どうやらチームを結成すると部室なるものが与えられるらしい。今僕はそんな部室にいるわけだが……。
「それじゃあ!みんなで早速自己紹介しましょう?」
「「……」」
「まぁ我々はほぼ初対面だからね。自己紹介をした方が良いか」
「「……」」
「それよりも、この2人の圧が凄いんですけど……」
ハッハッハ、誰のことですかね?……はい、僕です。仕方ないでしょ!タキオンはまだいいにしても、ほっとんど顔知らないですもん!緊張しますし!というか、この前食堂で絡んできた子、僕が所属してるチームに入ることにしたんだ。
まぁこの緊張感の原因となっているのは2人いる。僕ともう1人……褐色肌の凄い大柄なウマ娘。長い黒鹿毛を二房に分けて垂らしている。凄いね、うん。圧が凄い。思わずこの場から逃げ出したくなるくらいには。
「ほら、クリス?みんな委縮してるよ?もっとリラックスしないと」
「──そんなつもりは、ない。──だが、sorry……すまない」
クリスと呼ばれたそのウマ娘さんは丁寧に頭を下げた。こっちもなんだか申し訳なくなってくるな……。
師匠とコーチはいないし、トレーナーさんもいない。いるのは僕達だけだ。強いて言うなら全身黒いスーツ姿のSPっぽい人が何名かいるぐらい。そして、ここにいるみんなは僕とタキオンを除いてほぼ初対面……なので、クローバーさん(仮称)の提案の下自己紹介をすることになった。
勢いよく先陣を切ったのは……クローバーさんだ。
「それじゃあ、まずは私からね!私はファインモーション!みんなで素敵な思い出を一緒に作りましょうね?仲良くしてくれると嬉しいなっ」
ぎゃあああぁぁぁぁぁ!?陽キャのオーラで浄化されるぅぅぅぅぅぅ!
「……なんでアンカ君はダメージを食らっているんだい?」
「さぁ……?」
陰キャには陽キャのオーラがきつすぎる……!流石に僕も陽キャになりつつあるとはいえ、それでも僕の根っこは陰キャ!唐突な陽キャのオーラは死に直結する!
そんなわけでこのクローバーさん……ファインモーションさんは実はデイラミさんの紹介で入部してきた方です。
『彼女の姉上は妹君である彼女のことをいたく心配している……だから、是非とも君が担当してはくれないだろうか?我が愛しのプリンセス、アンカを担当している君ならば悪いようにはならないだろうし、実績も申し分ない。向こうも安堵するだろうからね』
……どういうコネクションがあるんだろう?謎だ。
「さて、次は私といこうか。私はアグネスタキオン、ウマ娘がどこまで速くなれるかを日々探求しているしがないウマ娘さ。ちなみにモルモット募集中だよ」
「本当?じゃあ私が……」
「おやめください、殿下」
あ、ファインさんがSPの人に止められて不服そうにしている。タキオンは相変わらず怪しげな笑みを浮かべてます。
そして次は、カフェテリアで僕に絡んできたウマ娘さん。笑顔を浮かべて自己紹介を始めました。
「北の湖から飛んできた、紙の翼の渡り鳥!苫小牧ロコドル、ホッコータルマエだべ!苫小牧は良いとこ、是非来てほしいべ!」
なんだろう、初めて会った時となんか違くない?ファインさんはパチパチと手を叩いているけど。僕はそっちの方が疑問だった。でも突っ込むのも野暮ってもんでしょ?僕はそういうのに詳しいんだ。
でもすごく堂に入ってる。ロコドルって確か……ローカルアイドルのことだったかな?ということはタルマエさんは苫小牧のロコドルってことか。
そして残ったのは……僕と、クリスさん(仮)だけだ。
「「……」」
お互いに何も喋らない。なんというか、クリスさんの圧が増してきて身体が震えそうだぜ……!
「──シンボリクリスエス。私には、成すべき使命がある。その使命をただ──遂行するのみ」
と、思いきや普通に自己紹介した。どうやらクリスさんはシンボリクリスエスさんというらしい。見た目も相まって圧が凄い。それはもう凄い。会長さん並にすごい。どうやらあまり多くは語らないタイプのようだ。
さて、クリスエスさんが自己紹介したということは……残ったのは僕1人である。ぶっちゃけ緊張でヤバいけどやらないわけにはいかないので……、立ち上がって、自己紹介をする。
「アンカデキメルゼ。今更語る必要などあるか?いいや、あるまい。それだけだ」
……盛大にやらかしたぜ!グッバイみんなとの仲良し生活。ようこそチームから孤立したボッチ生活。
そう思っていたのもつかの間。
「よろしくねアンカ!チームメンバー同士、仲良くしましょ?」
ファインさんに手を掴まれる。なんだこの人?神的に良い人か?聖母か何かで?
「──師父、いや、アンカ。──get along well、仲良く、してくれると──嬉しい」
「……師父とはなんだ?」
「──シンボリ家への恩を返す。日本の、レースを盛り上げる。私が──成すべき使命。mission──それの師父に最適なのが、あなただと判断した」
「確かにアンカ君のレースは大盛り上がりしているからねぇ。目指すべき目標としては最適な訳だ」
そう言うもんですかね?
「アンカさんの背中を見て、私も強くなるんだ……!そして、苫小牧に活気を取り戻すぞー!おー!」
タルマエさんはタルマエさんでなんか盛り上がってる。
「それじゃあ、練習始まるまでみんなでお話しましょう?私、みんなのこと興味あるな!」
「じゃあじゃあ!私が苫小牧の話を……」
「それよりもアンカ君のデータに興味深いものがあってねぇ。それを……」
「「……」」
ファインさん達が好き勝手話している中、僕はクリスエスさんと顔を見合わせる。2人して笑みを零した。多くは言わずとも、何となく分かる。
しばらくみんなが話しているのを聞いていると、トレーナーさん達が帰ってきた。
「ただいまー。みんな楽しそうだね、打ち解けられたかな?」
「お楽しみのところ悪いけれど、練習を始めるわよ。みんな準備して」
「給水用のボトルやタオルはヴィッパーが準備している!さぁ、練習の始まりだ!」
僕達は練習に向かった……までは良いんだけど。
「師匠!僕だけなんかおかしくないですか!?」
「安心しろ我が弟子!そのメニューは俺とニジンスキーとお前のトレーナーが丹精込めて作ったメニューだ!お前なら耐えられる!」
だからって特別製の蹄鉄にクソ重たいアンクルを着けてソリを引かせるのはどうかと思いますよ師匠!
「みんなはこっちのメニューね。個別個別にちゃんとしたメニューがあるから。あ、そうだクリスエス。君のメニューはこんな感じなんだけど……どうかな?できる限り君の負荷限界を攻めてみたんだけど」
「──No problem、問題ない。このメニューで──行こう」
「タルマエはこっちね。タルマエはダート路線で走る予定だから、パワーを重点的に鍛えようか」
「わ、分かりました!私、頑張ります!」
「殿下は「ファイン!ファインって呼んで!じゃないと拗ねちゃうんだから!」……ファインはこんな感じなんだけど」
「拝見します……成程、良いメニューかと」
SPの人が答えるんだ。さすがはお姫様って気がする。本人の人柄かそんな気は全くしないけど。
「タキオンはこれね。身体作りも大分できてきたし、もうそろそろデビューしてもいいかな?」
「ふぅン。君達のおかげで私のデータも大分集まったからねぇ。さらなる高みへと進もうじゃないか!」
「無論、トレーニングはワタシ達も手助けするわ。何事も効率よく……強くなるために、頑張っていきましょう」
「さぁて!ビシバシしごいてやるからな!今日からトレーニング頑張るぞ!」
「「「おー!」」」
「アンカは菊花賞があるから。それの調整も視野に入れて練習しようか」
「分かっているさ」
よくよく思い返せばもうすぐで菊花賞だった。久しぶりに日本で走るからなぁ。頑張らないと!
「……それじゃあ、アヤベさんは菊花賞には出ないんですね」
「えぇ。脚は完治してるけど……さすがに復帰戦で菊花賞を走れるレベルには達していないわ。だから別のレースを使うつもりよ」
海外遠征から帰ってきたアヤベさんとの会話。アヤベさんは、菊花賞を走らないみたいです。
「だとすれば……アンカちゃんは?」
「まぁ出てくるでしょうね」
アヤベさんはあっけらかんと言い放つ。アンカちゃんは、チャンピオンステークスからの中0週……また連闘だ。長旅なのもあって、疲れも出ているはず……だけど。脳裏に浮かぶのは、日本ダービーの景色。疲れていると見せかけて、大逃げをしたあのレースが、頭にちらつきます。
「……言っておくけど、あの子には全力で勝負を挑まないと戦いの土俵にすら上がれないわよ」
「大丈夫です。さすがにそれは分かってます」
「そ。ならいいけど」
それからアヤベさんと別れて……1人で考える。次に浮かんできたのは、トレーナーさんの言葉。
『今のアンカデキメルゼは……隙がねぇ。どんなバ場でも走れるし、どんな距離でも走れる、どこからでもスパートをかけられる。どんな戦法を取ってくるか予測がつかねぇ、先行・差しで走る可能性も0じゃねぇ……厄介なことこの上ねぇな』
今のアンカちゃんには……隙がないというもの。だけど!
「いつか頂点へと至るために……ナリタトップロード、頑張ります!」
京都新聞杯も無事に勝ちました。私の弱点だった、小回りが苦手っていう弱点も克服しつつあります!だから……菊花賞は勝たないと!
みんなが私のために頑張ってくれてます。期待を寄せてくれています!だから、気合入れて頑張るぞー!
……さて。どうするべきだろうか?
「熱心ね、オペラオー。アンカデキメルゼの研究?」
「やぁやぁおハナさん!そうとも、対戦相手の研究は大事だからね!」
気づけばおハナさんが来ていた。ボクは一旦ビデオを止めようとして……おハナさんに続けるように促される。そういうことなら、遠慮なくみようか。
映像は、アンカ君のセントレジャーステークス。アヤベさんの末脚も凄いが……アンカ君もまた凄い。
「ドンカスターの長い直線を全力疾走……恐ろしいスタミナね」
「それでこそアンカ君だ!ボクが超えるべき目標!」
「あなたはいつも通りねオペラオー……京都大賞典は、アレだったけど」
「ハーッハッハッハ!アレはマークする相手を間違えたからね!我ながら課題が多く残るレースだったよ!」
正直あまり思い出したくないレースだ。だけど、目を背けるわけにはいかない。ボクの未熟さゆえに負けてしまったレースなのだから。
おハナさんが心配そうにボクを見る。
「……アンカデキメルゼに勝てるビジョンは見えるかしら?」
「おハナさん、戦う前から負けるつもりでいる愚者はいないよ」
「……そうだったわね。忘れてちょうだい」
「ただ、本音を言うならば……勝てる気はしないね。今の彼女はまさしく最強だ。疑いようもないだろう」
それは認めなければならない事実。今の彼女には……アンカデキメルゼには。ボクの実力じゃ遠く及ばない。
「オペラオー……」
「だからこそ、彼女との対戦を、強者との対決を糧にする。クラシック級は、それに徹しようじゃないか!」
「……クラシック級のレースを、捨てるということかしら?」
「さすがに負ける気ではいかないさ!だが……強者との対戦を糧にして、ボクは這い上がる。自分に足りないものを見つけて、いつか必ず……ボクは魔王を下す覇王になる」
感情が昂る。いつかアンカ君を倒すその日のために……今はこの苦汁を甘んじて受け入れよう。
「オペラオー……あなたっ」
「今はまだ道化の魔王のステージさ。だが……どの舞台にもカーテンコールは訪れる。いつか必ず、覇王であるこのボクが!世界というステージを支配する!そのために……おハナさんにお願いがあるんだ」
「……なにかしら?」
「ルドルフ会長やマルゼンスキー先輩との併走を許可して欲しい。それだけじゃない……リギルの先輩方との併走をお願いしたい」
おハナさんは目を見開く。だけど、最終的には……頷いた。
「分かったわ。だけど……あなたの身体が最優先よ。それだけは覚えておいてちょうだい」
「分かっているとも!怪我をしたら元も子もないからね!」
おハナさんは退出して、ボクはビデオに集中する。
アンカ君、今はまだ君に届かない未熟な覇王だ。だが……いつの日か必ず!
(キミを越える高みへと至る……そのためなら、どれだけの苦汁を飲まされることになっても構わない!ボクは世紀末覇王……テイエムオペラオーなのだから!)
無論アンカ君だけじゃない。アヤベさんやトップロードさん。それに……ドトウもいる。彼女らにも負けるわけにはいかない。
さて、菊花賞……楽しみになって来たね!
Q.選出理由は何ですか?
A.私の趣味です。