あらゆる音が、聞こえた。
骨が粉砕し、筋が千切れ——行き場を無くした魔力の源たる血が、瀕死の器を無情に見限り逃げていく音が、損傷部から衝撃波となってオペラの如く反響する。もし……もし隕石を受けた地球に意志というものがあるのなら、まさに、こんな思いをしたのだろう。……そんな、どうでもいい妄想を。他人事のように浮かべる自分と、失血のショックに狂いそうな自分。心拍のたびに頭が揺れて痛い。痙攣が神経を擦って痛い。体液の鼻を刺す異臭が痛い。剥き身の震える肉に触れる、なま温い春の空気がおぞましいほどに何より痛い——息と絶叫が喉奥で混ざり、嗚咽と共に涙が伝う。助けて。助けて神様。この状況から逃れられるなら何でもする。何でも。なんでもする。
「ほらほら、薬だよー? 痛み止めはこっちだよー」
薬——薬!
涙に霞む視界に飛び込んできた、べちゃべちゃ撒き散らかされる透明な液——砂漠に神が天上から垂らされた、奇跡の雨雫。
「ぁ————」
慈雨がみるみる床下へ染み込んでいくのを見て沸騰しそうになりながら、転げ落ちるようにして処刑台を降り、薬のこぼれた所まで、汗だくで這いずり寄る。体が重い。片手足を失ったとはいえ、代わりに質量も三分の一くらいは減っているはずなのに、全く前に進めない。それでもなんとか辿り着くと、何度も、何度も、盛った犬がディープキスでもするように、顎が外れる寸前まで口を開けて、汚れた木目を舐め啜る。必死で吸い込むので、吐く息が疎かになって、過呼吸になる。全身の悪寒と痛み、筋肉の痙攣のせいでそこらにゲロをぶちまけながら、それでも続けた。涙と鼻水を顔いっぱいに流しながら、この口が吸引型掃除機であればよかったのにと、馬鹿げたことを本気で願った。願わなければ激痛で発狂していた。とっくに狂っていたのかもしれなかった。
「薬、薬、薬……!」
うわ言を呟き這いつくばっていると、高笑いがまた、頭上で、終わりを告げる鐘のように鳴った。
「あはは! 本物の痛み止めなわけないじゃん。そんな高い霊薬、お前如きのために用意するとでも思ったの? 恥を知れよ」
空の薬瓶が二つ。
ころんころん、と、苦悶に歪んで戻らない僕の顔のすぐ横に落ちるや否や、ローファーの靴底に踏まれて潰れる。数多の足音が、赤黒い血溜まりを避けて移動を始め、そのうちの数人は(おそらくは僕の後頭部に向けて)「汚ねえな」と吐き捨てた。絶望と恥と、鉄臭い吐瀉物の中で、僕は静かに悟る。召喚が始まるのだと。出来損ない魔術師の断罪など、面白くもない前座に過ぎない。はじめからわかっていたことだ。はじめから。そう。何もかも、
「いーち、にーい……よし! きっかり12個、1ダース! ありがとうキャスター。いつも仕事が丁寧で助かるわ」
「とんでもございません」
そんな会話を遠くに聞きながら、気づけば残骸すら失せていた利き腕の、肘から下をぼんやり眺める。視線を動かす気力も湧かないが、右足もこうなっているのだろう。ああ、治療費どうしよう……家に帰って、父に頭を地面に擦り付けて頼めば、出してはもらえるのだと思う。父は、会社ではそれなりの地位についていて、正確な額は知らないがそれなりの財産を持っていて、そして人格を考えるに、次男の身体的欠損を埋めるための金を支払うことは予想できた。それこそ湯水の如く。ただ……結局、これは悪魔の取引で。僕は手足と引き換えに、返せぬ借りを作ることになり、つまりそれは、この先生涯に渡って一族の完全な奴隷となることを意味していた。世間一般の他の父親がどうだかは知らないが、あの人はそういう人だ。「家族」という言葉が血族以上の意味を持たず、爬虫類のそれと大差ない情緒と支配欲で構成された、強靭な遺伝子の器。
「素に銀と鉄——」
ああ。呪文の詠唱が聞こえる。
辺りはしんと静まり返って、まるでクリスマスの夜のよう。目をきらめかせて、贈り物が届けられるのを待っている。「サンタなんていない」と腐る悪い子には与えられない、美しい運命からの、美しいプレゼント。
「ああ、これは……」
皆が息を呑む気配。
魔法陣から放出される極彩の光が、儀式に背を向けたこちらの方にまで漏れてくる。「
背後を振り返った瞬間、生者ならざる存在と、ばっちり目と目が合う。