鮮血のダンジョンマスター──彼が史上最悪の魔王と号されるに至るまで── (旧題名 ダンジョンマスターもの)   作:想いの力のその先へ

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互いの心配、互いの懸念

「今頃はふたりとも無事に諸部族連合へ着いていると良いんだが……」

 

 ふと、そんな言葉がこぼれる。ダンジョンコアの間で作業していた俺だったが、なんとなく、虫の知らせとでも言うべきか。本当に、ふと気になった。

 

「まぁ、仮にモンスターに襲われたとしてもジャネットがいるから問題ない筈」

 

 事実、リーゼロッテたちの撤退戦でも、勇者――万純ちゃん相手に手傷を負わされたようだが、ただそれだけ。それこそ、ルードであれば手傷ではなく首を取られていただろう。

 

「万純ちゃん、か……」

 

 まさか、あの娘までこの世界にいるとは。しかも勇者召還の儀で。

 

「確かに、あの娘は昔から運動神経、というより身体能力が高かった。それに勇者としてのバフが乗ったのなら……」

 

 かつての世界、俺たちの故郷。地球で活躍していた英雄、ヒロインたちと比肩しうる力を得たのかもしれない。それがこちら側なら良かったのだが……。

 

「敵、王国側に立っている、というのがなぁ……」

 

 正直、頭が痛くなる。単純にやりにくいというのもそうだし、戦力としてもあまり考えたくない、というのが本音だ。

 

「ヒロイン、なんて言えば聞こえは良いが、実際のところただの化け物だ」

 

 なにせ、かの世界では怪人と呼ばれる存在やアンドロイド、ロボットが破壊活動を行うのが普通だった。それらを撃退していたのがヒロインという存在。

 それもこれも、怪人やロボットに軍隊が歯が立たなかったのが原因。だからこそ、ヒロインと呼ばれる特記戦力に白羽の矢が立った。

 それこそ、簡単に例えればこの世界で畏怖されている姫騎士、リーゼロッテと同等、どころか凌駕しかねない単体戦力たちなのだ、ヒロインという存在は。

 そんな世界でかつて世界最強の呼び声高いヒロインがいた。そのヒロインにはとある特徴、考えようによっては欠点があった。

 

「それは他のヒロインのように特殊な能力がなかった、ということ。他のヒロインには魔法少女や超能力者なんてのがいたのにな」

 

 だが、それは言い換えれば単純な身体能力だけで世界最強の座についていたということ。それがどれ程すさまじく、恐ろしいことか。そして、その特徴は――。

 

「万純ちゃんも同じ、ということ。あるいはあの娘も勇者としての力を得たことで、同じところまで上り詰めたのかもしれない」

 

 まぁ、さすがに……。と、思いたいがそれで最悪の事態を想定しないのはバカのすること。特に上に立つ者は、そこを考えておかなければ話にならない。

 

「最悪の場合、クラン女男爵にお願いする。という手もあるが……」

 

 姫騎士曰く、自身が夭逝していれば姫騎士の称号は彼女のものになっていただろう。と、そうまで言わしめる女傑なのだから無理もない。

 まぁ、それを考えはじめたらキリがない。なにより、悲観的になりすぎれば、それはそれで問題だ。

 

「…………ん?」

 

 色々と考えていた俺の耳に、からから、と軽い音が聞こえてきた。この()()は――。

 

 ――マスター、お客人が来ている。

 

「む、ハンスか……」

 

 スケルトンアーチャーのハンスだ。

 いつもなら、こういうことはルードが率先してやってるのだが、いまのあいつは奥さんのファラのことでそれどころじゃない。

 俺の秘書的な立ち位置に収まっているジャネットは言うに及ばず、ナオも色々な仕事を兼任している以上雑事を行えるほど暇じゃない。

 結果として、ハンスへお鉢が回ってきたのだった。もっとも……。

 

「ふぅむ……。そういえば、ハンスも手すきになったんだったなぁ」

 

 ――…………?

 

 なんのことだ、とばかりに首を捻っているハンス。

 そもそもハンス自体、これといって明確な理由で生み出された訳じゃない。強いて上げるとするなら、DP節約のため、それだけだった。

 そして、その後与えたゴブリンへの弓の調練というのもお役御免になったことで、ハンスの扱いが中に浮いてる状態。

 それにスケルトン、というモンスターがハンスしかいない、というのも問題だった。

 

「そういえば、あれ以降スケルトン系統の項目を確認していなかったか……」

 

 もしかしたら、なにか違いがあるかもしれない。念のため、確認しておくことにした。そうして、確認作業をしていたわけだが……。

 

「……ん? スケルトンの召還ができる? いまは材料(人間の死体)がない筈だが――」

 

 確かハンスを造る際は彼の死体が要求された。だからこそ、だと思っていたのだが……。

 

「あるいは、死体を使うこともDPの節約に繋がっていたか……? もしくは特殊個体が造れる、とか?」

 

 そうなると、リーゼロッテに遠慮して豪腕の某の死体を使ってモンスターを造らなかったのは、少し勿体なかったか?

 

「リーゼロッテと打ち合えるだけの猛者。それをモンスター化させれば相応の戦力に出来たかもしれんな」

 

 まぁ、いまさらでしかない。今後の教訓として覚えておくとしよう。俺はこめかみをとんとん、と叩きながら考えを続ける。

 

「まず確認すべきは通常生み出したスケルトンがどのような状態なのか、だな」

 

 主に性能とか、利便性とか。いまのダンジョンが得られる収入からすれば一体や二体、誤差の範囲。問題はどの程度の性能を有しているか。上手くいけば、ハンスをリーダーとしたスケルトン。いやさ、スケルトンだけではなくゾンビやゴーストなどを主体としたアンデッド軍団を組織することもできるだろう。

 

「……っと、客人が来ているんだったな」

 

 どうにも考え込むと周りが見えなくなるのは悪癖だな。それはともかく、招き入れるとしよう。

 

「では、ハンス。お客人を――」

「――邪魔するわよ、ヒデヨシ」

 

 俺が許可を与える前に、がちゃり、と扉が開き凛とした女性が入ってくる。まさかの、エィルへ詰めている筈のリーゼロッテだった。

 

「これはこれは、リーゼロッテだったのか。お待たせして申し訳ない」

「……まったく、欠片も思ってない癖に」

 

 苦笑いを浮かべ、皮肉を言うリーゼロッテ。これは、さすがに待たせ過ぎたということかな……。

 

「これは手厳しい。して、今日は何用で? まさか、雑談をしに、なんてことではないでしょう?」

「あら、私はそれでも良いんだけど?」

 

 クスクス笑って、彼女はこちらをからかってくる。では、こちらもそれに倣うとしようか。

 

「では、お言葉に甘えて。……リーゼロッテは好みの男性像はおありで?」

 

 俺の問いかけに、ぼっ、と顔を赤らめるリーゼロッテ。まだまだ青いな、その程度でぼろを出していては。

 彼女の様子が可笑しくて、くつくつ、と笑いがこぼれる。それでようやくからかわれていることに気づいたようで唇を尖らせていた。

 

「……んなっ、もうっ!」

「はっはっはっ、リーゼロッテもそろそろ一国の主となるんだ。腹芸のひとつでも出来るようにならなければな」

「あなたねぇ……。まぁ、良いわ」

 

 俺の軽口に、頭が痛い、とばかりに額を抑える。

 だが、すぐに深呼吸して平常心に戻すと話しかけてきた。

 

「それでヒデヨシ。随分と精力的に動いているようだけど?」

「ほう……?」

 

 おそらくジャネットたちのことを言ってるんだろう。しかし、隠してはなかったとはいえ、彼女がその事に気づく、というより重要視するのは意外だった。

 いや、違うな。たぶん、リーゼロッテは重要視していない。にも拘らずここへ来た、ということは入れ知恵された、と考えた方が妥当。そして、彼女相手にそんなことをできるのは――。

 

「なるほど、アレク皇女の差し金か」

「良く分かったわね」

 

 目をぱちくり、とさせ驚いているリーゼロッテ。そんな、驚くことでもないだろうに。特に今回の場合は。

 

「それで、なに聞き出してこい、と言われたんだ?」

 

 その言葉に、とうとう彼女は降参、とばかりに両手を万歳と上げる。

 

「もうっ、アレクもヒデヨシも。人をメッセンジャー扱いするの、やめてくれる?」

「はっははは――」

 

 不貞腐れたリーゼロッテの姿に、思わず笑いがこぼれた。

 

「それがいやなら、リーゼロッテが使う側にならなければな?」

「むぅ……」

 

 俺の指摘に不満をあらわにしたリーゼロッテ。しかし、こちらとしてはそう言うしかない。先ほども言ったように一国の主となる以上、最低限の腹芸くらい出来るようになっていなければ話にならない。

 そして、そのためにはある程度知恵働きが出来るようになるのが大前提。そのためにはある程度リーゼロッテ自身の努力が必要。

 

「まっ、あとは適材適所として人を配置するか。もっとも、いまの公国では用意するのは至難だろうが」

「……くっ、事実だけに言い返せない」

 

 リーゼロッテが悔しげにしているが、これもまた必然。なにせ、以前の王国からの奇襲で散々人が討ち取られている。そうなれば人が足りなくなるのは自明の理だった。

 

「まぁ、それは良いが」

「良くないのだけど!」

 

 俺の言葉に絶叫するリーゼロッテ。ある意味死活問題なのだから仕方ない。だからといって、いまはどうにかする手を打てる訳じゃない。もっとも、中長期的な目で見れば方法ならあるが……。

 それはともかく。

 

「それで結局、用件は?」

 

 このままでは話が進まないため、再度問いかける。

 リーゼロッテもリーゼロッテで、さすがにこれ以上時間をかけられない、と気付き断腸の思いで用件を告げる。

 

「……あぁ、もうっ! ――あの勇者のことよ!」

 

 苛立たしげに叫ぶリーゼロッテ。その声に、ついに来たか、と俺も覚悟を決めるのだった。

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