「さすがに厳しいわ。ごめんなさいね。一応、同じチームのライスさんとマックイーンさんにも声をかけてみるけど……期待はしないでおいて」
「ごめんなさいアンカちゃん。私達にもレースの都合があるので……というか、なんでモンゴルダービーに出走しようと!?」
「すまないねアンカ君。さすがに厳しいよ。力になれなくて申し訳ない。それにしても……相変わらずキミは予想がつかないね!」
師匠とコーチから残りの3人を集めてこいと言われて数日。障害の未勝利戦を勝ったりと色々とあって僕はメンバー集めに奔走していた。数少ない友人であるアヤベさんとトップロードさん、オペラオーにも声をかけたけど……当たり前のごとく断られた。そりゃそうだよね、みんなにもレースがあるんだから。
(本当にどうしよう……心当たり全滅しちゃったよ……あれ?僕の交友関係、狭すぎ?)
今は練習が休みの日なので山に登っている。なんで山に登ってるかって?トレーニングみたいなもんだよ。学園も休みだし、朝早く、それこそ誰もいない時間帯にお弁当作って山でトレーニングしてる。僕はかなり早起きだ。誰もいない時間に起きるのなんて慣れっこだからね。
デイラミさんは……誘えば間違いなく来るだろう。ただ、迷惑かもしれないし何より僕のコミュ障のことを考えてくれてこの指令を出した師匠達に申し訳が立たない。だから、極力デイラミさんには頼らない方針だ。
「だとしてもなぁ……僕の交友関係もう全滅してるし……後はシービーさんぐらいか?でもあの人リギルだしな~、誘っても東条トレーナーが断りそう」
リギルのトレーナーさんは厳格だ。だから絶対に許可を出さないだろう。こちらが相応のメリットを提示しない限りは。
「はぁ……本当にどうしよう……」
色々と考え事をしていると、お腹が空いてきた。時間を確認すると……あ、もうお昼か。そりゃお腹も鳴るか。
「……あんまり考え込んでも仕方ないし、ご飯を食べて「だ、だれか……たすけて……」な、なんだ?」
滅茶苦茶か細い声で何か聞こえたけど……。どこからだ?とりあえず、ご飯は後回しにして辺りを散策する。
必死こいて捜索すること少し。
「お、おめぐみを……」
山で遭難しているウマ娘さんを発見した。何してるんだろう……って!それどころじゃない!
「だ、大丈夫ですか!?」
僕はその人のところに駆け寄る!流石に命がかかっているのに話しかけるのが怖いとかそういうことは言ってられない!
「あ、あぁ」
「しっかり!どうしたんですか!?」
「お、お腹……」
「お腹!?お腹がどうかしたんですか!?」
遭難していたウマ娘さん……
「お腹空いた……」
「……」
腹減ってただけかい!
「いやぁ助かったよ!危うくぽっくり逝っちまうところだった!」
「洒落にならないんで止めてくださいよ……」
遭難していたウマ娘さんはお腹が空いていたらしく。僕のお弁当を渡すと一心不乱に食べ始めた。凄い食べっぷりだったな。よっぽどお腹が減ってたんだろう。
「このお弁当、美味しかったけど誰が作ったんだい?」
「あ、僕ですね」
「ほう!随分と料理上手なんだねぇ。あまりにも美味でついつい食い過ぎちまったよ!」
そ、そうかなぁ?えへへ……!これでも料理には結構自信がある。というか、安価でやることがあるから上達していったってのもあるんだけど。
「食い過ぎたのはお腹が空いていたからでは?」
「ハッハッハ、違いないねぇ!」
僕はウマ娘さんをまじまじと見る。なんというか……浮世離れしたウマ娘さんだ。
気になってたことを聞いてみるか。
「あ、あのウマ娘さんは……」
「ん?あぁ、あたしのことは……そうさね、松でいいよ。松って呼んでくれ」
「松さんは、どうしてこの山に?」
そもそもどうして遭難していたんだろうということだ。この山、別に遭難するようなところでもないような気がするけど……。
「いやなに、山菜採りに来ていたらついつい夢中になってしまってねぇ。気がついたら、あそこで行き倒れていたってわけさ」
「はぁ……」
「後は……こうやって自由に生きる方が性に合ってるんだよ、あたしにはね……アンカちゃん」
あれ?僕の名前……。
「なんで僕の名前……」
「そりゃ、アンカちゃんは有名人さね。知らない方が無理があるってもんだ。クラシックの五大レースを全て制したウマ娘!打ち立てた偉業は数知れず!レースと聞けば西へ東へ!まさに天下無双!一騎当千の大活躍!」
「え、えへ、えへへ……!」
「照れてるのかい?可愛いねぇ、頭を撫でてやろう」
僕は松さんに頭を撫でられる。不思議と、悪い気分がしない。というか、初対面なのに……不思議と話すことができる。松さんの雰囲気が成せる業だろうか?
「それで、何か悩んでいるのかい?あたしが昼餉を食べている間、浮かない表情をしていたが」
「そ、そんな表情してました?」
「あぁ。一見すると無表情だが……その実、何かに悩んでいるような気がしてね。何か心配事でもあるのかい?」
「……」
う、う~ん……話してもいいのかな?
「どれ。ここで会ったも何かの縁。それに、お弁当を馳走になった礼もある。この松さんに遠慮なく話してみぃ」
「そ、そういうことなら……」
僕は、松さんに自分が悩んでいることを打ち明けた。コミュ障の僕が、見ず知らずの松さんに。不思議だけど、松さんになら話してもいいんじゃないか?っていう安心感があった。不思議な雰囲気のウマ娘さんだなぁ。
僕がモンゴルダービーというレースに出走すること。最初は単独走破をしようとしたけど、モンゴルダービーの規定で無理だということ。だから複数人で出走することになったこと。師匠とコーチが6人までは集めること。残りのメンバーは僕が集めるということ。でもそのメンバー集めが難航しているということ。難航している理由は、赤の他人に話しかけるのが怖いということ。知人を頼ればいいけど、それは師匠達に申し訳が立たないからあまりしたくないということ。その全てを打ち明けた。
「ほうほう……知らない人に話しかけるのは怖い、それにお願いすれば確実に応えてくれる御仁がいる……だが、その手は極力使いたくない。それは、自分の為にと行動してくれる師匠達に申し訳が立たないから……成程ねぇ」
「や、やっぱり変ですかね……?」
僕が不安を抱えながら言うと、松さんは微笑みながら答えた。万人を魅了するような微笑み、見る人を安心させるような……そんな笑みだ。
「いんや、アンカちゃんは立派だよ。師匠達の意図を汲み取って、楽な道もあるのにその道を選ばなかったわけだろう?」
「まぁ……はい」
「なら、アンカちゃんは立派だ。自分から変わろうとしているんだからねぇ。その気持ちは、十分に立派だ」
松さんがまた頭を撫でてくれる。なんとなく、安心する。
「でも不思議だねぇ。アンカちゃんは、他人に話かけるのが怖いんだろう?でも、あたし相手には普通に接しているじゃないか」
「そ、それは……なんというか、松さん話しやすくて……」
これは嘘偽らざる本音だ。松さんはなんというか……怖くない。
僕の言葉に、松さんは笑った。
「あっはっは!嬉しいこと言ってくれるねぇ!うんうん、あたしは嬉しいよアンカちゃん!」
「あ、あはは……」
「でも、最初は話しかけるの怖かったんじゃないかい?行き倒れているような輩だからねぇ、恐れを抱いても仕方ない気はするが」
「それは、知らない人の恐怖よりも助けなきゃって気持ちが先に来たので」
「優しい子だねぇ……うん、決めたよ」
松さんは立ち上がりながらそう言った。決めたって……何が?
「アンカちゃんのメンバー集め、あたしが手伝ってあげようじゃないか」
「松さんが?……大丈夫なんです?」
「安心しておくれ。これでも人徳はあるんだよ」
松さんが自分の胸を叩きながら自慢げに言う。……胸大きいな松さん。揺れた。
「でも、僕のコミュ障……」
「見ず知らずの他人だったあたしにこうして話しかけたんだ。かなり大きな一歩を踏み出せたと、あたしは思うよ」
「……松さんは、いいんですか?」
「なにがだい?」
「……迷惑なんじゃ、ないかって」
不安そうにそう言うと、松さんは……やっぱり安心させるような笑みで、僕と目線を合わせて言葉を紡ぐ。
「全然迷惑なんかじゃないさ。それに、迷惑をかけているのはあたしの方さね。アンカちゃんの昼餉を平らげちゃったわけだからね」
「アハハ……」
確かにそうだけど。
「ま、これは大きな一歩を踏み出すことができたアンカちゃんへのご褒美さね。後は昼餉の礼。アンカちゃんが探している3人のメンバー……あたしの伝手を頼ってみるよ」
「あ、ありがとうございます」
「それと、コミュ障を治すアドバイスだ」
松さんは、僕の目をジッと見て、真面目な表情で語る。
「アンカちゃんは考え過ぎちゃうんだろうね。相手を怒らせたらどうしよう?相手を不快にさせたらどうしよう?自分といたら嫌なんじゃないか……そんな風に、悪い考えが頭を支配しているのさ」
「……」
「別にそれが悪いとは言わない。考えようによっては警戒心があるってことだからね。無理に直せとは言わない。だけど……」
松さんは微笑みながら続ける。
「たまには深く考えないで接するのも悪くないさね。やってしまったことは後に考えちまえばいい、そんな風に気楽にすればいいのさ。他人に迷惑かどうかなんて、気にしなくていいんだよ」
「深く考えずに、他人に接する……」
「ま、今は厳しいかもしれないけど……後々改善していけばいいさ。あたしは、アンカちゃんを応援しているよ」
松さんは立ち上がって、どこかへと去ろうとする。
「3日後。メンバーを集めてアンカちゃんのところへと足を運ぶよ。それじゃあねアンカちゃん」
「あ、は、はい!松さん!ありがとうございました!」
「お礼を言うのはあたしの方さね。お弁当、美味しかったよ!また食わせておくれ!」
手をひらひらさせながら松さんは去っていった。う~ん……不思議なウマ娘さんだった。
お弁当もなくなったし、今日のところは帰ろう。それに、3人のメンバーも集まったし!
「でも松さん、どんなウマ娘さんなんだろう?どっかで見た気がするんだけど……」
それに、なんだか懐かしい気もする。本当に不思議な出会いだったなぁ。
あれがアンカデキメルゼ……うん、良い子だねぇ。表情は変わらないけど、何となく分かる。あの子が今は喜んでいるのか、落ち込んでいるのか……何となく分かった。不思議だけどね。
「さて、久しぶりに連絡を入れるかねぇ。出てくれるといいんだが」
笑みがこぼれる。それにしても……本当に不思議な子だ。アンカデキメルゼ。何となく、他人のような気がしない。懐かしい気配すら感じる。会った記憶はないんだけどね。
残りは……
「帰ったらみほにまたどやされそうだけど……まぁいいか。久しぶりに血が滾るねぇ……!」
これから先のことを考えながら、あたしは帰路に着いた。3日後、アンカちゃんに会う時のことを考えながら。
短編はこの後23時に投稿されますよっと。後で短編と本編で章分けしておこうと思います。