される。
「さて、名残惜しいが……夢のような一時はもうおしまいだね、アンカ」
「そうですね。まもなく閉園でしょうし、帰りましょうか」
僕達は出口へと足を運ぶ。う~ん……少し名残惜しいな。もうちょっと楽しみたかった。
パークを出ると、デイラミさんは寂しそうな笑みを浮かべていた。
「楽しい時間はあっという間だね、アンカ。だが、何事にも代え難い時間だった。とても楽しい一時だったよ」
「……僕もです。凄く楽しかった」
「そう言ってくれると嬉しいよ」
さて、デイラミさんともお別れの時間なんだが……なんというか、デイラミさん終始余裕そうな態度だったな。
(ジェットコースターの時も楽しそうに悲鳴を上げていたし、ホラー系のアトラクションもそんなに怖がってなかったな。いや、僕もそうだけどさ)
それに、なんというか……デイラミさんが余裕そうな態度を崩したとこなんてあまり見たことがない。ブリーダーズカップの会見?あれはノーカンでしょ。
なんかないかな?この雰囲気に合って、デイラミさんの余裕を崩せそうなこと……!
(良いこと思いついた!)
そんな時、僕にちょっとした悪戯心が湧いた。本当にただの好奇心なんだけど。
「デイラミさん、ちょっと屈んでくれますか?」
「?どうしたんだいアンカ。それくらい別に構わないが」
デイラミさんが屈む。僕はそんなデイラミさんに……ゆっくりと近づく。
「フフ、もしかして妖精の祝福でも貰えたりするのかな?な~んて「……ん」……はっ?」
今日のお礼と、楽しかったことも含めて。デイラミさんの頬に……キスをしてみることにした。
「今日、楽しかったので。お礼です」
向こうでは挨拶みたいなものだって言うし、全然動揺しないと思うけど。ただちょっと反応が楽しみだな~と思いつつデイラミさんの様子を窺ってみると?
「……ッ!?ッ!?え、え?あ、え!?」
……あれ?思いの外動揺してるな。いや……滅茶苦茶慌ててね?僕がキスした場所に手をやってるし、視線が忙しなく動いてるし。それに何より、滅茶苦茶顔が赤くなってる!?なんだ!僕デイラミさんのそんな表情見たことがねぇぞ!?
「アアアアアアアアア、アンカ!?急に何を!?」
「い、いえ。今日楽しかったのでお礼をと思って……こうしたら驚くかなって。それに、そっちでは挨拶みたいなものじゃ……」
「いいい、いや!あ、う、うん。あ、え?あ、あ……っ!」
で、デイラミさんの余裕そうな態度がめっちゃ崩れとる!?そして、フリーズしたかと思うと……。
「姉上、お迎えに上がりました……って、どうされたのですか?」
あ、ダラカニさんだ。ということは。
「アンカ。迎えに来たよ……って、何があったの?」
トレーナーさんも来たな。デイラミさんも、ダラカニさん達が来たのに気づいたかと思うと!?
「ダダダダ、ダラカニ!今日はもう帰ろう!なんだか熱にうかされているようなんだ!」
「それは別に構いませんが……もう少しアンカさんと一緒にいたいのでは?」
「そ、それもそうだが……!とにかく帰ろう!アンカ!今日はとても楽しい一時だった!忘れらない日になりそうだよ!それではまたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
「あ!?ちょ!待ってください姉上!?本当に何があったんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
デイラミさんは猛スピードで去っていった……。あんなデイラミさん、初めて見たな。
「……何をしたの?アンカ」
「い、いや。今日のお礼と、ちょっとした悪戯心で……デイラミさんの頬にキスをしただけだが……」
「あ、あぁ~……うん。それは、アンカが悪いかな?」
「……まぁ、だろうな」
今度会った時謝ろう。うん、そうしよう。
こうして、僕とデイラミさんのデートは終わった。いや~、色々あったけど凄く楽しかったな!うん!
「姉上?姉上~?」
「……」
「どうしたんですか?アンカさんとのデート、楽しくなかったんですか?」
「そんなわけないだろうが!」
「まぁ、でしょうね。では、何かあったんですか?」
ダラカニの言葉に、デイラミは今にも消え入りそうな声で答える。
「ほ、頬に……」
「頬?頬がどうされたんですか?」
「頬に、キスをされてしまった……!あ、アンカに、キスされたんだ!」
デイラミの言葉に、ダラカニは呆れたような視線を向ける。デイラミは大絶賛顔を真っ赤にしている。さながらリンゴのようだ。
「頬にキスぐらい、姉上も挨拶でするでしょう?今更何を恥ずかしがっているのですか?」
「だだだだ、だって!アンカからだぞ?アンカが!自分から私に!キスをしてくれたんだぞ!?」
「そうですね。頬にキスをされたらしいですね」
「そそそ、そんなの……む、無理ぃ……っ!」
デイラミは顔を真っ赤にして縮こまっている。ダラカニは、そんな姉の姿を見て驚いていた。
(いつも余裕な態度を崩さない姉上がここまで変わるとは……それほどまでに気に入っているのですね、アンカさんのことを)
「ふふっ」
「わ、笑ったな!?今笑ったなダラカニ!姉の情けない姿がそんなにおかしいか!?」
「そういうわけではありませんよ。そうですね……帰ったら姉上の好物でも食べながら語り合いましょうか」
帰りの車内で、姉妹はそんな会話をしていた。
Q.デイラミはなんで恥ずかしがっているんですか?
A.一見すると恋愛強者に見える王子様みたいなキャラがこういった初心な反応を見せるのがとてもかわいらしくて僕の性癖に合っているからです。いうなれば僕の趣味です。