Another Days-case of Shizuku-   作:瑠和

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今日は彼方としずくの真ん中バースデイだそうで。
私もあげますよ。しずくと彼方の話を。

それが、友情や心情から来ているかはさておき…ね


第九話 嫉妬と、台本と

朝起きて、学校に登校する。授業を受け、昼休みは璃奈としずくと昼食をとり、放課後にしずくと璃奈とスクールアイドルの練習をする。

 

それだけで幸せだ。それ以上望むべきじゃない。しずくを悲しませるわけにはいかない。

 

そう思いながら今日も夕飯の食材を買って帰ろうとした。

 

「…………」

 

「瑠和君」

 

聞き覚えのある声で名前を呼ばれた。振り向くと、同じクラスの高咲侑がいた。

 

「高咲」

 

「ちょっといい?」

 

 

 

―カフェ―

 

 

 

侑は瑠和を連れてカフェまでやってきていた。瑠和は不機嫌そうに腰かけ、買ったドリンクを飲んでいる。

 

「実はね、私、今スクールアイドル同好会にいるんだけど………」

 

「ああ、知ってる。璃奈から聞いた」

 

「そっか、それでね、みんなで話して、みんなでまたやれることになったんだ」

 

その言葉に瑠和は一瞬瞳を輝かせかけたが、すぐにまた不機嫌そうな顔に戻った。

 

「…………そうか」

 

「それで、せつ菜ちゃんも戻ってきてくれて………だけど、二人戻ってきてくれてないメンバーがいて…」

 

「…俺もしずくも戻る気はねぇよ」

 

「それは困りますね」

 

そこに、中川菜々が現れた。

 

「菜々…」

 

「規則として同じ同好会が存在することは認められません」

 

「別に同好会としてやってるわけじゃない。勝手にやってるだけだ」

 

「しずくさんと瑠和さんのみであれば問題はありませんが、璃奈さんもメンバーとして入っていて、それに練習場所が公共の場、というのが一番いただけません」

 

菜々の言葉に瑠和はカチンときた。そもそも公園を練習場所に最初に選んだのはせつ菜の方だ。

 

「お前がそれを言うか」

 

「私の場合、あくまで部を設立するまでの仮の練習場所として選んだだけです。ですが瑠和さん。あなた方が部を作らないというのであれば、いつまでも公共の場を練習場所として認めるわけにはいきません」

 

あくまでこの先、瑠和たちがスクールアイドルをやるのは問題ないが公共の場所で続けるのが問題だという話らしい。

 

「………どうすれば満足だ?」

 

「もう一度、一緒にやりませんか?今、私たちは新しい目標に向かってスクールアイドル同好会をやっています」

 

「新しい目標?」

 

「はい。私たちは、それぞれ私たちの色がある…………侑さんがそのことに気づかせてくれました。だからこそ、私たちは、私たちがそれぞれやりたいステージを個々に作っていくことが大事なのだと思います」

 

その瞬間、瑠和は目を丸くする。せつ菜がしずくと同じことを言ったことに瑠和は驚いたのだ。今のせつ菜たちであれば、うまくやれる。そんな気がしたが、瑠和の脳裏には再びあの夜のことが蘇る。

 

(怖いんです………皆さんのところに行かせてしまえば、瑠和先輩は、そばにいてくれるのに………私を見てくれていない…そんな未来が見えてしまって……)

 

ここでまた勝手に判断すれば、再びあの夜のようなことになりかねない。

 

瑠和は少し考え、荷物を持って席を立った。

 

「…………あくまで仕切ってるのはしずくだ。しずくと話し合ってくれ。お前たちの気持ちは伝えておく」

 

「瑠和さん………」

 

瑠和のどこか生気が抜けたような背中を見て侑は以前の瑠和とは違うことを肌で感じ取っていた。

 

「………なんだか、変わっちゃったな…瑠和君」

 

「はい………前はもっと熱意のある方にお目見えしていましたが……」

 

 

 

―天王寺家―

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

「おかえりなさい」

 

家に帰るとしずくが瑠和を出迎えた。しずくはまるで新妻のように瑠和の荷物を受け取る。

 

「今日も………泊まりに来てたのか」

 

「はい。明日朝練があるので」

 

はっきり言って瑠和はこの関係を快くは思ってはいない。

 

瑠和の家は全然かまわないのだが、年頃の男女が保護者なしに一つ屋根の下っていうのも少し考えものだからだ。

 

はじめは璃奈の友達だからと高を括っていたが、それを許していたからこの間あんなことが起きたのだ。

 

「どうかしました?」

 

「…………いや、じつはさっき生徒会長に会ってさ…」

 

瑠和は侑たちと話した内容を伝えた。あくまで侑側からのアプローチであることと、このままでは純粋に色々問題があることを伝えた。

 

「…そうですか。わかりました。では明日改めて生徒会室にうかがおうと思います。今後のことは私の一存で決めてもよろしいでしょうか?」

 

「………ああ。任せる」

 

しずくが満足いく形で終わるのであれば十分だ。瑠和はそう思ってしずくにすべてを託した。しずくは璃奈の部屋に向かう道中、小さくため息をつく。

 

「まぁ、ここが潮時かな」

 

 

 

―翌日―

 

 

 

「というわけで、今日から私たちも同好会で一緒にやることになりました。よろしくお願いしますね」

 

しずくが璃奈と瑠和に今後は同好会と一緒にやっていくことを伝えた。瑠和は呆然としていた。以前の態度が嘘のように、すんなりとしずくは同好会に入ることを受け入れた。

 

「どうして……」

 

「同好会は、これまでの方針とは別の方針でやっていくようです。グループではなく、個としてのスクールアイドルを大事にしていくと」

 

「………」

 

「つまり目的は私と同じだったわけです。それであれば、無理に誘いを断る必要もありませんからね」

 

「そか、しずくがそれでいいなら、俺もそれでいい。璃奈はどうだ?」

 

「私も大丈夫」

 

瑠和たちも虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会に入部することとなった。結果的に事態が丸く収まる結果になったはずだが、瑠和はどこか胸騒ぎを感じていた。まだ一波乱ありそうな予感を。

 

 

 

―同好会部室―

 

 

 

「「というわけで、おかえりなさい瑠和さん!しずくさん!アーンドようこそ!璃奈ちゃん!!」」

 

翌日の放課後、さっそく同好会に誘われ、歓迎会が開かれた。同好会には以前の面子に加えて瑠和のクラスメイト、高咲侑と上原歩夢、そして宮下愛がいた。

 

「お前まで入ってるとはな」

 

「うん!前はお手伝いって感じで入ったけど……愛さん、しずくのステージ見て、やってみたくなったんだ!」

 

「そうか………」

 

いまいち居心地が悪い。理由は簡単だ。かすみがいるからだ。

 

あの日、見当違いのアドバイスでかすみの期待を裏切ってしまってからどこかかすみに後ろめたい気持ちがあった。

 

「瑠和先輩、どうぞ」

 

そんな瑠和のところにしずくがエマ特製のカップケーキを持ってきた。

 

「あ、ああ……ありがとう」

 

しずくは瑠和の返事の歯切れが悪いことにすぐ気が付いた。

 

「………どうかしましたか?あまり顔色が優れないような…」

 

「……前に、かすみちゃんを説得しようとした時に、俺はかすみちゃんの期待を裏切ったから」

 

「それは、私の責任でもあります………どうでしょう、かすみさんが一人になるタイミングで話してみるのもアリかもしれません。わたしも一緒に謝りにいきますから」

 

「ああ…ありがとう」

 

少しの間歓迎会を楽しく過ごし、かすみがトイレに行くタイミングを見計らって後をつけた。

 

 

 

―トイレ前―

 

 

 

「ふぅ……さてさて…おや?」

 

トイレを出てきたかすみの前には瑠和としずくが立っていた。

 

「どうしたんですか?二人とも」

 

「あ…………あの……さ。俺………その…」

 

いざ謝ろうと思うとついどもってしまう。またかすみに責められるんじゃないかという恐怖があるからだ。瑠和がどもって言葉を言えなくなっていると、しずくがそっと手を繋ぐ。そしてそっと瑠和に耳打ちする。

 

「大丈夫です。瑠和先輩。私がついてますから」

 

瑠和は覚悟を決め、しずくの手をぐっと握り頭を下げた。

 

「その、ごめん!俺、焦ってて……かすみちゃんがどうしてほしいのか、汲み取れなかった……」

 

「…………そんな、気にしすぎですよぉ。身勝手だったのはかすみんも一緒だったんですから」

 

かすみは笑って答えた。

 

「だから、顔を上げてください。これからはみんなで頑張りましょう」

 

かすみが許してくれた。瑠和は顔を上げてるとかすみは笑顔で手を差し伸べてくれていた。瑠和は少し驚いた顔をしていたがすぐに笑ってその手を取った。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

かすみとも無事和解し、瑠和たちは新たなスタートを切ることができた。

 

新たな同好会がスタートしてから数日。瑠和はやる気に満ち溢れていた。今日も新しい歌詞ができたからそれを早くみんなに見せたいという気持ちで同好会部室に向かおうと思っていた。

 

璃奈と瑠和はとりあえず集合し、あとはしずくの到着を待つばかりだった。普段からこの三人で部室に向かっていたのだが、今日は少し違った。

 

「あ、しずく。いまから部室に…」

 

「すいません瑠和先輩!彼方さんがお昼寝してないか私見に行ってきますね!」

 

「え………あ……ああ」

 

しずくはそのまま彼方のお昼寝スポットに走り去っていってしまった。

 

同好会が再開してから、あるいは前の同好会からだったかもしれないが、しずくは彼方のお世話係だ。そのせいか、普段よりもしずくと一緒にいる時間が減った気がしていた。

 

昼休みも彼方のところに行く回数が明らかに増えている。

 

しかし、しずくも同好会のことを思ってのことだし、瑠和と一緒にいないからといって何かあるわけでもない。

 

「………じゃあ、行くか璃奈」

 

「うん……」

 

 

 

―練習中―

 

 

 

炎天下の中の練習が始まる。スクールアイドルに大切なのは体力なので激しい練習もやむを得ないが、熱中症や脱水症状には気をつけねばならない。

 

そう思って瑠和は氷水で冷やした水を持ってランニングのゴール地点で待機していた。

 

「はっ…はっ……はっ……ふぅ!疲れました!」

 

しずくがゴールすると瑠和はすぐさましずくに水を渡した。

 

「しずく、お疲れ様!」

 

「あ、瑠和先輩、ありがとうございます!あの、よろしかったら二本いただいてもよろしいですか?」

 

「え?ああ……もちろん」

 

瑠和は少し疑問を抱きつつも二本目のペットボトルを渡す。

 

「ありがとうございます♪」

 

しずくはペットボトルを受け取るとそれをもってすでにゴールして日陰で休んでいる彼方のところに向かった。

 

「彼方さん、どうぞ」

 

しずくは彼方のおでこに今氷水から出したばかりで冷えたペットボトルを当てた。

 

「お?おお。ありがとうしずくちゃん」

 

「いえ、もうお水ないなぁと思ったので」

 

そういってしずくは彼方の隣に座る。

 

確かに彼方の水はもうなくなりかけていた。無論瑠和もそのことに気づいていなかったわけではない。

 

まだ走ってるメンバーもいた。

 

なにより彼方におかわりを渡すより先に、しずくに渡したい気持ちが勝ってしまった。

 

自分の愚かしさと、何かもやもやした気持ちに胸が痛くなる。

 

「………瑠和君、どうかした?」

 

隣で時間を記録していた侑が話しかけてきたが、瑠和は黙ったままだ。

 

 

 

―帰路―

 

 

 

その日の帰り道、瑠和は一人で帰っていた。璃奈を先に帰らせ、あてもなく学校付近を歩いていた。新しい同好会としてスタートして、円満に過ごしているはずなのに瑠和の胸の中にはもやもやが溜まっていく。

 

「………俺は」

 

瑠和は校門付近から中庭、潮風公園と様々な場所をめぐっていった。まるで、しずくとの思い出を振り返るように。そして最後に瑠和は海浜公園にたどり着いていた。

 

しずくと初めて会った場所。

 

「…………」

 

「瑠和先輩」

 

消波ブロックに座って海を眺めていると、背後から声がした。振り返るとそこにはしずくが立っていた。

 

「………しずく?」

 

まるで、あの日の様だ。

 

「どうしたんですか?こんなところで」

 

しずくは海風に髪をなびかせながら、瑠和の隣にきて座る。いつも通りのしずくが戻ってきたような気がして、瑠和は自然と胸の内を吐露した。

 

「………いや…。今日、彼方さんの飲み物なくなっているの気づいていたのに、気遣えなかった………マネージャーとして、ふがいないなって思っただけだよ」

 

瑠和の言葉を聞いて、しずくは微笑む。

 

「………そうだったんですか。いいんじゃないですか?そんな細かく気にしないで」

 

「え?」

 

「瑠和さん一人に全部の仕事を任せたわけじゃないですよ。私だけじゃなく、皆さんきっとそうです。誰かができないところを誰かが支える。そうやって人って生きていくんじゃないですか?」

 

「……………そう……いうもん…かな」

 

「璃奈さんの時もそうでしたが、一人で気負い過ぎですよ。瑠和さんは。困ったときは助け合いです」

 

しずくの笑顔を見たら、なんだか悩みが消えた気がした。

 

「………ありがとう。少し楽になった気がする」

 

「いえ、私が困ったらその時はお願いしますね」

 

「…わかった。そうだ、しずく今日泊まっていかないか?明日確か演劇部の朝練だろ?」

 

「あ、実はそれなんですけど……部長が私の兼部や家の距離を考慮して朝練を免除してくれたんです。代わりに部活の練習時間は増えましたが…」

 

「え………」

 

「いままでありがとうございました。本当に助かりました」

 

しずくは頭を下げて礼を言った。しかし、瑠和の顔は驚愕に満ちていた。

 

何に驚いたか、それはしずくの朝練が免除されたことではない。もう、しずくが瑠和の家に来ないことに対して、瑠和自身がショックを受けているということだ。

 

「………そっか、よかったな」

 

「あ、でも何のお礼もなしに勝手にいかなくなるのは失礼ですので、今度何か持ってお礼に伺いますね。それでは」

 

しずくはそれだけ伝えて帰っていった。一人残された瑠和は強く拳を握る。

 

「…………しずく!」

 

 

 

―数日後―

 

 

 

数日経ってしずくはお礼の品をもって天王寺家へ訪れた。相変わらず瑠和の両親は不在だったが、三人は変わらず楽しく過ごす。

 

夕食を一緒に食べ、ゲームやアニメを見て楽しく過ごした。

 

それで、終わるはずだった。

 

瑠和は風呂も済ませた後、「大事な話がある」と言ってしずくを部屋に呼んだ。

 

「どうしたんですか?瑠和先輩?大事なお話って」

 

「………なぁ。しずく…お前は、俺にしずくだけを見てくれって言ったよな。この部屋で…」

 

「…………はい」

 

「じゃあ、しずくはどうなんだ?しずくは、俺のこと見てくれないのか」

 

「………どういう」

 

しずくが瑠和の言葉に即答しなかった時点で瑠和はしずくの腕を掴んでベッドに押し倒す。

 

しずくが家に来てくれないことにショックを受けているとわかったときにもう瑠和は言い訳できなくなっていた。何にかというとそれは他ならない自分の心にだ。

 

彼方にばかり気をかけているしずくに対するもやもやした気持ち。それは彼方に対する嫉妬の気持ちだった。

 

あの日、この部屋でしずくに迫られたときはしずくに対して好意を持っているかはわからなかった。

 

だが、ここ数日の出来事を通してようやくわかった。

 

それを言葉にして、押し倒した後輩に告げる。

 

「俺は、お前が好きだ」

 

しずくが瑠和に対して性交を迫るほど追い詰められた心情も理解できた。だから、しずくにも伝える。

 

「俺を見てくれしずく。俺を、俺だけを。俺を、俺を!俺を!!!」

 

まるで、自分のものだと印をつけんばかりに瑠和はしずくの手首を強く握る。瑠和の様子に驚きながらも、しずくは申し訳なさそうな顔をした。

 

「…………ごめんなさい。最近彼方さんばかり気にかけていて、不安にさせてしまったんですね」

 

「…」

 

「安心してください。私はあなたのそばにいます。もう、彼方さんのところに行くのも…辞められるかはわかりませんが、侑先輩やほかの方にお願いしてみますね」

 

「それじゃ信じられない」

 

「では………」

 

しずくは少し緩まった瑠和の手を外し、瑠和を抱きよせる。そして、一気に瑠和の唇を奪った。

 

「ん…」

 

(しずく……しずく!しずく!しずく!)

 

心の中で名前を叫びながらしずくとキスを、いや、もはや唾液の交換と言って相違ないほどの熱烈な接吻。

 

舌を絡ませ、互いに互いを貪るように。

 

いったいどれ程の時間が経っただろうか。一瞬だった気もするし、何時間もこうしていた気がする。

 

それほどの濃密な時間を過ごしてから瑠和はようやく口を離した。

 

「…しずく」

 

さも当然のようにしずくの下半身に触れる。だかしずくはそれを止めた。

 

「どうして…っ!」

 

切なそうな顔をする瑠和を見てしずくは申し訳なさそうにする。

 

「ごめんなさい。今日は危ない日なんです。だからまた別の日…そうだ、私が次にライブを成功させたら…その時に…どうですか?きっと最高で、忘れられない思い出になると思いますよ?」

 

「…じゃあ、約束な」

 

「はい。約束です。今日も、一緒に寝ますか?」

 

「…寝る」

 

瑠和はしずくを抱きしめ、ベッドに転がる。しずくも同じように瑠和を抱きしめる。

 

瑠和の温もりを、抱きしめる腕の強さから伝わる愛を感じながら、瑠和にみられない角度でしずくは笑う。

 

(やった………やった…うまく行った…。台本通り…っ!)

 

しずくの笑いかたは普通じゃなかった。まるで舞台の悪役のように、狂気で、異常で、病的なまでの狂喜と愛情が垣間見えていた。

 

 

続く

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