鮮血のダンジョンマスター──彼が史上最悪の魔王と号されるに至るまで── (旧題名 ダンジョンマスターもの)   作:想いの力のその先へ

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おしどりゆえに

 青白く、衰弱しているファラさん。なんでこんなことになったのでしょうか……。なんて、言いたいところですが。

 実はあたくし、この状況見覚えがあります。

 

「……あぁ、あの。セラ、さん? ちょっと、確認したいことが――」

「は、えっと。いま、あまり手が離せないのですが……」

「いえ、確認次第では、彼女の容態も分かるから――」

 

 その瞬間、セラの目が細められました。訝しんでいるのか、それとも……。まぁ、良いです。どちらにせよ、あたくしには関係ないです。

 そして、確認とは――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャネットから、至急報告したいことがある。と、連絡があってしばらく後、彼女がダンジョンコアの間へ帰ってきた。

 しかし、至急報告したいこと、か。いったい何事だろうか?

 

「主さま、それでは報告させていただきますわ」

「あぁ、聞かせてくれ」

 

 それから聞かされた報告は、まさに寝耳に水だった。

 ファラの容態、かなりの衰弱をしているという報告は。

 

「それで、彼女は大丈夫なのか?」

 

 かつて、ダンジョンの備品、という形のファラであればそこまで気にしなかった。しかし、いまのあいつはルードの妻。こちらの仲間であり、彼女の生死はルードの士気に直結する。とてもじゃないが無視して良いことではない。

 そのため、生きていてもらわないといけないのだが、ジャネットの見立てではどうなのだろうか。そう、疑問に思い問いかけたわけだが……。

 

「……条件付きで問題なし、というのがあたくしの至った結論です」

「条件付き……? どういう意味だ?」

「それは――……」

 

 彼女から語られた容態と改善策。それを聞いて、俺は色々な意味で頭を抱えることとなった。いや、ある意味俺の手落ちであることも確かなのだが……。

 

「……ともかく、ルードにも――。というよりゴブリン全体に話す必要がある案件なのは分かった。すまんな、ジャネット。正直、助かった」

 

 俺の感謝に曖昧な笑みを浮かべる。面白くはあるけど、正直に笑うことはできない。そんな感じだった。

 

「正直、あたくしも初めてですわよ、こんなこと。いえ、勉強にはなりましたけど」

「声が笑ってるぞ」

「あら、これは失礼」

 

 指摘されて、笑いを堪えることをやめたジャネット。くすくす、と静かに笑っている。

 

「まぁ、なんにせよ。先ずはルードに話すのが先決、だなぁ」

「それが良いですわね」

 

 互いに見つめあって頷き合う。そしてくすり、と笑いがこぼれるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ジャネットの報告の後、少ししてルードが自身の騎乗馬を乗り潰す勢いでダンジョンへとすっ飛んできた。いくらトロイホースが頑丈だとしても、あまり無茶してほしくないのだが……。まぁ、本人からすると愛妻が命の危機だということでいてもたってもいられなかったんだろう。

 

「マスター、ファラは! あいつは大丈夫なんですかい?!」

「落ち着け、ルード――」

「落ち着いてなんていられやせんって!」

「近い近い、少し離れろ」

 

 部屋に飛び込んでくるなり、机へ手をついて乗り出すルード。下手すればそのまま頭突きされかねない勢いだ。

 

「ジャネットにも確認したが、命に別状はない。いまのところは、な?」

「……どういう、意味ですかい?」

「それをいまから説明する」

 

 俺の言葉に目が据わるルード。今後、命の危険があるかもしれない、何て言われて心穏やかにいかないのは当然だろう。まぁ、そのためにはルードの協力がいるわけだが……。いや、協力というより()()だな。

 

「結論からいこう。現時点でファラは極度の栄養失調状態にある」

「栄養失調……? そんな馬鹿な、あっしはファラと一緒に食卓を囲ってやすが、あいつはちゃんと飯を食ってますよ」

 

 結論を聞いて困惑するルード。そうだよな、そうなるよな。俺だって同じ立場ならそうなる。セラだってそうなってた。しかし、それが事実だ。

 

「待て待て、ちゃんと全部説明する。……が、時にルード」

「……なんでやしょう?」

「下世話な話になるが、あぁ、んんっ……。その、ファラやセラと随分と、励んでいるそうじゃないか」

 

 ……はぁ、なんで俺が他人。しかも、部下の家庭。それも情事に首を突っ込まねばならんのだ。

 

「は、はぁ……」

 

 突然のことに困惑しているルード。それはそう、なぜ妻の安否の話からこんな下世話な話に飛ぶのか、訳が分からないのが普通だ。しかし、今回はするしかないのがなぁ……。

 

「夫婦円満、まさしく喜ばしい話だ。子宝も多いようだし、俺の耳にもお前とマクスのおしどり夫婦ぶりは入ってくる程だ。俺としても、なるべくなら干渉などしたくないのだが……」

「…………?」

 

 いよいよもって、訳が分からなくなってくるな。だが、それも仕方ない。

 

 ……誰が分かるかよ。ファラの衰弱している理由が子作りに励みすぎたから、なんてこと。俺だって、最初ジャネットに聞かされた時、目が点になったわ。

 しかし、冷静に考えればなるほど、と納得するものもあった。

 

 そも、ゴブリンの子供は約一ヶ月で臨月を迎えること。複数の子供を宿すことは以前話したと思う。それが種として弱いゴブリンが生き残るための進化なのは分かる。妊婦が子供へ自身の栄養を分け与える。出産でかなりの体力を消耗する、これもまた自明だ。

 そして、問題なのがこのバカップル。子供を出産した翌日には既に次の子供を仕込んでやがった。……いや、まぁ。産めよ、増やせよ、なんて言った俺もまた問題なんだろうが。

 つまり、母体であるファラの体が休まる暇がない訳だ。そんなのを三ヶ月、四ヶ月と繰り返せば、そうなるのは必然でしかない。

 ちなみに、同じ話は既にファラやセラにもしてある。が、ファラの拒絶ぶりは凄かった。ルードに対する独占欲、というか執着心の狂気を味わったぞ。

 ……最終的に、致すなとは言ってない。避妊をしろ、と無理矢理納得させたが。そこら辺はむしろ、セラの方が物わかりがよかったぐらいだ。

 

「…………と、いう訳だ」

「は、はは……。なるほ、ど……」

 

 全ての話が終わった後、ルードは真っ白になっていた。まさか、嫁御の生命の危機が自身の性欲で引き起こされていた、など想定外にもほどがあるだろう。

 その気持ち、分からなくもない。が、それ以上に……。

 

「…………ふぅ」

 

 黄昏ているルードに感づかれないよう小さく嘆息。つまり、これは俺が当初描いていた。人間の女を使った戦力の増強、という戦略が崩壊したことも意味する。

 仮に母体が半年しか使えないとして、一人で30匹程度しかゴブリンが増えないわけだ。

 無論、人海戦術を使って、という方法もあるがその人員をどこから用意するか。用意したところで、バレた場合、最悪帝国や王国を敵に回す可能性がある以上、早々に使える方法ではない。

 つまり、自前の戦力増強はほぼDPによる購入一択になってしまった訳だ。

 それでも、唯一幸いだと言えるのは、人間が産んだ個体。というより、ルードたちの子供は通常のゴブリンよりも優秀なため、下士官。部隊の指揮官として運用。いわゆるハイローミックスが出来るということだ。

 まぁ、なんにせよ。今後のことを鑑みても、早めに知れたのは僥倖だった、と思うしかない。というか、思わないとやってられない。というのが俺の率直な心境だった。

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