「あはは、トレーナー。ボクの目がおかしくなっちゃったみたいだ。ちょっとボクの頬っぺたつねってくれない?」
「諦めろテイオー。これは紛れもなく現実だ」
トップロードが出走する皐月賞。応援のために俺達スピカのメンバーは中山レース場に来ていた。だが……そこで俺達は信じがたいものを目にした。
「そんなこと言ったってさぁ!?どーいう脚してんのさアンカ!なんでピッチ走法で1000m近くもスパートが持つの!?」
「て、テイオーさんが壊れましたぁ!?」
「落ち着けよテイオー!信じられねぇ気持ちは分かっけどよ!」
「そうよ!少し落ち着きなさいテイオー!」
「ぶっちゃけ、テイオーの言いたいことはすげぇよく分かるけどよ……」
トップロードはすげぇ走りをしてくれた。普通なら、勝ってもおかしくないようなレースだっただろう……普通なら。
テイオーの言う通り、アンカデキメルゼは残り1000mというところで突如スパートをかけ始めた。あまりにも早い仕掛けに会場からは悲鳴が上がっていたのを覚えている。
もう終わりだ、暴走だ、掛かった、伝説はここで終わり、所詮大言壮語だった……そんな言葉ばかりが上がっていた。無論、俺もそう考えていた1人だ。
『1000mのロングスパートに加えてあのピッチ……さすがに持つわけねぇだろ』
そんな甘い考えは、最後の直線で綺麗さっぱり消えちまったよ。なんとアンカデキメルゼは……ピッチ走法で1000mを駆け抜けたのだ。
今度は会場から別の悲鳴が上がった。というか、実況と解説も信じられねぇものを見たような反応してたな。いや、俺も過去のレース映像を見たりするが、あんな無茶なスパートをかけるようなウマ娘は見たことがねぇ。
「そ、それにしてもアドマイヤベガ先輩は失速して6着だったのに……アンカは全然落ちなかったわね」
「どういうスタミナしてるんでしょうね?アンカさん」
「トップロード先輩もスゲェ脚だったのによ……」
「うえぇ……あんな無茶な走りできんの?あの子。ボクだったら絶対に無理だよ」
だが、それゆえに危うい。あんな走りを続けていたら……いつか脚がぶっ壊れるぞ!
「……まぁ、なんでピッチ走法で走っていたのかは不明だが、アイツの本領はストライドの方だ。さすがにあんな無茶な走り方はもうしねぇだろ」
「俺らもそう思いたいけどよ……」
「アンカ、何を考えてるのか全く分からないのよね……なんというか、やりかねないような気がするわ……」
「「「……」」」
スカーレットの言葉に、誰も、何も返すことができなかった。確かに、アンカデキメルゼならやりかねない……そんな気がしたから。
「……にしても、これで桜花賞と皐月賞の2冠ウマ娘か」
「過去に同じことをしたウマ娘が……いるわけないですよね。それくらい私にも分かります」
「そりゃあね。中0週の連闘だし。しかもG1だよ?」
「オグリ先輩もG1の連闘で2つとも1着を取るのは無理だったからな」
「それをやったアンカって……」
「あまり考えすぎるなスカーレット。ドツボにハマるぞ」
それにしても、加速が甘いという弱点がなくなった今、頼りになるのはソラを使うという悪癖だ。その弱点を突くしかないんだが……こればっかりは向こうさんがどういう作戦を取ってくるかになってくる。俺らじゃどうしようもねぇ。トップロードに無理にマークさせるわけにはいかねぇしな。
あまり考えすぎても仕方ねぇ。次の日本ダービーこそはトップロードが勝てるように調整をしよう。
「あ~……凄い走り、だったわね?うん」
「「「……」」」
マルゼンスキーの言葉に、返す者はいない。目の前の光景が、信じられなかったからだ。
「なによあの走り……!あんな走り、脚が壊れるわよ!?」
「というか、あの子はなんで1000mもピッチ走法で全力疾走できるんだい!?どういう脚とスタミナしてるんだよ!?」
「こ、これはさすがに……なにも言えませんね……」
東条トレーナーもヒシアマゾンも、驚愕している。グラスワンダーも、驚きのあまり声が出ないようだった。
……アンカ。何故君はそう!
(自分を追い詰めるような走りばかりするんだ!?)
彼女の走りはストライドを長く取った走りだ。その方が彼女はのびのびと走れていたし、彼女本来の走りなのだろう。
だが、桜花賞と皐月賞はどちらもピッチ走法で走っていた。その完成度は……素晴らしいの一言に尽きるだろう。ストライド走法とも遜色ないぐらいの完成度を誇っていた。
しかし、彼女が何故ピッチ走法で走っていたのか?彼女の言う神の啓示……その存在を知っている私が、その考えに行きつくのは容易だった。
「ルドルフ」
「フジキセキ。……十中八九、神のお告げとやらだろうな」
「……だろうね。アンカの性格を考えれば、神のお告げによってピッチ走法も走れるようにした可能性が高い」
フジキセキも同じような結論に達したのだろう。それにしても……何故奴らはアンカを縛りつける!?彼女が一体……なにをしたというのだ!?
「落ち着きなよルドルフ。拳、強く握りすぎだよ」
「……シービー?君がここに来るなんて珍しいな」
「なんか面白いことやってる子がいるって聞いてね。気が向いたから来ちゃった」
そう楽しそうに答えたのはミスターシービー。私と同じ3冠ウマ娘であり、自由人だ。彼女がレース場に来るなんて珍しいが……。
「その面白い子と言うのは……アンカデキメルゼのことか?」
「うん。あの現在進行形でターフの上で荒い息を吐いてる銀髪葦毛の子」
シービーは面白そうなものを発見したという目でアンカデキメルゼを見ていた。
「いやぁ、見に来た甲斐があったよ。本当に面白いね、彼女」
「……何がだ?」
私としては、彼女の走りが面白いもののようには見えなかったのだが。
「おっと、怒らないでよルドルフ。ちゃんと理由を話すからさ」
どうやら怒気が漏れていたらしい。反省だな。
「そうだね……一見して彼女の走りは縛られているように見える。何かに命令されて、その走りを遂行するように走っている。自由も何もあったもんじゃない、そんな走りだ」
「……」
やはり、彼女は。
「でも、本人がそれを楽しんでいるように見えるんだ」
「……どういう、事だ?」
他のメンバーも、シービーの言うことが気になっているのか耳を傾けている。シービーは面白そうにアンカデキメルゼへと視線を向けていた。
「本当に面白いよね。全然自由じゃないのに、彼女はそれ自体を楽しんでいる。命令されているような走りなのに、それが彼女を追い詰めているのに。それ自体を彼女は楽しんでいるんだ。どうしてかな?なんでかな?不思議でたまらないや」
「……言っている意味が分からないな」
あれで楽しんでいる?彼女が?……およそ世間一般で言う楽しさとは程遠いものだと思うのだが。
「ちょっと視野が狭まりすぎだよルドルフ。もうちょっとさ、楽に考えちゃってもいいんじゃない?」
「楽に……だと?」
「そう。楽しい気持ちなんてのは人それぞれなんだからさ。ルドルフにはルドルフの楽しい考えがあるし、アンカにはアンカの楽しいって考えがある。別に理解しろとは言わないけど、自分の考えを押し付けるのは違うんじゃないかな?」
「押しつけ?……私が、か?」
「そ。アンカは今の自分を楽しんでいるんだ。ならそれを尊重してあげなきゃ。それがルドルフの言う理想に繋がるとアタシは思うけどな?ルドルフはお堅く考えすぎ。もうちょっと自由に考えようよ」
「……」
「し、シービーちゃんがまともなこと言ってるわ!」
「どういう意味かな?マルゼン」
まぁ、確かにシービーの言う通りかもしれない。いけないな、また自分の考えばかりが先行してやらかしてしまうところだった。シリウスにも良く言われているというのに。なかなか治らないな。
だが。
「……だからといって、彼女の無茶なレース日程が許容できるわけではないだろう」
「それはアタシもどーかん。いやぁ、どうなってるんだろうね?彼女の身体。全然問題なさそうだけど」
疲れてはいるが、確かに彼女の身体には何の異常もないように思える。……本当に、どうなっているんだ?
まぁ、近いうちにまた話してみるとしよう。
「その時は……君のことを、少しでも理解できるのだろうか?アンカデキメルゼ」
思わず漏れ出た呟き。反応する者は……いなかった。
アンカデキメルゼ現時点での育成目標
メイクデビューに出走 達成!
フェニックス賞に出走 達成!
新潟ジュニアステークスに出走 達成!
京王杯ジュニアステークスに出走 達成!
全日本ジュニア優駿に出走 達成!
桜花賞で1着 達成!
皐月賞で1着 達成!
オークスで1着
日本ダービーで1着
エクリプスステークスに出走
キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスに出走
セントレジャーステークスに出走
凱旋門賞に出走
チャンピオンステークスに出走
菊花賞で1着
BCクラシックに出走
桜花賞の時育成目標更新するの忘れてたぜ。