Another Days-case of Shizuku- 作:瑠和
目の前に見えるのはどこかの誰かの記憶だろうか。誰かの視界から、見慣れた先輩の姿が見える。
「あなたを愛してます、◆◆さん。初めて会った時から。俺と、付き合ってください」
その言葉の後に見えた、先輩のうれしそうな表情。その輝きに目をそらす。目を逸らした先にまた誰かの記憶が映り込んでくる。
「…あなたを愛してます◆◆さん…いや、◆◆」
雨でずぶぬれになっているのにも関わらず、その言葉を言われた先輩は笑顔だった。自分が知っている限りでは見たことがない笑顔だった。
そして、また誰かの記憶が目の前に写る。
「当たり前だ。俺も、お前が好きだったんだよ……ごめんな気づくのが遅くなって。俺は、お前が好きだ…………◆◆◆」
見れば見るほどに心がもやもやしていった。どうしてだろう。なぜ私はヒロインになれないのだろう。これだけ多くの物語が生まれていく中で、どうして「彼」の理想のヒロインになれないのだろう。
そう思い、うずくまる。
なりたい
彼の、理想のヒロインに
そう思った直後、背後から誰かがやってきて自身の耳元でささやく。
「無理だよ。私の歌なんて、誰にも届かない。彼は私に振り向いてくれない。本当はわかっているんでしょう?あなたも、私だもの」
耳をふさぐが、それでも聞こえる。「私」の声が。
「なりたいのに、私だって、くだらない物語への憧れじゃない!私の、本心で!」
刹那、空間を切り裂いて何かが私の目の前に降ってきた。落ちてきたのはいびつな形をした石。それを手に取ってみるとまた新たな記憶が見えた。
「決めたんだ。あの瞬間から………俺は◆◆さんのためにしか…………多分もう生きられない」
また、あの人の記憶だ。嫌な気分になりかけたが、何かかが自分の中に引っかかった。
そして、少しだけ考える。この記憶の「彼」はほかの記憶とは違う。
少し考えて結論が出た。
そうだ。そうしよう。
「無理だよ、どんなにあがいたって。どうせまた、どこかの世界に収束する」
また「私」がささやいてきた。
「だけど、私はあきらめたくない。スクールアイドルの夢を諦めなかったみたいに。きっと、方法があるって信じる」
私は私の声を、制止する手を振り切って前に進んだ。
◆
その瞬間、目を覚ます。手にはいびつな形の石が握られていた。
「しずく、そろそろ起きないと入学式、遅刻しちゃうわよ?」
「………はーい」
なんだか長い夢を見ていた気分だった。なぜこんないびつな形の石を握って寝ていたのかよくわからない。だが、捨ててはいけない気がした。
さて、起こしてくれた母の言う通り、今日は高校の入学式だ。家が遠いので少し早くに出なければならない。どんな出会いが待っているか今から少しドキドキしていた
続く