──その悲劇は、突然起きました。
「僕のウマホがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
「これは見事なまでにバッキバキです。画面が見えねぇです」
「逆になにしたのよ、これ」
「電源も点きませんねぇ。本格的に壊れちゃったみたいです」
僕のウマホ、壊れちゃいました☆
事の発端は朝のこと。目覚ましの音がうるさくて手を動かしていたら自分のウマホをぶん殴って吹っ飛ばしてしまいました。その結果、僕のウマホはそれはもう見事なまでに画面バキバキ状態になり。挙句の果てには電源も点かなくなって壊れてしまいましたとさ。
……これによって、僕には死活問題が生まれてしまいました。
(これじゃ安価出来ないじゃん!?僕普段はウマホでスレ開いてるのに!)
安価ができないということです!幸いにも、修理には1日かければ何とかなるみたいなんですけど……それが意味することは、今日一日は丸々安価ができないということです。PCも両親とのビデオ通話でしか使わせてくれませんし、ヴィッパーにお願いしても使わせてくれませんでした。良いじゃんかよちょっとぐらい!ケチ!
「だってアンちゃんに貸すと絶対今日一日帰ってこないです。だから嫌です後困っているアンちゃん見てクソ愉悦です!」
最後の方は聞こえなかったけどそうバッサリと切られてしまった。一応、連絡用のウマホは無事だからトレーナーさん達と連絡する分には何とかなるけど……。
「安価ができないというのは暇だ……」
今日はよりにもよって練習が休みの日。師匠もさすがに休日まではどうこうする気はないみたいで。
『休みも大事だからな!しっかりと身体を休めろよ、我が弟子!』
そう言われました。そんな僕は今噴水近くのベンチに腰掛けています……白いゴスロリ服を着て。いやぁ、まさか1着だけ持ってきていたとは。両親が買ってくれた服、紛れ込んでたみたいです。まぁ着ないというのももったいないのでこうして着ているわけですが……めっちゃくちゃ視線を感じる!?
(な、何だよ!ゴスロリ服着て悪いか!?いいじゃんかよ別に!)
そんなに面白いか!?
「『なぁ。あのウマ娘の子、可愛くないか?』」
「『本当。どこかのお偉いさんの子かしら?』」
「『神秘的だ……彼女の銀色の髪に白を基調とした服がマッチしている……!』」
「『無表情なのも相まってお人形さんみたい』」
クッソぉ……!こんなんだったらホテルでゆっくりしとくんだった!ちょっと気が向いたからって外出するんじゃなかったよ!
もう帰ろうかなーなんて思っていると。
「『な、何と美しいお嬢さんだ……!』」
「……うん?」
「『君!名前を教えてくれないか!?』」
気づけば僕の目の前に灰色がかった葦毛をショートカットにした王子様風のウマ娘がおりましたとさ。……誰だ?マジで知らねぇ。何も言えずに戸惑っていると。
「『頼む!君の名前を教えて欲しい!』」
そう言いながら僕の手を握って……!な、何ですか!?よく初対面なのに手を握れますね!この人も陽キャですか!?とりあえずさっさと名前を言って退散しましょう!
「『……アンカデキメルゼ』」
「『Anka De Kimeruze……!成程、素晴らしい名前だ!』」
あ!分かります?この名前の良さを分かってくれるなんてこのウマ娘さんはきっといい人だ!もうちょっとここにいてもいいかな!ただ、ボクの手を握っていることに気づいてかすぐに手を放して1つ咳払いをしました。
「『すまない。紳士にあるまじき行動だったね。君を怖がらせてしまった』」
「『いや、別に……あんまり気にしてないし』」
「『なんと寛大な心……!あなたのその寛大さに、心からの感謝を!』」
この人割とオーバーリアクションだな。本当にあんまり気にしてないんだけど。てかナチュラルに隣に座りましたね。僕が距離をとろうとするとすかさず詰めてきますし。これは陽キャですね間違いない。
「『アンカさん。君はどこ出身かな?少なくとも、この国ではないだろう?』」
「『日本』」
「『ほう!あの国か!イギリスには何をしに?』」
「『レースに出走するために。今日は……たまたま休みだから観光してた』」
「『成程観光に……ならば!』」
葦毛の王子様(仮称)は立ち上がって僕の前に跪く。そして僕に手を差し出してきた。
「『あなたを怖がらせてしまったお詫びだ。私がエスコートをしましょう!』」
「『……大丈夫なの?』」
「『大丈夫さ!あなたのような麗しい少女を怖がらせてしまったのは紳士としてあるまじき行為!だからこそ、是非あなたをエスコートさせてくれ!』」
う~ん……まぁ暇だし。良いですかね?悪い人でもなさそうですし。なんというか、オーラが金持ちのそれというか、良いとこ出てるんだろうなーって感じます。やたらオーバーリアクションですけど。
「『なら、お願いしようかな?』」
「『お任せを!あなたが夢のような一時を送れることを約束しましょう!』」
どんなところに案内されるんでしょうか?楽しみです。……そう言えばこの人なんて名前なんだろう?聞くの忘れたし聞くタイミングを逃した。
「『どうです?中々美味しいでしょう?』」
「『……本当だ。美味しい』」
まず葦毛の王子様に案内されたのはかなり高そうなレストランだった。……こういうとこ気軽に入れるってやっぱ金持ちなんだなこの人。
「『良かった。私もここは気に入っているんです。よくイギリスの料理は不味いと言われがちですが……それはお店によります。ちゃんと美味しいお店もありますよ』」
「『ウナギゼリーは?』」
「『……あれもまた、食に関する探究の成果なのでしょう。味はともかくとして』」
思いっきり目を逸らしましたね。まぁお世辞にも美味いとは言えないですし、ウナギゼリー。というか見た目が衝撃的なのが多いんですよイギリス料理。あ、でもあれは好きですよ。スターゲイジー・パイ。
食事を終えると今度は葦毛の王子様に手を引かれて観光スポットを巡ることになった。いろんな場所を巡りながら会話をする。我ながら良くこんな会話ができるもんだ。なんというか、この人の雰囲気がそうさせているのかもしれない。
「『あなたはこの国の生まれなの?』」
「『違いますよ。生まれはアイルランドです』」
「『あれ?でもさっきのレストランを気に入ってるって……』」
「『確かに生まれはアイルランドですが、私は主にイギリスとフランスのレースに出走していますので。その甲斐あってか、あなたのような素敵なウマ娘に会うことが叶いました。観光名所も、詳しいですよ?』」
ウィンクしながらそう答える。所作がいちいちカッコいいですね。てか、普通に疑問なんですけど何故エスコートを申し出たし。
「『……何故エスコートを?』」
「『エスコートは口実ですよ。あなたとただデートを楽しみたかった。それだけです』」
「『……私なんかと?物好きですね』」
「『とんでもない!』」
彼女はまた私の手を握ってきました!?いちいちオーバーリアクションですね!ビックリするじゃないですか!?
「『あなたは見目麗しいウマ娘だ!もっと自分に自信を持ってほしい!』」
「『そうですかね?友人からは良く不愛想だとか言われるんですけど』」
「『フッ。その不愛想なのが良いのです。あなたの神秘的な雰囲気に、絶妙にマッチしている。まさに、おとぎ話の妖精のようだ』」
めっちゃ褒めてくれるじゃないですかこの王子様。おだててもなにも出ませんよ?
我ながら会話も弾んでいた……と思う。気づけば夕方になっていた。
「『さて、次はどこに向かいましょうか?あなたの気が済むまで、お付き合いいたしましょう』」
「『う~ん……』」
「『遠慮なさらずに。是非ともこの私にお申しつけください。なんなりと』」
なら、もう少し遊びましょうか?そんなことを考えていると。
「『見つけましたよ。姉上』」
新たなウマ娘さんのエントリーだ!葦毛の王子様を姉と呼んだウマ娘さんは……なんというか、対称的に真面目な雰囲気漂う葦毛のロングヘアのウマ娘さんですね。すっごく生真面目そうです。
「『そろそろ宿舎にお戻りください。みな、待っていますよ』」
「『もうそんな時間なのか?少しくらいいいだろう?』」
「『ダメです。お相手の方にも、都合があるでしょう?無理矢理引き留めようとすると、嫌われますよ?』」
妹さんの言葉に王子様はかなりのショックを受けていた。……そんなにショックを受けること?
「『うぅ……すまない、アンカ。ここでお別れになってしまった……』」
「『姉上が迷惑をかけましたアンカデキメルゼさん。このお詫びは、近いうちに』」
「『いえ。僕も楽しかったので。それでは、また機会があれば』」
僕の言葉に王子様は花が咲いたような笑顔を浮かべていた。妹さんの方は、ちょっと呆れ気味だけど。
「『きっと!きっとだ!また会おうアンカ!その日を私は、楽しみに待っているよ!』」
「『あぁ』」
葦毛の王子様……結局名前聞けなかった。というか
「妹さんなんで僕の名前知ってたんだ?」
教えた覚えないんですけど。……まぁいいや。そろそろウマホも直ってるでしょうし、さっさと帰りましょう。
ちなみにホテルでその話をしました。葦毛の王子様の容姿とかを色々伝えたんですけど……やっぱりピンと来てないみたいで。
「そうだアンカ。はいこれ、直ったウマホ。今度からは気をつけてね?」
「ついに帰ってきたぁぁぁぁぁぁ!」
「1日も経ってないけど!?」
これで安価ができるぜひゃっほい!……それよりも、あの人達は誰だったんでしょうね?
2人の葦毛のウマ娘が会話をしている。
「それで姉上?何をしていたんですか?」
灰色に近い葦毛をロングヘアにした真面目な雰囲気を漂わせるウマ娘が、己の姉に向かって問いかける。
「決まっているだろう?アンカをエスコートしていたのさ!あぁ……!なんて麗しいウマ娘だったんだ!是非ともまた会いたい!今度はいつ会えるだろうか?叶うのであれば、レースで会ってみたい!」
恍惚の表情でそう答える、妹と同じように灰色に近い葦毛をショートカットにした王子様風のウマ娘。その言葉に妹は呆れ気味だ。
「全く……突然いなくなったと思えば。それほどまでに興味が湧いたのですか?彼女に」
「勿論だとも!あの麗しい長い銀色の葦毛!無表情ながらも神秘的な雰囲気を漂わせる佇まい!全てにおいて私の興味を惹いた!そして何よりも……」
姉は大仰に語る。
「彼女の中に感じた、確かな美学に!私は心を奪われた!」
「美学……ですか」
「そう!私には分かる。彼女は確固たる信念を持っている……己の美学を!」
姉は楽しそうに語る。そんな姉を妹は呆れ気味に見るだけだ。いつもの光景なので、突っ込むのも疲れたのだろう。
「それで姉上。次走が迫っていますが……」
「心配はないさダラカニ。私を……誰だと思っている?」
妹──ダラカニ(Dalakhani)の言葉に姉は不敵な笑みを浮かべる。
「全てにおいて万全な調整だ。やり残したことと言えば、アンカに私のレースを見に来てくれるように言うのを忘れたことだけだよ」
「つまりはいつも通りですね」
「そう言うことだ!」
ダラカニの姉──デイラミ(Daylami)は空を見上げる。
「キングジョージ……昨年は破れてしまった。だが、今度こそは取ってみせよう!」
デイラミはそう誓う。昨年は逃してしまったキングジョージの栄光を掴み取る……そのために、まずは次を勝つ。そう誓った。
新しいウマ娘(ライバル)のエントリーだ!