「そういえばアンカってSNSはやらないのかい?」
「……は?」
皐月賞も終わって、やっとこさレース間隔が空いたある日。トレーナーさんがそんなことを口走りました。いきなりなんです?藪から棒に。
「いやさ、アンカの周りの子達ってみんなやってるだろ?ヴィッパーもやってるし」
「そうです。ヴィッパーもやってるです」
「……」
「でもアンカは全然そんな話聞かないからさ。アンカはSNSやったりしないのかなーって。ほら、ウマスタとかウマッターとかさ」
はーーー??ウマスタにウマッタぁ?やるわけないでしょうがそんなもん。
「……ウマスタやウマッターは日向を歩む者達が群れを成して集まるコミュニティだ。僕のように日陰を歩む者にはふさわしくあるまい」
「ふさわしいとかふさわしくないとかの問題じゃない気がするけど……。それに、SNSをやる資格とかそういうのはないんじゃないかな?」
「ふん。僕は知っているぞ。ウマスタとウマッターというのは社会的弱者を炙り出し、よってたかって糾弾し人生を破滅させるようなものだと。僕のような社会的弱者を嘲笑うために存在するコミュニティであることを知っているんだからな!」
「2つのSNSに対する偏見が凄いね君!?別にそんなことないから!」
「というかアンちゃんが社会的弱者だったら世の人達のほとんどが社会的弱者です。アンちゃんはもっと自分の地位を自覚するです」
どうせ僕がウマスタやウマッターをやったところでなーんもやることありませんもん。だからやる気はないです。ウマトックもウマチューブもやる気はありません。
「う~ん……本当にやる気はないのかい?俺としてはやってもらえるとありがたいんだけど」
「何故だ?別にやることもないだろう」
「いやね。アンカはファンの人達と距離を取りがちだろう?ファン感謝祭にもあまり参加してないみたいだし……それに、ライブもいつも硬い表情で踊っているじゃないか。それでファンの人達の中には心配する声も上がっているんだ」
「な!?ぼ、僕はちゃんと笑顔で踊っているぞ!?」
「この映像見ても同じことが言えたら凄いです。とりま流すです」
そうしてヴィッパーはこの前の皐月賞のライブ映像を流す。ハハハ、センターで踊ってる銀髪ロングの子酷いなぁ!踊りや歌は完璧なのに表情が引き攣っててとても笑顔に見えませんよ!……僕じゃねぇか!?
「え!?僕いつもこんな表情で踊ってんの!?」
「むしろあれで笑顔のつもりだったです?」
「そ、そんなことないよな?トレーナー君!」
「……」
目ぇそらしてんじゃねーですよ!?こっち見ろよおい!
「ま、まぁとにかく。アンカはファンと距離を取っているんじゃないかって声が少なからずあるんだ。ファンは大事だからね。だからこそ、ウマッターやウマスタグラムはファンの人達がアンカのことを身近に感じることのできる良いツールだと思うんだけど……」
「ぐ、ぐぬぬ……!」
「それに、もっと身近に感じることができればファンの人達からの誤解も減るんじゃないかなって。ホラ、見てみなよ」
トレーナーさんはPCの画面を見せてきました。え~と、何々……
「【孤高の存在アンカデキメルゼ。冷徹な仮面の下では何を想う?】……なんだこれは?」
「世間でのアンちゃんの評価です。いつも無表情で何を考えているのか分からないです、表情が変わったと思えば基本的に不機嫌そうな仏頂面です。近寄りがたい存在だって思われてるんです」
「嘘だろ!?」
これでも表情に出してるつもりなんだけど!?
「まぁとにかく。アンカが怖がられてるって声も少しはあるんだ。だからこそ、ウマッターやウマスタグラムはアンカの怖いイメージを払拭できる良い機会なんじゃないかって」
「……まぁ、言いたいことは分かったが」
でもなぁ……陽キャのやるツールじゃないか。ウマッターもウマスタグラムも。僕には肌に合わないっていうか……。
「なんでアンカはこんなに渋るんだい?別にやるぐらい構わないだろうに」
「どうせ陰キャ拗らせてるだけです。深い理由なんてあるわけないです」
「君も君で随分辛辣なこと言うね……」
どうしようかなぁ……。というか怖いって何さ?僕普段からそんなに仏頂面なの?
そんな話があって次の日。いつものようにトレーニングをしようとしていると……。
「あー!アンカさんだ~!」
「……うん?」
何です?この甘ったるい声は?僕の嫌いな陽の気配を感じますよ。
「えへへ、こうして話すのは初めてですよね?アンカさん」
「……誰だ?」
マジで知らない子ですね。葦毛で……どことなく甘え上手というかなんというか。そんな雰囲気を感じますが……それよりも!
「初めまして!私、カレンチャンっていいま~す!気軽にカレンって呼んでね♪いつもアヤベさんがお世話になってます!」
「あぁ、アヤベさんの知り合いだったのか……そう言えば、アヤベさんが寝床を共にする者がそんな名前だったな」
「え~!?カレンのこと知ってるんですか!嬉しいなぁ、アヤベさんカレンのこといつもなんて言ってるんです?」
「……まぁ、良き後輩だとか、そんな感じのことを言ってたな」
「嬉しい~!でも今日話したいのはそれじゃなくて……アンカさんのこと教えてほしいな~って」
「僕の事だと?……なんで?」
「だってだって~アンカさん有名じゃないですか。それにアヤベさんからいつもお話聞いてるんですよ?手のかかる子だって」
「そうか。……じゃあ僕はトレーニングがあるからこれで」
「えぇ!?もうちょっとお話しましょうよ~!」
僕の手を握ってきやがりましたよ!距離の詰め方がえぐい!初対面の人に良くもまぁここまでグイグイ来れますね!
もう分かりましたよ!この子……陽キャですね!間違いありません!僕みたいな陰キャとは違う人種です!
「僕には話すことがない。それにトレーニングもある。さっさと……」
「でもアンカさん、この前レースでしたよね?トレーナーさんの許可は取ってるんですか?」
「……取ってないが」
「それに、神の啓示……だったっけ?それも受け取ってるんです?」
「……いや、今日は別に」
「じゃあじゃあ!カレンとお話ししましょうよ!ね、ね?少しだけだから!少しだけならいいでしょう?」
えぇいめんどくさい!だから陽キャは嫌なんですよ!こっちの事情お構いなしに距離を詰めてきやがって!めんどくさいったらありゃしません!さっさとどこかに……
「それに~アンカさんってすっごくレース強いじゃないですか?だから色々とお話聞きたいな~って。カレン、アンカさんのこと尊敬してるんですよ?」
「いいだろう。話をしようじゃないか」
ハイ可愛い!カレンチャンカワイイ!お前らもカレンチャンカワイイといいなさい!
それにしても……僕を尊敬、尊敬かぁ……!えへ、えへへ……!
「……アヤベさんの言う通り、本当にチョロいなアンカさん。アヤベさんが不安になるのも分かるよ」
なんかカレンが僕を微笑ましそうな目で見ていますけどどうしたんでしょうね?なんかついてます?
まぁ結局カレンと話をすることになって。レースの話はほどほどに日常的な話を主にしました。
「えぇ~!?アンカさんウマッターとかウマスタとかやってないんですか!?」
「……何か問題あるのか?」
「別に問題はありませんけど……じゃあじゃあ!カレンが教えるからこの機会にやってみませんか?」
「やら……」
ない、と言いかけたところで考える。そういえば、トレーナーさんからも言われてたな。ファンの人のイメージを払拭するためにもやってみたらいいんじゃないかって。う~ん……でもなぁ……。
「僕の呟きなんかを見たい、物好きなファンはいるのか?」
「ぜ~ったい、いますよ!カレンが断言します!」
「そ、そうか」
まぁ、だったらちょっとやってみるのも良いかもしれない。
「なら、少しやってみるか」
「本当ですか!?じゃあカレンが手取り足取り教えてあげますね!」
「頼む」
それから会員登録とか済ませて僕はウマッターデビューをしました!ついでにウマスタも!記念すべき初投稿は……まぁ後でいいや。
「それと、呟きとかは注意してくださいね?下手したら炎上しちゃうかもしれませんので!」
「あぁ。ネットの怖さは良く知っているからな。心得ている」
「あ、そうなんですね。ウマッターとかウマスタとかやってないっていうから、ちょっと意外かも」
「僕は常に深淵を覗き続けているからな。ネットの奥深く……ウマッターやウマスタよりも酷いネットの闇を」
「へ~そうなんですね」
カレンは僕の言葉を軽くスルーした。まぁ別に気にしてないからいいけどさ。僕も何言ってんだって思ったし。
「それじゃ、カレンのアカウントをフォローしてもらったし。ありがとうございましたー!アンカさーん!今度は沢山お話ししましょうね~!」
「あぁ。良き時間だった。今度はアヤベさんも交えて腰を据えよう」
「はーい!それじゃ、これからもカレンをよろしくね~!」
いやぁ!良い人ですねカレンチャン!陽キャに対する偏見がちょっとなくなりましたよ!
……それにしても呟きと投稿か。
「なんも思いつかん……。ま、適当に使っておけばいいでしょ」
さ~て、トレーニングトレーニング~っと。
今日も布団乾燥機をかけていると……カレンさんが随分機嫌良さそうに帰ってきた。どうしたのかしら?
「カレンさん、随分機嫌が良さそうね?」
「あ、分かります?アヤベさん」
「えぇ。とても」
ずっと耳と尻尾が忙しなく動いているもの。誰だって分かると思うわ。
「今日はですね~……アンカさんと話してきたんですよ!」
「……アンカさんと?」
「はい!……アヤベさんの言う通り、結構分かりやすい人でしたね。後すっごくチョロい……ウマッターとウマスタ教えたけど大丈夫かな?」
待ちなさい。聞き捨てならないことを聞いたわ。私はカレンさんの腕を掴む。
「ひゃ!?ど、どうしたんですか?アヤベさん?」
「教えなさい」
「な、何をです?」
「決まってるでしょう。アンカさんのウマッターとウマスタのアカウントよ」
「わ、分かりましたから!教えますから離してください!」
おっと。焦りすぎてつい。
……さて、これがあの子のウマッターとウマスタのアカウントね。
「そ、そんなに気になるんですか?アンカさんのこと」
「当たり前でしょう。あの子、あぶなかっしいもの。だからしっかりと見ておかないと」
「いや、気持ちは分かりますけど……」
それにしても……あの子のアカウント名【レスアンカー】っていうのね。というか、プロフィールなんも書いてないじゃない。まぁそれは良いわ。さて、投稿は……。
「【トレーニング】……【ご飯】……【トレーニング】……【ご飯】……何かしら?これ」
「え?もう呟いてるんですか?アンカさ……えぇ……なにこれ?」
「私が聞きたいわよ。あの子、トレーニングとご飯のことしか書いてないじゃない」
……まぁまだ初日。きっと慣れてきたら書くことが増えるでしょう。とりあえずアンカさんのアカウントをフォローしてっと。あの子がどんな呟きをするのか楽しみね。
アンカデキメルゼがウマッターとウマスタのアカウントを作成してから数日が経過して──
「「アンカさん!」」
「……どうした?アヤベさんにカレンも。そんなに血相を変えて」
「いやいやいや!なんですかアンカさんのウマッターとウマスタ!ご飯とトレーニングしか書いてないじゃないですか!?」
「完璧な運用だろう?これならば炎上もしない!」
「あまりにも簡素過ぎて本物かどうかすら疑われているわよ。写真も貼らずに文字だけでご飯とトレーニングとだけ……botを疑われているわ。後、あなたの怖がられてるイメージを払拭するために始めたのにこれじゃあ何も変わらないじゃない!」
「で、でも何呟けばいいのか分からないし……」
カレンチャンは言葉に詰まる。言いたいことは山ほどあるけど、今はとにかくこのポンコツをどうにかしなければならない。そんな風に考えていた。
「あぁもう!カレンが一から教えてあげますから!だから早くトレーニング止めてください!」
「だ、だが……」
「あなたに拒否権はないわ。早くきなさい」
「え?ちょ、ちょっと待って!?いやぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「はー!無理やり連れて行かれるアンちゃんの姿で飯がうめーです!パクパクです!そしてウマッターの運用ドへたくそなアンちゃんもまた愉悦です!」
「終わったらちゃんと返してねー」
「助けてトレーナーさぁぁぁぁぁぁん!?」
こうして。アンカデキメルゼのウマッター及びSNS講座が長い時間開かれることになったがそれはまた別の話──。
カレンチャンカワイイ!ちなみにLANEは普通に使ってる模様。