その日、藤井記者は特ダネになりそうな記事を求めて歩き回っていた。
「なんかないやろうか?特ダネになりそうなもん」
「やっぱ早々転がってませんって先輩」
藤井記者の近くには、彼の後輩である記者もいる。2人で記事になりそうなものを探し回っていた。
「アンカデキメルゼが障害レースに参戦するっちゅう記事もまぁビックリやったけど……もひとつなんか欲しいとこなんよな」
「それにあの子はどこも注目してますからどうしても飽和気味ですからね。なんかないかな~……?」
その時、後輩記者の方が何かに気づいた。藤井記者の方を叩いてある方向を指差す。
「藤井先輩、アレなんですかね?なんか、凄く目立つウマ娘が2人いますけど」
「うん?どうした……って!?」
藤井記者は後輩記者が指差した方を見る。見た瞬間、彼は顎が外れそうなほど口をあんぐりと開けた。
彼らの視線の先にいたのは、黒い髪をセミロングにした真面目な雰囲気を漂わせる180は超えているウマ娘と、葦毛の白い髪をショートカットにした小柄なウマ娘。そのどちらもが、
藤井記者は戦慄する。何故、あの2人がここにいるのかと。
(うっそやろ!?僕の予想が正しければ……なんで
2人の会話が聞こえてくる。
「『あ~あ、なんでウチらが日本に来なきゃいけないのか』」
「『セクレタリアト様から言われたはずです。モンゴルダービーに出走しろと。そのための打ち合わせに、我らは来たのですから』」
「『分かってるっすよ。言いたくなっただけです』」
モンゴルダービー。そのレースは藤井記者も聞いたことがある。モンゴルの大草原を駆け抜ける、1000キロの距離を走るレース。そのレースに、あの2人は出走するつもりなのだろうか?
藤井記者が呆然と見つめていると、2人が藤井記者の視線に気づいた。
「『あ、日本のパパラッチかな?あちゃ~バレちゃったかな?』」
「『……話し合いに行きましょう』」
2人は、藤井記者達に近づく。そして、申し訳なさそうに話しかけてきた。
「『すいません、ウチらが
「『無論、それなりのメリットを提示しましょう。我らの話し合いが終わったら、あなた方のインタビューに優先して答える権利を与えます。いかがですか?』」
「え、あ、いや……『それは勿論ええですけど』」
藤井記者はタジタジになりながらも答える。それだけ、彼の目の前にいる2人は有名なのだ。藤井記者は、2人の提案を承諾する。その言葉に、2人は満足そうに頷いて去っていった。無論、後のために連絡先の交換も忘れずに。
一連のやり取りが終わった藤井記者はその場にへたり込む。後輩記者は慌てて駆け寄ってきた。
「だ、大丈夫すか!?」
「ゆ、遊佐ちゃん……とんでもないウマ娘と会うてしもうたわ……」
「そんなに有名なんですか?」
「有名も有名、アメリカの名ウマ娘100選に選ばれるようなウマ娘や!こ、こないな機会に恵まれるなんて……!」
藤井は感激する。その後ろでは。
「『ハーッハッハッハ!神たる我の姿を!日本の下々の民にも拝めさせようではないか!』」
「『サッサと向かうぞ。ニジンスキー先輩を待たせるわけにはいかないからな』」
「『はい』」
鹿毛のショートカット、さながら軍人のような雰囲気を漂わせる170後半のウマ娘と、栗毛の髪をポニーテールにした160程のウマ娘が藤井記者達の後ろを歩いていた。
その頃日本の中央トレセン学園では。
「すまないねぇ、ちょっと入らせてもらうよ」
「あ~すいません。許可証のない方は……って!?」
警備員の表情が驚愕に染まる。目の前にいるウマ娘達を見て、口をパクパクとさせていた。
「あたしらはここのOGさね。通してくれるかい?」
「あ……あ……」
「応応!固まっておるな!しかしそれもまた仕方なし!我らがここに来るのも随分久しぶりだからのう!」
「……そんなものでしょう。早いところ向かいましょう、先輩方」
「そうさな。アンカちゃんが待っておる。ただでさえ遅れている気がするさね。それじゃ、通らせてもらうよ」
3人のウマ娘──かつてアンカデキメルゼが会った茶色の鹿毛をロングヘアにして、後ろで1つに纏めているウマ娘。編み笠を被っている。彼女の後ろには栗毛のセミロングをショートポニーにしている大柄なウマ娘、鹿毛の長い髪をボサボサにしている野武士然とした、こちらもまた大柄なウマ娘が控えていた。その3人は、この中央トレセン学園において──かなり有名なウマ娘達である。
3人はトレセン学園へと歩を進める。その行先は、決まっていた。
……というわけで、やってまいりましたモンゴルダービーに出走するみなさんの顔合わせの日。一体どんなウマ娘さん達が来るんだろうなぁと今から戦々恐々している僕です。
「んな委縮すんな我が弟子。少なくとも1人はお前に興味を持っているからな、悪いようにはしねぇ」
「そ、そうなんですか?」
「あぁ。それにもう一人の方も俺が可愛がっているヤツの1人だ。何もしねぇだろうよ」
「こっちもそうよ。ちょっと癖は強いけど、悪い子達じゃないわ」
そ、それなら安心かもしれない。問題は……師匠達のことだからとんでもない有名人が来る可能性が非常に高いということだ。だって師匠達だよ?国を代表するようなウマ娘ですよ?2人は後輩って言うけど、絶対に有名なウマ娘さん達じゃん!?失礼のないようにしよっと……。
部室にはみんないる。緊張が走っている中……扉をノックする音が聞こえた。トレーナーさんが入室を促して、ノックした人物が入ってくる。
「『こんちは~っす。来ましたよ先輩』」
「『失礼いたします』」
「『おぉ来たか!よく来てくれたな!』」
入ってきたのは……黒い髪をセミロングにした真面目な雰囲気を漂わせる180は超えているウマ娘さんと、僕と同じぐらいの小柄な、葦毛のウマ娘さんだ。師匠は嬉しそうにしているけど、黒鹿毛のウマ娘さんの方は呆れたような表情してる。トレーナーさんは、大口開けて固まってるや。多分察しがついてるんだろうな。僕は良く分かってないけど。
「『アンタが無理矢理呼んだんでしょうが。こっちもそれなりに忙しいってのに』」
「『何言ってんだ。どうせボッチだから暇だろ
「『だからボッチって言うんじゃねぇ!ウチは1人でいるのが好きなだけなんだよ!それをボッチだのなんだの……!いい加減にしろやこのものぐさビッグ・レッド!』」
あ、電話口のウマ娘さんこの人だったんだ……って!?シアトルスルー!?あの史上初となるアメリカの無敗の3冠ウマ娘さん!?
「『そう怒るな怒るな。お前もよく来てくれたな!
「『無論です。セクレタリアト様のお願いとあれば、無碍にするわけにはいきませんから』」
「『いやーよく来てくれた!俺は嬉しいぜ!』」
師匠はレディーズシークレットさんの頭を撫でている。レディーズシークレットさんは嬉しそうだ……って、この人もこの人でやべーじゃねぇか!?
「アメリカ無敗の3冠ウマ娘に、米国の鉄の女……セクレタリアトさんの後輩って言うからかなりのウマ娘さんが来るとは思ってたけど……」
「とんでもない人物が来たものだねぇ……」
タルマエさんとタキオンが呆然としている。うん、気持ちは分からんでもない。
そしたらまた扉がノックされた。今度は……松さんだろうか?入室を促すと入ってきたのは……松さんじゃなかった。残念。
「『クハハハハ!我、降臨!崇めるがよい!』」
「『ニジンスキー先輩、来ましたよ』」
「『えぇ、よく来てくれたわ2人とも』」
今度は鹿毛のショートカット、軍人みたいな雰囲気を漂わせるウマ娘さんと、栗毛の髪をポニーテールにしたウマ娘さんだ。ただ、栗毛のウマ娘さんの方は……なんというか、凄く神々しい雰囲気を感じる!
「『よく来てくれたわね
「『光栄です、ニジンスキー先輩。私の力、存分に発揮いたしましょう』」
「『ちょ!?先輩!我は?我は!?』」
と、トリプティク……!こっちも鉄の女ぁ!?
「……『勿論あなたも待っていたわ。
「『全然そんなことないですよね!?だったらもうちょっと嬉しそうにしてくださいよ!?』」
ら、ラムタラ……。神のウマ娘として名高い方だ。4戦4勝、最少のキャリアでその実力をいかんなく発揮した、まさしく神と呼ぶにふさわしいウマ娘!……コーチ達に弄られている姿からは、全然そんな気配を感じさせないけど。
さて、これで師匠達が呼んだウマ娘さんは揃った。後は……松さん達だけなんだけど。
「……」
「ところでアンカ君。君が呼んだっていう方達はまだかい?かれこれ10分以上は待っているが?」
全然こねぇぇぇぇぇぇぇぇ!?な、何かあったのかな松さん!?
「しっかし来ねぇな」
「ぼ、僕はちゃんと呼んだんです!信じてください師匠!」
「そこは別に心配してねぇから安心しろ我が弟子。何かあったのかね?」
うぅ……!早く来て安心させてくださいよぅ……!
それからまたしばらく待って。ようやく扉が叩く音が聞こえて……!
「ど、どうぞ!」
僕がそういうと、扉を開いて入ってきたのは……編み笠をした松さんだ!
「すまないねぇアンカちゃん。遅れちゃったよ」
「松さ~~~ん!」
「そんなに嬉しそうにしてくれると、遅れたのが申し訳なく感じるねぇ。いや、申し訳ないんだけど」
松さんは申し訳なさそうに笑みを浮かべているけど……!こうして来てくれたならモーマンタイだ!
「トレーナー君!僕が呼んだ人が来たぞ!」
「もう驚かない……もう驚かないぞ……って!?嘘でしょ!?あ、あなたは!?」
「……へぇ?」
「ほう!中々なビッグネームじゃねぇか我が弟子!」
あれ?師匠達は松さんのことを知っている?まぁ僕もどこかで見たことがあるぐらいだし、かなり有名なウマ娘さんだとは思っていたけど……。
「あ、アンちゃんのラック値はどうなってるです?歩けばレジェンドに遭遇するスキルでも持ってるです?」
ヴィッパーもビックリしてる。さっきもビックリしてたけど、余計にだ。
そんな僕達の姿を見て、松さんは……楽しそうに自己紹介を始めた。
「さてさて……今更自己紹介なんているのかって話だけど……せっかくだ!名乗らせてもらおうじゃないか!」
名乗りを上げるように、松さんは──自己紹介を始めた。
「日出国のクラシック3冠を制し、現役19連対はかつての記録!URAさえも頭を下げ、その名を聞くだけで誰も彼もがあたしを崇め奉る!神すらも讃えたウマ娘……シンザンたぁあたしのことさ!」
「「「……」」」
へぇ~松さんの正体はシンザンさんか~……って、ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??
「しししししししし、シンザン!?」
「アッハハハハハ!本当に気づいてなかったんだねぇアンカちゃん!ま、その驚いた声を聞けだけでもあたしは満足かな?」
松さん改め、シンザンさんはケラケラ笑っていた。そ、そりゃどっかで見たことあるはずだよ!僕もさっきまで名前と顔が一致しなかったけど……名乗りを上げられたら気づいたよ!?
「──アンカの、luck、運は、どうなっている?」
「アンカさんは顔が広いんだね~」
「それで済ませていい問題じゃないんだよファイン君!?」
「さてさて。驚きのところ申し訳ないが……あたしもモンゴルダービーに一枚嚙ませてもらうよ」
し、シンザンさんがモンゴルダービーに!?そ、そりゃ嬉しいけど。
「ほ、本当に良いんですか?シンザンさん。なんだか申し訳ない気が……」
「今まで通り松さんで良いよアンカちゃん。それに……気にする必要はないさね。こんな面白そうな祭り……参加しないわけにはいかないからねぇ」
松さんは……優しく微笑んだ。や、やっぱり良い人だ!松さん is GOD!
「さて、ここいらであたしが呼んだ2人も紹介しようか。それじゃ、入っておいで!タケ!フジさん!」
そういって入ってきたのは……!
「ガハハハハ!面白そうな祭りだのう!このフジノオーも、ちょっくら参加させてもらおうじゃねぇか!」
豪快に笑う栗毛のセミロングをショートポニーにしている大柄なウマ娘さん、障害レースのパイオニア、フジノオーさんと。
「……タケシバオー。よろしく頼む」
野武士然とした、鹿毛の長い髪をボサボサにしている大柄なウマ娘さん、元祖オールラウンダー……タケシバオーさんだ!?いや、こっちもこっちでクソ有名じゃないですか!?
と、取り合えずこれで10人揃って「へぇ、凄い豪華なメンバーが集まってるじゃん」あ、あれ?この聞き覚えのある声は……。
「し、シービーさん?」
「や、アンカ。面白そうな気配がしたから来たよ」
窓から部室に入ってきて……いや、扉から入ってきましょうよ。狭いでしょそこ。
「アハハハ!凄く良い光景だ!うん!誰も彼もが美しい輝きを放っている!成程成程……ファイン殿下、誘っていただいて真にありがとうございます!」
「ゲッ、この声は……!」
ヴィッパーが露骨に顔をしかめる。そこにいたのは……。
「デイラミさん?」
「やぁ愛しのアンカ。君のために……ここに来たよ」
ウインクしながらそう告げる、デイラミさんだった。
「面白そうなことしてるじゃん、アンカ。モンゴルダービー……だっけ?」
「そ、そうですけど……それがどうかしましたか?」
「アタシも一枚噛ませてよ。こんな面白いこと、見逃せないね」
「無論、私も参加させてもらおう。他ならない、君のために……ね?」
……うん。モンゴルダービー、すっげぇメンバーが集まったな!?
なんやこの厨パぁ!?
モンゴルダービーの出走メンバーが固まったので本編は一旦停止します。明日からは短編の続きを書いていきます(アンカデキメルゼってどんなウマ娘?リアル編からですね)。短編が全部書き終わったら本編の方に戻ります。