【その挑戦は無謀か?それとも確信か!アンカデキメルゼ、クラシック級での目標は前人未到のクラシック5大レースの完全制覇!】
アンカデキメルゼの宣言は、瞬く間に学園中に広まっていった──
「ハーッハッハッハッハ!流石はボクのライバルだ!普通じゃ考えられないような目標を立ててくるね!」
ある者はその目標を称賛し
「……はぁ。またあの子は無茶をして」
ある者はアンカデキメルゼに呆れつつも心配し
「アンカちゃん……また神々の無茶ぶりに付き合わされているんですね!私が、私が頑張ってアンカちゃんを解放しないと!」
ある者は決意を固めた。
トレセン学園に通うウマ娘は、アンカデキメルゼの目標……クラシック5大レース制覇に対して否定的な意見を述べていた。
「できるはずがない」
「身体がもたない」
「そもそも1冠取るだけでも難しいのにそれを5つもなんて無謀」
「是非とも彼女の身体を研究してみたいものだねぇ」
などと。彼女の目標に対してできるはずがない、無謀な挑戦だと切り捨てていた。それも当然だろう。桜花賞から皐月賞は中0週の連闘、オークスから日本ダービーも中0週の連闘である。しかも皐月賞からオークスまでは1ヶ月しか期間がない。誰もが無理だと声を上げていた。
そんな渦中の彼女……アンカデキメルゼはというと。
「……まっっっっっっっず!!??いやまっず!青汁の苦みだけを100倍ぐらい強くしたような味がする!どうなってんですかこのロイヤルビタージュースって!疲れは吹っ飛びましたけど!よっしゃあこれでさらにトレーニングできますよー!」
トレセン学園の劇物扱いされているロイヤルビタージュース片手に今日もトレーニングに励んでいた……。
私は歩調を強めて学園の廊下を早歩きで進む。
「うわ、会長さんどうしたんだろ?」
「さぁ……でも、滅茶苦茶怒ってない?」
「誰か何かやらかしたんだろーね。くわばらくわばら」
そんな声が聞こえるが、今私が抱えている問題に比べれば些細なことだ。
今トレセン学園で話題となっているニュース。それは、アンカデキメルゼが発端となっている。彼女が記者の質問に対して答えたものが記事となって出回り、それが学園で波紋を呼んでいた。
クラシック5大レースの制覇。彼女が掲げている目標は、そのようなものだった。
「あまりにも……あまりにも荒唐無稽だ……!」
そもそも連闘自体がかなり厳しい。連闘で挙げられる例として、オグリキャップのマイルCSからのジャパンカップがある。彼女はマイルCSを1着、ジャパンカップを2着と好走していたが……普通に考えて無理だ。そもそもオグリキャップ自体もこの連闘はシニア級でやったもの。それをアンカデキメルゼはクラシック級で、しかも短期間で2回も連闘をしようとしている。そのような、自分の身体を壊すような真似……!
(看過できるものではない!)
彼女には、自分の身体を大切にするというものがないのだろうか!?それとも……これもまた……?いや、考えるのはよそう。今はまず、アンカデキメルゼの居場所を突き止めなければ。
だが、察しはついている。私はトレセン学園にあるトレーニング用のジムへと足を踏み入れる。辺りを見渡して……アンカデキメルゼの姿を発見した。
「ひゃく……よんじゅう、いち!ひゃく、よんじゅう……に!」
彼女は、プルアップをしていた。もっとも、彼女は負荷をかける為なのか、かなりの量の重りをつけている。どれだけの時間やっていたのだろうか?地面には彼女の汗で水たまりができていた。
「ねぇ?そろそろ止めてきたら?」
「や、やだよ。だって止めようとしたら睨みつけられるもん」
「や、ヤバすぎ……。もう3時間はやってるくない?」
周りからはそんな声が上がっている。聞こえているだろうに、アンカデキメルゼは聞こえないふりをしているかの如くトレーニングを続けていた。
「ひゃく……ごじゅう!」
150。それが1つの区切りなのだろう。アンカデキメルゼはプルアップを止める。そして、持参したであろう水筒に口をつけようとしたタイミングで。
「アンカデキメルゼ」
私は声を掛けた。
「……おや?これはシンボリルドルフ会長ではありませんか。あなたともあろうお方が、この道化めに何の御用で?」
この前会った時と同じようなことを言いながら、アンカデキメルゼは平然とした表情をしていた。
「……本気なのか?」
「何のお話で?皆目見当もつきませんが」
「とぼけるな。学園中に出回っている君の目標についてだ」
「あぁ。あれですか」
アンカデキメルゼはわざとらしく頷いた。
「本気ですよ。僕は大真面目にクラシック5大レースを制しようとしています」
「……それは、君の言う神の啓示とやらによるものか?」
「そうですね。僕の出走するレースは神託によって決まる。此度の目標もまた、神託を賜ったので実行するまでです」
「……ッ!」
思わず、歯ぎしりをしてしまう。何故、何故君はそこまで……!
(邪悪な神々とやらの神託に従うんだ!)
アンカデキメルゼの言う神がどういった存在なのかは分からない。だが、彼女のトレーニングや普段の奇行、加えてレースや戦法に関してもその神とやらが決めているらしい。ならば……彼女の言う神々とは邪神の類に違いないだろう。何故、彼女はその神とやらに傾倒しているのか?その理由が、さっぱり分からない。
「今回のトレーニングもそうか?」
「いや?コレはまた別ですね。僕はどうにもパワーが不足しているので。目標達成するためにはパワーをつけなければなりません。なので、このようにプルアップをしようかと」
「……ならば、普通にプルアップをすればよいのではないか?」
「それがどうにも負荷が足りなくて。僕の体重だけでは我慢できないので追加で50ほど重りをつけています」
最早、何も言えない。ここで私は、話を戻すことにする。
「ハッキリ言おう。君の挑戦は……無茶だ。このままいけば、君は身体を壊すことになるだろう」
「……ほう?」
「身体を壊せば、下手をすれば二度と走れなくなる。そうなれば、君は切歯扼腕、無念千万の気持ちになるだろう。私は、君にそのような気持ちを抱いてほしくない」
「……」
「どうか、考え直してはくれないだろうか?アンカデキメルゼ。クラシック5大レースの全てに出走するなど。君の身体は……壊れてしまうぞ」
私は、心から彼女を心配する。だが、それに対する彼女の返事は……
「シンボリルドルフ会長の心配する気持ちはしかと届きました。ですが、お断りします」
拒否だった。
「……何故だ!?自分の身体が、壊れてしまうのだぞ!君は走れなくなることが……怖くないのか!?」
「シンボリルドルフ会長は先程から私の身体が壊れる前提で話しておりますが……そうなる可能性はどこにあるのでしょうか?」
「連闘は身体にかかる負担が大きい!身体にダメージは蓄積する!故障のリスクが跳ねあがるんだ!それは君も分かっているだろう!?」
「まぁそれは僕も知っていますが」
「なら!」
「ですが、僕はできると判断しました。そして、神々も僕ならできると判断した。ならば、やるのが道理ではないでしょうか?」
「~~ッ!」
やはり、彼女はかなりの頑固だ。一度受けた神託は必ずやり遂げるという制約でもあるのか、首を決して横に振らない。
彼女は水筒に口をつける。……思いっきり顔をしかめていた。不味いものを口にした時のような……?うん?飲み物で、不味いもの……!まさか!?
「アンカデキメルゼ、その中身はもしや……!」
「……ご察しの通り、ロイヤルビタージュースですよ。それにしても凄いですねこれ。疲れが吹っ飛びますよ……いや、マジでどうなってんのこれ?ヤバいお薬でも入ってる?でもたづなさんはそんなもの入ってないって言ってたしなぁ」
やはりか!疲れはなくなるものの、あまりの苦さから誰も口にしない劇物!それを口にしてまでトレーニングとは……!アンカデキメルゼ、君は!
「まぁ、あなたが何と言おうと僕はクラシック5大レースに出走することを止めません。これは神託によって決まったこと。咎を背負う僕は……逃れることができないんですよ」
そう言って彼女は寂しそうな笑みを浮かべている。君は……そんなになってまで……。
「後はまぁ……ご心配せずとも大丈夫ですよ。これでも身体は丈夫ですので。生まれてこの方一度も怪我をしたことがありません」
「……そう、か」
「……やっべ、僕またなんかやらかしたかな?」
私は重い足取りでトレーニングジムを後にする……
「……ションボリルドルフ」
ッ!それは面白いな。私の名前としょんぼりしている今の状況を掛けたわけか。フフッ、今度使ってみることにしよう。
とりあえず、お仕事頑張ろ……。
またルドルフ殿がしょんぼりしておられるぞ!