Another Days-case of Shizuku-   作:瑠和

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とりあえず、これでしずく編はおしまいになります。もっと裏の話を入れようかと思いましたが、個人的にすごく忙しくなってしまったのでこれで一旦終わります。今後、いろいろな事情が重なれば、「Another days -case of Shizuku True ending-」を作成しようかと思います。他にも書きたいものがありますので、とりあえずこれで!ご愛読ありがとうございました!


最終回 夢の先

瑠和先輩に、私のことを見るように、お願いした。

 

そして私は、瑠和先輩から曲をもらった。

 

本当にうれしかった。これまで見てきた世界で、先輩が作曲の手伝いをすることはあっても作曲そのものをすることはなかった。

 

何より、先輩が、私のために、「私だけ」のために曲を作ってくれた。それがうれしかった。特別だった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

しかし、その曲でライブをやったことは正解だったが、少し浅はかだった。

 

「そうですか、かすみさんがそんなことを……」

 

かすみさんが私のライブを見て、瑠和先輩にスクールアイドル活動を手伝うように言ってきたのだ。

 

「ライブが成功して、つい忘れてたけど…………まだあの問題は終わってないんだよな………どうかな、しずく。またかすみちゃんたちを誘って…」

 

正直言ってそれは困る。

 

このままでは私が見てきた世界と異なる形に進みそうだったからだ。

 

世界を幾度も繰り返していく中で、何度か不思議な世界に出くわしたことがある。

 

それは瑠和先輩がいない世界。つまり、璃奈さんは一人っ子で、同好会の中に色恋沙汰など存在しない世界。はじめは衝撃を受けた。

 

入学式ではリボンを受け取ってくれる人はおらず、侑先輩が同好会の復活を成し遂げた。私を励ましてくれる人もいない。

 

その世界を過ごしたとき、私は身体が疼いて疼いて仕方なかった。

 

先輩の声が聴きたい。先輩の身体に触れたい。はっきり言って、平常心でいられなかった。演技を続けていなかったら、その世界で正気は保っていられなかっただろう。

 

しかし、そんな過酷な世界を見てきたからこそ。わかったこともある。

 

悲しい事実であるが、同好会は、瑠和先輩がいなくてもどうにかなるということ、そして先輩のいる世界といない世界でそこまで大きく変化はないということだ。

 

これまでの経験から、瑠和先輩が他の部員を助けるようになるのは、多くの場合同好会を救ったからだ。

 

それを阻止する。同好会を救う役目は侑さんに任せよう。

 

しかし、侑さんたちを巻き込まずに同好会を復帰させるとなると私の知らない世界になりかねない。その世界だと瑠和先輩をモノにできる可能性が低い。

 

だから、かすみさんにはまだ復帰してもらうわけにはいかない。瑠和先輩に誰かを救わせるわけにもいかない。

 

先輩とかすみさんには申し訳ないが、ここは対立してもらおう。

 

「………それも悪くないとは思いますけど、また同じことの繰り返しになりかねません。かすみさんにかすみさんのこだわりを捨ててもらうか、私たちがこだわりを捨てるか………その二択ですが、後者の場合………」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

そして、その作戦は案外うまくいった。

 

先輩とかすみさんはうまく意見がまとまらなかった。その後、同好会の復活は、侑先輩がうまくやってくれた。それに乗じて私たちも同好会に復帰した。

 

さらに、私自身のことも………

 

 

 

―桜坂家―

 

 

 

「…………ん?」

 

しずくは薄暗い部屋の中で目を覚ます。いつの間にか机に突っ伏して眠っていたようだ。なんだか長い間眠っていたような感覚。目をこすりながら立ち上がり、時間を確認しようと思った時、しずくは目を見開く。

 

「え………」

 

部屋を写真が埋め尽くしていた。部屋を埋め尽くすように貼られていたのは、瑠和の写真だった。学校にいるとき、昼休み、下校、一緒にスクールアイドル活動をしているとき。さらには瑠和の部屋の中の写真まである。

 

「な…………なにこれ……どうしてこんな………」

 

『何を驚くことがあるの?』

 

「え………」

 

声がした。振り返るとそこには鏡。鏡に映ったしずくが怪しげに笑い、こちらを見てきている。

 

「……………わ………たし?」

 

『そうよ?まぁ、正確にはこことは違う世界の桜坂しずくだけど』

 

「……この部屋……あなたが!?」

 

言っていることはよくわからなかったが、しずくはこの部屋の仕業はこの鏡に映る自分の仕業だと直感で悟る。

 

『ええ、素敵でしょう?』

 

「そんな………私、こんなこと望んでない!!」

 

『…………あなたは私よ?私はあなた。きれいごとを言わないで、受け入れなさい?』

 

「…………何を……」

 

『愛を』

 

鏡に映るしずくは、ちらりと机の方を見る。しずくは冷や汗を流しながらその視線の先を見た。そこには、日記があった。

 

しずくは、ごくりと息をのんでその日記を開く。

 

そこに記されていた、これまでの日々。表のしずくが意識を持っていなかった間、裏のしずくが綴った瑠和への愛。

 

一般人が見れば、ビビッて投げ捨てそうなくらい、重く、深く、愛を綴った日記。

 

「……………これが……私?」

 

不思議としずくはその日記に恐怖は感じなかった。なぜだろう。こんなにも重い日記なのに親近感のようなものを感じている。

 

『そう。でも、こんなに愛しているのに、世界はあなたの敵。だから、私たちは抗わなければならないの。世界に』

 

「…………」

 

『あなたも本当は気づいているんでしょう?あなたの中にある。瑠和先輩への愛を………』

 

しずくは己の胸に手を当て考える。

 

優しい人だという印象はあった。好きかどうか聞かれても、嫌いではないという回答が相応しい相手だと思っていた。

 

だけど、そんなあの人が、せつ菜さんを、璃奈さんを見ていることに、嫉妬した自分がいた。

 

私を見てほしい

 

そんな気持ちが芽生え始めたことを感じ取ったころから、きっと私はあの人が好きだったのだ。

 

しずくはそう思った。

 

「……………どうすれば、いいの?」

 

『私に任せればいい。必ず、先輩を手に入れる』

 

鏡の中のしずくは妖しく笑い、手を伸ばす。表のしずくもそれにつられるように鏡に手を伸ばし、二人の指が、鏡越しに接触した。

 

 

 

 

 

 

「…………そう、私は私」

 

この世界のしずくの意識は、完全に裏の私のものになった。元のしずくの意識は消えたのか、私の奥底で眠っているのか、それはわからない。しかし、裏の私に人格を奪われることは表の私の望んだこと。もう、憂いはない。

 

それからのことは大体うまくいった。

 

瑠和先輩にはあえて誰も救わせなかった。誰か一人でも救わせたらそれは先輩の自信につながるからだ。

 

そうして先輩を追い詰めて、追い詰めて、そして、最後に私を救わせようと仕向ける。しかし、自身がない先輩では難しいだろうから璃奈さんを使った。

 

大事な大事なお兄ちゃんと同好会を失いたくない璃奈さんを脅してみるとうまくいった。

 

「受け入れる?応援…………あなたがですか?」

 

「……しずく?」

 

「誰も救えなかった人が何を言っているんですか?」

 

「…………っ!」

 

「どうせその励ましだって、璃奈さんに言われたからでしょう?」

 

「違っ!俺は本気でお前を……」

 

しずくは瑠和の胸に頭を押し付けた。

 

「…たった一人の妹すら、救えなかったくせに」

 

「……………………俺……は………あぁ」

 

後はもう、水が重力に惹かれて流れるように、自然な流れで先輩に私を抱かせた。先輩の性格なら、迫ったところでそう簡単に抱いてくれないのはわかっていた。

 

「……………でも、そこまで言うなら………まず瑠和先輩が証明してください」

 

「え?」

 

「本当の私を受け入れられるかどうか」

 

だから、決して断れない状況を作り出して、私を抱かせた。

 

そして、先輩の性格なら絶対に責任を取ろうとする。もう、無理な苦労をしなくても先輩は私しか見ないだろう。

 

…………けど、まだ不安要素はある。

 

この後同好会に加入する嵐珠さんやミアさん、栞子さんも十分脅威だ。

 

だから、追い詰めるだけでなく、飴もあげないと。

 

 

 

―???―

 

 

 

瑠和が目を覚ますと、そこは暗い部屋の中だった。頭がぐらぐらしてさっきまでなにをしていたかよく思い出せない。

 

目に映る景色から、自分はどうやら童話の中でお姫様が使うような屋根付きのベッドに寝かされていることが分かった。しかし、妙なのは屋根やそれを支える柱には大量の写真が貼られていることだ。

 

「目が………覚めましたか?」

 

声がした。首だけ動かして声のした方を見ると、そこにはしずくが立っていた。

 

「し…………ず…く?」

 

「あ、動かないでください。まだ意識がはっきりしないと思うので」

 

しずくはコップに水を注ぎ、それを自身の口に含む。そしてその状態で瑠和にキスをし、口移しで瑠和に水を飲ませた。

 

「ん………大丈夫ですか?」

 

「うん………ここは?」

 

「私の家の、私の部屋ですよ。先輩」

 

「ああ…………しずくの……」

 

少しずつ瑠和は意識がはっきりしてきた。そういえば、部活が終わってからしずくと一緒にお茶をしようとカフェまで行ったことを思い出したが、それ以上のことを思い出せない。

 

「なんで俺……」

 

「忘れちゃったんですか?先輩疲れちゃってたのか、寝ちゃったんですよ。起こしても起きないから、がんばってここまで運んできたんです」

 

「ああ………そっか……ごめんな。迷惑かけた」

 

「いいえ?お気になさらず。こう見えて私力持ちですから」

 

なんでそんなに熟睡してしまったのかとか、瑠和の家の方が近いのになぜしずくの家なのだとか、いろいろ気になることがあったが、朦朧とする頭ではあまり深く考えられなかった。

 

(ベッド………しずくのにおい………)

 

「なぁ…………あの写真………ひょっとして俺の写真か?」

 

少しずつはっきりしてくる意識でベッドに貼られている写真に写っているのは自分であることに気付く。おまけに、よく見るとベッドだけでなく部屋のあちこちに写真が貼られていることにも気づいた。

 

「素敵でしょう?私のコレクションです。毎晩、あの写真を見ながら、疼く身体を慰めていたんです」

 

「………」

 

そういってベッドに足をかけてきたしずくは、とても薄いランジェリーに身を包んでいた。透けた先に下着を着てはいるものの、局部に穴の空いた、下着の役割を果たしていないとても卑猥な下着だった。

 

瑠和はそんなしずくの姿に赤面し、顔をそらした。しかし、そらした視線の先にある写真をみてふと疑問が浮かんだ。

 

「……あの写真…俺の部屋…だよな?」

 

「…」

 

瑠和が指差した写真は、瑠和の部屋ので瑠和が着替えている写真だ。

 

「……気づいちゃいましたか。実は以前お守りとしてお渡ししたオフィーリアのぬいぐるみ………あれ、中にカメラを仕込んでいたんです。それで…ずっと瑠和先輩を見てました…………」

 

(これ、お守りです。私の家で飼ってる犬のオフィーリアのぬいぐるみです。こんなのじゃお礼にならないとは思いますが、いつ泊めていただいてるお礼です。それを持って璃奈さんとお話してみてください)

 

あの日もらったぬいぐるみは、お守りではなかった。瑠和の家の中の行動を余すことなく見るための、しずくが図ったのだ。

 

「…………軽蔑しますか?こんな私を」

 

しずくの思いやり、優しさはすべて、瑠和を手に入れるための演技だった。それが、瑠和にとってどれだけ残酷な事実か。わかった上でしずくは打ち明けた。

 

(………これが、最後の賭け)

 

しずくにとっても、これは最後にして最大の賭けだった。もしダメなら、しずくはまた繰り返すだろう。同じことを。

 

 

「…………いいや」

 

少しの沈黙のあと、瑠和は微笑んで答えた。

 

「それだけ俺のことを思ってくれたんだろ?だったらいいよ。お前の愛を、俺は受け入れる」

 

「…」

 

そのことに、しずく自身も不思議に思った。

 

なんのことかというと、瑠和がしずくの愛に答えてくれたことに、なんの言葉も出なかったことだ。

 

変わりに、瞳から大粒の涙が溢れたのだ。そのことにもしずくは驚いている様子だ。

 

「し、しずく!?なんで泣いて…」

 

「いえ…なんでもないです……先輩が、私の愛を受け入れてくれたことが嬉しくて…あはは♪」

 

さっきまでの恐ろしさすら感じる表情はどこへやら、まるで幼い少女のような無邪気な表情でしずくは笑顔を見せていた。

 

長い旅路だった。何度も何度も繰り返し、仲間を蹴落とすような真似をしてようやく手に入れた愛。どんなにいびつであっても、「それ」を手に入れられたことに、しずくは素直に、心から喜んだのだ。

 

「じゃあ、私からもお返しです」

 

一通り涙を流し、どこかスッキリしたしずくは瑠和の頬に手を添え、まっすぐ瑠和を見つめた。

 

「ん…」

 

しずくは瑠和を押し倒しながら唇を奪い、酸欠で倒れそうになるくらい、熱く、激しいキスをした。

 

「ん…んむ…れぁ……はん……んぅう…」

 

しばらくして、しずくは顔を離す。瑠和としずくはキスだけだったはずなのに、顔を真っ赤にして息を切らしている。

 

「甘く蕩ける時間を過ごしましょう?私以外誰も見えなくしてあげます。彼方さんも、璃奈さんも、果林さんも、エマさんも、ミアさんも、嵐珠さんも、栞子さんも………だぁれも見えないくらい。私の名前しか、呼べないように」

 

聞き馴染みのない名前が出てきたが、瑠和はそんなこともう気にしなかった。ただ、目の前にいる女の名前を呼びながら、互いの愛を、確かめあっていた。

 

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