今日も楽しく安価だ!   作:カニ漁船

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湧き上がる悲鳴。なお当の本人。


安価ウマ娘と凱旋門賞決着!

 

 

(あぁ……やっぱり……)

 

 

「こうなってしまうのね……」

 

 

 ワタシは、そう呟く。セントレジャーの呪いは、クレイジーラビットに、アンカデキメルゼにとって……最悪の形で降り注いだ。

 時間にしてコンマ数秒という刹那の時間かもしれないし、1秒や2秒といった致命的な出遅れだったかもしれない。ただ確実に言えることは……逃げウマ娘のアンカデキメルゼにとって、この凱旋門賞を勝つことはほぼ不可能になったということだ。

 

 

 

 

《各ウマ娘が坂の頂上である第3コーナーのカーブへと入ります!先頭を走るのはエルコンドルパサー!14人のウマ娘を引き連れてエルコンドルパサーが先頭を走っている!2番手との差はおよそ3バ身から4バ身程でしょうか?tres lourdということを考慮すると全体的に速めのペースで動いています。2番手はチンギスカン、中にはタイガーヒル。そして内の好位置にモンジューがついております。モンジューはこの位置だ。そして……最後方にポツンと1人アンカデキメルゼ。集団からは5から6バ身、下手をするともっと離れているでしょうか?アンカデキメルゼ。その表情はいつもと変わらないポーカーフェイス。しかし心なしか焦りが生まれているようにも感じます!これがセントレジャーの呪いなのか!?セントレジャーの呪いが、アンカデキメルゼに降り注いだのか!?》

 

 

 

 

 他の子達は、アンカデキメルゼを逃げさせないように全体的に速めのペースで動いている。それも序盤から。あれではアンカデキメルゼが逃げることはできないだろう。それにこの不良バ場……他のウマ娘も走り辛そうにしている。それは、アンカデキメルゼも例外じゃない。ファンからは悲鳴と、落胆の声が広がっていた。

 

 

「『セントレジャーの呪いが、こんな形で来るなんてよ』」

 

 

「『一番得意なの逃げだったんでしょ?もう……無理よ』」

 

 

「『やっぱ、呪いを解くなんて無理だったんだよ』」

 

 

 拳に、力がこもる。ワタシが……ワタシが!もっとうまくやれていれば……!

 出遅れた理由は定かじゃない。でも……もしかしたら、気合が入りすぎるあまり、気負い過ぎたせいで出遅れたという可能性もある。そう考えたら……ワタシ自身を、責めてしまう。

 

 

(あの子にまで、背負わせてしまった……!この呪いを、ニジンスキーの呪いを……!)

 

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……!」

 

 

 口から漏れ出たのは謝罪の言葉。アンカデキメルゼに背負わせてしまった、彼女の身に呪いを降り注がせてしまった己に対する不甲斐なさから。自然と口から謝罪の言葉が漏れ出ていた。謝ったところでどうしようもない、だけど、ワタシが彼女の無敗記録を汚してしまったことを考えると……謝るだけじゃすまないことだ。

 アンカデキメルゼが追い込みで走れることはファンにとっては周知の事実。だけど……()()()()()()()()()()()()()()()()()だからこそ、この追い込みという状況では……彼女の強さを発揮することができない。だからこそ、ファンは悲鳴を上げていた。

 自責の念に駆られている、そんな時だった。

 

 

「『あぁ!そういうことか!成程成程、合点がいった!いやはや、お前さん達が焦ってない理由が分かったぜ、シルバーラビットのトレーナー!』」

 

 

 先程まで険しい表情をしていたセクレタリアトが、唐突にそう笑った。何を、笑っているのかしら……コイツは!

 

 

「『……あなた、仮にも自分の弟子がピンチなのよ?何を笑ってるのよ!』」

 

 

「『ピンチィ?あぁ、お前の目にはそう映るのか!というか、勝利を期待してないんじゃなかったのか?ニジンスキー』」

 

 

「『黙りなさい!このままじゃアンカデキメルゼは……』」

 

 

「『あぁ……()()()()()()()()()()()()()()』」

 

 

「『……は?』」

 

 

 素っ頓狂な声を上げる。思わず、アンカデキメルゼのトレーナーに目を移した。彼女のトレーナーは……薄く笑っていた。それがワタシには、酷く不気味に見えた。

 

 

(何?何を隠しているの……!?)

 

 

「『まぁ黙って観とけニジンスキー!……お前のくだらねぇ呪いなんざ、俺の弟子がぶっ壊してやるからよ』」

 

 

 セクレタリアトは自信に満ちた表情でアンカデキメルゼを見る。弟子の勝利を信じて疑わない、そんな目だった。

 アンカデキメルゼはフォルスストレート*1に入っても前との差を詰めていない。差は10バ身ぐらいは開いてるんじゃないか?って思うぐらい。こんな状況とこのバ場で……果たして勝てるのか?そう思わずにはいられない。

 だけど……何を見せてくれるんだろうか?そう、期待せずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エルコンドルパサーは、自身の作戦が気持ちいくらいにハマっているのを実感していた。

 

 

(バ場のコンディションは最悪……だけど、エルのコンディションは最高デス!これなら……いけます!)

 

 

 エルコンドルパサーが最初に立てていた作戦は……逃げるアンカデキメルゼの後ろにつける先行策に出ること。中盤は脚を溜めて、最後の直線で躱して突き放す……そんな作戦を取ろうとしていた。おそらく、他のウマ娘もそうだっただろう。

 だが、肝心のアンカデキメルゼは……この大舞台で痛恨の出遅れをしてしまった。理由は定かではないが、1秒を越えるほどのロスがあったのは事実であり、アンカデキメルゼは結果的に……かなりの不利を背負うことになった。そしてアンカデキメルゼを逃げさせたらヤバい。それはこの凱旋門賞に出走しているウマ娘達にとっては周知の事実。

 アンカデキメルゼというウマ娘はどこでも走ることができる。だが、一番その強さを発揮できるのは逃げ……それが共通認識だった。だからこそ、この出遅れを利用しない手はない。アンカデキメルゼを逃げさせないために、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

(けど、エルのスタミナも……脚も!十分に残っています!世界の頂点、最強の称号を手に入れるためにも……)

 

 

「エルは絶対に……負けまセーン!」

 

 

 

 

《さぁフォルスストレートを抜けて最後の直線へと入りました!アンカデキメルゼはまだ最後方!しかし徐々に差を縮めております!だがさすがに苦しいか!?先頭を走るのはエルコンドルパサー!アンカデキメルゼの勝利がなくなった今、日本の期待を背負ったエルコンドルパサーが最後の直線を先頭で駆け抜けている!》

 

 

 

 

 

 

「……ッ!見えた!アタシが目指していたゴール!」

 

 

 エルコンドルパサーの視界が開ける。パリロンシャンレース場の最後の直線に入っていた。

 息も上がっていない、脚も十分に残している。この状況なら……勝てる。そう確信していた。

 

 

「世界最強を証明するゴール!このまま一気に……決めマース!」

 

 

 そしてエルコンドルパサーはスパートをかけた。後続を突き放しにかかる。

 

 

 

 

《エルコンドルパサーがここでスパートォ!後続を突き放しにかかります!栄光の凱旋門賞はもうすぐだエルコンドルパサー!これは強い!アンカデキメルゼだけではない、エルコンドルパサーもいる!後続を一気に突き放そうとしている!デイラミは少しもたついているか?デイラミはまだ伸びてこない!残り200m!アンカデキメルゼは、アンカデキメルゼは……ッ!?》

 

 

 

 

 このままいけば勝てる。そう思っていたエルコンドルパサーに襲い掛かったのは……。

 

 

「これが……日本のウマ娘の実力か!」

 

 

 僅かな隙。ほんの僅かに開いたバ群を縫うように現れた、モンジューだった。

 モンジューはエルコンドルパサー以上の脚で追い上げてくる。この不良バ場をものともしない脚でスパートをかけた。

 これにはエルコンドルパサーも動揺する。そして、彼女の脳裏に浮かんだのは……このままいくと敗北する、そういう直感だった。

 

 

(もう、少し……!もう少しデス……!もう少しで、待ち望んだゴールが……ッ!)

 

 

「世界最強のゴールが……待っているんデス!負けられるかぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 裂帛の気合いを入れてエルコンドルパサーもスパートをかける。だが、モンジューはそれ以上の脚で迫っていた。

 

 

「強いな、エルコンドルパサー。世界とは……広いのだな。君のようなウマ娘と戦えたことは、私にとっても財産になるだろう……。だが、勝つのは私……ッ!?」

 

 

 モンジューは、強烈な気配を外から感じた。思わずそちらを見ようとするが……集中力を切らすとエルコンドルパサーに逃げ切られてしまう。そう考えて一瞬ためらってしまった。だが……この気配は無視できないとして、自身の外側へと視線を向ける……

 

 

「……は?」

 

 

 それが、誤りだった。

 

 

「……え?」

 

 

「う……そ……?嘘でしょッ!?」

 

 

「『おい、そんなことがあり得るのかよ……ッ!』」

 

 

「『こ、こんなことが……こんなことって……っ!』」

 

 

 観客席からは戸惑いの声。それと同時に、歓喜に震えるような声が上がっていた。

 

 

 

 

《え、え。え?え、え!?こ、これは……ッ!これはぁっ!》

 

 

 

 

 実況も、ようやく我に返ったのか声を上げる。モンジューが、パリロンシャンレース場の観客が目にしたのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銀色の閃光(アンカデキメルゼ)が、大外をぶん回して自分(モンジュー)達に並んでいる姿だった。

 

 

 

 

《お、おぉ大外からアンカデキメルゼ!?外ラチいっぱい!アンカデキメルゼが上がってきていたぁぁぁぁぁぁぁ!?し、信じられない!?い、いつの間に上がってきていたんだアンカデキメルゼ!アンカデキメルゼが、最後方にいたはずのアンカデキメルゼが気づいたら先頭争いに加わって……!?な、並ばない並ばない!あっという間にモンジューとエルコンドルパサーを抜き去った!エルコンドルパサーもモンジューも必死に追走する!だ、だが……アンカデキメルゼはまるで意に介していない残り100m!し、信じられない!他のウマ娘は不良バ場で思ったように伸びていない!だがアンカデキメルゼは……アンカデキメルゼだけは!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 エルコンドルパサーとモンジューの心はシンクロする。信じられないという気持ちだ。

 

 

(う、嘘でしょ!?いつの間に上がってきてたんデスか!?)

 

 

(ま、全く気配を感じなかった……!気づけば、抜き去られていた!)

 

 

 戸惑いが生まれるも、このままいけば負ける。そう思い2人とも全速力で駆け抜けているが……アンカデキメルゼには追いつけないばかりか、むしろ離されていく。まるで、1人だけ良バ場で走っているかのように脚色は衰えない。

 

 

 

 

《アンカデキメルゼ!アンカデキメルゼだ!セントレジャーの、ニジンスキーの呪いさえもねじ伏せる!ニジンスキーの呪いなんてものは存在しない!その姿はまさしく銀色の勇者!日本から来た挑戦者が、英雄が!勇者が!ニジンスキーの呪いを断ち切る!剛脚一閃!その姿はまさしくかつて凱旋門賞を制したダンシングブレーヴのごとく!恐ろしい切れ味、凄まじい末脚!これはもう決まった!完全に決まった!日本の悲願が叶う時!》

 

 

 

 

 その結果……アンカデキメルゼは、出遅れという不利を背負いながら。出走している全てのウマ娘と見に来たファンの不安を嘲笑うように……凱旋門賞を制した。

 

 

 

 

《アンカデキメルゼ!アンカデキメルゼが1着だ!アンカデキメルゼが凱旋門賞を制した!日本の悲願を、ニジンスキーの呪いを!2つのジンクスを一閃のもとに切り伏せたアンカデキメルゼ見事ぉぉぉぉぉぉぉ!そしてゴールしたアンカデキメルゼは……ッ!フロントフリップ!バタフライツイスト!ウェブスターからの……コォォォォォォクスクリュゥゥゥゥゥゥゥゥ!これは見事なアクロバット!まるで問題ないとばかりにアクロバットを決めて……人差し指を天高く掲げている!勝者は自分だ!日本の悲願を叶えたのも、ニジンスキーの呪いを断ち切ったのも!自分だとばかりに指を掲げている!勝ったのは、凱旋門賞ウマ娘に輝いたのは!アンカデキメルゼだぁぁぁぁぁぁぁ!》

 

 

 

 

 他のウマ娘達が続々とゴールしてくる。モンジューもエルコンドルパサーも息が上がっていた。だが、それよりも……2人はアンカデキメルゼに聞きたいことがあった。

 

 

「アンカちゃん……ッ!」

 

 

「アンカデキメルゼ……」

 

 

 アンカデキメルゼは2人にゆっくりと向き直る。いつもと変わらない無表情、本当に勝利を喜んでいるのだろうか?そう思わせるぐらいには見事なポーカーフェイスだった。

 

 

「これはこれはエルコンドルパサー先輩にモンジューさん。僕に何の御用で?」

 

 

 おどけたようにそう言うアンカデキメルゼ。だが、そんなことお構いなしにエルコンドルパサーは問いかける。

 

 

「どうして、デスか?」

 

 

「……質問の意図が分かりませんね。何の話です?」

 

 

「アンカちゃんは!逃げが最適性のはずデス!だって、アンカちゃんは日本ダービー以降ずっと逃げで走ってました!それは、逃げで走るのが一番実力を発揮できるって気づいたから!逃げでワールドレコードだって樹立しましたし、逃げが最適性のはずなんデス!」

 

 

「……私も、エルコンドルパサーに同意見だ。確かに追い込みもできるかもしれないが、何故逃げで走らなかった?出遅れが響いたのもあるだろう。だが、逃げた方が君にとって……ッ!」

 

 

 言いかけて、モンジューは気づく。もしや……自分がとんでもない思い違いをしている可能性に。

 

 

「……あぁ、そういうことですか。なら、話は単純ですよ」

 

 

 アンカデキメルゼは淡々と事実のみを告げる。それは……モンジューが思い至った、可能性の話。

 

 

(このウマ娘は……もしや!)

 

 

「僕にとって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だから……別に逃げるのが一番得意ってわけじゃないんですよ」

 

 

 アンカデキメルゼにとって、逃げで走ることと追い込みで走ることは大して変わらないという事実。逃げと追い込み、両方が最適性なのだという可能性に……モンジューは思い至り、そしてアンカデキメルゼからその事実を突きつけられた。

 モンジューは、レース前にデイラミから言われたことを思い出す。

 

 

『クレイジーラビットに気を付けろ……この凱旋門賞で勝つなら、この言葉を覚えておきたまえ』

 

 

「……ッ!」

 

 

(こういう……ことか!)

 

 

 まんまと彼女に騙された……ッ!海外で走ってきた今までのレースは、全て布石……!彼女と、彼女のトレーナーが仕込んだ、逃げのみでしか走らないという認識を刷り込ませるための……布石だった!モンジューの脳は、そう認識する。

 アンカデキメルゼは、モンジューとエルコンドルパサーに恭しくお辞儀をする。まるで、ショーを見せたピエロのように。

 

 

「みなさん、気持ちいいくらいに騙されてくれましたね?この、道化のレース運びに」

 

 

 礼をした後、彼女はターフを去っていった。モンジューは、強く拳を握る。

 

 

「これが……世界……ッ!」

 

 

 下手をすれば……あの出遅れ自体も、仕込みだったのかもしれない。我々を欺くための、演技!そう考える。

 モンジューの心は昂っていた。かつてないほどの強敵の存在に、歓喜に打ち震えていた。

 闘志を漲らせているのはモンジューだけではない。

 

 

「……これ以上、負けてられません!日本に戻ったら、特訓デス!」

 

 

 エルコンドルパサーも、闘志を漲らせていた。それは他のウマ娘も同様である。

 そして渦中のアンカデキメルゼはというと……

 

 

(ちょっと待って?なんか後ろからめっちゃ睨まれてない?僕。闇討ちでもされんの!?ヤダヤダ勘弁してよ!調子乗り過ぎたの謝るからさ!土下座するから許してよ~!?)

 

 

 多数のウマ娘に睨まれているという事実に耐えられず、足早にターフを去っていった。なお、他のウマ娘はアンカデキメルゼに悪い感情を抱いているわけではなく、今度こそは勝ってやるという意志で睨みつけているだけである。つまるところ、アンカデキメルゼの勘違いだった。

*1
偽りの直線。真っ直ぐだけど最後の直線じゃないみたいなそんな感じの直線




決着ゥゥーーーーーッ!!
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