ブリーダーズカップ──。アメリカだけではなく、世界というくくりで見ても最高峰に位置するレースの総称。1日にG1相当のレースをいくつも行い、その日アメリカでは熱狂の渦が巻き起こる。世界中から強豪達が集まり、覇を競いあう。まさに、ウマ娘が走るレースの祭典。この日を楽しみにしない国民はいないと言われるほどである──
「……という認識なんですけど合ってますか?トレーナーさん」
「うん。合ってるよタルマエ」
「凄い熱狂!真夏みたいに暑いね!」
ファインの言う通り、ガルフストリームパークレース場はかなりの熱気に包まれている。かなりの大盛り上がりだ。
「アンカ君が走るBCクラシックは最後だ。そして、ほぼ全てのプログラムが終わり……残すところは」
「──スズカとデイラミが、出走する。BCターフ」
「そうね。残すところ2レース、最後まで余すことなく見なさい。必ず、あなた達の糧になるから」
ニジンスキーさんの言葉にみんなが頷く。
しばらく待っていると、BCターフに出走するウマ娘達の入場が始まった。続々とターフに姿を現す。
「BCターフで最注目されているのは……やっぱり、デイラミだね。凱旋門賞は着外に沈んだけど……アイリッシュチャンピオンステークスの11バ身差圧勝は記憶に新しい。マンノウォーステークスも勝ってるから、今回の1番人気だね」
「その対抗とされているのが、アーリントンミリオンステークスの覇者サイレンススズカね。今回のBCターフはこの2人が評価を2分しているわ」
「後は前回のBCターフの覇者バックスボーイとマンノウォーステークスを制したヴァルズプリンス。特に注目されているのはこの辺かな?」
「それを踏まえた上で……トレーナーさんは誰が勝つと思うです?」
ヴィッパーからの質問。ちょっと考えて……俺は結論を出す。
「……デイラミ、かな?」
そう答えた瞬間ヴィッパーは思いっきり顔をしかめた。どれだけ嫌いなのさ、デイラミのこと。そんなデイラミはというと……何やらサイレンススズカと話をしているようだ。会話の内容は聞こえないが、デイラミは楽し気に、対称的にサイレンススズカは懐疑的な目を向けているように思える。
「……まぁ、あんなでも実力は本物です」
「あんなでもって」
「確かに!デイラミ様は強いからね!お姉さまも勝てるかどうか怪しいって言ってるくらいだから!」
「HAHAHA!それにしても……凄い熱気だ!やっぱレースってのはこうでなくちゃな!」
そう話していると、ウマ娘全員の入場が終わっていた。続々とゲートへと入っていく中、実況のマイクが聞こえてくる。
《さぁさぁ!ここガルフストリームパークレース場のボルテージは上がりに上がりまくっているぜぇぇぇぇぇ!次なるレースはBCターフ!世界中から集まってきたウマ娘達がこの会場芝12ハロンで競い合う!3番人気の紹介から行こうか!3番人気はヴァルズプリンス!歴戦の兵はこのレースでどのような展開を見せるのか!?2番人気は日本からのチャレンジャーサイレンススズカ!甘く見るなよ?彼女の大逃げはアーリントンミリオンステークスで実証済みだ!快速自慢の逃亡者は果たしてこのレースでもその逃げを炸裂させるか!?そして1番人気だ!1番人気は欧州最強の肩書を背に!このアメリカにやってきたデイラミだぁぁぁぁぁぁ!その出で立ちはまさしく葦毛のプリンス!会場にいる彼女のファンはメロメロなこと間違いなしだろう!今回のBCターフのバ場はFirmと発表されている!》
そして最後のウマ娘がゲートに入った。あれほど盛り上がっていた会場が、一気に静まり返る。そして──ゲートが開いた。
《芝12ハロンの激闘を制するのはどのウマ娘か!今全てのウマ娘がゲートに入って……ゲートが開いたぁ!BCターフの開幕だぜぇぇぇぇぇ!まずハナを取るのは……やっぱりこのウマ娘だ!日本が誇る栗毛の逃亡者サイレンススズカ!サイレンススズカが抜群のスタートを決めてハナを奪った!他のウマ娘は……様子見に徹する!だが、見逃し厳禁だぜ?栗毛の逃亡者はそのまま逃げちまうかもしれないからな!2番手はデイラミか?いや違うなバックスボーイだ!バックスボーイがいく!3番手にデイラミだ!デイラミは3番手!》
ハナを取ったのはやっぱりというかサイレンススズカだ。ハナを奪ってそのままグングンと差を開いていく。
「『きたきたぁ!サイレンススズカの大逃げ!』」
「『今日も逃げてくれよー!サイレンススズカー!』」
会場からレース前と同じように歓声が湧き上がる。サイレンススズカは現在……2番手のバックスボーイに5バ身はつけようかとしている。ただ、バックスボーイもただ離されるだけじゃない。楽に逃げさせまいと食らいついている。そんな中、1番人気のデイラミは先行集団に位置している。
俺はレースを黙って見守る。果たしてBCターフはどういった結末を迎えるのか。
《ゲート最内から飛び出したサイレンススズカが逃げに逃げている!だがアーリントンミリオンステークスよりは離れていないおよそ5バ身程!流石に対戦相手も研究をしているのだろう!展開はハイペースで進んでいるぞBCターフ!サイレンススズカを楽に逃げさせない!しかしそれで栗毛の逃亡者を捉えることができるか見ものだ!レースはすでに第3コーナーを回ったところ!隊列は変わらず2番手はバックスボーイ、3番手デイラミがわずかに上がってきているか?デイラミと並ぶようにコーティエスここは変わらない!サイレンススズカ以外の隊列は固まっている団子状態!……いや!デイラミが集団から抜け出そうと上がってきている!他のウマ娘も負けじと競り合うか?サイレンススズカとの差も徐々に縮まるぞ!》
私は、いつものように逃げている。いつもと変わらない、私だけの景色を見るために。先頭に立って逃げている。だけど……頭によぎるのは、レース前の会話。
『記者会見ぶりだ!栗毛の逃亡者よ!今日はよろしく頼むよ』
『えぇ。よろしく……』
デイラミさんが私に話しかけてきた。それも、凄く楽し気に。それ自体は別に構わない。だけど……。
『君のレース映像は見させてもらったよ……あぁ!とても美しいね!』
『は、はぁ……』
『速さを追求する美学……レースの定石なんてものは関係ない、ただ己が衝動のままに駆け抜けるその姿!賞賛と尊敬を感じずにはいられない!やはり、君も素晴らしいウマ娘だ!サイレンススズカよ!』
一見すると私を褒めるために来たのだろうか?と思えるその言動。だけど彼女の眼は……私を静かに、獲物を捕食するかのように見据えていた。あの時は、うすら寒いものを感じたわね。デイラミさんというウマ娘の……底知れない強さを。
『……さて、あまり無駄話をするのも良くないね。今日はお互いにベストを尽くそうじゃないか』
そのままデイラミさんは去っていった……。
《第4コーナーのカーブに入ろうかというところで……!さぁここでデイラミがさらにギアを上げ始めた!他のウマ娘もつられるようにギアを上げるがデイラミが抜けて速い!デイラミがあっという間に集団から抜け出した!最内をついてデイラミが上がっていく!先頭のサイレンススズカを捉えるためにグングン加速していくぞ!サイレンススズカとの差は4バ身!3バ身!さらに縮まっていく!》
気づけばもう第4コーナーに入ろうかというところに来ている。後続との差は……徐々に詰まってきている。だけど、関係ない!
(私は私のレースをするだけ……!私の、私だけの景色を見るために!)
第4コーナーの終わりが見えてきた!後はこのまま……私だけの景色に!
……え?ど、どういうこと!?私の、私だけの。先頭の景色が……!
「『いつもの景色が見えてこない……そんな風に考えているのかい?栗毛の逃亡者』」
声のした方を、思わず見てしまう。そこにいたのは……!
「デイ……ラミ、さん!」
「『レース前ぶりだね栗毛の逃亡者。後ろから見ていたが……やはり君は素晴らしい美学を持っているようだ!』」
デイラミさんは、いつの間にか私の半バ身差まで迫っていた!第4コーナーを抜ける。僅かに私が前だけど……!このままだと!
《第4コーナーの終わり際でデイラミがサイレンススズカを捉えたぁ!デイラミが上がっていくぞやはり欧州最強は伊達ではない!他のウマ娘も徐々に差を縮めているがこれは間に合うかどうか分からない!これはデイラミとサイレンススズカの一騎打ち!しかしデイラミがわずかに有利か!?》
まずい……!このままだと!
「『速さを追求する美学……他の追随を許さない、その圧倒的な速さ!あぁ、思わず焦がれてしまいそうだ!』」
「なに……をっ!」
「『だが、すまない栗毛の逃亡者よ。私は……その大逃げをアンカで『経験』した。そして、二度と大逃げに負けないために君を『研究』した。ゆえに、君を封じ込めるために『対策』を講じた……君に、ひいてはアンカに勝つために!』」
デイラミさんのプレッシャーが跳ね上がる……!これは、もしかしてッ!
「『君に体感させてあげよう……何故、私が欧州最強と呼ばれているか?凱旋門賞で不甲斐ない走りを見せてしまった私が、欧州最強といまだに呼ばれている理由を!君の身体に教えてあげようじゃないか!』」
デイラミさんの、
デイラミさんは、そのまま私を追い抜く……ッ!ダメ、負けたくない!負けたくないけど……!
(は、速い!?ひ、引き離されていく!)
私は……なす術もなく引き離されていく。その勢いのまま……デイラミさんはゴール板を駆け抜けた。
《最後の直線でデイラミが加速する!サイレンススズカをあっという間に躱して先頭に立った残り200m!その勢いのまま後続を引き離して……今ゴォォォォォォォォルイン!欧州最強が!異次元の逃亡者を捉えたぁぁぁぁぁぁ!これが欧州最強ウマ娘の力だ!これが自分の実力だとばかりに手を掲げている!サイレンススズカは4バ身差の2着に敗れた!3着はロイヤルアンセムだ!勝ち時計は2分23秒!》
私は……負けてしまった。目の前では、デイラミさんがファンの人達にパフォーマンスをしている光景が目に入った。ただ、それも少しのこと。デイラミさんが、私に近づいてくる。
「『素晴らしいレースだった、栗毛の逃亡者!君のおかげで……私はさらなる高みへと至ることができたよ』」
歯ぎしりをする。悔しい気持ちを噛みしめて……デイラミさんを、睨みつける。
「『……良い表情だ。悔しさを胸に刻み、次こそは勝利するためにと!私に食らいつかんばかりの目をしている!良い、実に良い!』」
その言葉を噛みしめて、私は……デイラミさんに吠える。
「『……次は、逃げ切ってみせる!』」
私の言葉に、デイラミさんは笑顔で答える。
「『私にリベンジしたければ、ジャパンカップで相まみえようじゃないか、サイレンススズカよ』」
「『……ジャパンカップ?』」
「『そうとも。日本で開催されるそのレース……私の、次に走る予定のレースだ。私と戦いたければ、リベンジしたければ……ジャパンカップに出走することだ。サイレンススズカ。楽しみにしているよ』」
それだけ告げて、デイラミさんはターフを去る。……ジャパンカップ。
(負けっぱなしじゃ終われない……!このままじゃ、終われない!)
「次は勝つ……ッ!」
そう胸に誓って、私もターフを後にした。
デイラミさんはちゃんと強いですよってことをね。
どの短編が見たいか?
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アンカのお試しトレーナー変更
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トレーナーの仕事事情
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コーチとサブトレの仕事事情
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アンカとヴィッパーの日常
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スズカ姉妹の関係
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アンカの前世話
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アンカとデイラミのデート回
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アンカとゼニヤッタ回
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アンカデキメルゼってどんなウマ娘?