引っ越しの当日は、約束通り、翔と駿が手伝いに来てくれた。
1人暮らしでそんなに荷物が多いわけじゃないが、翔が車を出してくれたので助かる。
駿は昔、真琴とルームメイトだった頃を懐かしんでいた。真琴が渡米して寂しい中でも、1人で新しい仲間と頑張ってる。駿には炊飯器をあげた。駿が持ってるのは小さかったから、喜んで手伝ってくれた。
純のマンションに荷物を置いた後も、家具の移動とか手伝ってもらったので、早めに片付いた。
最後に、打ち上げといきたい所だったが、翔が車だったのと駿を送るという事もあり、後日あらためて、という事になった。駿の好きな焼き肉を驕る約束をした。
帰り際、翔は玲音に
「ま、色々あると思うけど、ケンカしてもくじけず頑張れよ。時にはちゃんと言葉で想いを伝えた方がいいぞ」と言った。
「言葉で伝えるのって、難しいよな」
「そういう時は、酒の勢いを借りるって、手もある。何度もやると怒られるけどwww」
2人が帰った後、玲音と純の2人で乾杯をした。
「J、あらためて、これから、宜しく」
「あぁ、宜しくな、玲音!」
「ところで、あの後、陸樹から何か連絡はあった?」
「あー、何か長文のメール来てたけど、うざいから、読んでない」
「え?いいの?」
「だって、あいつ、ちゃんとルールを作った方がいいとか、節度がどうとか、お前は俺の保護者か?!って内容だったんだぜ?最後まで読む気になんなかったよ!」
Jはぷんすかしてるけど、陸樹が心配してるのは、保護者としてじゃないんだけどな……
玲音は陸樹の気持ちを考えると複雑な気持ちになった。
陸樹に言われるまでも無く、一緒に住むってなった時に、ちゃんとお互いの生活スタイルを確認した上で、ルールを一つ一つ決めていった。
例えば、純は会社に行く日以外は朝起きないし、朝食も食べないとか
玲音は朝は必ずシャワーを浴びるとか
賃貸費や光熱費の折半の仕方や食費についても、取り決めをして、必要なら随時変更していく事にした。
その中で、一番大事な約束を決めた。
それは、我慢したり、遠慮したりしないこと、だった。
ソファでどちらかが寝てしまったとしても、付き合ってソファで寝たりせずにベッドで寝るとか
夕飯を帰りが遅い方に合わせて待ったりしないとか
相手に合わせて無理しないこと
マイペースで生活すること
そして、何か思う事があったら、ちゃんと伝えること
もし、うまく言葉で表現できなくても、
モヤモヤするとか、イライラしてるとか、ほっといて欲しいとか、
気持ちだけでも伝えて、抱えこまないこと
お互いに寄り添って、でも自分自身を大切にしようと約束をした。
でも、今日はちゃんと言葉で伝えたいんだよな。
勇気が足りない分は、翔のアドバイスを借りよう。
玲音は、既に結構飲んでいたが、意を決して、一度大きく深呼吸すると、ウイスキーを1杯ストレートで飲み干した。
「え?ちょっ?玲音?飲み過ぎだろ!」
「純!」
「え?(じゅ、じゅん?)」
突然、玲音に本名を呼ばれて当惑してる純を抱き寄せて、目を見ながら言った。
「愛してる」
目を丸くする純に初めて恋人としてのキスをした。
純は、息が続かなくなって、やっと離してもらってから、ようやく声が出せた。
「ま、待てって!俺の気持ちは言わせないつもり?って?!そこで寝るなーー!!」
・・・
はぁー、やっぱり寝ちゃった…
前にもこんな事あったな
あの時は俺の方が寝ちゃったけど
そう言えば、あの時、初めてキスしたんだよな。触れただけのキス‥
今度、絶対、素面の時に言ってもらうからな!
それでも、お酒の勢いを借りてでも言葉で伝えてくれたのは、嬉しかったんだけど
俺だって、愛してるって伝えたかったのに…
口を開こうとした途端に、珍しく強引に奪うようなキスをされた。初めての恋人としてのキスは、ウイスキーの味がして、それだけで酔いそうだった。
確かに、あれはお酒が入ってないと無理かも…
まだ、正直、素面でできる自信は無い。
でも、玲音のやつ、明日になったら忘れちゃうのかな?
それは、ちょっと悔しい…
あんなに、翻弄しておいて…
思い出すと赤面してくる。
とりあえず、玲音に毛布をかけ、ソファに寝かせたまま、ベッドで寝る事にした。
寝れる時はちゃんとベッドで寝るっていうのが2人でした約束だった。
「おやすみ、玲音」
明日、玲音がどういう顔をするか楽しみだ…
翌朝、玲音は二日酔いで頭が痛くて起きた。
昨日の事は、一応覚えていた。
言葉と態度でも示したくて、強引なキスをしてしまった…
今思い返すと、顔から火が出る程恥ずかしい。
ちょっと一方的だったな…
今更だけど、J、怒ってないかな、こ、怖い…
とりあえず、シャワーを浴びてこよう…
純はいつもより早く目が覚めたが、まだ寝ぼけていた。洗面所のドアを開けた時、シャワーを浴びた直後の玲音と鉢合わせした。
「わ!ご、ごめん!」
朝、シャワーを浴びるのは玲音の日課だとわかっているが、寝ぼけてると、つい忘れてしまう。
あぁ、びっくりした…、気をつけないと…
寝起きには刺激が強い。
ドキドキして、目がバッチリ覚めた。
「お、おはよう、J」
「おはよう、さっきはごめん。すっかり忘れてた」
「あ、いや、洗面所占領してごめんな」
玲音が申し訳ないという顔をした。
あー、こういう奴だった。そんな事を気にしてるんじゃないのにww
「ねぇ、昨日の事、どこまで覚えてるの?」
「え?ぜ、全部?覚えてる、はず‥」
「一方的にお前の気持ちだけ言って、一方的にキスした事も?」
「ご、ごめん!」
「別に、謝って欲しいわけじゃないけど…」
「気持ちを言葉と態度でも示したくて、でも、余裕無くて、ごめん…強引過ぎたし、Jの気持ち聞く前に酔い潰れちゃって…」
しょげ返って、仔犬みたいなキュルキュルの目で謝る玲音が愛おしくなる。
そんな顔されたら怒れないんだよ。ズルいな、ホントに…
「俺だって、愛してる」
純は耳元で囁くと、素早く玲音にキスをした。
玲音が一瞬ビクっとして、顔を赤くする。やっと笑顔が戻った。
「もしかして、毎朝してくれる?」
「バカ!するわけないだろ?!」
「ww冗談」
2人で顔を見合わせて笑った。
玲音の笑った顔が大好きだ…
玲音が笑ってくれるなら、毎朝でもキスくらいしてやるって言いそうになる。
でも、自分の安売りはダメだ!節度をもって行動しようと心に誓う。
急に、やっぱり陸樹がメールで送ってきた注意事項をちゃんと読んでみようかな、と思い始める純だった。
END