イギリスの空は青いなぁと思っている今日この頃。まぁイギリス来てまだ1週間も経ってないどころかまだ3日目なんですけど。今日から練習していくということでイギリスの練習場に来ています。わぁ~イギリスのウマ娘さんがたくさんですねぇ。めっちゃこっち見てますよ。珍しいんですかね日本のウマ娘が。まぁ気持ちは分かりますよ。うんうん。
「『さて、早速トレーニングをしようじゃねぇか我が弟子よ』」
……現実逃避はここまでにしましょうか。僕らが注目されている理由?そんなんセクレタリアト師匠と一緒にいるからに決まってるでしょ!当の本人はどこ吹く風だけど!
「『……すいません師匠。ちょっとボーっとしてました』」
「『おいおい、しっかり頼むぜ?お前には等速ストライドを完璧にマスターしてもらうんだからよ』」
そうは言いますがね師匠。めっちゃ注目されてるんですよさっきから。チラチラどころじゃないですよ。ガン見されてるんですよさっきから!
「『視線如き気にするな我が弟子!その内慣れる!』」
無茶言わんで欲しいですね!
まぁ気にしても仕方がないというのはその通りな訳で。ひとまず師匠とのトレーニングなのですが……!残念なことに今日は無理なんですよ!
「『トレーニングの話ですが師匠。僕は今日は神託を受け取っているので無理です』」
「『神託だと?言ってみろ』」
「『今日は日が暮れるまで走り込みという神の啓示を受け取っています。加えてトレーナー君が僕のために作ってくれたメニューがある。故に、師匠のトレーニングはできません』」
「『ほう?』」
師匠は興味深そうに僕を見ている。ふっふっふ、残念でしたね!僕にとって安価は全てにおいて優先されることです!やらないという手は存在しません!
「『僕にとって神の啓示は全てにおいて優先される事象です。故に、この啓示は最優先であたります』」
「『成程成程!その神?とやらは気になるがそう言うことなら納得した!それぞれ信じるものがあるからな。それを否定するのは俺の流儀……自由に反する!』」
おぉ!師匠は分かってくれますか!そうですそうです!つまり師匠とのトレーニングは……
「『んじゃ、お前のトレーナーが作ったメニューを早速やっていくぞ。この蹄鉄をつけてな』」
ホワッツ?なんですかこの蹄鉄……重ッ!?
「『し、師匠。僕の事情を分かってくれたんじゃ……』」
「『んお?おぉ!バッチリ分かってるぞ!』」
「『じ、じゃあなんで……』」
「『バッチリ分かったからこそ、俺がお前に課すのはよりキツい負荷をかけることだ!どうだ?嬉しいだろ!』」
し、師匠!そんなニッコリ笑顔で言われても僕の気持ちはナイーブになるだけですよ!
「『それにお前にはまだまだパワーが足りん!等速ストライドを完全にモノにしたければもっとパワーをつけろ!』」
「『い、今でも割とついてる気がするんですけど……』」
「『つべこべ言わずにさっさとその蹄鉄をつけてトレーニングしてこい!え~っと、まずは……グラウンド100周だ!』」
ちょ!?トレーナーさんが組んでくれたメニューをさらっと倍増しないでくれます!?
「『それにアンカ。お前は神の啓示では日が暮れるまで走り込みと言ったが……いつから走り始めろとは言われてないんだろ?』」
ゲェ、バレた!?
「『よっし!じゃあ朝のうちにこのトレーニングメニュー終わらせて!昼から夕方にかけて俺の作ったトレーニングメニュー!最後に走り込み!日が暮れたらジムでまたトレーニングだ!』」
「『ちょちょちょ!?さすがに過密スケジュール……』」
「『お前、身体が頑丈なんだってな?それにいつも気絶するまでトレーニングしてたらしいじゃないか。だから大丈夫だ!何とかなる!』」
ま、まぁ確かに。なんとかなりそうな気はしますけど。でもなぁ……この蹄鉄クソ重いんだよなぁ……。
「『ちなみに師匠。この蹄鉄通常の蹄鉄と比べてどれくらい重いんですか?』」
「『ん?確か……3倍以上だったか?』」
「さんっ!?」
道理で重いはずだよこんちくしょう!でも口答えしたらまたなんか言われるだろうし素直に打ち換えよ……。
「『よしっ!打ち換え終わったようだな!じゃあグラウンド走ってこい!』」
「『お、おっも……ッ!走り辛い……!』」
「『ちなみに終わらなかったら食事の時間を削るからな。そして俺がお前の口に無理矢理詰め込む』」
師匠の鬼!悪魔!ビッグ・レッド!
「あ、アンカさん大丈夫かな?カレンちょっと心配……」
「大丈夫よカレンさん。アンカさんは身体は頑丈だからきっと生きて帰ってくるわ」
「さてさて。我々は我々で計測を開始しようじゃあないか!早速この薬を飲んで……」
「飲まない。ふざけてないで早く練習するわよ。トレーナーさんも、お願いね」
「うん。分かったよ」
ぼ、僕もあっちの平和な世界線に……
「『オラオラ!さっさと走れ我が弟子!時間は待っちゃくれないぞ!』」
だったら寝そべりながらつまみ食ってんじゃねーですよ師匠!説得力のかけらもない!
な、何とかトレーナーさんの課題を終わらせることができた……。まさか本当に1日のメニューを午前中だけで終わらせる羽目になるなんて思わなかったよ!しかも師匠さらっと倍増してるし!ご飯?めっちゃ食べましたよ。師匠に食べるのも強い身体を作るのに必要だからって安価で決まった僕の食事に大量に追加してきました。……我ながら食事の量が増えてるな。太ったりしないよね?
そんなわけで午後のトレーニング。午後は師匠の考案したメニューをやるのだが……何故か師匠はトレーニングウェアに着替えていた。
「『あ、あの。師匠。何故にトレーニングウェアに?』」
僕の質問にセクレタリアト師匠は笑い飛ばす。
「『決まってるだろ!習うより慣れよって言葉が日本にはあるだろ?だからこれから……お前は俺と併走する』」
……え?なんて?
「『あれこれ理屈で考えるよりも、等速ストライドを実際に体験してみて。その強さを肌に焼きつけろ!そうすりゃ、お前も等速ストライドをマスターすることができる!』」
「『言わんとしたいことは分かりますけど……』」
「『ちなみに午後はずっと俺と併走だからな』」
「『嘘でしょ!?』」
贅沢過ぎませんかねぇ!?あの2代目ビッグ・レッドとずっと併走だなんて!なんだろう、嬉しいのに嬉しくない!
「『あ、ちゃんと靴は履き替えとけよ。じゃないと……』」
師匠は、獰猛に笑った。
「『授業になんねぇからな』」
自分こそが絶対的な強者だと確信している表情。そして同時に感じる……圧倒的なプレッシャー!
(……そうだ。フレンドリーだから忘れてたけど、この人はアメリカの二大巨頭ウマ娘……アメリカ最強とも名高いウマ娘の1人なんだッ!)
身体が震える。武者震いというやつですかね?なんにせよ……胸を借りるつもりで挑ませてもらいますよ!
2人して位置につく。そして……スタートした!師匠は……僕の横にピッタリとついている。
「『さぁて、肌で実感しろよ?』」
師匠の圧が増す。僕は一瞬気圧されそうになった。
「『これがお前が目指す走り……全てにおいて合理的な、パーフェクトな走り!等速ストライドだ!』」
師匠は、ストライド幅を短く取って爆発的な加速を見せた。しょ、初速からして段違いなんですけど!?というか、この併走2000mですよ!短距離みたいなペースで走ってるけど大丈夫です!?
僕はなす術もなく離されていく……が!離されてたまるかってんですよ!僕もピッチ走法で師匠に追いつこうとする……が、中々追いつけねぇ!?いや、正確にはじりじりと追いついているけど!
「『おいおい?そんなスピードじゃ俺には一生追いつけねぇぜ?』」
「『ッ!まだまだ、これからですよ!』」
僕は加速する。ありったけの力を使って!これには師匠も楽しそうな笑みを浮かべていた。
「『そう来なくっちゃな!しっかりと目に焼き付けとけ我が弟子!』」
そうしてセクレタリアト師匠との併走が始まって……終わる。結果?僕の惨敗ですけど何か?なんて言えばいいのか……ただでさえスピードの絶対値が違うのに、坂やコーナーを走る度に差がついていってた。その理由は……明白なんだけど。
「『だ、ダメだぁ……ど、どうしても坂やコーナーで減速しちゃう……』」
僕の言葉に師匠は呆れながら答える。
「『そりゃ当たり前だろ。普通に考えりゃ上り坂やコーナーでは減速するし、下り坂ではブレーキをかけて減速するか逆に加速するかの2択だ。スピードにムラが生まれるのは当然なんだよ』」
それは当たり前の理屈。普通、コーナーや坂では減速してしまうもの。だけど……師匠の走りは。
「『等速ストライドってのは、あらゆる条件下で同じ速度で走り続けることを可能にした走りのことなんだよ。坂だろうがコーナーだろうが関係ねぇ。減速せずに常にトップスピードを維持し続ける……ストライドの長短を使い分けることによってな』」
「『り、理屈では分かるんですけど……』」
「『普通は無理だ。ストライドの長短をレース中に意識して使い分けるだけでも難しいのに、それをトップスピードを維持しながらってことだからな。だが、お前はそれを可能にした……日本のダービーでな』」
けど、と師匠は続ける。
「『あれはあくまで無意識の産物。あれを意識的にできるようになってこそ、等速ストライドは完成する。そうすりゃお前は……誰にも負けねぇウマ娘になれるさ』」
ぶっちゃけ、僕がやろうとしていることはかなり難しい技術だ。無謀な挑戦、可能にしたのも目の前にいるセクレタリアト師匠だけ。そんな走りを僕なんかが修得できるわけない……だからこそ、燃える!
「『……もう一本、お願いできますか?』」
やってやろうじゃねぇですか!不可能なんて蹴っ飛ばしてやりますよ!
「『お?やる気になってくれたか?んじゃ、ちょいとクールダウンした後早速2本目だ!頑張れよ、我が弟子!』」
師匠は嬉しそうな笑顔を浮かべる。僕も笑顔で答えますよ!
「『はい!師匠!』」
それから僕は師匠と併走し続けた。一度も勝てなかったし、等速ストライドをモノにするのもかなり遠い道のりだけど……近づいていってるような気はした。うん、多分。……補足ですけど、安価の日が暮れるまで走り込みは当然のようにあの3倍以上の重さの蹄鉄でやらされましたよ!
ちなみに安価も終わって夕飯も食べ終わった後。ホテルに帰ろうとした僕は師匠に首根っこを掴まれる。
「『あ、あの?なんですか師匠?僕ホテルに帰りたいんですけど?』」
僕の言葉に、師匠はとてもいい笑みを浮かべる。……嫌な予感しかしないんですけど!?
「『言ったろ?夜はジムでトレーニングだって』」
「『あれ嘘じゃなかったんですか!?』」
「『面白いことを言うなぁ我が弟子!それじゃ、さっさと行くぞ!』」
「『ま、待って!?だ、誰か助けて!ヘルプミー!』」
アヤベさん達の方を見るけど……全員手を振っていた。こ、この薄情者どもー!?
「『パワーもそうだが、お前はスピードの絶対値を上げる必要がある!だから鍛えに鍛えるぞ我が弟子!お前がどこまで強くなるか……楽しみだなぁ!』」
「あああああああああああああ!?」
そして僕は、師匠の手によって日付が変わる直前までジムでトレーニングを行い。ホテルのお風呂に入って泥のように寝た。
師匠ウッキウキ。