今日も楽しく安価だ!   作:カニ漁船

87 / 194
出走表作ってて、なんだこのドリームメンバー……ってなってました。


ジャパンカップに向けて

 ジャパンカップを目前に控えている今日。練習後のミーティングでジャパンカップの対策の話になりました。

 

 

「さて……スぺ、スズカ。繰り返しになるが、今回のジャパンカップはマジでヤバい。日本からも海外からも超1流つっても過言じゃねぇメンバーが集まってきている」

 

 

「ご、ゴクリ」

 

 

「……お願いします、トレーナーさん」

 

 

 みなさんもトレーナーさんの言葉を静かに待っています。そして、トレーナーさんがプロジェクターを利用しながら1人ずつ上げていきました。

 

 

「まずは海外勢。特に注意しなくちゃいけねぇのは3人。デイラミ、モンジュー、ドバイミレニアムだ。特に……デイラミの警戒は強めておけ」

 

 

「デイラミさん……!」

 

 

 スズカさんの声に熱が入っています。それも仕方ないかもしれません。だって、BCターフでスズカさんが負けた相手ですから。

 

 

「スズカめっちゃ気合入ってるよ。オーラが違うね」

 

 

「そりゃそうだろテイオー。BCターフで自分を負かした相手だぜ?」

 

 

「そうだ。ウオッカの言う通り、BCターフでスズカの大逃げを捉えた相手……欧州最強の肩書は伊達じゃねぇってことだな」

 

 

 トレーナーさんは続けます。

 

 

「デイラミのその強さは良バ場でこそ発揮される。全部の能力値が高くまとまっている万能型、良バ場なら誰にも負けねぇ、なんて触れ込みもあるくらいだ。何より、勝ちに対する執念が半端じゃない。普段は王子様然としているが、マイラーが精々という評判を覆してのこの成績だからな。並々ならぬ努力があったのは間違いない」

 

 

 良バ場巧者……ということでしょうか?それに、勝ちに対する執念が凄いって……合同インタビューの姿からは想像できませんね。

 

 

「次に警戒すべきはモンジュー、凱旋門賞のあの不良バ場の中で見せた末脚を発揮する可能性がある。海外勢の中でデイラミの次に警戒すべきなのはモンジューだな。ドバイミレニアムに関しては、正直そこまで警戒する必要はない」

 

 

「どうしてですか?確か、世界でも最高クラスの実力って言われてますよね?」

 

 

「距離の問題だ、トップロード」

 

 

 トップロードさんの疑問に、トレーナーさんが淡々と答えます。

 

 

「ドバイミレニアムはもって2000m、1度走った2400の英ダービーでは惨敗している。これに関しちゃレース場とバ場の問題もあるから一概に比較はできないが……それでもドバイミレニアムには2400がきついってのが俺の見立てだ」

 

 

「確か、陣営も英ダービーの結果から2000m以下のレースに絞ったんだっけ?」

 

 

「その通りだテイオー。だが……ドバイミレニアムは前目につけてくる。それこそ、逃げの位置で走ってくるだろう。だから、スズカはペースを乱されないように気を付けろよ?」

 

 

「大丈夫です、トレーナーさん……私は、必ず逃げ切ってみせます」

 

 

 スズカさんは、強い意志を持っているような目で答えました。その言葉に、トレーナーさんは満足げに頷きます。

 

 

「よしッ!だけど、気合が空回りするなよ?スズカ。次は日本勢に関してだが、まず気を付けるべきはエルコンドルパサーだ。前回のジャパンカップを勝利しているし、サンクルー大賞も勝っている。スぺからしたら、苦い思い出が残る相手だろう」

 

 

「そうですね……だけど、今度こそ負けません!勿論、スズカさんにだって!」

 

 

 私も、強い意志で答えます!

 

 

「お、スぺちゃん気合入ってるね~」

 

 

「スぺ先輩もスズカ先輩も、気合十分ですね!」

 

 

「しっかし、日本から出るのも強いよな~。後は……」

 

 

「そうですね。後は……」

 

 

 ウオッカさんとトップロードさんが言葉を濁します。きっと……同じウマ娘を連想しているんでしょう。トレーナーさんが、重そうに口を開きます。

 

 

「……このレース、日本勢と海外勢をひっくるめても最大限に警戒しなきゃ相手がいる……それが、アンカデキメルゼだ」

 

 

「デビューから連戦連勝の負けなし、クラシック5大レースを初めて制したウマ娘……」

 

 

「19戦19勝……内G1を14勝……冷静に考えなくてもおかしくない?」

 

 

「連闘上等、中0週だろうがお構いなしに出走してくるものね。でも、何よりも厄介なのが」

 

 

「本番までどう走ってくるのか全く読めねぇってとこなんだよな~アンカは」

 

 

「逃げかと思えば追い込み。追い込みかと思えば逃げ。アンカちゃんは、本当に予測がつきにくいですから」

 

 

「【嘲笑う道化】……言いえて妙だぜ全くよぉ」

 

 

 合同インタビューのアンカちゃん、今でも覚えてます……。

 

 

『相手が誰であろうが関係ない。ただ、走って勝つ。それだけだ』

 

 

 自分が勝つことを信じて疑わない、自身に満ち溢れたオーラ。無表情だけど、私達に対して、自分こそが最強だと。そう誇示するように宣言していました。

 そんな時、スズカさんが拳を強く握っているのが見えました。スズカさんが、闘志を剥き出しにしている?凄く、珍しいような……?

 

 

「どうかしたのか?スズカ。えらく気合が入っているが」

 

 

「……ブリーダーズカップのことを、思い出して」

 

 

「ブリーダーズカップ?確かアンカちゃんは、ダートのクラシックの方に出走してましたよね?スズカさんには関係ないような気が……」

 

 

「私は、逃げ切ることができなかった。けど、あの子は私と同じ戦法を取って、逃げ切ってみせた。しかも、最後は流して走って……余裕があるかのように、私に見せつけるように走っていた……ッ!」

 

 

 す、スズカさんが歯ぎしりしてる!?凄く悔しいっていう感情が、私達にも伝わります!

 

 

「負けられない……!私の、私だけの先頭の景色は誰にも譲らないッ!だからジャパンカップ、絶対に逃げ切ってみせます!」

 

 

「……気合十分ってことだな、スズカ。だが、さっきも言ったように空回りするなよ?オーバーペースで走って、最後にスタミナが切れたら本末転倒だ」

 

 

「……分かりました」

 

 

 トレーナーさんに諭されて、スズカさんはようやく落ち着きました。よっぽど悔しかったんですね、ブリーダーズカップ。

 

 

「さて、それじゃあアンカデキメルゼの対策についてだが……」

 

 

 そこからはアンカちゃんとデイラミさんを中心とした対策会議になりました。しっかりと頭に叩き込んで、本番に挑みます!そして、デイラミさんにも、アンカちゃんにも、そしてスズカさんにも!他の誰にも負けない!私が、一番でゴールしてみせます!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海外勢の公開トレーニング。記者が特に注目しているのは、【王家の至宝】ドバイミレニアムと【究極の王者】デイラミ、この2人だった。

 ドバイミレニアムが3ハロンを走る。

 

 

「……ッシ!」

 

 

 ドバイミレニアムの走りに、記者は感嘆の息を漏らす。タイムは中々の好タイムだったのか、小さいながらもどよめきが広がっていた。

 記者の好意的な反応とは対称的に、ドバイミレニアムは難しい表情を浮かべている。彼女が考えていることはただ1つ、ジャパンカップをどう勝つか?

 日本の芝は、かつて走ったエプソムの芝よりもはるかに走りやすい。それは良いことだった。だが、それでもドバイミレニアムには不安が残る。それは……スタミナ不足の問題だ。

 

 

(このままでは勝つのは難しいのう……もとより学ばせてもらうために出走したが、負けてやるつもりは毛頭ない。しかし、余は英ダービーの敗戦から2000m以下のレースに絞って走ってきた。それゆえに、2400mはスタミナに不安が残る……どうしたものか)

 

 

 相手は世界から集まってきた一流のウマ娘ばかり。自分が劣っているとは毛頭考えていないが、それでも勝つのは難しいというのが現状だ。そう思わせる原因の1人は……今から走る。

 

 

「『ハハッ!良いね!日本の芝も、案外いけるんじゃないかな!』」

 

 

 このジャパンカップの優勝最有力候補の1人、デイラミ。彼女は先程のドバイミレニアムよりも、というよりは誰よりも良いタイムで駆け抜けていた。少し嫉妬しそうになるが、これもまた学びだと彼女は判断する。

 他の海外のウマ娘達も好タイムを記録していた。気合が入っている。なればこそ……。

 

 

(余の威光を示すために……舐められたままというのはいかんともしがたい。少し、本気を出すとしよう)

 

 

 ドバイミレニアムの番がくる。ドバイミレニアムは……少しばかり全力で疾走した。

 

 

「おぉ……っ!」

 

 

「すっげぇ……っ!」

 

 

「これが【王家の至宝】か……前評判通りの傑物だな」

 

 

 この時ドバイミレニアムが記録したタイムは、先程自身が記録したタイムを上回るどころか……デイラミのタイムにも匹敵していた。

 

 

「『ハハッ!意外と負けず嫌いなんだね、ドバイミレニアム殿下?』」

 

 

「『……殿下は止めよ、デイラミ』」

 

 

「『これは失敬。癖のようなものでして。それにしても……トレーニングだというのに、さながら本番のような雰囲気だ!うん、とても輝いている!』」

 

 

 その後も海外のウマ娘達は調整をしていく。あくまで手の内を全ては明かさないように、細心の注意を払いながら。

 海外勢の調子も好調。評価トップはデイラミ、次点でドバイミレニアムとモンジュー……それが、記者達の下した判断だった。

 だが、他の海外ウマ娘もレースで結果を残してきた実力者ばかり。ジャパンカップの結果はどうなるのだろうか?そのことを考えたら、気持ちが昂らずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャパンカップを控えている今日。トレーニング終わりのミーティングも佳境に入っていた。部室には俺とアンカの2人だけだ。

 

 

「最優先で気を付けるのはデイラミ。良バ場なら一番気を付けるべき相手だ」

 

 

「だな。キングジョージもあわやというところまで追い込まれた。油断ならない相手だ」

 

 

「ドバイミレニアムも距離不安があるけど、警戒しておくに越したことはない。ただ、デイラミよりは優先順位は下かな?後日本勢で気になるのは……スペシャルウィークだね。でも正直、どのウマ娘も一流も一流の凄いメンバーだ。あんまり警戒しすぎて、自分の走りを見失わないように気を付けて」

 

 

「分かっているさ。僕のやることは変わらない……神の啓示を賜り、それに順じた走りをする。それだけだ」

 

 

 ミーティングも終わって、最後に少しばかり雑談することになる。この場にいるのは、俺とアンカの2人だけだ。……それにしても。

 

 

「随分凄いとこまで来ちゃったなぁ……まさか、新人トレーナーなのにチームを持つようになるなんて……」

 

 

「フッ、これもまた、神の啓示を賜る僕のおかげ……」

 

 

「まぁそうだね。アンカの功績は本当に大きいというか、全部アンカの功績みたいなものだよ」

 

 

 神の啓示はともかくとして。

 

 

「あまり自分を過小評価するなトレーナー君。君のおかげで、僕はここまで結果を残すことができたのだからな。やはり神の啓示は素晴らしい!……いやどっちかというとクソ寄りだな

 

 

 ……そう言えば、今なら聞けるだろうか?アンカとも結構長い付き合いだし、もしかしたら教えてくれるかもしれない。

 少しだけ迷って。俺は、覚悟を決めて踏み込むことにした。

 

 

「ねぇアンカ。ちょっといいかな?聞きたいことがあるんだけど」

 

 

「どうした?改まって」

 

 

 俺は、前から気になっていたことを聞く。それは……神の啓示についてだ。

 

 

「アンカはさ、どうして神の啓示に傾倒するようになったの?確か、学園に入学するまでは普通だったんでしょ?」

 

 

「……その話か。別に、面白い話でもない。語ってもつまらんぞ?」

 

 

 アンカは渋るような表情をしている。本当だったら、ここで引き下がるべきなんだろうけど……。俺は、引き下がらない。

 

 

「面白くなくてもいい。ただ純粋に気になるんだ。別にその理由を聞いたからって、神の啓示に傾倒するのを止めろとは言わないからさ。教えてくれないか?アンカ」

 

 

「……ふぅ」

 

 

 アンカは溜息1つ吐いて、確認してきた。

 

 

「最初に言っておくが、本当に面白い話ではない。それに、荒唐無稽な話だ。それでもいいか?」

 

 

「うん。いいよ」

 

 

「……なら、語るとしよう。君とも長い付き合いだし、とても世話になっている。知りたいのであれば、語るとしよう」

 

 

 心の中でガッツポーズと、話してくれるくらいには信頼されているのだということが嬉しくなる。

 アンカは、語り始めた。

 

 

「まず初めにトレーナー君、君は前世というものを信じるか?」

 

 

「前世……って言うと、転生とかそういうお話?」

 

 

「そうだ。そして僕は……その前世の記憶というものがある」

 

 

 なんか、とんでもないことをカミングアウトされた。ただ中二病チックな言動は今に始まったことじゃないし、突っ込むのも野暮だから何も言わない。

 

 

「前世の僕は……とてもつまらない存在だった。生きながらにして死んでいる……夢を持たない、生ける屍と呼んでもいい生を歩んでいた」

 

 

「ず、随分な言い草だね……一応自分なのに」

 

 

「それだけの愚者だった、という話だ。くだらぬ相手にへりくだり、他者から雑務を押しつけられ、ただただ歯車としての生を全うする日々……挙句の果てには、夢に向かって進んでいる自分の妹を見下し、あまつさえ苛立ちをぶつけようとしていた……くだらぬ存在だったよ」

 

 

 どうやらアンカからしたら、その前世の記憶とやらはかなり忌まわしい記憶らしい。吐き捨てるように言った。

 

 

「一時は自らの命を絶とうとさえ考えていた。このまま生ける屍ともいえる日々を過ごすぐらいならばいっそ楽になろうと、残される側の気持ちを何も考えずに……命を捨てようとしていた」

 

 

「……」

 

 

 随分、壮絶な人生だったんだな。その前世の記憶って。

 

 

「そんな時だ。僕が……神の啓示と出会ったのは」

 

 

(……出会った?どういうことだ?)

 

 

 本当に神様に会ったのだろうか?と、とにかく静かに聞いておこう。

 

 

「神の啓示は、まさに僕の人生を変えてくれた。モノクロだった世界に色を与えてくれた、道化としての生き方を……楽しみ方を教えてくれた。生きる希望をくれた!」

 

 

 アンカは楽しそうに語っている。他人から見たら無表情だけど、関りがある人が見たら分かる。素晴らしさを語るように、本当に……自分の生き方を変えてくれたんだと教えるように語っていた。でも、果たして道化としての生き方に楽しさを覚えていいのだろうか?……本人が楽しそうだから、突っ込むのも野暮ってものか。

 

 

「神の啓示は、生ける屍だった僕を変えてくれた!新しい、夢を持たせてくれた!そして、僕は……この神の啓示を使って、夢を持たない全ての人達に夢を与えられるような存在になりたい!前世の記憶を思い出した時に、そう誓ったのさ!」

 

 

「そ、そうなんだ……」

 

 

「夢を持たない辛さを、僕は良く知っている。だからこそ、そんな人達が1人でもいなくなるように……僕は彼ら彼女らの希望であり続ける……神の啓示を使って、ね。それが、僕が神の啓示に傾倒する理由のようなものだ」

 

 

 1つ息を吐いて、アンカはそう締めくくった。

 ……うん、とりあえず分かったことは。

 

 

(アンカが楽しそうならいっか)

 

 

 それぐらいである。どれくらい本当のことかは分からないけど、アンカが楽しそうならそれでいいや。

 その後は気分良くしたアンカと別れて。もう少しだけ仕事をする。ジャパンカップは、もうすぐだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャパンカップ出走表

 

 

枠順番号出走者名

1
1サイレンススズカ

2
2ドバイミレニアム

2
3タイガーヒル

3
4スティンガー

3
5オースミブライト

4
6ラスカルスズカ

4
7インディジェナス

5
8アンカデキメルゼ

5
9ウメノファイバー

6
10ステイゴールド

6
11デイラミ

7
12エルコンドルパサー

7
13スペシャルウィーク

8
14モンジュー

8
15ボルジア




次回からジャパンカップ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。