Another Days-case of Shizuku-   作:瑠和

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お久しぶりです。最近は絵の活動ばかりでしたので、こちらに手をかけられませんでした。あと一話か二話くらいつづきますが実質最終回です。いまやっているスーパー戦隊でも、とあるキャラの一人が長い長い陰謀を打ち明けた回でしたので似たような話ですね。

DGPのほうも今日投稿します。クリスマスは人が…


第十一話 水色の涙、黒色の虹

璃奈のライブが成功してから少し経った。

 

「…………」

 

しずくは起きてから朝日に手をかざしながら、その手に巻かれた包帯を外す。瑠和が自害しようとしたのを解てた時の傷だ。手にはわずかにだが跡が残ってしまった。

 

手のひらという見えにくいところだが、女性として肌に目立つ傷があるのは一般的にははばかられそうなものだ。しかし、しずくはその傷跡さえも愛おしそうに撫でる。

 

「もうすぐ…………楽しみだなぁ」

 

口角を挙げ、怪しく笑う。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「初めまして!近江遥です!」

 

この日、虹ヶ咲学園に来たのは近江彼方の妹、近江遥だった。ある日突然彼方の練習を見に来たいと、虹ヶ咲へ見学を申し出たのだ。

 

彼方も同好会も断る理由はなかったのだが、彼方は一つだけ気がかりなことがあった。先日遥としずくが知り合っていること関してだ。

 

変なことを吹き込まれ、同好会に不安を持たれたのではないのかと。

 

そんなことを思いながら校門前で侑たちに遥を紹介していると、しずくがやってきた。

 

「お久しぶりです。遥さん」

 

「しずくさん!お久しぶりです!!」

 

「え?二人とも知り合いだったんですか?」

 

「ええ。少し前にたまたま出会いまして。それからお友達に。今日はよろしくお願いしますね?」

 

「はい!こちらこそ!!」

 

はたから見れば同い年の友達にしか見えなかったが、彼方はしずくを訝しむ。しかし、遥にも変わった様子はないのであまり言及することもできなかった。

 

「じゃあ、さっそく練習を始めようか!」

 

「はい!まずはランニングですね!」

 

とりあえず遥を招いて練習が始まる。今のところ遥にもしずくにも変なところはない。彼方は気を抜かないように練習を行った。

 

それから練習を見学している遥に変わったところはなく彼方も普通に練習に取り組んだ。

 

練習は普通に終わり、そのまま何事もなく終わる。

 

そう思われた。

 

 

流れが変わったのは、彼方が練習を終えた疲れからか眠ってしまってからだ。しばらくして自然と彼方は目を覚ます。

 

彼方が顔をあげると遥と愛が笑いながら話している姿が目に入る。その隣では瑠和が璃奈からボードを借りて顔を隠していた。瑠和的に照れ臭い話題だったのだ。

 

「…あれ?」

 

「目、覚めた?」

 

「…はっ!くぅ~遥ちゃんにお姉ちゃんの恥ずかしい姿をみられてしまったぁ~!」

 

彼方は枕で顔を隠す。この部屋にいる兄と姉がにたような格好をしているシュールな状況だった。

 

「恥ずかしくなんかないよお姉ちゃん。疲れて当然だよ?いっぱい無理してるんだから」

 

「無理してるって、なにを?」

 

遥の言葉に彼方は疑問を感じた。そして同時に瑠和も遥の言葉の詳細を気にした。

 

「やっぱり…お姉ちゃん同好会が再開してからあんまり寝てないでしょ?」

 

「…うん。つい、楽しくて」

 

「……私、お姉ちゃんが忙しすぎて倒れちゃうんじゃないかって心配で…。それで今日、見学に来たの」

 

「そうだったの?」

 

「でも、今日のお姉ちゃんは疲れなんて感じさせないくらい元気で楽しそうで…すごく嬉しかった。いつも私を優先してくれたお姉ちゃんがやっとやりたいことに出会えたんだって…」

 

「遥ちゃん…」

 

「いまのお姉ちゃんには同好会がとても大事な場所だって、よくわかったの。だから私、決めたよ」

 

「………なにを?」

 

「私、スクールアイドルやめる」

 

「……ん?」

 

彼方は一瞬遥の言っている言葉の意味を理解しきれず反応が遅れた。

 

「「えっ…えぇぇぇぇぇ!?」」

 

なぜか彼方と同じくらい侑が驚く。侑はスクールアイドルそのものに興味津々であり期待の新人が唐突な引退宣言したことに驚いたのだろう。

 

「や…や………やめ……ど…え……」

 

「どうして!」

 

気が動転しているのか彼方はうまく言葉を発せられずしどろもどろになっている。そんな彼方の代わりに侑が理由を聞いた。

 

「このままじゃ………お姉ちゃんが身体壊しちゃうから…」

 

「彼方ちゃんが寝ちゃったせいで遥ちゃんのこと心配させちゃったの?大丈夫だよ~」

 

「全然大丈夫じゃないよ!このままじゃお姉ちゃんが体壊してしまうから…お姉ちゃんはお母さんが忙しいからってお家のこと全部して!家計を助けたいからってアルバイト掛け持ちして!奨学金もらってるからって勉強も頑張って…その上スクールアイドルもなんて…誰だって倒れちゃうよ!」

 

大丈夫だとは言うものの理屈的には遥の方が正しい。彼方は反論できずにいた。

 

大切な姉のために自分の大切なものや気持ちをを捨てる決意を固めた表情だった遥は少ししおらしい表情になる。

 

 

「この間、しずくさんに会って…お姉ちゃんがどれだけ楽しそうにスクールアイドルをやってるか…。聞いたの」

 

その発言に、彼方はしずくの方を勢いよく振り向いた。

 

一瞬

 

ほんの一瞬であるが、しずくは彼方に向けて、妖しい笑みを見せた。

 

「………っ!」

 

彼方はすぐにでもしずくに詰め寄りたかったが、グッとこらえ、遥に向き直る。

 

「もういいの。私のことより、お姉ちゃんにはやりたいことを全力でやってほしいの」

 

「だ、ダメェ!そんな…遥ちゃんは夢をあきらめちゃダメ!」

 

彼方は遥に掴みかかりながら必死に止めようとした。

 

「お姉ちゃんが苦労してるのわかってて夢を追うことなんて……できないよ!」

 

「そんなの、気にしなくていいんだよ~。だって遥ちゃんは大切な妹なんだもん」

 

「どうして………妹だったら…気にしちゃいけないの?」

 

「心配させちゃってごめんね?彼方ちゃん、もっと頑張るから」

 

「お姉ちゃんの!分からず屋!!」

 

遥はそう言い残し、同好会部室を出て行った。

 

「遥ちゃんが…怒った」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「なにをしたの?」

 

「だから以前から言ってるじゃないですか。私はただ委ねているだけです」

 

部活後の校舎裏。彼方はしずくを呼び出し、問い詰めている。遥にいったい何をしたのかを。

 

しかし、しずくはこの間と同じ返答をするだけだった。

 

「あなたはいったい何を知っているの!?目的は…」

 

刹那、しずくは彼方の目の前に迫った。しずくが彼方に向ける眼に、彼方は怖じ気づく。

 

「…っ!」

 

「…………あなたが嫌いです。彼方さん」

 

「………か、彼方ちゃんがなにか悪いことしたなら謝るから…」

 

「あなたのその…」

 

しずくは彼方の手首を掴んで拘束し、胸をわしづかみにする。

 

「きゃっ!」

 

「大きな胸も、明るい茶髪でふわふわの髪も、自分より他人を優先するその性格も、時々見せる心の弱さも、ふくよかで妖艶な身体も………みんな、みんな瑠和先輩の好みなんですよ!」

 

「え…ええ?」

 

「何回繰り返しても他の誰かとを引き離しても!瑠和先輩はあなたの方に行きがちだった!なにもしなくても瑠和先輩が振り向いてくれるあなたが大っ嫌いです!」

 

「な、なんの話…」

 

「それが私にとってどれだけ羨ましいか!喉から手が出るほど、夜も眠れないほど欲しい人に振り向いてもらえない寂しさ!!あなたにわかりますか!?」

 

「………」

 

涙ながらに訴えてくるしずくの表情を見て彼方が感じていたのは、恐怖だ。一見どこにでもいる高校生のように見えて、その胸に秘めているものは、深く、重い。それに気づいたとき、彼方は自然と恐怖心を感じていた。

 

「………私はこの先起こる物事の結末を知っています。今回の騒動は、丸く収まりますから、安心してください。彼方さんは仲間を信じて待ってるだけで、解決しますよ」

 

「………」

 

「ですが、もしまた私たちの関係に変な勘ぐりを入れれば………彼方さんが気に入っているこの場所。ばらばらにすることだって私はできるんですよ?」

 

光のない瞳で、しずくは彼方の目の前にまで迫る。

 

「…………わかった」

 

「約束………ですよ」

 

しずくは去っていった。彼方はしずくに掴まれていた手首を見る。ジンジンと痛みがあるのが分かる。

 

「しずくちゃん………瑠和君」

 

それからしばらくして、しずくの行った通りその騒動は丸く収まった。同好会の仲間たちが協力し、彼方の思いを遥に伝えるため尽力してくれたからだ。

 

そして、彼方は同好会の仲間に先日気にしていたしずくと瑠和の関係は自分の勘違いであったと説明した。二人の関係を心配しつつも、彼方は保身を選んだ。

 

いや、選ばざるを得なかったというべきか。しずくの行った通りの結末になった。その間、しずくは特になにもしていない。ということは本人が行っていた通り、今後起こることをすべて知っているのだろう。

 

下手に逆らうのは危険だった。心の中で瑠和に謝罪をするのが精一杯だった。

 

 

ー数日後ー

 

 

近江姉妹の騒動から数日が経過した。

 

兄としずくの関係に疑問を持ちつつも、なにも言えていない璃奈が休み時間に廊下を歩いていると、背後から声がした。

 

「璃奈さん」

 

ぞっとした。その声はまるで喉元にナイフでも突きつけられたかのような冷ややかさ、あるいは足元から這いよってくる異形のような不気味さを孕んだ声だった。

 

「しずくさん…?」

 

「すこし、いいかな?」

 

「………なに?」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

それから少し経ち、しずくが次の演劇の主役に選ばれたという話持ち上がる。しかし、そんなしずくの様子がおかしいことにかすみは気づいていた。

 

「しずくちゃんの様子が………変?」

 

「うん?」

 

そのことを同級生の璃奈に相談したとき、かすみは璃奈の反応に驚いた。

 

普段表情が出ない璃奈の、表情が変わったことをすぐ認識できるくらいに驚いていたのだ。

 

「…りな子?どうかした?」

 

「………ううん、なんでもない」

 

「そういえば、舞台の主役下ろされちゃったって聞いたよ」

 

同級生の子が、しずくに関して聞きかじったことを話す。それを聞いたかすみは璃奈と一緒にしずくを元気づける作戦を立てた。

 

後日、二人はしずくを確保し、一緒にお台場に出かけていった。そしてどうにかしずくを元気づけようとしたものの、しずくは途中で帰ってしまった。

 

 

 

―翌日―

 

 

 

「知らなかった。しず子があんなに頑固だったなんて……」

 

しずくを完全に元気づけることが叶わず、かすみは落ち込んでいた。この日も一緒に昼食を取ろうとしたのだが、「演劇の練習があるから」と断られてしまった。

 

「ほんっと……どうしちゃったんだろ」

 

「……………」

 

しずくの様子がおかしい理由がわからず、かすみは頭を抱える。その様子を見て璃奈はすっと立ち上がる。

 

「………かすみちゃん。お兄ちゃんに様子見てもらうようにお願いしてみる」

 

「りな子?」

 

「…………お兄ちゃん、しずくちゃんの恋人だし、きっと何とかしてくれる」

 

「でも………」

 

以前彼方に相談された、しずくと瑠和の異様な関係。彼方はのちに何でもなかったと言っていたが、それでも気になりはする。

 

「大丈夫だから!!!」

 

珍しく強気な態度で璃奈はかすみにいった。その迫力にかすみは驚く。

 

「ま………まぁ、りな子がそこまで言うなら……」

 

「………あとで、お兄ちゃんに伝えておくね…」

 

さっきまでの気迫はどこへやら、璃奈は打って変わって低いテンションで去って行った。

 

 

 

―夕方―

 

 

 

この日、璃奈は「用事がある」と言って学校に残り、下校が瑠和よりも遅くなった。瑠和は璃奈を心配しつつも先に帰っていた。

 

帰宅してから少し時間が経ち、瑠和は夕食の買い物に出かける。マンションを出たところで、外が土砂降りの雨であることに気づいた。

 

「うわ、すっげぇなこれ……璃奈…傘持ってたっけ………」

 

帰りの遅い妹を心配しながらも、瑠和はいったん部屋に戻って傘を取ってこようとした。しかし、ふと目をやった道の先に璃奈の姿が見えた。

 

「璃奈!!?」

 

瑠和は慌てて璃奈のところに走った。

 

璃奈は全身ずぶ濡れになりながらマンションの瑠和たちの部屋を眺めていた。

 

「璃奈!!何やってんだ!?」

 

「……………お兄ちゃん」

 

瑠和が来ると璃奈は瑠和の方を見る。璃奈は瑠和の顔を見ると、瞳から涙をこぼし始めた。大雨の中だったが、璃奈が涙を流していることはすぐに分かった。

 

「璃奈………?」

 

珍しく、というか再開してから初めて大きく表情を歪ませ、璃奈は瑠和に抱き着いてきた。明らかに様子のおかしい妹を見て、瑠和は璃奈を優しく抱きしめる。

 

「璃奈………いったいなにがあった?」

 

「……………」

 

「え?」

 

一瞬、璃奈が何かを言ったように聞こえた。しかしそれは雨の音にかき消されたようだった。璃奈は何か決意を固めた様子で瑠和を見上げる。

 

「しずくちゃんを…………助けて…………」

 

雨が、いっそう強くなった気がした。

 

 

 

―翌日―

 

 

 

結局、璃奈はそれ以降多くは語らなかった。

 

ただ、しずくが演劇部の主役を降ろされ、落ち込んでいるという話を聞かされた。「しずくを助けて」その言葉には、それ以上の意味が込められていたと感じるのは気のせいだろうか。

 

瑠和はそんなことを考えながら廊下を歩いていると、空き教室でうつむいているしずくを見つけた。

 

「…………」

 

まだ璃奈の言葉の真意はわからない。しかし、妹の涙ながらの言葉を無視できるわけもなく、瑠和は空き教室へ入っていった。

 

「しずく」

 

「先輩……どうかなさったんですか?」

 

目がわずかに腫れているのがわかった。おそらく泣いていたのだろう。

 

「…………聞いたよ。演劇の主役下ろされちゃったんだってな」

 

「………………璃奈さんから聞きましたか」

 

「…………そんな、落ち込むなよ。俺も応援するからさ!!だから、がんばってまた主役に…」

 

「大丈夫ですよ!オーディションにだって…」

 

そう言って笑うしずくの表情からは、無理をしている色が、嘘の色が見えた。瑠和はしずくの肩を掴んで立たせた。

 

「そんな無理するな………色が見えるの、しずくだって知ってるだろ?そんな色で……顔で大丈夫なんて言ってほしくない……」

 

瑠和の言葉を聞くと、しずくは観念した表情になり、目を逸らした。

 

「今度の役、自分をさらけ出さなきゃいけないみたいで………でも、私にはできない」

 

「しずく?」

 

珍しく弱気な態度のしずくを見て瑠和は少し驚く。しずくはスカートを握りしめて続ける。

 

「私、小さいころからずっと、昔の映画や小説が好きだったんです。でも、そんな子は私しかいなかったから……不安でした。誰かに「変なの」って顔されるたび………嫌われたらどうしようって……そのうち、ほかのことでも人から違うなって思われるのが怖くなって……だから、演技を始めたんです。みんなに好かれるいい子のフリを……………私、やっぱり自分をさらけ出せない!それがスクールアイドルにも、役者にも必要だっていうなら!私はどっちにもなれません!!!表現なんてできない…嫌われるのが……怖いよぉ………」

 

嗚咽がかった声でしずくは両手で顔をふさぐ。その姿を見て瑠和は小さな声でつぶやく。

 

「…………なんとなく。わかるよ。俺もそうだったから………」

 

「瑠和先輩………?」

 

しずくの言葉に、瑠和は痛いほど同感していた。

 

「俺も、人の顔色が見えるのは普通だと思ってた。小学生の中学年あたりから周りの人間はそうじゃないってわかって。それから、周りの人間の顔をうかがって生きてきた…………いい子でいるのは簡単なんだ。相手の顔色伺って、相手の望むことして、愛想よくして…………で

 

瑠和も同じなのだ。他人の顔の色が見える。そのことが、周りの人間との壁を作ったが瑠和が馴染みに行ったことでその壁は消えた。瑠和自身の心を置き去りにして。

 

「けど………そんなことしてたら…心は一人ぼっちになってた。でも、そんな俺でも認めてくれるやつらが、受け入れてくれるやつらが………受け止めてくれたしずくがいる」

 

「………」

 

「いいんだよ、褒められなくても……我が儘で……自分勝手で、やりたいことを吐き出してみろ!しずくの生きる道に、きっとつながる………」

 

瑠和はそっとしずくを後ろから抱きしめた。

 

「……………本当に…あなたはどこまで行っても、どこまで追い詰めても変わりませんね」

 

しずくは小さな声でつぶやいた。瑠和はそれを聞き逃してしまった。

 

「え?今なんて…」

 

 

 

刹那、

 

 

 

瑠和の目に映る色が変わったのが見えた。

 

どす黒い色だ。それを表すなら深淵という言葉以上に相応しい言葉はないくらい。その色の発生源は、目の前にいるしずくだ。

 

「受け入れる?応援…………あなたがですか?」

 

「……しずく?」

 

「誰も救えなかった人が何を言っているんですか?」

 

しずくはぐるりと振り返り、垂れ下がった髪の隙間から光のない瞳をのぞかせ、尋ねた。それを言われた瞬間、瑠和は全身から冷や汗が噴き出るのを感じた。

 

しずくの言葉の通りだ。瑠和は確かに同好会の開始から復興までずっと一緒いた仲間である。だが、その間瑠和は何もできていない。

 

同好会の復活は侑が、その後のいざこざも、璃奈を救ったのも瑠和ではない。瑠和はこれまで、誰一人として救うことはできなかった。

 

「…………っ!」

 

「どうせその励ましだって、璃奈さんに言われたからでしょう?」

 

「違っ!俺は本気でお前を……」

 

しずくは瑠和の胸に頭を押し付けた。

 

「…たった一人の妹すら、救えなかったくせに」

 

「……………………俺……は………あぁ」

 

瑠和は完全に追い詰められた。さっきまでの自信は消え、唇を震わせながらその場に崩れ落ちる。

 

そんな様子の瑠和をしずくは見下しながら、小さく口角を上げる。

 

「……………でも、そこまで言うなら………まず瑠和先輩が証明してください」

 

「え?」

 

「本当の私を受け入れられるかどうか」

 

しずくは瑠和の返答を待つ前に、唇を奪う。少し長いソフトキスが終わった後、しずくは瑠和のズボンのベルトに手をかけた。

 

「ちょっと!しずk」

 

「受け入れてくれないんですか?」

 

止めようとしたしずくの手を、しずくは一言で遮る。

 

そう、これはもう止められないのだ。

 

今ここでしずくを否定してしまえば、さっきまでの言葉は全て嘘になってしまう。

 

「受け入れるしかなくなった」のだ。しずくのすべてを。

 

しずくは瑠和のベルトを緩め、チャックを下す。

 

「本当の私を、見てください♪」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

数日前、しずくが璃奈の前に現れたとき。

 

「そんなに警戒しないでくださいよ、ちょっとした頼みごとですから」

 

璃奈がしずくを警戒するのは、そこが理由ではない。しかし、しずくもそんなことは理解している。わかった上で怪しく笑い、璃奈に近寄る。

 

「実は、もうすぐ私舞台の主役から下ろされてしまうんです」

 

「…なんでわかるの?」

 

「さぁ?…そして、私は皆さんには明るく振る舞いますが、内心落ち込んでいて、璃奈さんに見抜かれてしまうんです」

 

「…」

 

「そして、璃奈さんはかすみさんに私のことを任せて、私はかすみさんの励ましで自信を取り戻し、主役の座も取り戻す…それが、この先の起こる出来事です」

 

まるで、見てきたかのような言い種だ。とても適当に言っているとも思えない。璃奈は息を飲む。

 

「それで…私になんの用事?」

 

聞きたいことは山ほどある。しかし、今はそんなしずくがいったい自分になんの用事があるのかだ。ことと場合によっては、逃げることも厭わない。

 

「私のことを任せるのは、かすみさんではなく瑠和さんにお願いしてもらっていいですか?」

 

「……お兄ちゃんに?」

 

「はい。それでこの台本の通りになります。ご協力…していただけますか?」

 

しずくは少し色褪せたノートを取り出す。璃奈はそれを恐る恐る受け取り、開いてみた。

 

そこには

 

今日に至るまでの

 

同好会の行動と起こる出来事、そして今後起こることが書かれていた。

 

驚きと恐怖、様々な感情がぐちゃぐちゃに混ざり合い、璃奈ははじくようにしてそのノートを落としてしまった。

 

過呼吸になりながら怯えた目でそのノートを見た。あの表情が表に出ない璃奈がだ。

 

「少し驚かせてしまいましたねぇ。ごめんなさい」

 

「何………これ」

 

未来のことが書かれているだけなら、ただの妄想で済んだだろう。しかし、過去のこととそれに対する同好会のメンバーの行動、そして、その時の瑠和の心情まで書かれていた。

 

「なにって、たくさん見てきた世界の出来事ですよ。だから……私は同好会の人間がどうすれば壊れるか、ばらばらになるかをよくわかってます」

 

しずくは璃奈の耳元でそっとささやく。

 

「みんなと仲良くしていたいでしょう?お願い、聞いてくださいますよね?璃奈さん」

 

「…………」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

璃奈はしずくの言葉に従うしかなかった。その結果が今だ。

 

しずくは本来あんな人間ではない。

 

夕日が教室を照らす中、瑠和としずくは息を切らしながら半裸で床に転がり、抱き合っていた。

 

「こんな私ですけど、受け止めてくれますよね?」

 

「…………………うん」

 

もうその手を外すことはできなかった。受け止めると行った以上、拒むことはできない。純潔を奪い、妊娠させた可能性がある以上、責任をとらねばならない。

 

だが不思議とそれが不幸だとか、不運だとか、そんな風には思わなかった。

 

なぜか?

 

いままで誰も救えなかった自分に、唯一救える人ができた。そんな思いが瑠和の中にあったからかもしれない。

 

 

 

続く

 

 

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