Another Days-case of Shizuku-   作:瑠和

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結構長くなりそうなアナザーストーリー。
先日いつも通り虹のグッズを買ったらいつも通りしずくが出た。それだけならまだいいが、仕事用のカバンの中に一つだけ出し忘れていた。それもしずくだった。
………さすがに怖い。



第五話 兄妹と、願いと

暑い日差しが私を照らす。触れていたい。その光を私だけに向けてほしい。だけど、彼は太陽だから。

 

その温かさと、優しさは、みんなのモノ。

 

だから私は陽だまりの端で、みんなを見つめる。

 

ここで 幸せだから。

 

…………本当に?

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

「………」

 

瑠和は公園で一人、ギターを弾いていた。しずくが歌う歌の曲を作曲をしているのだ。歌詞をもらってはいるものの、いまいちイメージがわかない。

 

瑠和も一応ギターを弾けはするが作曲の経験はほぼない。うまくいくか不安ではある。

 

「はぁ………」

 

小さくため息をつき、瑠和は弾きなれた曲を奏で始めた。それは瑠和が父から教わった曲だ。

 

「青空がある限り………風は、時を運ぶよ………♪」

 

「いい曲ですね」

 

気づけば真横にしずくがいた。

 

「うぉぁ!!」

 

瑠和は驚きまくってベンチから落ちる。落ちながらもギターは何とか死守する。

 

「そんなに驚かなくてもいいじゃないですか」

 

「びっくりだってするさ………練習は?」

 

瑠和は起き上がり再びギターを弾く構えになる。

 

「はい、とりあえず一通り。璃奈さんは今飲み物を買いに行っています」

 

「璃奈は………どうだ?」

 

「まだ……あんまり向いてるとは言い難いですね。体力は低いですし、体も堅いです」

 

「…」

 

瑠和はやはりかと思う。

 

「だけど、やる気と根気だけは素晴らしいです。あの調子なら、いつかはきっと………瑠和先輩はどうですか?作曲の方は」

 

「見ての通りだ。いまいちうまくいかない」

 

瑠和は白紙のノートをしずくに見せた。

 

「そうですか………ごめんなさい。無理を言って」

 

「気にしないで。俺も、あの場所は居心地がよかったから………それに、夢で見たんだろ?だから、俺はしずくちゃんを絶対にそのステージに連れていく」

 

瑠和が妙にやる気にあふれているような気がした。

 

そんな姿を見たしずくは、何か引っ掛かりを感じた。うまく言葉にできない違和感。瑠和はこんな性格をしていない。

 

しずくの直感がそう告げていた。

 

「本当ですか?」

 

「え?ああ、もちろんだ」

 

「いえ、そうではなく………それは本当に先輩の本心ですか?」

 

「…………どういう意味かな?」

 

少しピリッとした空気がその場に流れる。しずくは怖気いた。瑠和にビビったわけじゃない。同好会の崩壊が脳裏をよぎったからだ。しかし、感じていることを伝えずにまたあんなことになるくらいなら伝えるべきことははっきり伝えるべきだと思った。

 

「今の瑠和先輩は…………いえ、瑠和先輩は前から……なんていうか、誰かのために何かすることで満足しようとしている……何かから目を背けている?そんな気がするんです」

 

「………」

 

瑠和はギターを置いた。

 

「君に俺の何が分かる?少しくらい…逃避させてくれよ」

 

「何もわかりません。だからこそ………何もわからない人に、応援されたくない…。それはきっと私だけじゃないと思います」

 

身勝手だ。応援されたいと言っておきながら、いざ協力されたら応援されたくないといった。だけど、このままじゃいけないことだけはわかる。だからしずくは一歩踏み出した。

 

「…………」

 

「以前、璃奈さんを同好会に誘った時、璃奈さんが瑠和さんともう一度仲直りするために……というようなことをおっしゃっていました。その時はあまり気にしませんでしたが………それが、何か関係しているんじゃないんですか?」

 

一気に踏み込んだ。内心、しずくは怯え切っていた。

 

今自分がやっていることはあの日のかすみと全く同じことだ。いま最大の支援者である瑠和に抜けられるのは大きな痛手であり、何より瑠和に嫌われることを怯えている自分もいたからだ。

 

「…………しずくちゃんに関係ない」

 

瑠和は立ち上がってその場を去ろうとした。しかし、その瑠和の袖をしずくがつかんで制止させる。

 

「関係ないなんて言わないでください………私のこと…応援してくれるんですよね?だったら………もっと…………瑠和先輩のこと……知りたい……」

 

「……」

 

瑠和は少し考え、再び同じ場所に座った。そして、少し考えてから瑠和は口を開く。

 

「俺の両親は、仕事で毎日忙しくてな」

 

「…はい、お泊りさせていただいたいずれもお見掛けしませんでしたから、うすうすそうじゃないかとは思っていました」

 

「ああ。俺はそんな両親が昔から少し嫌いだった。まぁ、要は構ってほしかっただけなんだけど。そんなある日に両親の仕事の都合で引っ越しが決まった。俺は友達と離れたくないとか言ってそれに猛反発して………結局は両親に振り回されるのが嫌だっただけで。俺は地元の親戚に引き取られた」

 

「そんなことが………あったんですね」

 

「ああ。高校が虹ヶ咲に決まって、俺は両親のいる家に帰ることになって…………久々に会った璃奈は………表情が……色が、見えなくなっていた」

 

「………色?」

 

聞きなれない単語が出たことにしずくは眉を顰める。

 

「ああ……人の顔を見ると、なんというか………色が見えるんだ。表情に」

 

「…共感覚………でしたっけ」

 

「たぶんにたようなもんだ。その色で、どんな感情なのかが大体わかる。だけど璃奈からは………何も見えなくなっていた。怒りも、悲しみも、喜びも…その色が全然見えなかった。だけど…………璃奈はきっと俺のこと怒ってるんだ」

 

「瑠和先輩……」

 

「俺のせいで……俺がかまってやれなかったせいで璃奈は表情を表に出せなくなって、孤立した。俺があんなわがまま言わなきゃ……」

 

瑠和は話している間にしずくの顔を見れなくなっていた。この話はどう考えても悪いのは瑠和だ。

 

こんなこと離せば、しずくにどう思われたものかわかったもんじゃない。

 

そんな事を思っていると、しずくが瑠和の手に自身の手をそっと重ねてきた。

 

「そうでしたか………お父さんやお母さんが一緒にいてくれないと……寂しいですよね」

 

意外な言葉が返ってきた

 

「………しずく?」

 

「お家での、瑠和先輩の働きを見てて………なんとなく感じてました。家の人がいないのに、家事をあんなにスムーズに出来るのは昔からやってたからじゃないかって…………寂しかったですよね」

 

瑠和は唖然とする。この話を誰かにするのは初めてだ。ずっと瑠和自身誰かに共感してもらえるなんて思ってなかった。結局自分のわがままだから、自分が悪いと責められる。そんな気がしていたのだ。

 

だが、しずくは瑠和の気持ちを否定せず、共感を示したのだ。

 

「しずく………」

 

「でも、璃奈さんが怒ってるって本当に璃奈さんがそんな風に言ったんですか?」

 

「え………いや……でも、怒ってないわけ……」

 

瑠和は実際に璃奈に確かめたわけではない。きっとそうだという予測の域は出ていない。だからこそ、確かめるのが怖いのだ。

 

「わかります。真実を確かめることでこれまでの関係が壊れるかもしれない………そう思うんですよね?」

 

「……」

 

「でも、そういうの、はっきりさせた方がいいと思います。もしかしたら、せつ菜さんとかすみさんみたいになるかもしれません。ですが、私もさっきのことを聞くのが怖かった………だけど、聞いたから、瑠和先輩をもっと知ることができたんです」

 

それはあくまで結果論だ。

 

「…………もし、失敗したら?」

 

瑠和が尋ねると、しずくは指を顎において少しだけ考えた。

 

「その時は………私が間に入って何とかします」

 

「どうしてしずくをそこまで信用できる?」

 

「忘れたんですか?私は、璃奈さんの親友なんですから」

 

根拠としては、希薄だ。

 

瑠和は慎重な性格だ。そんな言葉だけで信じるわけにはいかない。だが、不思議とそんな希薄な根拠を信じてみたくなった。

 

それは、自分のことを知りたいといったしずくの目が真剣だったからかもしれない。同じ目で伝えれば、うまくいく。そんな気がした。

 

「これ、お守りです」

 

しずくは15㎝くらいの犬のぬいぐるみをカバンから取り出した。

 

「私の家で飼ってる犬のオフィーリアのぬいぐるみです。こんなのじゃお礼にならないとは思いますが、いつ泊めていただいてるお礼です。それを持って璃奈さんとお話してみてください」

 

「………ありがとう。しずく」

 

瑠和はそれを受け取る。それと同時に飲み物を買ってきた璃奈が戻ってきた。

 

「どうかしたの?」

 

「ううん、何でもないよ。さて、じゃあ今日の練習はここまでにして、明日また頑張りましょう。私は一足先に上がらせていただきますね」

 

「ああ、お疲れ」

 

しずくは荷物をまとめ、足早にその場を去っていった。残された天王寺兄妹はなんだか気まずい感じになる。

 

少しの沈黙の後、瑠和はしずくからもらったオフィーリアのぬいぐるみを両手で握り、璃奈の方を向く。

 

「あ………あのさ、璃奈」

 

「?」

 

璃奈は首をかしげてこちらを見てきた。その目を見た瑠和は怖気づいてしまう。

 

理由はわからない。だが、やはりまだ怖いのだ。この敵意も好意も感じない眼差し故に、自分の気持ちを伝えた後に璃奈の口から心無い言葉が出てくると思うと、出かかった言葉は呑み込まれた。

 

「…………いや、何でもない。帰ろう。今日の夕飯は何がいい?」

 

「うーん……」

 

瑠和は適当にごまかして帰路へ着いた。せっかく後輩から勇気をもらったのに、無下にしてしまった。

 

 

 

―夜―

 

 

 

「ごめんな、しずく。俺、勇気出せなかった……」

 

その夜、瑠和はオフィーリアのぬいぐるみを見ながら謝罪した。今は特に険悪という感じではないのだが、もしも関係が悪化したらと考えると、瑠和はそれ以上声を出せなかった。

 

明日学校にいったらしずくになんて謝ろう。そんなことしか浮かばなかったし、そんなことを考えているうちに瑠和は眠ってしまった。

 

 

 

―翌日―

 

 

 

「ふぁ………」

 

結局昨日はよく眠れないうちに朝が来てしまった。瑠和はあくびをしながら登校する。

 

「瑠和先輩♪」

 

「おわ」

 

背後から肩をたたかれる。しずくだった。できれば放課後まで会いたくなかった相手だが、会ってしまったなら仕方ない。

 

「おはようございます」

 

「ああ……おはよう」

 

「………昨日はどうでした?」

 

「………………ごめん。俺……まだ勇気出せなくて。せっかくしずくに背中押してもらったのに…ごめん」

 

瑠和が謝るとしずくはくすりと笑った。

 

「…そんなことだろうと思いました。瑠和先輩、朝からすっごくしゅーんってしてましたもん」

 

「そ、そんなに顔に出てたか」

 

そんなにかと思い、瑠和は顔を赤くする。そしてそれを隠すように少しそっぽを向いた。

 

「はい。まるでお預けされたオフィーリアみたいに」

 

「…………どうしても勇気が持てない。このままじゃいけないことはわかってる。でも、いま、璃奈に邪険にされていない状況が居心地いいって気持ちもあって……」

 

「そうですか………………中々勇気って持てませんよね。でも、向き合おうとしてるだけ、瑠和先輩は素晴らしいです!」

 

「そうかな………」

 

「そうですよ。聞いた限りじゃ、逃げてばかりだった昔の瑠和さんに比べてずっと立派だと思います」

 

「とりあえず今は作曲のことを考えましょう!放課後、よろしくお願いしますね」

 

「ああ………」

 

しずくは笑いながら去っていってしまった。随分と自分の味方になってくれる優しい少女だと思った。そんなことを思っていると、背後から女生徒の声がした。

 

「愛先輩!昨日のバスケ部の助っ人ありがとうございました!」

 

「うん、どういたしましてー」

 

声のした方をふと見てみると、金髪の少女がバスケ部のメンバーらしき子と話しているのが見えた。

 

「あいつは………」

 

「ん……あれ?瑠和じゃん!」

 

「?」

 

「ひさしぶりー!元気?」

 

「あ、ああ…………ごめん、会ったことあったっけ?」

 

「なに?覚えてないの~?去年文化祭実行委員で一緒に受付やったじゃん!ほら!情報処理学科の宮下愛!」

 

「あ、あ~、そうだったな」

 

はっきり言って思い出してはいないが瑠和は適当に話を合わせる。「そんなこといちいち覚えてるか」と内心思いながら適当に流そうとした。しかし、ふとさっきの愛とバスケ部の会話を思い出す。

 

「そういえば宮下、お前さっき………なんか助っ人がどうとかって」

 

「ん?ああ、愛さん結構運動好きだから!いろんな部活の助っ人やってるんだ」

 

「………」

 

そういえば聞いたことがある。この学校に部活等のヒーローと呼ばれる少女がいるという話を。運動系にとどまらず、成績優秀でもあるので文科系の部活でもけっこう活躍しているらしい。

 

瑠和ははっと思いつく。

 

「なぁ!宮下!」

 

「ん?」

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

「つーわけで!助っ人の宮下愛だ!」

 

「よろしく~!」

 

放課後の海風公園。瑠和は愛を連れてきていた。本格的なスクールアイドルをやっていたせつ菜が抜けたことでダンスや歌の練習は控えめになっていた。

 

だが、ダンスや歌をやる部活での助っ人経験のある愛が加わればもっと練習が充実するだろうと思ったのだ。

 

「よろしく」

 

「………よろしくお願いします」

 

「てなわけで、練習はよろしくな。宮下」

 

「おっけ~。愛さんにお任せあれ!」

 

愛と璃奈が準備をしている間、しずくは瑠和の方に来た。なにやら表情の色が少し濁っている。しずくの色がこんなにはっきり見えたのは初めてだった。

 

「瑠和さん………どうしてあの人を?」

 

「え?ああ、少しは練習がはかどるかなって……ほら、しずくちゃんも兼部だし、スクールアイドルも初めてなんでしょ?だったら少しはスポーツ詳しい人間がいればって思ったんだけど」

 

「そうですか…」

 

なんだか、不服そうだ。瑠和は頭に「?」を浮かばせながら作曲に取り掛かる。愛が見てくれるおかげで前よりも作曲に集中できる。愛は誘って正解だったと瑠和は思った。

 

瑠和は改めてしずくから受け取った歌詞を眺める。

 

「作曲………この歌詞に込められたものから最適な音を見つけ出せ………」

 

瑠和の共感覚は決して人の顔だけに覚えるものではない。文字や数字、そして音なんかにも多少なりとも色を覚えている。

 

そこから作曲を考えていた。

 

「………理想のヒロイン…か」

 

歌詞やタイトルにある言葉をかみしめるように言う。いったいしずくはどんな思いでこれを書いたのだろうと思いながら作曲を考え続けた。

 

 

 

続く

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