鮮血のダンジョンマスター──彼が史上最悪の魔王と号されるに至るまで── (旧題名 ダンジョンマスターもの) 作:想いの力のその先へ
ダンジョンまで押し掛けてきたリーゼロッテの問いかけ。勇者の少女について。単純に話すだけなら簡単ではあるが……。
(さて、どこまで……。いや、どう話すべきか……)
彼女らとてわざわざこちらに問いかけに来た、ということはそれなりに疑問。いや、疑惑を抱いている可能性が高い。
なにせ、万純ちゃんは俺と同じ黒髪黒目。しかも、顔立ちもどことなく似ている――今回の場合は、外国人が日本人の顔立ちを見分けられない。という意味で――ことから、関係者ではないのか。と疑うのは十分に考えられる。
さすがにマッチポンプを疑われている、とは思いたくないが……。
――とりあえず、探りを入れてみるか。
結局、考えたところで答えは得られないのだ。ならば、虎穴に入らずんば虎児を得ず、というのも仕方あるまい。
「件の勇者さまか。まさか、あのジャネットが手傷を負わされるとは思ってもみなかったが……。それで、その勇者さまについて、何を聞きたいんだ?」
「えっと、それは……」
どこか困ったように眉間をハの字に寄せるリーゼロッテ。まさか、直球に関係者なのか。なんて聞くわけにもいかないのだろう。
そうすれば、こちらを疑っています。と白状するも同然なのだから。
しかし、どことなく顔を赤らめ焦った様子。彼女の仕草からは、疑っているというより、むしろ……。
「そ、そうっ! あの娘とヒデヨシ、もしかして同郷なのかしら!」
「むっ……? あ、あぁ」
同郷も同郷、それどころか親族であるが……。それを馬鹿正直に言っても仕方ないだろう。ここは多少ぼかす程度で良いだろうか……?
いや、もし今後ジャネットと交流することがあるかもしれない。その時に万純ちゃんの事を誤魔化していたら、後々面倒なことになるのは間違いない。と、なると話すべき、か。
「ふぅむ、そうだな……」
とはいえ、まだ少し踏ん切りがつかず悩んでしまう。そんな煮えきらない態度の俺を見て、リーゼロッテはごくり、と息を呑む。
本来、ここなら怒り出しそうなものだが、今回の場合。勿体ぶっているように見えているのだろうか。まぁ、ともかく答えるだけ答えるとしよう。
「あぁ、同郷。と、言うより同族だな」
「同族……?」
「彼女の名は万純、荒木万純。俺の兄の娘、姪っ子になる」
「えっ……!」
リーゼロッテは俺が正直に話すこと、しかも彼女と縁戚関係にあることが予想外だったのか、口を手で覆い隠しながら驚いていた。
しかし、驚いているリーゼロッテだが、その中で少し。本当に少し、ホッとしているというか、喜んでいる雰囲気がある。どういうことだろうか……?
そんなことを思っているうちに、落ち着いてきたようで、ごほん、んんっ。と、わざとらしい咳払いをしてリーゼロッテが話しかけてきた。
「そ、それでヒデヨシ。その、マスミという娘のことだけど……」
「うん……?」
なんというか、歯切れが悪いな。そも、リーゼロッテはこんな言い方をする娘だっただろうか? もっと、こう。竹を割ったというか、快闊な性格をしていたと思ったが……。
まぁ、そこまで俺と接点がないのは確か。はっきり言えば、ルードの方が付き合いが長いまである。
ともかく、煮えきらない態度だったリーゼロッテ。しかし、覚悟を決めたのか。ごくり、と唾を呑むとばん、と俺が座る執務机に手を置き、こちらへ前のめりになってきた。
「その娘について、ヒデヨシはどう思ってるのかしら!」
「…………はぁっ?」
覚悟を決めたのかと思ったら、突然、なにを宣ってるんだ、この娘は?
あまりの意味不明さに、きっといまの俺は間抜け面をさらしているだろう。だが、リーゼロッテはそんなことお構い無しに詰め寄ってくる。
……というか、近い近い。
なにやら、彼女は勝手に混乱しているから気づいてないようだが、もはや顔が目と鼻の先。そのまま俺が前にいけばキスできてしまいそうなほど近づいている。
鼻腔にほのかな、女性特有のやわらかく、かぐわしい香りが漂ってくる。
このまま、可愛らしい彼女の痴態を眺めるのも悪くないが――。
「いい加減、落ち着け」
「はうっ!」
彼女のおでこをぺちん、と軽く叩いた。目をつむり、おでこをさするリーゼロッテ。そして、多少頭が冷えたのだろう。目を開けた瞬間、俺の顔が目の前にあるのに気づいて――。
「ふひゃあ! ……あぅぅ」
可愛らしい悲鳴とともに、うめき声をあげた。
……しかし、少し惜しいことをしたかもしれない。いくら俺の性欲が減退しているとはいえ、見目麗しい少女。しかも、異国のお姫さまとキスできたかもしれないんだ。まぁ、その場合は後が怖くなりそうだが。
それはともかく、俺から勢いよく離れたリーゼロッテ。その顔は湯気が出そうな程、真っ赤に染まっていた。
それはそれとして、人知れず肩から、というより全身から力が抜ける。どうやら、彼女たちのことを警戒しすぎていたらしい。
なにしろ、彼女の反応を見ればいやでも察せるというもの。
アレク皇女の方は薄々察していたが、まさかリーゼロッテまで俺に好意を懐いていた、とは……。
本当に彼女との接点は多くないし、何より――。
「親子、とまではいかないが、だいたい一回りは歳が違うんだがなぁ……」
リーゼロッテに聞こえないよう、ぽつり、と呟く。幸い、いまだ混乱しているようでリーゼロッテの耳には届いてないようだった。
ともかく、いま彼女の質問に答えたところで間違いなく耳に入ることがないのは確か。少し落ち着くのを待つしかない。
その間、ぼう、としておくのも勿体ないし、取り敢えず仕事を続けるとしようか。
「あの、ヒデヨシ……?」
「うん? ……あぁ、落ち着いたかい?」
仕事に集中していた俺にかけられた声。間違いなく、リーゼロッテのものであり、ようやく落ち着いたようであった。
「え、えぇ……。ごめんなさい」
顔を赤らめたまま、恥ずかしそうに身を捩る。ここだけ見ると、本当。年相応の女の子、なんだがなぁ……。
「で、万純ちゃんについて、だったな」
「えっ、ええ! そう!」
ようやく返事を得られるからか、過敏な反応をみせるリーゼロッテ。まぁ、たぶん彼女が望む答えは返せるだろう。
「あの娘は俺にとってあくまで姪っ子、妹分だよ。それ以上でも、それ以下でもない」
「そっ、そう。そうなのね!」
声が弾んでいる。顔ももはや隠す気ないだろ、と突っ込みたくなるほど喜色満面だ。
しかし、彼女といいアレク皇女といい、難儀なものだ。こんなおっさんのどこが良いのやら……。
そう思いながらご機嫌になっているリーゼロッテを見つめるのだった。