Another Days-case of Shizuku- 作:瑠和
一話あたりでも書きましたが全く何も考えず突っ走ってるんで遅くなってしまいました。申し訳ない。
OVAが待ち遠しい。
「はぁ……」
ある日の食堂でしずくは小さなため息をついた。理由は簡単だ。スクールアイドル同好会がバラバラになってしまったからだ。
あの日から少ししてせつ菜は単独でライブを行い、それから部は廃部となっってしまった。
その原因の一端が、自分にあることをしずくは理解している。
(ラブライブで勝ち残るのに必要なのは、チームが一つの色にまとまること………だと思います)
なんであんなことを言ってしまったのだろうか。あの言葉がきっかけで、せつ菜はあんなに熱くなってしまったのだと理解している。だからこそ、責任を感じているのだ。
「瑠和先輩…」
ふと、名前が出た。助けを求めるように零した人物の名前は、彼女にとって様々な運命をつなげた名前だった。なぜだろう、彼だったら助けてくれるかもしれない。そう思う。
しずくはそんな何の根拠もない希望を見出し、歩いて行った。
―中庭―
「………」
中庭では、瑠和が昼食をとっていた。だがその目はまるで死んだ魚の様だった。たまたまとはいえ、出会って、それなりにやりがいを持ってやっていたスクールアイドルの手伝い。それがいきなり、崩壊してしまった。
先日、唯一せつ菜の正体を知っていた瑠和はせつ菜、もとい菜々に詰め寄った。
―数日前―
「どういうことだ!何のつもりだ!!」
「どうしたも何も、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会は、部長の一存で廃部となった。ただそれだけです」
菜々はいかにも事務的な態度で説明した。まるで自分は何も関係ないというような態度で。瑠和はその態度にますます逆上した。
「ふざけるな!そんな言い分でだれが納得すると…」
「誰も納得してくれなくて結構です」
菜々は冷たく言い放った。
「………お前はそれでいいのかよ…優木せつ菜」
「優木せつ菜はもういません!!」
「っ!」
菜々の強気な言い返しに、瑠和は少し怖気づく。
「………わかってしまったんです。私の大好きは、ただの自分本位のわがままだって」
「え?」
「私の大好きが、誰かの大好きを傷つけた………そんなことだったら……ファンどころか、仲間にすら届かない大好きを叫んだところで……」
―現在―
「瑠和先輩」
思いつめた顔で数日前の出来事を思い出していた瑠和の前に、しずくが現れた。
「しずく………ちゃん。どうかしたのか?」
「………いえ」
最初は助けを求めに来たはずだったが、瑠和の表情を見てしずくはそれをやめた。こんな状態の瑠和に何かを頼むのなんてしずくにはできなかった。
むしろ、この瑠和をどうにかしてやりたいという気持ちの方が強かった。
「………大丈夫ですか?」
「あんまり大丈夫じゃないな…………せつ菜も話聞いてくれないし………せっかく、同好会としてスタートできたのに…」
「………あんまり気に止まないでください。瑠和先輩のせいじゃないです」
「………いいや、なんか、あそこがまとまりきってないことはなんとなくわかってた。客観的に見れる俺がそういうの指摘してやるべきだったのにな」
「……」
ああなったのは自分のせいだ。そう伝えるのはなかなか難しい。それはやはり後ろめたさがあるからだ。おまけに瑠和の妹である璃奈が見つけた目標まで台無しにしてしまった。それもあるのだろう。
「そうだ、しずくちゃん。俺がこんなだと璃奈に気を使わせちまうから、今日よかったら泊まりに来ないか?」
「え?」
◆
「まぁ上がってくれ」
「お邪魔します」
しずくは瑠和の申し出を受け入れた。多少の後ろめたさもあったし、なによりこの家でのお泊まりは普段家ではない騒がしさがあってとても心地よかった。
そしてなにより、璃奈にちゃんと謝りたかったのだ。
「お兄ちゃんお帰りなさい。あ、しずくちゃん」
「こんばんは。また泊まりにきちゃった」
しずくが申し訳なさそうな笑顔を浮かべる。璃奈は少し驚いたような顔をしていたがすぐに受け入れたようだ。
「いらっしゃい。ゆっくりしていって」
瑠和が夕飯をつくっている間、しずくは璃奈の部屋に向かった。
「あの、璃奈さん。この間はごめんなさい!わたし…余裕なくて」
「気にしないで?そういうときは誰にでもある」
「ありがとう…。それで、スクールアイドル同好会なんだけど…」
しずくは同好会の現状を話した。璃奈もなんとなくそういう状態なんだと言うことは察していたのかあまりショックは受けていない様子だった。
「そんなことがあったんだ」
「…うん。ごめんなさい。せっかく来ていただいたのに…」
「……大丈夫。むしろ、良かったのかもしれない」
「え?」
意外な言葉が璃奈から出たことでしずくは驚いた。
「わたしは、同好会を通じて、またお兄ちゃんと仲良くなりたかった。そんな理由で入ろうとしてた私が間違ってるから。真剣にやってる人に失礼…だから」
「…璃奈さんはお兄さんが大好きなんだね。でも、いいんじゃないかな?自分の大好きを伝えるのがスクールアイドルなんだし、わたしだって演劇の幅が増えるかもって思ったのがきっかけだから」
「そうだったんだ」
「…………そう…だったんだけどな」
しずくはつい暗くなってしまった。あまりそういう空気にしたくなかったのだが、しずくもまだつらかったのだ。
それからみんなで夕食を楽しみ、とくに何かするわけではなくその日は全員眠りについた。
深夜、特に意味もなく瑠和は目を覚ました。珍しくもなく、よくあることでもない。普段だったらすぐに二度寝を決め込むのだが、少し喉が渇いているのがわかった。
瑠和は喉の渇きを癒すために台所に向かう。
しかし、その道中で瑠和は足を止めた。
「…歌声?」
耳を澄ますと電気もついていない居間から歌声が響いていた。
そっと扉を開ける。
月明かりに照らされながら伸びる、美しい腕。カーテンに光が遮られ、薄暗い中でも美しさの伝わる横顔。そして、全てを魅了するような歌声。それはまるで、目の前の空間が劇場にでもなったような感覚だった。
「………」
「………させてください…♪」
「しずくちゃん?」
「あ、瑠和先輩?」
瑠和が声をかけてしずくはようやく瑠和に気づいた。
「なにしてるの?」
「寝付けなくて、演技の練習を。ごめんなさい。起こしちゃいましたか?」
「いいや。なんか知らんが起きただけだ……」
そこで瑠和はふと考えてしまう。しずくが寝付けなかったのはしずくだって同好会があんなことになったことがきっかけなのではないかと。
自分の辛さばかり考えてしずくに無理を言ってしまっていたのではないかと瑠和は反省する。
「すまないな。お前だって、辛いだろうに………俺のために」
「いえ、気になさらないでください…………ここにいると……嫌なことも忘れられます。家だと基本一人ですから。兄妹がいたら、こんな感じだったのかなって…」
「……そっか」
月明かりが指すだけの薄暗い部屋の中、二人は会話を続ける。早く戻って寝ればいいだけのはずなのだが、瑠和はなぜかその場に残ろうと思った。瑠和が水を汲んで居間のテーブルに座ると、しずくはその隣の椅子に座る。
「瑠和先輩はこれからどうしたいですか」
「これからって?」
「同好会のことです………瑠和先輩はせつ菜さんの秘密を知ってお手伝いしていたんですよね?」
「ああ、まぁな」
「でももうせつ菜さんが活動しなくなったなら、瑠和先輩は無理に手伝う必要はないのでは?」
「…………別に、無理にってわけじゃない。俺は俺の好きで…」
「瑠和先輩が手伝っていたのは、本当は、せつ菜さんのステージを見たかったから……じゃないんですか?」
その言葉に、瑠和はコップを持つ指をピクリと反応させた。しずくはどこか察したような表情をした。
なんとなく瑠和はせつ菜のステージが好きで同好会を手伝っていると言うのは理解していた。だからこそ、今から伝えること、お願いは口にするのは勇気が必要だった。
小さく深呼吸をし、しずくは覚悟を決めて口を開いた。
「…………瑠和先輩、私じゃダメですか?」
「え?」
「せつ菜さんじゃなく、私のステージを………見てくれませんか?もうせつ菜先輩のために手伝う理由がないなら、私のために…………私を手伝ってくれませんか!?」
しずくの申し出に瑠和は目を丸くした。いや、予測できたことだ。しずくに限らず誰かしら、特にかすみなんかは自分から新たな同好会をつくってもおかしくない。しかし、それがしずくであったことに瑠和はおどろいていた。
「しずく…ちゃん?どうして?」
「私はまだ、諦めたくないんです………スクールアイドルを」
「………どうして諦めたくないの?」
諦めたくないのは皆きっと同じだ。誰もそう簡単に諦められるなら同好会にはいないだろう。もっと具体的な、そう、しずくだからこそと言うような理由を瑠和は求めた。
「…………歌を……聞いてほしい人がいます。だから、私と一緒にスクールアイドル同好会………やってくれませんか?」
スクールアイドルを諦めたくはないというしずくの思いはわかった。だが、そこになぜ瑠和が必要なのかがわからない。確かに裁縫も得意だし、また一からメンバーを集めるというのであれば瑠和がいれば数合わせには困らない。
しかし、しずくからはそれ以上のなにかが感じられた。
瑠和は一気に水を飲み干し、流しに持っていく。コップを洗いながら瑠和は思い切って尋ねてみた。
「なんで………俺なんかに」
「それは………」
しずくは立ち上がり、コップを洗う瑠和の背中に抱き着いた。予想外の行動に瑠和はコップを洗う手を止める。
静まり返った居間に水道から流れる水の音だけが響く。
短い沈黙のあと、しずくは瑠和の耳元で囁くように理由を述べた。
「ずっと、同じ夢を見るんです。私が、夢を叶える夢…………そこから見える景色には…………必ず瑠和先輩…あなたがいるんです」
「…」
「だから確かめさせてください。その夢が、真実なのか、ただの虚構なのか………」
―翌日―
翌日の昼休み、しずくはいつも通り璃奈と二人で昼食をとりに中庭に来ていた。
二人は瑠和の手作り弁当に舌鼓を打つ。
「相変わらずおいしいね」
「うん」
「…………ねぇ、璃奈さん」
「?」
「私………瑠和さんと一緒にスクールアイドル同好会またやってみようって思ってるんだ」
「!」
璃奈の弁当を食べる手が止まった。そして、しずくの方を見た。その眼は期待の眼差しだった。
「だから、もしよかったら璃奈さんも…」
「…………やりたい」
「よかった!じゃあ、今日から早速始めよう!まずはメンバー集めだけど、放課後潮風公園に来て!」
「…うん」
しずくは璃奈と一緒に同好会を再開する約束を取り付けた。
ー放課後 潮風公園ー
「とりあえず、どうしようか」
「やはりまずはメンバー集めでしょうか。また振り出しかと思いますが……」
「前の同好会の皆は?」
衝突し、勝手に同好会を廃部にしたせつ菜とその衝突相手であるかすみは難しいところだろうと言うのはなんとなく察していた。だが、彼方やエマはなんとかならないかと思ったのだ。
「…一応連絡はしましたが、返事はありませんでした。まだ気持ちを整理する時間が必要なのかもしれません」
「そっか…また時間がかかりそうだな」
先が長くなりそうだと思ったとき、潮風公園に誰かがやってきた。やってきた人物は、瑠和の背後に来る。
「…おまたせ」
「え」
聞き覚えのある声に、瑠和は固まる。ゆっくりと振り返ったその視線の先には、璃奈がいた。
「璃奈」
「私も、スクールアイドルやってみたい…………ダメ、かな?」
瑠和はハッとして振り返る。振り返った先にいたしずくはにっこりと笑っている。璃奈をスクールアイドル同好会に誘ったのはしずくだということがすぐに分かった。
だが、璃奈がスクールアイドルといわれてもまったくもってピンとこなかった。長らく離れて暮らしていたから璃奈が歌ってる姿なんて見たことないし、背も低く、プロポーションだってお世辞にも良いとは言えない。
おまけに人見知りで表情もうまく出せない。悪く言おうと思えばいくらでも言える。そんな璃奈が、アイドル。
「本気なのか、璃奈」
「うん」
「練習、結構きついぞ」
「うん」
「厄介なファンが出てくるかもしれないぞ」
「うん」
「お前のこと、悪く言うやつだって出てくるかもしれないし」
「うん」
「それに…」
「瑠和先輩、璃奈さんを信じましょう」
続けようとした瑠和の言葉をしずくが遮った。しずくの言葉に瑠和は少し申し訳なさそうな顔をしてベンチに座る。
「でも、わかってます。先輩なりの心配なんですよね」
「え………」
「璃奈さん傷つく前に引き下がらせようっていう思いからなんですよね。今の言葉」
「……」
図星だ。瑠和は少し顔を反らす。
璃奈にスクールアイドルの適性がそこまであるとは思わない。だが、やりたいのならやってほしいとも思っていた。しかし、それで結果的に璃奈が傷つくのならはじめからやらない方がいいと瑠和は思ったのだ。
「いいお兄ちゃんだね。璃奈さん」
「うん。ありがとうお兄ちゃん。だけど、私はやってみたい。みんなと心をつなげたいから」
璃奈は瑠和の前にしゃがみ、瑠和の手を取った。
「心を…………」
「………さて、最初のメンバー集めの計画ですが、私が、ライブをやります」
「え?」
「せつ菜さんと同じ戦法です。ともかくメンバーを集めてみんなが帰れる場所を作りましょう。みんなで!」
「おー」
しずくがこぶしを突き上げると璃奈も一緒に拳を挙げた。その姿に瑠和は自然と笑みを零し、小さく拳を上げた。
「……おう」
この日から、この瞬間から新生虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会がスタートした。