今日も楽しく安価だ!   作:カニ漁船

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時間は少し戻ってイギリス遠征から数日後のお話。


一等星のパリ大賞!

 ──イギリス遠征が始まってそれなりの時間が経った。私は変わらず練習をしている。けれど……あの子と比べれば全然のように思えるけど。

 

 

「師匠!流石に慣れてきました!この調子ならいけそうですよ!」

 

 

「『よーし!なら負荷を増やすぞ!大丈夫だ我が弟子、お前ならいける!』」

 

 

「分かりました師匠!なんでしょう、もう負荷が増えることがなんとも思わなくなってきましたよ!」

 

 

 アンカさんはあのビッグ・レッド……セクレタリアトさんの師事を受けている。聞くところによると、日本ダービーでのアンカさんの走りに興味を持ったかららしい。自分と同じ走法をするウマ娘、興味を抱くのは必然かもしれない。だって、アンカさんとセクレタリアトさんの等速ストライドは……現状2人しかできない走りだから。

 以前、セクレタリアトさんに聞いたことがある。自分にも等速ストライドはできるだろうか?と。答えなんて分かり切ってたけど、それでも聞くだけ聞いてみた。

 セクレタリアトさんの返答は……NO。できないという回答だった。

 

 

「『正確にはできないことはねぇ。だが、シルバーラビットと同じトレーニングをしたら間違いなくお前の身体はぶっ壊れるぞ。ありゃシルバーラビットだからこそできるトレーニングだからな』」

 

 

「『……自覚あるんだったらアンカさんのトレーニングを見直した方が良いんじゃないでしょうか?』」

 

 

「『そいつは無理な相談だ!だってシルバーラビットは文句を言いつつもしっかりとこなしてるからな!いやぁ、本当に面白いのなアイツ!』」

 

 

「『……』」

 

 

「『ま、俺から言えることは……お前には等速ストライドは向かないってことだ。お前にはお前の武器がある。それを活かすために頑張ってトレーニングに励めよ!悩んで悩んで、自分だけの走りを見つけろ!』」

 

 

 セクレタリアトさんは私を励ますように言って去っていった。

 

 

「私には向かない……か」

 

 

 ハッキリ言って、アンカさんの等速ストライドは反則のような技術だ。どんなバ場だろうがどんな距離だろうが即座に対応し、コーナーのカーブであっても加速が止まらない。レースのどこでも減速しないという全てにおける理想の走りだ……まぁ、その分途方もない努力が必要なのだけれど。実際アンカさんも悲鳴を上げながら頑張っているところだし。

 では、私の武器とは何だろうか?それが分からなかった。

 

 

「う~ん……アヤベさんの武器、ですか」

 

 

「えぇ。カレンさんが思う私の武器は何かしら?」

 

 

 ひとまず、手当たり次第に聞いてみることに。

 

 

「やっぱり末脚じゃないですか?アヤベさん、瞬発力凄いですし!後方からの追い込みが得意ですよね?」

 

 

「……やっぱり、そうかしら?」

 

 

 カレンさんが思う私の武器は、末脚。まぁ、これには私も自信を持っているのだけれど……世界相手に戦えるかと言われれば、正直微妙なところでもある。

 次はタキオン。彼女に聞いてみたところ、こう答えた。

 

 

「君、意外と負けず嫌いだろ?それは君の強みになるんじゃないのかい?」

 

 

「……そんなに負けず嫌いかしら?私」

 

 

「あくまで私の主観だがね。まぁ後はそのストイックさも弱点でもあり強みでもある。それぐらいかな?」

 

 

「負けず嫌いと、ストイックさ……」

 

 

 けど、ストイックさに関してはアンカさんに負け……いや、あれはストイックと言えるのかしら?

 最後に……アンカさんのトレーナー。

 

 

「う~ん……アドマイヤベガの弱点、か」

 

 

「えぇ。忌憚のない意見を聞かせて頂戴」

 

 

 アンカさんのトレーナーは少し唸った後……聞いてきた。

 

 

「それを聞いて、君はどうしたいのかな?」

 

 

「……どういう意味かしら?」

 

 

 私が少し不機嫌気味になったのを察してか、慌て始めた。別に、怒っているつもりはないのだけれど。

 

 

「いや!確かに俺が思う君の弱点を教えることはできるけど……それを聞いて、君はどうするのかなって。純粋にそう思っただけ」

 

 

「弱点を聞いて、どうしたいか……」

 

 

「うん。なんで君がそんなことを聞いてきたのかは敢えて聞かないけど……でも、同じ土俵で戦ってもアンカには勝てないよ。それだけは言っておく」

 

 

「……」

 

 

 それは、分かってる。アンカさんには勝てないって……「だって、さ」ん?どうしたのかしら?まだ続きがあるみたいだけど。

 

 

「アンカにはアンカの強みがあって、アドマイヤベガにはアドマイヤベガの強みがあるわけだろ?だったら、同じ土俵で戦う必要はない。君は君の強みを活かして、アンカに挑めばいいんだから」

 

 

「私の強みを……活かして……」

 

 

 セクレタリアトさんにも言われたこと。

 

 

「そう。確かに今アンカは等速ストライドを修得しようとしている。あのビッグ・レッドだけが可能にした、全てにおいて理想の走り……だけど、決して無敵というわけじゃない。それは君も分かっているよね?」

 

 

「……えぇ」

 

 

「だから、さ。アンカに勝つために弱点を埋めるんじゃなくて、強みを活かして挑めばいいんじゃないかな?君だったら……直線の末脚とか!後はその強みを活かすためにどうすればいいのか、何をするのが良いのか……それを考えるのが良いと思うよ。俺は」

 

 

「……なら、どうすればいいと思う?」

 

 

「う、う~ん……俺は君の本来のトレーナーじゃないけど……」

 

 

「大丈夫よ。この遠征においては、あなたが私のトレーナーなんだから。だから、いろんな意見を聞かせて」

 

 

「……そうだね。だったら、君の末脚を長く使うためにスタミナや脚の筋肉を鍛えるとか。一番現実的なのはこれかな?」

 

 

「成程……他には?」

 

 

「他には……」

 

 

 それから色々と聞かせてもらった。アンカさんにおんぶにだっこだと聞いていたけれど……そんなことはなかった。とても有意義な時間だった。

 そこから私は自分の強みを活かすために練習に明け暮れた。私の次走は、パリ大賞。パリ大賞典とも呼ばれるそれは、フランスのパリロンシャンレース場で行われるレース。日本で言う皐月賞やダービーのように、クラシック級限定のレースだ。

 

 

「ハッ、ハッ、ハッ」

 

 

 小気味の良いリズムで走り続ける。今の私に足りないのは……長く使える脚。だから、脚を重点的に鍛えることにした。

 

 

「アドマイヤベガ。君の強みを活かすために、脚の筋肉を重点的に鍛えるトレーニングメニューにしたよ」

 

 

「助かるわ」

 

 

「珍しいですねアヤベさん!アヤベさんって、前から1人で何でもやってやる~ってカレンは思ってたんですけど」

 

 

「……そうね。最初は、そう思っていたわ」

 

 

 けど、それだけじゃ限界がある。そのことを私は、アンカさんとのレースで強く実感した。

 

 

「私1人でやれることは限界があるわ。だから、カレンさんも協力してくれる?」

 

 

「~~ッ!あ、アヤベさんがカレンを……!まっかせてください!カレンも頑張ってアヤベさんの力になりますよ!」

 

 

「さて、ではアヤベ君。これは滋養強壮のドリンクだ。安心したまえ、変な成分は入れていないし、副作用もない。トレーナー君で臨床済みさ」

 

 

「……ありがとう」

 

 

 後は、こっちのバ場に慣れるためにできる限り走り込むようにした。身体に影響のない範囲で、隙間時間を利用して走り続けた。

 

 

(パリロンシャンレース場は芝が重いことで有名……だから、パワーをつけなきゃ)

 

 

 とにかく、ひたすらに走り込む。暇さえあれば走る。たまにカレンさんやトレーナーに見つかってやんわりと怒られたけど。ただ、その甲斐もあってかそれなりに対応できるようになった。

 

 

(でも、それなりじゃダメ。完璧に対応できるようにならないと)

 

 

 走り込みは止めなかった。後は、たまにアンカさんと一緒に併走をした。

 

 

「ふ、アヤベさんの方から併走のお誘いとは、ね」

 

 

「意外かしら?」

 

 

「そうでもないさ。友に頼られて、嬉しくないものなどおるまい」

 

 

「……それもそうね」

 

 

 着実に強くなっていってる。その実感があった。

 そして、アンカさんが海外の緒戦であるエクリプスステークスに出走した。結果は……8バ身差の圧勝。なんというか、全然余裕そうだったわね、あの子。

 

 

「私も、負けていられないわ」

 

 

 明日にはパリ大賞のためにフランスへと足を運ぶ。現地の芝に、少しでも慣れておかないといけないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現地に着いて、実際に走ってみて感じたことは……意外とこんなものか、という感想だった。

 

 

(重いって聞いてたから身構えていたけど……アンカさんの言うように、そうでもないわね)

 

 

 これなら、問題なく私の脚が使える。そう判断した。何より、パリロンシャンレース場の直線は東京レース場とほぼ同じ。なら……私の末脚が輝く。唯一の懸念点は、最初のポジション争い。パリロンシャンレース場の高低差は中山レース場の倍はあるというのだから、かなりタフなレースになる。

 

 

(……まぁ、ポジション争いに関しては問題ない。いかにして冷静にレースを運んで勝利するか。それが重要)

 

 

 早速アンカさんを誘って併走をした。アンカさんもいずれは凱旋門賞を走るみたいだし、彼女のトレーナーからしても願ったり叶ったりだろう。そして、たまにセクレタリアトさんも併走に混ざってくれた。あのビッグ・レッドと走れるとなって委縮したけど。

 

 

「『そう身構えるなベガ!なぁに、お前も強くなるさ!』」

 

 

「『……何を根拠に?』」

 

 

 私の言葉に、セクレタリアトさんが笑う。

 

 

「『お前の目は死んでねぇ。挑戦し、食らいつく目をしている。そういう目をする奴は例外なく強い!俺の持論だ!』」

 

 

「『……あなたのお眼鏡に適うなんて、光栄ね』」

 

 

「『HAHAHA!では、早速併走をするとしようか!頼んだぞ、シルバーラビットのトレーナー!』」

 

 

 こうして始まった私達の併走。まぁ、結果としては……私とアンカさんはセクレタリアトさんに1回も勝てなかったのだけれど。基本的に4バ身以内に収まっていたから、上々なのかもしれない。

 

 

「どう?アヤベさん。師匠速いでしょ?」

 

 

「……そうね。あなた、良くあんなのとほぼ毎日併走出来るわね」

 

 

「まぁね……でも、さ」

 

 

「えぇ。そうね……」

 

 

 私達は……お互いの顔を見合わせて笑う。

 

 

「「だからこそ燃える」」

 

 

 壁は高いほど燃える……アンカさん、あなたがいたおかげで分かったことよ。

 パリ大賞を目前に控えた今日。私は……星を見ながら誓う。

 

 

「……見てる?私、明日は世界で走るのよ?強い人達がたくさん出走する。だけど……私が一番に駆け抜けてみせるわ。走れなかったあなたの分も背負って……私は、勝ってみせる」

 

 

 生まれてくるはずだった妹、あの子のために……私は明日のレースを勝ってみせる。あの子のために……私は、楽しんで走らなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 迎えたパリ大賞典。勝負は……フォルスストレートを抜けて、最後の直線に入った。ここで……仕掛ける!

 

 

「ッ!フッ!」

 

 

 全力で、全霊で駆け抜ける。芝は問題ない、スタミナも余裕がある。脚も……まだ全然使える!

 

 

 

 

《さぁ最後の直線だ!泣いても笑ってもこれが最後の攻防!果たしてパリ大賞を制するのはどのウマ娘か!?……おぉっと!ここでアドマイヤアドマイヤ!日本のアドマイヤベガが外後方から猛烈な勢いで上がって来たぁ!これは凄い末脚だ!まさしくその走りは流星のごとく!一等星(ベガ)の名に恥じない素晴らしい末脚!1人、また1人と抜かしていくぞぉ!》

 

 

《アドマイヤベガは終始冷静にレースを展開していたからね!序盤のポジション争いには加わらず、最後方で力を蓄えていたのさ!自分ならこの最後の直線で全員追い抜ける……そう思っていたかもしれないね!》

 

 

《凄まじい自信だな!だが、その豪胆さは嫌いじゃないぜ!さぁ先週のサンダウンで見せたアンカデキメルゼ、そしてサンクルーを制したエルコンドルパサーに続いて日本勢が制するかパリ大賞!残り200m、決着はもうすぐそこだ!》

 

 

 

 

 ただがむしゃらに走っていると……私の景色がひび割れて一変した。まるで、流星のように落ちていく感覚を覚える。

 

 

(あぁ……成程。あなたは……)

 

 

「確かにそこにいるのね……」

 

 

 生まれてくるはずだった妹。妹はこの世にいないものだと思っていた。だけど……ちゃんと、私の中にいて、私を見守っていたのね。

 

 

 

 

領域発現

 

ディオスクロイの流星

 

 

 

 

 私は駆け抜ける。ただ目の前の勝利に向かって。そして……最後のウマ娘を追い抜いて。私はパリ大賞を制した。

 

 

 

 

《1着はアドマイヤ!アドマイヤベガだ!パリ大賞を制したのはアドマイヤベガ!後方からのごぼう抜き!これは実にエキサイティングな勝ち方だ!そしてアドマイヤベガはこれがG1初勝利!おめでとうアドマイヤベガ!》

 

 

《おいおい!?彼女程の実力者がG1取ったことないだなんて、日本は魔境かい!?どう見てもクラシックの1つや2つは固い実力だろ!》

 

 

 

 

 荒い呼吸をしながら、必死で息を整える。

 

 

「ハァ……ハァ……ッ!」

 

 

 掲示板を見て、私は……自分が1着で駆け抜けたことを改めて確認した。

 

 

「~~ッ!」

 

 

 思わずガッツポーズ。らしくないけど、たまにはいいわよね?

 

 

(ちゃんと、私の中で見てた?私、勝ったよ。世界を相手に、私は……ッ!?)

 

 

 瞬間、左脚が痛んだ。鈍く、それでいて無視できない痛みが私の左脚を襲う。けど、それも一瞬のこと。

 

 

「……?」

 

 

 良く分からない。けど……無視はできない。後で、医者に行く必要があるわね。

 ひとまず私は、観客席にいるみんなに控えめに手を振る。……アンカさんに言えた義理じゃないわね。私も。

 

 

(次走も……考える必要があるわね)

 

 

 特に決めてはいない。ただ……もう一度アンカさんと競いたい。だから、走るとすれば……セントレジャー。私も、挑戦してみようかしら?




あ、アヤベさんに不穏な影が。
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