スペシャルウィークとサイレンススズカが所属しているチーム、スピカの沖野トレーナーは、目の前のレースを見て呆然としていた。
「……そんなのありかよ」
「やっばぁ……何あれ?多分、
「えぇ……?あんなにレースに集中してなかったのに、なんであんな事できんのよ……」
スピカのメンバーはジャパンカップに出走している2人を必死に応援していた。後もう少しで届く、もう少しで勝てるのだと。この豪華メンバーでも、あの2人は決して見劣りしていない。そう思っていた。
サイレンススズカ・スペシャルウィーク・デイラミ・モンジュー・エルコンドルパサー・ステイゴールドの6人での決着になる。そう思っていたところに飛んできた……レース中ずっと掛かっていたウマ娘、アンカデキメルゼ。このジャパンカップを制したのは、アンカデキメルゼだった。
「テイオーちゃん、私の知ってる
「……うん、
ナリタトップロードの疑問に、トウカイテイオーは答える。その答えを聞いて、ナリタトップロードは信じられないような表情を浮かべていた。
「でも!アンカちゃんのあれって絶対本人が得意としている状況じゃないですよね!?どういうことですか!?」
「ぼ、ボクに聞かれても分かんないよ!?」
ナリタトップロード達は騒ぐ。それだけ、アンカデキメルゼのレースは異質だった。そんな中、沖野トレーナーはこのレースについて考える。
(逃げと追い込みで走れば、
沖野トレーナーは、改めてアンカデキメルゼの強さを再認識する。そして、笑みを浮かべながら声を上げた。
「だけど……それでこそ燃えるってもんだろっ!」
「どうしたのさトレーナー?」
「いや、アンカデキメルゼの強さを再認識していたんだよ。そして、次こそは……負けねぇ!」
沖野トレーナーは気合を入れるようにそう声を上げる。ナリタトップロードも、つられるように両手で握りこぶしを作っていた。
「気合入ってますねトレーナーさん!私も頑張ります!」
沖野トレーナー達は、決意を新たに再始動することを誓った。
別の場所では。東条ハナ率いるリギルのメンバーがレースを観戦していた。そして、アンカデキメルゼのレースっぷりに……呆然としていた。
「苦手な差しで、あの末脚……驚嘆という他ありませんね」
グラスワンダーがそう呟く。ただ、表情は笑っていた。一緒に競ってみたい、走ってみたい……そう言いたげな表情だった。
それに便乗するように、シンボリルドルフもアンカデキメルゼの走りについて指摘した。
「……十中八九、最後の直線で彼女は
「だろうね。じゃないと、あの末脚の説明はつかないだろうから」
シンボリルドルフの言葉にミスターシービーも同意するように声を上げる。ただ、シンボリルドルフは驚いたような表情をしている。
「しかし、あの状況はアンカデキメルゼにとって不利な状況だったはずだ。自分にとって有利な状況で発動することが多い
「もしかしたら、その不利な状況こそがアンカが
3冠ウマ娘の2人はそう話す。その表情には、笑みが浮かんでいた。捕食者のような、獰猛な笑みが。
東条トレーナーは……アンカデキメルゼのレースっぷりに舌を巻いていた。
(……先行・差しで走ることはアンカデキメルゼにとって不利な戦法だった。現に、今回のレースもずっと掛かりっぱなしだったのは火を見るよりも明らか。だけど……それを
「まさか、アンカデキメルゼのトレーナーはそれすらも予見していたのかしら?だとしたら……」
東条トレーナーは思わず身震いしそうになった。もし、アンカデキメルゼのトレーナーが彼女の
「素晴らしい信頼関係ね、本当」
だけど次は負けない。東条トレーナーはそう誓う。これ以上負けっぱなしではいられないのだから。
こうして、ジャパンカップは幕を閉じた。
ジャパンカップが開けた次の日。私達はトレーナーさんに呼ばれてスピカの部室に来ました。なんでも、ミーティングとちょっとした発表があるのだとか。今部室にはスピカのみんながいます。
「それにしても、ちょっとした発表って何でしょうね?スズカさん」
「さぁ……?でも、悪いようにはならないはずよ」
「トレーナーも何を考えてるんだろうね?」
テイオーさん達とそんな話をしながらトレーナーさんを待っていると、扉を開けてトレーナーさんが入ってきました。ただ、1人じゃないようで……?誰でしょうか?
「ようお前ら!待たせたな」
「トレーナー、後ろの子は誰だ?」
ショートカットの鹿毛のウマ娘さん。多分、高等部の方でしょうか?中等部では見たことないので。
「紹介しよう!新しくスピカに入ることになった……」
「ジャングルポケットだ!ヨロシク!」
うるっさ!?凄く声が大きい!
「あ、わりぃわりぃ!つい気分がアガッちまってな!この通り、許してくれ!」
ジャングルポケットさんは頭を下げて謝りました。いや、大丈夫なんですけど……。
「ま、まだ耳がキーンってする……」
「い、いつスカウトしたのよ?トレーナー」
「スカウトの声自体は前からかけていてな。ジャパンカップ前に晴れてウチに入ることになった。これからはスピカの仲間だ!仲良くやれよ、お前ら」
「俺のことは気軽にポッケって呼んでくれ!」
ジャングルポケットさん……ポッケさんはそのまま席に座りました。和気藹々と話す……前に、トレーナーさんが真面目な表情で私達を見ています。何を言いたいのか、今から何が始まるのか……それは大体察しがついています。
「さて、このままポッケの歓迎会と行きたいところ……だが。その前に」
「ジャパンカップの反省会……ですよね」
スズカさんの言葉に、トレーナーさんは頷きます。やっぱりでしたか。
「まず最初に。スズカ、スぺ。お前らはすげぇレースをしてくれた。どっちが勝ってもおかしくねぇ、そんなレースを俺に見せてくれた。だが……アンカデキメルゼは、それ以上の走りを見せてきた」
「あれはまぁ……反則だよね」
「俺もあのジャパンカップは見たぜ。マジでパネェ走りだったな」
テイオーさんの言葉にみんな頷きます。どうやらポッケさんもあのジャパンカップは見ていたみたいです。
「お前らはすげぇ走りをしてくれた。負けちまった原因は、アンカデキメルゼの実力を見誤っていた俺にある。悪かった」
そう言って、トレーナーさんは私達に頭を下げました。だけど、正直……。
「……頭を上げてください、トレーナーさん」
「トレーナーさんは悪くありません。むしろ、私達のために遅くまで頑張ってくれてたじゃないですか」
「スズカ、スぺ……」
「それに、まだ完全に負けたわけじゃありません。これからも戦う機会はあります。だから……次こそは勝てるように、お願いしますね?」
スズカさんの言葉。私も同意するように頷く。トレーナーさんは呆けた顔をした後、笑いました。
「そうだな!次こそは、次こそはアンカデキメルゼ達に勝つぞ!」
「「「おー!」」」
「おー!」
「ちょ!?ポッケ先輩だけ私達の倍くらい大きいんだけど!?」
「あ?そりゃあ気合が入るってもんだろ!同じチームの仲間、それすなわちダチ!ダチのために俺も力になるぜぇぇぇぇぇ!」
「ポッケ先輩、ありがたいですけどもうちょっと声を抑えてくれるとありがたいです」
私がそうお願いすると、ポッケ先輩は渋々ながらも分かってくれました。
反省会は程々に、次は私達の次のレースの話になります。
「スズカは前から話していた通り、年明けまで休養だ。特にBCターフとジャパンカップの疲労が溜まっているだろうからな。しっかりと休んでおけ」
「……分かりました」
「スぺとトップロードは有マ記念だ。この有マ記念にはグラスワンダーが今のところ出走予定なのに加えて……アンカデキメルゼが出走してくる可能性が非常に高い」
「「ッ!」」
「なんでそんなことが分かんだ?トレーナー」
ウオッカさんの言葉にトレーナーさんは答える。
「アンカデキメルゼの人気を考えたら、有マに出走してくる可能性が高いからだ。現にネットでの調査も、アンカデキメルゼの有マ記念出走を望む声が大きい。可能性は高いだろう」
アンカちゃんが……有マ記念に!
「……今なら2人とも回避って手段も取れる。どうする?」
答えなんて、決まってます!
「勿論出走します!ジャパンカップ、すっごく悔しい思いをしましたから!だから、有マ記念ではアンカちゃんに勝ってみせます!」
「私もです!私も、アンカちゃんにはもう負けません!この1ヶ月、ビシバシ鍛えてください!」
私達は真っ直ぐにトレーナーさんを見つめる!それを受けて、トレーナーさんは満足げな笑みを浮かべました。
「よーし分かった!なら有マまでビシバシしごいていくぞ!覚悟しておけ!」
「「はい!」」
その後は解散となって、教室に戻ります。教室では、グラスちゃんも有マに出走することを教えられました。
「アンカデキメルゼさん……これほどまでの強敵と戦えることに、心が躍ります!ですが、無論スぺちゃんのことを忘れたわけではありません。良きレースにしましょう」
「勿論だよグラスちゃん!勝つのは、私!」
ジャパンカップは悔しい思いをしました。ミレちゃんやデイラミさんやモンジューさん。いろんな方と友達になれましたけど、それでもやっぱり悔しい!だから……
「有マは絶対に勝ーつ!けっぱるべー、私ー!」
そう気合を入れ直しました!
後日。とある記事が出回りました。それは、アンカちゃんの次走について。
【アンカデキメルゼの次走は香港スプリント!そして年内最後のレースは東京大賞典に出走予定!?】
そのニュースを、トップロードちゃんやグラスちゃんと一緒に見ます。
……。
「「「なんでですか!?」」」
絶対有マに出走すると思ったのに!なんでですか~!?そう思ってもアンカちゃんの次走は変わらないわけで……。私達の空しい叫びが学園中に木霊しました。
アンカ「有マだと思った?残念!東京大賞典でした!」
ダートウマ娘「来ないで!」