アンカデキメルゼの状況は絶望的。最後の直線に入って隊列は纏まっているとはいえ、彼女は囲まれている。
「まさか、アンカデキメルゼの不敗神話が途切れるのか!?」
「それでも、それでもアンカデキメルゼなら!」
「さすがに無理だって!囲まれてるじゃねぇか!」
「でも……でも……!」
アンカデキメルゼが囲まれている様子を見て、ゼニヤッタも不安そうな表情を浮かべる。
「『シルバーラビット様……っ!』」
ファンは見守る中、アンカデキメルゼは……。
「あの子、笑ってるわね」
「え?……ホントだ。鉄面皮のアンカさんが笑ってる」
「アンカさんとっても楽しそう!」
笑っていた。普段の無表情を崩して、彼女は笑っていたのである。そして、彼女のプレッシャーが強まっていることを、セクレタリアトとニジンスキーは感知していた。2人は気づく。アンカデキメルゼが、
「本当に……何もかもが規格外な子ね。あの子は」
「HAHAHA!さすがに今回は俺も同意見だニジンスキー!まさかだからな!」
「──question、どういうこと、だろうか?」
「クリスエス。そもそも
疑問を抱いているクリスエス達に、ニジンスキーは
「使いこなせれば、それこそどこでも発動できるようにはなるけど……それでも自分の得意な状況下で使うってのが基本ね。だけど……あの子の
「ま、真逆?」
「そうだタルマエ。シルバーラビットの
「とんでもねぇドMです。最早否定できねぇです」
「アッハハハハ!やはりアンカ君は面白いねぇ!さぁて、ここから君はどうやって巻き返すんだい?」
アンカデキメルゼが所属しているチームメンバーはそんな話をしている中、アンカデキメルゼは……
その様子を見て、ファンの人達は歓喜の声を上げる。
「き、きたぁぁぁぁぁ!!」
「そうだ!アンカデキメルゼは、こんなとこじゃ終わらねぇ!」
「頑張ればやれるってとこを見せてくれぇぇぇぇぇ!」
そして、ゼニヤッタも歓喜の声を上げていた。
「『す、凄い……っ!それにシルバーラビット様、凄く楽しそう!頑張れぇぇぇぇぇ!シルバーラビットさまぁぁぁぁぁぁ!』」
そんなファンの声を聞きながら、アンカデキメルゼのトレーナーは薄く笑う。
「行っておいで、アンカ。ファンに……夢を見せてくるんだ」
残り200m。幕引きの時は近い。
思えば最初の方から僕はずっと警戒されていた。つまるところ、ず~~~~っとプレッシャーを当てられ続けていたわけよ。もうね、ガチしんどかったね。怖いし、なんでこんなとこ走ってんだろ?みたいなこと思ってた。しかも外からの追い上げ禁止だしさ、内というか中央突破するしか道がないわけよ。僕の得意技全部封じられてるじゃねぇか!ふざけんな!って思ったよ安価決まった時は。
……うん、だからこそ。
(最っ高に燃えるじゃないですか……!)
得意な戦法を封じられて、得意な追い上げも禁じられた!僕にとって最悪の条件が揃いまくっているこの状況、無理難題が集められたこのレース、このシチュエーション……最高に燃える!この安価を達成した時、きっと凄く達成感があるはずだ!だって……僕は今!
「
日本ダービーやエリザベス女王杯の時の感覚が僕を襲う。景色がひび割れて、思考がクリアになっていく。日本ダービーの時は、尽きていたスタミナが急激に回復していくような感覚が襲った。だけど、エリザベス女王杯の時は真逆……スタミナが削られる代わりに、スピードが上がっていくような感覚があった。今度は一体、どんな効果があるんだろう……!確実に言えることは……!
「絶対に楽しくなるに決まってる……!」
何かが頭に響いている。ライトニングステップとか、博打打ちとか春ウマ娘とかいろんな声が聞こえてくる。けど関係ない。今分かることは、どの進路を取れば勝てるか、それだけだ!道化の時間はもう終わり。ここから先は──
領 域
Stand up HERO!Wake up my soul!
「飛ばしていこうか……!」
外からの追い上げは禁止……だからどうした?だったら、中央突破してやるよぉ!
《デイラミがサイレンススズカに並びかける!坂を上り終わって上位6人が固まって……いや!ドバイミレニアムがわずかに下がる!ドバイミレニアムが徐々に後退する!代わりにステイゴールド上がってきた!ステイゴールドが上がってきた!これはもしかしてもしかするのか!?》
《愛さずにはいられないウマ娘ステイゴールド!もしや彼女が台風の目に……って、ええええぇぇぇぇぇ!?》
《ど、どうされましたか……っとぉ!?こ、これはぁぁぁぁぁ!アンカデキメルゼ!アンカデキメルゼがついに上がってきたぁぁぁぁぁぁ!バ群の中央からアンカデキメルゼが文字通りぶっ飛んできたぁぁぁぁぁ!坂を軽快に上っていき!そして先頭集団に並びかける並びかける!先頭はサイレンススズカが粘っているしかし苦しそうだ!サイレンススズカが粘っているが……ここで外のデイラミがついにサイレンススズカ捉える!他のウマ娘も異次元の逃亡者を捉え始めた!わずかに先頭はデイラミしかし他のウマ娘との差はわずかだ!アンカデキメルゼは……アンカデキメルゼは先頭集団に並んだ並んだ!残り200m!ここからは意地と意地のぶつかり合い!果たしてスーパーメンバーが揃ったジャパンカップを制するのはどのウマ娘か!?》
「追いついたぞ……!」
「ケッ?……ウエエェェェェ!?」
「『まさか、あの状況で追い上げてくるとは……!流石は銀色の勇者!』」
「本当に、追いついてくるなんて……!だけど、負けません!」
「うわ、マジで来たよ」
「まだ……!まだ負けて……!」
「『さすがだね我が愛しのプリンセス!あの時とは状況が逆になってしまったが……それもまた一興!これで役者は揃った!』」
なんか言ってるけど関係ねぇ!勝つのは僕だ!今この最高に楽しい瞬間を味わいながら、僕は勝つんだよ!
《200を切った!先頭集団はデイラミ、アンカデキメルゼ、ステイゴールド、スペシャルウィーク、エルコンドルパサー、モンジューの6人に代わった!サイレンススズカやはりスタミナがもたなかったか後退していく!ドバイミレニアムとともに後退していく!勝敗の行方は全く分からない混戦模様!ここで抜け出すウマ娘は現れるのか!?》
《誰が勝ってもおかしくありません!誰が、誰が勝つんでしょうか!?》
《残り100を切る!まだ抜け出さない!まだ抜け出せない!拮抗した状態が続く!ほぼ横並びで突っ込んでいく!誰が勝つのか!?勝利の女神は誰に微笑むのか!?》
勝つのは僕だぁぁぁぁぁぁぁぁ!
過去最高メンバーが揃ったジャパンカップ。サイレンススズカの大逃げにより超ハイペースで進んだこのレースもついに終わりの時を迎える。勝負の決着がつくその瞬間、時の流れがゆっくりになったようにも感じた──レースを見に来ていたファンは、口を揃えてそう答えた。
6つの身体がゴールに重なったようにも見える。6人が一斉にゴール板を駆け抜け……勝者は、この豪華メンバーを下して頂点に立ったウマ娘は。
《アンカデキメルゼがわずかに前に出たぁぁぁぁぁぁぁ!ゴォォォォォォォォルイィィィィィィィン!アンカデキメルゼが、あの絶望的な状況に立たされていたアンカデキメルゼが!最後の直線で爆発的な末脚を発揮したぁぁぁぁぁぁ!絶対女王の不敗神話はまだ続く!女王は天高く人差し指を掲げている!これが、これがぁ!絶対女王アンカデキメルゼの姿だぁぁぁぁぁぁぁ!》
《集団に囲まれていると不利になるアンカデキメルゼ。しかし!あえてその不利な条件で!このジャパンカップを勝ってみせました!とんでもない強さです!》
《2着以下は審議に入ります!これはかなりの混戦模様!最後まで勝負の行方は全く分かりませんでした!しかし、しかし!アンカデキメルゼが、アンカデキメルゼが最後僅かに前に出ました!ジャパンカップを制したのはアンカデキメルゼ!》
静寂に包まれていた東京レース場。今度は──大歓声が支配する。
「「「ウオオオオオォォォォォォォォォォォァァァァァァァァァァ!!!」」」
「すっげぇ!マジでスゲェ!」
「ホントに凄い!いや、もう、本当……それしか言えない!」
「あんなに不利だったのに、勝っちまうなんて!」
「やっぱすげぇよアンカデキメルゼは」
場内から巻き起こるアンカコール。歓声を上げる中で、ファンは気づく。
「み、見ろ!アンカデキメルゼが……!」
「あぁ!アンカデキメルゼが……微笑んでる!」
「あの仏頂面がデフォルトのアンカデキメルゼが!?貴重なんてものじゃねぇぞ!」
「や、ヤバい……!私なんかドキドキしてきた……!」
アンカデキメルゼは笑顔を見せていた。ライブでも微妙な笑みしか見せない彼女の満面の笑顔。滅多に見せないその表情は、ファンの心を確実に射抜いていた。
例えばゼニヤッタ。
「『シルバーラビットさま~!こっち向いてくださ~い!』」
そして一緒のレースで走っていたデイラミもである。
「『グハァ!?な、なんて美しさだ……!』」
「あぁ!?デイラミさんが倒れた!?」
「ケーッ!?は、速く担架を……」
「『いや!倒れるわけにはいかない!この双眸で彼女の美しさを記憶に焼き付けておかねば……!ダラカニ!ダラカニー!ちゃんと撮っているんだろうなー!?』」
「『忙しいのうデイラミ……しかし、成程。貴重な体験であった。褒めて遣わすぞ皆の衆』」
「逃げ……切れなかった……っ!」
「あー疲れた疲れた。さてさて、あたしの順位はっと」
掲示板には、確定した順位が載っていた。
《大混戦となったジャパンカップ!2着はスペシャルウィーク!3着はデイラミ!4着ステイゴールド5着モンジューとなりました!しかし、しかし!本当に凄いレースでした!1着から6着までクビ差ハナ差の大接戦!誰が勝っても全くおかしくない状況でした!》
《そうですね。これから先このような勝負は拝めるだろうかという名レースでした!》
《そんなレースを制したのはアンカデキメルゼ!彼女の不敗神話にまた1つ!新たなレースが刻まれました!おめでとうアンカデキメルゼ!》
まだ止まないアンカデキメルゼのコール。それを受けながら、アンカデキメルゼは。
「ハハハ……やったぜ!僕の勝ちだ!」
満面の笑顔で、その声援に応えていた。
笑顔でファンの声援に応えているアンカを見る。
「おめでとーう!アンカー!」
「凄い……!本当に凄いです!アンカさん!」
「おめでとうです、アンちゃん」
「アンカさーん!お疲れ様ー!」
「──wonderful、ワクワクする、レースだった」
「おめでとうアンカ君!ハーッハッハ!今度は彼女にどんな実験をしてみようか?」
「程々にね、タキオン」
セクレタリアトさんとニジンスキーさんは、笑っている。
「HAHAHA!本当に、飽きさせてくれねぇな!我が弟子よ!良くやったぞー!」
「congratulation、アンカ。これからも頑張っていきましょうか」
このレース場にいる誰もが、アンカを褒め称えている。本当に、凄いレースだった。史上最高メンバーのジャパンカップ。誰が勝っても全くおかしくない、そんなレースを……アンカは制したんだ。
「本当に……おめでとう、アンカ」
いまだに笑顔を絶やさないアンカを見ながら、俺はもう一度彼女に祝福の言葉を贈った。
こうしてジャパンカップは終わった。結果はアンカが強敵達を抑えて1着に輝いた。ただ……。
「相変わらずライブの笑顔はできないんだね、アンカさん……」
「え~?それもまたアンカさんの可愛いとこだと思うよ?」
「笑顔ができないのは割と致命的だと思うがね」
「──不器用」
「これはこれで一定の需要はありそうだけどな。ほら、ゼニヤッタなんかそうじゃねぇか」
セクレタリアトさんの指した方向には、アメリカからきたらしいゼニヤッタが声援を送っていた。
「『シルバーラビット様ー!ぎこちない笑顔も素敵ー!』」
「あの子もあの子で特殊だと思うけどね」
「アハハ……」
相も変わらず、ライブ中のアンカはぎこちない笑顔を浮かべながら歌って踊っていた。
アンカデキメルゼ現時点での育成目標
メイクデビューに出走 達成!
フェニックス賞に出走 達成!
新潟ジュニアステークスに出走 達成!
京王杯ジュニアステークスに出走 達成!
全日本ジュニア優駿に出走 達成!
桜花賞で1着 達成!
皐月賞で1着 達成!
NHKマイルカップに出走 達成!
オークスで1着 達成!
日本ダービーで1着 達成!
エクリプスステークスに出走 達成!
キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスに出走 達成!
セクレタリアトステークスで1着 達成!
セントレジャーステークスに出走 達成!
凱旋門賞で1着 達成!
チャンピオンステークスに出走 達成!
菊花賞で1着 達成!
BCクラシックに出走 達成!
エリザベス女王杯に出走 達成!
ジャパンカップに出走 達成!
香港スプリントに出走
東京大賞典に出走
固有スキル風に。
【Stand up HERO!Wake up my soul!】
レース中に一度以上掛かり、極限まで追い込まれている時、全てのスキルの中からランダムに選ばれた12個のスキルを強制的に発動する(たまに不発するスキルもあるよ)。
追い込まれないと使えない上にさらにランダム要素が強いというね。なんだこいつ。
初めてアンケート機能を使ってみました。主にどの短編が見たいか?というものになります。一応全部書く予定ではありますが、どれから書こうか迷っているもので……。なので多かった順に書いていきます。
期限はクラシックシーズンの終了まで、つまりは東京大賞典のお話が終わるまでですね。投票してくれると作者は泣いて喜びます。
短編の内容は大体はタイトル通りです。