来るべきイギリスに渡る日。全ての準備を終えて、さぁ出発です!
「いやはや楽しみだねぇ。そうは思わないかい?アヤベ君?」
「……別に。それよりもアンカさん、忘れ物はないかしら?」
「ほらほら、アヤベさんもタキオンさんも!こっちで一緒に写真撮りましょ!はい、チーズ☆」
……なんか増えてね?気のせいですかね?
「気のせいじゃないよアンカ」
「アンちゃんの目は節穴です?」
「酷くない!?」
はい。来るべきイギリス遠征。何故かアヤベさんとカレン、それに加えて……アグネスタキオンが同行することになりましたとさ。
話は数日前にさかのぼります。
『『チームを持つことになった(です)?』』
『うん。理事長からそうお達しがあってね』
トレーナーさんから伝えられたのはチームを作ることになったという言葉。え?なんで?トレーナーさんって確か新人だったよね?なしてチームを作ることに?
『チームを作ることになった理由は……まぁ大体察しがつくです』
ヴィッパーが僕を見る。どうかしたのだろうか?
『うん。ご想像の通りだよヴィッパー』
トレーナーさんもボクを見る。な、なんで2人して僕を見るんだよ!まだなんもしてないだろ!?
『アンカの功績と反響が凄くてね。是非とも俺にチームを作ってくれって、理事長からそう言われたんだ』
『だが、新人だろう?大丈夫なのか?トレーナー君』
『う~ん……正直不安と言えば不安だけど……ゴメン、何でもないよ』
ちょっと。僕をチラ見して何考えてたんですか?……黙りこくるな!?僕が原因なのか?僕が原因なんだろその反応!
『言えるわけないでしょ……アンカの無茶を抑制するためにチームを作った方がいいなんて言われたってさ』
『まぁそれは言えないです。というか、本人はあの練習量をなんとも思ってないです。無自覚なのが質悪いです』
『というか、人数増やしたところでアンカの無茶なトレーニング抑制できないよね?絶対』
『良く分かってるですトレーナーさん』
なんか2人で話してるけどよく聞き取れないや。まぁいいや。気にしないでおこう。
『ちなみにあてはあるです?トレーナーさん』
『さすがにないかな。期限があるわけじゃないし、ゆっくりと探すよ』
『それが良いだろう』
そして別れた次の日。僕は……出会った。
『ふぅン。君がアンカ君か』
『……誰だ?』
見たことがない栗毛のショートカットのウマ娘だ。なんというか、目にハイライトがないな。
『これは失敬。私はアグネスタキオンだ』
『アグネス……タキオン?誰だ?』
『おっと、私を知らないとは。これは好つご……げふんげふん』
おい、何を言いかけたんですか?
『実は君にお願いがあってだねぇ』
『僕にだと?……何の用だ?』
『実は、私のモルモ……実験に協力して欲しいのさ』
今度はなにを言いかけたんですか?モルモットとか言いかけませんでしたかあなた!?
『実験にだと?何故僕なんだ?』
『理屈は単純だ。私が君のファンだからだよ』
僕のファン……だと……!?いやぁ!ファンのお願いを無下にするわけにはいきませんよね!二つ返事で了承しましょうそうしましょう!
『いいだろう。君の言う実験に協力してやるタキオン』
『……本当にこれを言うだけで了承してくれるなんてねぇ。いやはや、噂に違わぬチョロさだ』
なんか言ってる気がしますけど僕のファンと触れ合えましたよひゃっほい!ちなみにその後なんですが。
『今ウチのチームに加入すればアンちゃんに実験し放題です。お得です』
『ほほーう!それは魅力的な提案じゃないか!是非とも君のチームに加入させてもらおう!』
『ならトレーナーさんの許可を取ってくるです。ついでに入部届も貰ってくるです』
気づいたらタキオンがチームに加入してました。なして?
そしてアヤベさんとカレンについてですが。
『今回アンカさんの遠征に協力させてもらうわ。私も、海外のレースには興味があるから』
『ハイハーイ!カレンも!カレンもついていきまーす!』
アヤベさんはシリウスからの出向という形で、カレンはそのアヤベさんについてくる形で遠征に来ることになりました。
『ウチのアヤベをよろしくお願いします。……あの、アンカさんにやっているようなトレーニングはさせないでくださいね?』
『させませんよ!?』
トレーナーさんとシリウスのトレーナーさんはそんな会話をしていました。
ということで、僕・ヴィッパー・アヤベさん・カレン・タキオン・トレーナーさんの6人で遠征をすることになりました。タキオンとカレンはまだ未デビューなのでついてくるだけ、アヤベさんはあっちの方でもレースに出るみたいです。
そして飛行機に乗っているわけですが……なんと!ファーストクラスですよファーストクラス!一生無縁だと思ってましたよ!
「それにしても全員ファーストクラスとは太っ腹だねぇトレーナー君」
「別に私達はエコノミークラスでもよかったのに……」
「そう言うわけにはいかないさアドマイヤベガ。それに、お金に関しては心配しないで……稼ぎ頭がそこにいるからね」
「「「あぁ~」」」
なんで一斉に僕を見るんですか?なんかついてます?
「それにしてもイギリスか~。今のうちに映える場所をピックアップしとこっと!」
「ヴィッパーは寝るです。お休みです」
「さてさて、実験器具の大半は持ち込めなかったがまぁいい。現地調達すればいいだろう。買える店の目星をつけておかないとねぇ」
「アンカさん。こんなとこでもトレーニングはしないようにね」
「アヤベさんは僕をなんだと思っているんだ?」
「トレーニング魔」
「トレーニングしないと死ぬ身体なんですよね?」
「トレーニング厨」
「ドM」
「全員僕をなんだと思ってるんだ!?後ヴィッパー!僕は断じてドMじゃない!」
「アハハ……。向こうに着くまでまだまだ時間があるからゆっくりしておいてね。モニターを利用して動画を見てもいいし、お腹が空いたら機内食を好きに頼んでいいし。自由に過ごしてね」
「「「はーい!」」」
それにしてもファーストクラスって凄いなぁ!ベッドとかもふっかふかのふわふわじゃん!
「ふわふわ……」
アヤベさんもお気に召したようですよ!あぁ~このまま寝ちゃいそう……
「……です。……るです」
「……んあ?」
「アンちゃん起きるです」
眠い目を擦りながら時間を確認する。……後6時間ってところか。ようやく半分じゃん。
「どうしたのさヴィッパー?なんか用?」
「ご飯の時間です。一緒に食べるです」
「んん……分かったよ」
身体を起こしてご飯を食べに行く。どうやら、僕達2人だけのようだ。カレンは映画を見てるし、アヤベさんはさっき寝てるのを確認した。タキオンは何かの資料に目を通しているし、トレーナーさんは紙束とにらめっこしている。多分僕達のトレーニングメニューとかそんなのだろう。
「「いただきまーす」」
ボクとヴィッパーは黙々と食べる。別に、会話は必要ない。無言の空間はいつもだったら嫌なんだけど、ヴィッパーとだったら特に気にならないんだよね。凄く居心地がいい。ヴィッパーもそう思っているのか、特に会話を切り出してこない。
食べ終わってまた暇な時間がやってくる。
「将棋でもするです」
「お、いいね。久しぶりにやろっか」
「負けないです」
「やってみろってね」
ちなみにだけど、ボクとヴィッパーの対戦成績は五分五分。丁度半々だ。無言で僕達は将棋を指す。
「……そう言えばアンちゃん」
「んー?どしたのヴィッパー?」
「この選択に、後悔はしてないです?」
「どういう意味?」
ヴィッパーはいつになく真面目な表情で僕を見ている。
「無茶ぶりされて、すっごくすっごく苦しい目にあってるです。諦めようとか思ったことないです?」
「ないね」
僕は即答する。
「まぁ確かに無茶ぶりされてるけどさ。それをやってやった時の……達成感、っていうの?それが好きなんだよね。僕」
「……」
「それにさ。追い詰められてる時とか、それこそこの前の日本ダービーなんかはさ。すっごく生きてるって感じがしてさ。滅茶苦茶気持ちよかったよ。やっぱり、最高だね」
「ふーん……」
「それがどうかしたの?ヴィッパー」
ヴィッパーは、微笑んでいた。
「やっぱりアンちゃんは生粋のマゾヒストです。ドMですドM」
「違うって言ってんでしょ!?僕は断じてドMじゃない!」
そんなくだらない会話をしながら僕達はイギリスの空港に着くまで将棋を指し続けた。
そうしてイギリスに着いた僕達。宿泊先に荷物を置いて。早速トレーニングしましょう!
「さぁトレーニングだ!」
「いや、今日はやらないよ?」
何故!?
「そんなビックリされても……。ひとまず今日と明日は観光という名の周りの散策になるから。それを頭に入れておいてね。迷子にならないようにしっかりと地理を把握しておかないと」
「それなんだがトレーナー君。気になるお店があるんだよ。早速向かってみないかい?」
「それは明日にしようかタキオン。今日はひとまず周りにあるもののチェックだよ」
「……まぁ、日本ほど治安が良いとは限らないしね。ここは我慢しておこう」
あ~あ。トレーニングはできないのかぁ……。
「アンカさん。露骨にガッカリしてないで早く行くわよ」
「やっぱりトレーニングしないと死ぬ病気にかかってるんじゃないですか?アンカさんって」
「そんなわけないだろ!?」
……ないと信じたいですねぇ。あ、ちなみに僕は英語話せますよ。たくさん勉強しました。後まぁ……本当に色々とあったんで。主に前世。
まぁトレーニングできないのなら仕方がありません。周りの散策でも?
「見てよヴィッパー。あの人滅茶苦茶デカくない?」
「どうしたです?アンちゃん……確かにデカいです。色々と」
僕の視線の前に滅茶苦茶デカいウマ娘の人がいた。それはもう胸とかお尻とか全てがデカい。でもウエストとかはキュッと引き締まっている。成程……これが、ワールドクラス!
なんというか、すっごく真っ赤な栗毛をロングヘアにしたウマ娘さんだ。身長は2m近くあるんじゃないかってぐらいでかい。しかもサングラスをかけてる。全体的な印象はこう……できる秘書って感じがする。スーツ着てるし。そのウマ娘さんが僕の視線に気づいたのか僕の方を見て……ちょちょちょ!?なんかこっちに近づいてくる!?てか早ッ!?
きっと僕じゃないな。多分僕の後ろに知り合いがいるんでしょう。そんな思いも空しく……ウマ娘さんは僕の目の前で止まった。
「……」
「『あ、あの。な、なにか?』」
とりま英語で応対する。まさか……カツアゲ!?か、海外はそう言うの多いって聞くし、僕の見た目ならカツアゲされてもおかしくない!ウマ娘さんはサングラスを外して……めっちゃ嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「『成程!これが噂の!実物は本当に小さいな!』」
そのまま僕を抱きかかえてきたーっ!?
「ちょちょちょ!?な、何ですかいきなり!?」
「アンカ?どうかしたの……って、えぇ!?」
トレーナーさんの声でみんなが僕の方を一斉に向く。それは周りの人達も例外じゃなくて……全員が、驚愕の声を上げていた。
「『おい!あれって……ッ!』」
「『あぁ!間違いねぇ!あの燃えるような赤い栗毛の髪……!アメリカの!』」
「『で、デッケぇ……!スケールが違うな』」
アヤベさん達も驚いたような表情をしている。ただ、それはどうやら僕の状況ではなく僕を現在進行形で高い高いしているこのウマ娘さんが原因のようで。というか!
「『いい加減、離してくれ!』」
「『おっと、こいつは悪かった。お前に会えたのが嬉しくてつい、ね』」
よ、ようやく降ろされた。というか、ヴィッパーもビックリしてるけどどうしたんだろう?このウマ娘さん、みんな知ってんのかな?
「『で?あなたは誰だ?』」
「ちょ!?知らないのかいアンカ君!?」
タキオンが慌ててるけど、生憎と知りませんよ僕は。目の前の栗毛のウマ娘さんは目を丸くした後豪快に笑いました。
「『HAHAHA!まさかこの俺を知らないなんてね!だが、気に入った!』」
栗毛のウマ娘さんはひとしきり笑った後、不敵な笑みで答える。
「『俺の名前はセクレタリアト……アメリカの2代目ビッグ・レッドって言えば分かるか?』」
……What's?ビッグ・レッド?なしてそんな有名な方が僕に?
あーあ、出会っちまったか。