今日も楽しく安価だ!   作:カニ漁船

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サクサク行きますエリザベス女王杯。ドーベルさんの胸中はいかに?


女王の気づき

 レースに置いて、人生最大の危機に立たされているかもしれない。

 

 

(あ~……現実を直視したくない)

 

 

 エリザベス女王杯2連覇がかかったこのレース。私は3番人気である。最近調子を落としてたから、別にそれは良いんだけど。

 

 

(あ~……助けてライアン、ブライト)

 

 

 ダブルティアラの子とか、他にも強い子はたくさん出走している。エリザベス女王杯はG1だし、それは当たり前。なんなら強敵上等!って思いたいんだけどさぁ……。

 

 

「13冠ウマ娘が出るのは違くない……?」

 

 

 私の視線の先には、()()()()()()B()C()()()()()()()()()()()()()()()アンカがいる。アンカは……何故かゼログラビティを披露しているけど。何言ってるか分かんないって?大丈夫、私にも分かんないから。

 アンカデキメルゼ。良くも悪くも凄く目立つウマ娘だ。容姿もそうだけど、それ以上に奇行が凄い。良くたづなさんが頭を抱えている光景を見るし、私も何度か見かけた時は変なことをやってた。まさか学園でビックリするほどユートピアをやる子がいるとは思わなかった。いや、さすがに服は着ていたけど。後は出走しているレースも。なんだろう、G1なんて平気で連闘するものだっけ?って感じたくなるようなローテーションをしている。しかもそれで全部勝ってるんだから余計に凄い。

 圧倒的な才能に恵まれたウマ娘。それがアンカデキメルゼだ。とりあえず逃げることもできないのでゲートに入る。私は3枠6番。すぐにゲート入りの順番が来る。

 

 

《日の丸とユニオンジャックがレース場を見守る淀のターフ!エリザベス女王杯を掲げるのは誰だ!3番人気は3枠6番メジロドーベル!復帰明けとなった毎日王冠は掲示板外に沈んでしまった彼女。この淀のターフで復活することはできるか!?2番人気の紹介をしましょう。2番人気は6枠11番ファレノプシス!桜花賞と秋華賞のダブルティアラウマ娘、メジロドーベル同様ここ最近は不調気味ですがそれでも2番人気!彼女の復活に期待をするファンも多いでしょう!そして1番人気はやはりこのウマ娘!BCクラシックからの連闘で参戦しました、8枠18番アンカデキメルゼ!最早G1連闘が当たり前のようになってきた彼女、BCクラシックでは驚異的な記録を叩き出しました!果たして今日はどのようなレースを見せてくれるのでしょうか!注目の一戦が今始まります!》

 

 

 集中……集中……ッ!ゲート、開いたッ!私はすぐに走り出す。

 

 

 

 

《今……ゲートが開きました!エリザベス女王杯の開幕です!各ウマ娘が綺麗なスタートを切りました!さぁまずハナを切るのはどのウマ娘か!集団で動いています1番人気アンカデキメルゼは……今回は逃げではない!逃げではないがしかし外についている!大外枠を利用してアンカデキメルゼは外におります》

 

 

《彼女は周りにウマ娘がいる状況だと途端にソラを使い始めますからね。これは良い判断でしょう》

 

 

《ウマ娘は第1コーナーを回っていきます。ハナを取るのはランフォザドリーム!内から内からエガオヲミセテ、ゴッドインチーフが上がってくる。1番人気アンカデキメルゼは外から上がってきました現在5番手の位置!2番人気ファレノプシスは6、7番手丁度真ん中の位置につけております!メジロドーベルはその外、ファレノプシスの外にメジロドーベルがつく形!上位人気のウマ娘が固まって動いている!》

 

 

 

 

 アンカが一番力を発揮するのは逃げが追い込みの時。だからトレーナーともそのどちらかで来るって予想してたけど……!

 

 

(先行気味に立ち回る気ね!相も変わらず、戦法が読めないわ!)

 

 

 私がやるべきことは決まっている。アンカを徹底的にマークする……それだけ!アンカは集団の外にいる。私はアンカの後ろについて……。

 

 

「あ~やば、どうしよ。先行で走るの久しぶり過ぎて吐きそう。いや、僕だってあれから成長してるんだから大丈夫大丈夫……いや大丈夫じゃないなうん大丈夫じゃない。何なら今すぐ帰りたいそれに僕滅茶苦茶注目されてるじゃんやだな~マークしないでよ楽に走らせてよ。無理だって分かってるけどさ~あ~どうしよどうしよ本当にどうしよ?どうしたらいいんだろう?」

 

 

 いや滅茶苦茶ぼやくわねこの子!?しかもさっきから忙しなく視線をあっちこっちに動かしてるし!レースに全然集中できてない!?

 だけど油断はできない。彼女は他のウマ娘に囲まれた状態でも、何かのスイッチが入ったかのように走る時がある。それを冷静に見極めなくちゃ!

 

 

 

 

《各ウマ娘が第2コーナーのカーブを曲がってバックストレッチに入ります。先頭走るのはランフォザドリーム、ハギノスプレンダー。その内をついてエガオヲミセテがおります。3番手エガオヲミセテの外にヒシピナクル、5番手ゴッドインチーフ。そしてゴッドインチーフの内6番手にファレノプシス、ファレノプシスの外かなり外、集団から離れた位置にアンカデキメルゼ7番手その後ろメジロドーベルが8番手につけております》

 

 

《メジロドーベルはやはりというかアンカデキメルゼをマークするようですね。アンカデキメルゼも少し走り辛そうにしています》

 

 

 

 

 アンカデキメルゼという少女は、とても才能に恵まれている。それは誰もが知っているところだ。だからといって、彼女が才能に恵まれた()()のウマ娘と思っているのは……トレセン学園にはいない。

 何故、彼女が才能だけのウマ娘だと思われていないか?そんなの決まってる。アンカデキメルゼの強さは恵まれた才能だけじゃない……圧倒的なまでの努力の量に裏打ちされた実力だからだ。

 

 

(気絶するまでトレーニングを続けるなんて当たり前、とんでもない量の負荷をかけるのは当たり前、朝から晩までトレーニング漬けなんて当たり前、普通なら身体が壊れるトレーニングをするなんて当たり前……そんなの、強いに決まってる)

 

 

 その才能に嫉妬するウマ娘もいるだろう。だけど……彼女が才能に胡坐をかいているウマ娘だと思っている子はいない。むしろ、どうしてそこまで自分を追い詰めるのかと畏怖の感情を抱く子の方が多い。私も、その1人だ。

 アンカをマークし続ける。彼女のぼやきは……全然止まらなかった。むしろ酷くなっていってるような気がする。レースにも集中できていないし、どうして先行気味に立ち回ろうと思っているのか理解ができない。ま、だからと言って手を抜く気は全然ないけど!

 バックストレッチを抜けて第3コーナーに入る。アンカは……まだ仕掛けなかった。菊花賞の時はここで仕掛けてたから、てっきり同じことをするかと思ったけど。

 

 

(そんなことはないみたいね。なら、どこで仕掛けるか……集中!)

 

 

 

 

 

 

《ここから第3コーナーの坂に入ります!第3コーナーの坂をウマ娘達が上ります!菊花賞ではアンカデキメルゼがミスターシービーのような三角スパートを決めましたが……今回は仕掛けない!アンカデキメルゼはまだ仕掛けない!他のウマ娘は……アンカデキメルゼを警戒しているのかこちらもまだ仕掛けない!それが当たり前ではあるのですが物珍しく感じてしまいます!さぁ坂を上るウマ娘達果たして最初に仕掛けるのはどのウマ娘か!》

 

 

 

 

 

 第3コーナーの坂を上り終わって下りに入る。アンカは……まだ仕掛けないの!?

 

 

(豊富なスタミナがアンカの武器……!ここからでもきっと持つはず!なのに……どうして仕掛けないの!?)

 

 

 そろそろ最後の直線に入る!前との差はそんなに開いてないけど……あまりにも不気味すぎる!

 まだか?まだか?そんな風に思っていると……。

 

 

「あ~どうしよどうしよ。本当にどうしよ?ドーベルさんめっちゃマークしてくるじゃん。でもな~……?あ、もう最後の直線か。んじゃま……仕掛けますか」

 

 

 アンカが、仕掛けた!なら、私も!

 

 

 

 

《アンカデキメルゼまだ仕掛けない!アンカデキメルゼはまだ仕掛けない!隊列はほとんど差がありません固まった固まった!固まって第4コーナーを回って最後の直線に入る!最後の直線、先頭で入ってきたのはランフォザドリームとハギノスプレンダー!そして……!ここで外からアンカデキメルゼが上がってきた!アンカデキメルゼが上がってきた!それにつられるようにメジロドーベルと内からファレノプシスが上がってくる!さぁアンカデキメルゼが上がってきたが……!?こ、これは思ったよりも伸びていない!追い込みで見せたような末脚は発揮していない!?》

 

 

《不調なのでしょうか?しかしそんな情報は上がってきていませんが……》

 

 

《アンカデキメルゼが上がってきた!最後の直線残り300m!エガオヲミセテが懸命に粘る!ランフォザドリームとハギノスプレンダーは早々に脱落!内のエガオヲミセテが懸命に粘りますが外からアンカデキメルゼとメジロドーベルが上がってくる!そのさらに外からフサイチエアデールも上がってきた!そして残り200を切ったところでようやくアンカデキメルゼが先頭に立った!アンカデキメルゼが先頭しかしメジロドーベルとの差は開いていない!勇者の末脚は光らない!》

 

 

 

 

 もう少し……!もう少しで届く……!

 

 

「負けられない……!届いてみせる!」

 

 

 残り200は切ってる!これなら……十分に持つ!

 

 

「……ッ!」

 

 

 アンカも速い。だけど……!

 

 

「負けてたまるかぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 残り100m!アンカに、並んだ……ッ!?

 

 

 

 

《残り100mでメジロドーベルがアンカデキメルゼに並んだ!まさかまさか!?ここで絶対女王の不敗神話が途切れるのか!?場内からは悲鳴も聞こえてきました京都レース場!果たして女王はここで敗れてしまう……!?》

 

 

 

 

 並んだ瞬間……私は、横目に見て気づいた。アンカが……

 

 

「……あぁっ!()()()()()()()()()()()()

 

 

 笑って、そして……アンカのプレッシャーが、跳ね上がった。

 

 

「どう、して……笑って……ッ!?」

 

 

 そう疑問に思ったのもつかの間、アンカのスピードが、さらに上がった!?でも、アンカは

 

 

「ハァ……ッ!ハァ……ッ!」

 

 

 さっきまで息を切らしてなかったのに、急に息が乱れ始めた?何か、スタミナを凄く消費することでもあったのだろうか?疑問は尽きない。

 

 

「あ……」

 

 

 気づいたら、私達は並んでゴールインしていた。け、結果は!?急いで掲示板を見ると。

 

 

 

 

《メジロドーベルとアンカデキメルゼが並んでゴールイン!しかしこれはアンカデキメルゼに軍配が上がった!アンカデキメルゼがアタマ差で勝利を収めた!エリザベス女王杯を制したのはアンカデキメルゼ!アンカデキメルゼは……疲労困憊といった様子で膝をついているが!しかし何でもないように立ち上がってジャズダンスを踊り始めた!絶対女王はいまだ健在!楽な勝利とは言えませんが、これでまた無敗記録を伸ばしましたアンカデキメルゼ!メジロドーベルは惜しくも2着!しかしもう少しでアンカデキメルゼに勝てるというところでした!3着はフサイチエアデール!ファレノプシスは思ったより伸びなかったか掲示板外7着に沈みました!》

 

 

 

 

 ……そっか。負けちゃったか。もう少しで、勝てそうだったんだけどな……。

 

 

(でも、下を向いてもいられないか)

 

 

 ひとまずはアンカの勝利をお祝いしよう。それが、今の私にできることだ。

 

 

「おめでとう。アンカ」

 

 

「……あぁ。ありがとうございます」

 

 

 アンカは相変わらずの無表情。ただ、どういうわけか……ちょっと嬉しそう?だった。

 

 

「ひとまず、聞かせてほしいことがあるのだけれど」

 

 

「……なんでしょうか?この道化に聞きたいことがあれば、なんなりと。あぁ、マジックの種明かしはできませんよ?それを教えてはつまらないでしょう?」

 

 

 マジックの種明かし?もしかして、最後の直線で異常に伸びたことだろうか?……まぁそれは良い。聞きたいことは他にある。

 

 

「どうして逃げや追い込みで走らなかったの?その方が、アンカは力が発揮できると思うんだけど」

 

 

「……それですか」

 

 

 アンカは特に隠すようなことはせずに答える。

 

 

「神の啓示だからですよ。神託では、今回は先行気味に立ち回れとの啓示を賜りました。ゆえに僕は先行で走っていたわけです。それ以上の理由はございませんよ」

 

 

「……自分が不利になるのに?どうして従うの?」

 

 

「神々を楽しませるためです。僕は道化ですから。それに……追い込まれるのは悪くない気分です。凄く生きているということを実感できますので」

 

 

 追い込まれるは悪くない、生きていると実感できる……その瞬間、私の脳内にインスピレーションが湧き上がる!

 

 

「も、もしかして……!」

 

 

「?どうかされましたか?ドーベルさん」

 

 

 アンカは無表情。だけど、どことなく不思議そうに私を見ている……ような気がする。いや、それは良い!問題は……!

 

 

「アンカ……あなたはッ!」

 

 

「僕がどうかしました?」

 

 

「……いえ。ちょっと質問良いかしら?」

 

 

「……はぁ、構いませんけど」

 

 

 私はいくつか質問することにした。

 

 

「あなたの目の前に課題があるとするわ。期限は明日、課題はどれくらいある?」

 

 

「なんですかその質問は?……まぁ、積み上がるくらい?滅茶苦茶頑張れば終わるぐらいの量ですかね?」

 

 

「ライオンの檻の中に放り込まれたとするわ。あなたはどうする?どう感じる?」

 

 

「そりゃ逃げますけど。でもなんとなく楽しそうですね」

 

 

「……9回裏2アウト。一打逆転の場面。ピッチャーはあなた。どう思う?」

 

 

「最高のシチュエーションですね。追い込まれてるって感じが良いです」

 

 

「……なんでもいいわ。あなたはとにかく追い込まれている。アンカ……どう考える?」

 

 

「う~ん……最高に楽しい状況ですね」

 

 

 私は、くらくらしそうになる。だけど……この質問で確信した。この子、間違いなく……!

 

 

(ドMね!そうなのね!?しかも、かなりの!)

 

 

 だけど、本人に言ったところで否定するだろう。分かるわ、人には言えないものね。恥ずかしいと思うのも無理ないわ。だけどどうにかして追い込まれたい……だからレースで発散している。そんなところかしら?

 まさか、中等部で……!私はアンカの肩に手を置く。

 

 

「あ、あの。どうしました?さっきからおかしいですよ?」

 

 

「アンカ……困ったことがあったら、なんでも相談してね?絶対に、力になるから」

 

 

 きっと、生きづらいことこの上ないだろう。被虐趣味なんて、打ち明けることなんてできない。だからストレスばかり溜まっていく……普段の奇行も、神の啓示とやらも……きっとそういうことなのだろう。

 レースに負けて悔しい気持ちはある。だけど私は……アンカという少女の秘密を知ってしまった。

 理解者はきっと少ない。だから、私が理解してあげよう。そう思ったエリザベス女王杯だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──当のアンカ本人は。

 

 

(良い人だな~ドーベルさん。負けて悔しいだろうに僕を励ましてくれるなんて。なんで励ましてきたのか良く分からないけど)

 

 

 まさか自分がマゾヒストだなんて思われているとは露も知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンカデキメルゼ現時点での育成目標

 

 

メイクデビューに出走 達成!

 

フェニックス賞に出走 達成!

 

新潟ジュニアステークスに出走 達成!

 

京王杯ジュニアステークスに出走 達成!

 

全日本ジュニア優駿に出走 達成!

 

桜花賞で1着 達成!

 

皐月賞で1着 達成!

 

NHKマイルカップに出走 達成!

 

オークスで1着 達成!

 

日本ダービーで1着 達成!

 

エクリプスステークスに出走 達成!

 

キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスに出走 達成!

 

セクレタリアトステークスで1着 達成!

 

セントレジャーステークスに出走 達成!

 

凱旋門賞で1着 達成!

 

チャンピオンステークスに出走 達成!

 

菊花賞で1着 達成!

 

BCクラシックに出走 達成!

 

エリザベス女王杯に出走 達成!

 

ジャパンカップに出走

 

香港スプリントに出走

 

東京大賞典に出走




ちょっとだけ領域の片鱗が見えるアンちゃんであった。

どの短編が見たいか?

  • アンカのお試しトレーナー変更
  • トレーナーの仕事事情
  • コーチとサブトレの仕事事情
  • アンカとヴィッパーの日常
  • スズカ姉妹の関係
  • アンカの前世話
  • アンカとデイラミのデート回
  • アンカとゼニヤッタ回
  • アンカデキメルゼってどんなウマ娘?
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