《先頭サイレンススズカが1000mを通過しました!1000mの通過タイムは57秒3!57秒3で1000を通過しましたサイレンススズカ!レースは縦長の展開となっておりますジャパンカップ。先頭を走るサイレンススズカ、その5バ身後ろにエルコンドルパサーとインディジェナス!ドバイミレニアムは少し控える形を取るか?ドバイミレニアムは3番手エルコンドルパサーの後ろ4番手の位置。5番手オースミブライトその外スティンガー。内にデイラミとタイガーヒル、外にステイゴールドがつきます。どうでしょうか?この展開》
《サイレンススズカの大逃げが発揮されていますね。しかしどこか焦っているようにも見えます。落ち着いてレースを展開できればいいのですが》
《成程。さぁそしてステイゴールドから遅れて3バ身の位置にスペシャルウィーク。日本総大将スペシャルウィークは現在この位置につけています。その外にボルジア。スペシャルウィークの内にアンカデキメルゼ、最内はラスカルスズカ。そしてスペシャルウィークのすぐ後ろにはモンジューとその内ウメノファイバーがついております。ジャパンカップはかなりのハイペースで進んでいます。ここからどういった展開を迎えるか?》
沖野トレーナーは訝しむ。アンカデキメルゼの位置取りに、少しばかり困惑していた。
「どーしたのトレーナー?読みが外れてガッカリしてんの?」
「……いや、そういうわけじゃねぇテイオー。確かに逃げと追い込みのどちらかで来るだろうとは思っていたが、先行と差しの対策を取らなかったわけじゃないからな。ただなんというか……肩透かしを食らった気分でな」
対アンカデキメルゼ用に作った対策は、逃げと追い込みを中心にしていた。だが、アンカデキメルゼは先行と差しでも勝ってきている。それこそ、彼女の前走であるエリザベス女王杯は先行で走って勝ったのだから対策は取るのは当たり前だ。他のトレーナーもそうである。
ウオッカが続けて疑問をぶつける。
「じゃあ何があんだよ?何か心配事でもあんのか?」
沖野トレーナーは、訝しむ表情を変えることなく答える。
「このジャパンカップで、自身が最も得意とする逃げと追い込みではなく、弱点が浮き彫りになる差しで走る意味が分からなくてな。最初はスタートが良すぎて差しの位置に収まっただけかと思ったが……」
「でも、アンカちゃん下がりませんよね?じゃあ、あの位置取りは意図的……?」
「だろうな。そうなると、出てくる疑問はただ1つ……」
別の場所では、リギルの東条トレーナーも訝しむような目つきでレースを見ていた。
「アンカデキメルゼが何を企んでいるか……。それが分からないのよ」
「……位置取りに失敗したとか、そういうことはなく?」
「それはないね、グラス。アンカのあの位置取りは意図的だ」
「……となると、アンカデキメルゼにはなんらかの策がある。そう考えるのが自然か」
「でしょうね。わざわざ自分の不利になるように走っているんだもの。絶対に……何かする気よ」
東条トレーナーはそう締めた。彼女の考えは、おそらく全てのトレーナーが同じことを思っているだろう。それだけアンカデキメルゼというウマ娘が警戒されていることに他ならない。
彼らは全員、アンカデキメルゼの逃げと追い込みを警戒していた。それは、その戦法を取った場合が最も危険だからである。自由に走るアンカデキメルゼ程厄介な相手はいない……そう考えていたからこそ、逃げと追い込みを最優先で対策を取っていた。
だからといって、先行と差しの対策をしてこなかったわけじゃない。ただ、逃げと追い込みで走った場合と比較すると、明確な弱点がある分対策も容易だった……だからこそ、差しで走っている今の現状に驚いているわけだが。
「一体何を考えてやがる?アンカデキメルゼ……」
沖野トレーナーはそう呟く。ウマ娘達はバックストレッチを走っていた。
先頭を走るサイレンススズカはペースをほとんど緩めることなく走っていた。
(速く……もっと速くッ!ペースを少しでも緩めたら、間違いなく捕まる!)
本来であればもっと引き離すつもりだった。だが、このジャパンカップに出走しているメンバーはやはり一筋縄ではいかない。サイレンススズカの大逃げが厄介なことは周知の事実。だからこそ、楽には逃げさせまいと他のウマ娘達もマークし続けている。
《向こう正面も半分を過ぎました。現在先頭はサイレンススズカ、2番手インディジェナスとの差は5バ身から6バ身程か?隊列には大きな動きはありません。サイレンススズカが快調に飛ばして逃げています。しかし決して楽には逃げさせないといった様子》
サイレンススズカは逃げに逃げていた。そんなサイレンススズカを追いながら、ドバイミレニアムは考える。それは、本来であれば自分の前を走ると思っていたあるウマ娘のこと。
(サイレンススズカと同じ位置では走らない……ということは、最後方からの追い込みだろうか?だとすれば、外からの追い上げに気を付けるべきであろうな。アンちゃんの末脚はかの勇者の如き鋭さ。一瞬で余達を抜き去る脚をもっておる。厄介なものよのう)
逃げで走っても一流、追い込みで走っても一流……厄介なことこの上ない。しかも、レース本番までどのように走るかも分からない。臨機応変に対応するしかないというのが現状だ。それは、ドバイミレニアムの前を走るエルコンドルパサーも同じことを考えていた。
「エルの前にいない……ということは、アンカちゃんは追い込み!なら、外を要警戒デスね!」
凱旋門賞の二の舞にはさせない。そう考えていた。とは言っても、サイレンススズカの大逃げのペースに付き合っているので他のウマ娘達は消耗が激しい。これは、持久力勝負になるだろう……そう判断していた。
そんな中、後方集団にいるアンカデキメルゼはというと。
「あ~……だるいだるい楽に走りたいだけどそれは無理なんだなコレが冗談きついでしょすっげぇ注目されてるしなんだなんだ?そんなに僕のこと好きなのかよ?いやそりゃ警戒しなきゃいけないからっていうのは分かってるけどさそれでもこちとらきついもんはきついんだよじゃあそんなとこ走るなよって言われたらそれはもうごもっともなわけで」
ブツブツ呟きながら走っていた。しかも視線を忙しなく動かし、ずっとキョロキョロしている。これがレースの最初っからだ。つまるところ……アンカデキメルゼはレースの最初からずっと掛かりっぱなしに近い状態で走っていた。
アンカデキメルゼの内を走るラスカルスズカは、そんなアンカデキメルゼの姿に少しだけ恐怖する。
(アンカちゃんがこんなとこ走ってるのも珍しいけどそれ以上になんか怖い!?た、助けてお姉ちゃん!)
先頭を走っている姉、サイレンススズカに助けを求めそうになる。仲の良い姉妹であっても、このレースにおいては敵な訳だが。敵同士である以上、助けを求めても無意味である。ラスカルスズカとて負けるつもりはないので己を強く持つことでなんとかすることにした。
それはスペシャルウィークも同様だ。スペシャルウィークもアンカデキメルゼのささやき戦術に近いなにかを受けている。だが、スペシャルウィークには特段効いていなかった。
(モンジューさんは私をマークするように走っている……ということは、私が動いたら、モンジューさんも動く。モンジューさんの末脚は要注意。仕掛けどころを誤らないようにしないと。後は……)
「アンカちゃんをどう封じ込めるか……」
一応、沖野トレーナーからアンカデキメルゼの対策は受けている。アンカデキメルゼが最も得意としている外からの追い上げ……それを機能させないようにする。そのことを優先して動く。
(だからと言って、内を空け過ぎたら今度は内から上がっていく可能性がある。アンカちゃんが一番力を発揮するのは、1人で走っている時だから)
すでにレースも終盤が近づいてきていた。第3コーナーを回る。
《各ウマ娘が第3コーナーを回る!先頭は依然としてサイレンススズカ!まだまだ大丈夫だとばかりに飛ばしています!ペースは緩めない!この大逃げを捉えることができるか!?先行集団もまだ動かない様子!中団は……っと!ここでデイラミが動き始めた!第3コーナーの中ほど辺りでデイラミが動き始める!少しずつ、少しずつ中団が先行集団を捉えようと上がってきている!それに続くように後方集団もじわじわと進出を開始した!最後の直線で捉えるために他のウマ娘達も徐々に上がってきているぞ!》
サイレンススズカが作り出した破滅的ペース。それは恐ろしいものだった。
(ほぼ11秒台のラップを刻み続けたこのレース……さすがの余も初めて体感するものだっ!)
これにアンカデキメルゼが加わっていた場合、どうなっていたか……考えるだけでもドバイミレニアムの身体は震えそうになっていた。正直今でもいっぱいいっぱいなのに、これ以上のペースで進むかもしれないのだから。
だからこそ、このレースに出走してよかったと思っていた。これほどの貴重な体験は、そうそう得られるものではないのだから。
エルコンドルパサー達は感じていた。後ろにいたウマ娘達が徐々に上がってきていることを。ならばと、自分達もペースを上げていく。前を走るサイレンススズカを捉えるために、彼女達はペースを上げ始める。それは、サイレンススズカも分かっていることだった。
(みんなが上がってきてる……だけどっ!)
「先頭の景色は誰にも譲らない……ッ!絶対に逃げ切るッ!」
サイレンススズカもそのまま逃げ切る態勢に入る。大ケヤキを越えて第4コーナーの中ほどを過ぎようとしていた。
《大ケヤキを越えて第4コーナーを回る!依然として先頭はサイレンススズカ!サイレンススズカ逃げる逃げる!しかしインディジェナス以下他のウマ娘達もペースを上げている!異次元の逃亡者を捉えようと上がってきている!1番人気アンカデキメルゼはまだ後方集団に控える!後方集団とともに上がっていくが顔色はちょっと悪そうだ!
《レースの最初からずっと掛かりっぱなしでしたから。それも仕方がないでしょう》
《しかし!しかしここからでも手品を見せるのがアンカデキメルゼだ!果たして今回はどのようなトリックを見せてくれるのか!?それともネタ切れか!?その答えは最後の直線で分かることでしょう!長かった隊列が徐々に纏まってきた!まもなく最後の直線に入る!》
サイレンススズカは先頭で第4コーナーのカーブを曲がる。そして……。
(ッ!見つけたッ!私の、私だけの……先頭の景色!)
領 域
先頭の景色は譲らない…っ!
サイレンススズカが加速する。どこにそんな余力があったのかとばかりに加速する。だが、そう易々と逃げさせるようなウマ娘は……この場にはいない。
「『成程……逃亡者の圧が強まったか。あれが話に聞いた
ドバイミレニアムはペースを速める。正直スタミナが持つかどうかは賭けだが……この貴重な機会を逃すわけにはいかないと。ドバイミレニアムも加速する。
「『余が許す。その強さを……もっと余に体感させよッ!』」
そしてドバイミレニアムに遅れて、エルコンドルパサーも自身の
「もう逃げさせませんよスズカさん!あの時とは違う……エルも、強くなったんデスから!」
領 域
プランチャ☆ガナドール
それにつられて、スペシャルウィークも上がっていく。
「憧れるだけじゃ終われない!スズカさんに……ここにいるみんなに!勝つんだぁぁぁぁぁぁ!」
領 域
シューティングスター
最後の直線に入って、各ウマ娘もそれぞれペースを上げ始める。縦長だった隊列は、前から後ろまで10バ身以内に収まるほどの差になっていた。
《さぁ最後の直線に入りました!先頭は依然としてサイレンススズカ、しかしその差はわずかだ!じりじりと!じりじりと差は縮まってきている!ここから東京レース場最後の坂が待ち受けています!高低差2mの坂が待ち受けている最後の直線どう攻略するか!?2番手はエルコンドルパサーが上がってきた!サイレンススズカとの差は2バ身!しかしインディジェナスインディジェナス!インディジェナスも必死に食らいつく!内からはドバイミレニアムも来た!ドバイミレニアムも必死に食い下がっている!しかしドバイミレニアムキツそうだ!やはり2400mは無理があったか!?》
《序盤からかなりのハイペースでしたからね!ここまで持った方でしょう!》
《さぁ外からスペシャル!スペシャルウィークも上がってきた!第4コーナーから後方集団を抜け出してスペシャルウィークが上がってきた!その空けた進路を使うようにモンジューも上がってきている!さらにはステイゴールドステイゴールド!ステイゴールドが内に切り込んでドバイミレニアムの後ろにつける!アンカデキメルゼはまだ来ない!アンカデキメルゼはまだ来ない!そして大外からデイラミがきたぁぁぁぁぁ!欧州最強のデイラミが上がってきました!先頭へ猛然と襲い掛かる!》
デイラミは、楽しいという感情を抑えきれなかった。
「『やはり、やはり素晴らしい!この場に集った英傑達は、誰もが素晴らしい美学を持っている!あぁ……!この勝負を永遠のものにしたい……ッ!』」
だが、と前置きし。デイラミのプレッシャーが……跳ね上がる。
「『だが、それは叶わぬ願いだ。この勝負は……私の勝利をもって終わるのだから』」
デイラミの
領 域
unrivaled supreme KING
かつて
《デイラミが再び襲い掛かる!デイラミが来た!デイラミ来た!速い速いあっという間に追いつきそうだ!すでに前から後ろまで10バ身以内に収まっているこの混戦状態を制するのはどのウマ娘か!?アンカデキメルゼは……アンカデキメルゼはまだ内から上がってこない!》
《ま、まさか……本当にこれで終わりなのでしょうか?》
《アンカデキメルゼはまだ内にいる!まだ内から上がってこない!外から追い上げようとしない!忙しなく動いていた視線はただ一点を見つめている!その表情は見えません!もしや、もしや!?これで終わってしまうのかアンカデキメルゼ!》
デイラミは思う。
(アンカ……君は本当に、ここで終わってしまうウマ娘なのかい?)
最初の方からどことなくおかしいことには気づいていた。何か不調でもあったのだろうか?今も外から上がってこようとしない。だが、これは勝負。他人の心配をするのはここまでにしようとデイラミは正面を見据える。
「絶対に逃げ切る……っ!もう誰にも譲らない!」
「エルが勝つんデス!エルが、絶対に!」
「日本一のウマ娘になるためにっ!私が勝つ!」
「『負けるつもりは毛頭ない。余に……そなたたちの強さを体感させよ!』」
「『フィナーレだ!さぁ、私の勝利を持ってこの幕を引くとしよう!』」
「『そうはさせないさ
スペシャルウィークとともに上がってきたモンジューも必死に食らいついている。坂を上り終わって、この6人での決着になるか?観客の目には、そう映っていた。
「
ちなみにミレちゃんの後ろにはしっかりとステゴがおります。