鮮血のダンジョンマスター──彼が史上最悪の魔王と号されるに至るまで── (旧題名 ダンジョンマスターもの)   作:想いの力のその先へ

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アレクの覚悟、皇女の覚悟

 セラとエリスが交渉という話し合いを始めた頃、ダンジョンマスター、秀吉のもとでも動きがあった。リーゼロッテが帰還したあと、入れ替わるように今度はアレクが訪れていた。

 

 

 

 

 

 

 俺の目の前にいるボクっ娘。ルシオン帝国皇女アレクサンドラ・ルシオンの訪問に、俺は少々訝しんでいた。

 だって、彼女が直接来るなら、そもそもリーゼロッテをこちらに送る必要がない。そのタイミングで彼女自身が来れば良かっただけの話だ。

 まぁ、それをわざわざ知らせる必要もない。下手に疑っている、なんて思われては今後の活動に支障が出るからな。

 そのため、俺は友好的な態度を崩すことなく、アレクへ今回の訪問目的を問いかける。

 

「それで、アレク。今回はなんの目的で? 勇者……、万純ちゃんのことはリーゼロッテに聞いたんだろう?」

「うん、まぁ、それはね。まさか、あの勇者。ヒデヨシくんの姪っ子ちゃんだなんて、ボクもびっくりだよ」

 

 びっくりした、という割にはにこにこ顔なアレク。少なくとも機嫌は良いようだ。

 そんなにこにこしているアレクは、ここでは女性であることを隠さなくて良いからなのか、この頃はスカートを穿くことも増えてきた。

 そういう風に、女性としてのおしゃれをすることが増えた彼女は、可愛らしく女の子らしい衣服を見せびらかしながら、今回の目的について話し始めた。

 

「今回は勇者ちゃんじゃなくて、ちょっと小耳に挟んだことがあって、それを確認したかったんだ」

「小耳に挟んだ?」

「うん、セラ・セント・クレア。彼女を諸部族連合へ派遣したんでしょ」

「…………っ!」

 

 正直、驚いた。その事についてアレクは元より、リーゼロッテにも伝えていなかった筈だが……。いや、彼女の私兵。斥候部隊に尾行()けられたか?

 しかし、そうだとしてもジャネットが気付かないとも……。いや、アレクとは協力関係にあることを知っている。もしもの可能性を考えて排除できなかったか。

 

「それに、セラだけじゃなくてあの吸血姫。ジャネットさん、だっけ? あの人まで派遣した理由を知りたいかな?」

「……ほう」

 

 思わず声が低くなる。ジャネットは行く際に軽い変装、いつもの令嬢然とした格好ではなく、旅人としての格好で行った筈だ。

 顔のほうは変えられなかったにしても、そもそも彼女は殆ど表舞台に立っていない。で、あるにも拘わらず気付くとは。あの万純ちゃんが襲撃してきた現場にいた人物か。それとも、ただ単純に優秀な人物か。

 どちらにせよ、こちらからすればなんとも厄介な話だ。しかも、アレクが完全に確信している以上、シラを切ることもできない。

 さて、どうするべきか。

 

「……ヒデヨシくん?」

 

 いかんな、黙りこくった俺を見て訝しんでいる。ただなぁ……。いや、悩んでいても仕方ない、か。

 

「問いを答える前にひとつ、確認させてくれ」

「…………? なにかな?」

「鮮血のダンジョンマスター、という寓話を知っているか?」

 

 俺の質問の意図が分からないのか、アレクはキョトンとしている。

 

「……えっ? えっと、たしか昔。アルデン公国建国の時代にいたとされる魔王の俗称、だったよね?」

 

 それが、なにか? といった様子のアレク。やはり、人間の世界。しかも関わりのなかった国の人間からしたら、そんなものなのだろう。

 俺は彼女にも分かるよう、話を続ける。

 

「……ちょっと違うな。いたとされる、ではなくではなく間違いなく存在していたんだ。それも北方、現在諸部族連合が存在する地を支配していた」

「……っ?! そう、なんだ」

 

 俺の補足に驚きが隠せない様子のアレク。きっといま、彼女のなかでは様々な可能性、考えが検討されているであろう。

 そしてひとつの、正解の可能性に思い至ったアレクは目をまるくして、掠れた声で呟く。

 

「まさ、か……。だからこそ、彼女を、ジャネットさんを――」

「……そう、ジャネット。ジャネット・デイ・シュルツこそ、寓話に謡われる鮮血のダンジョンマスター。だからこそ、俺は彼女を諸部族連合へと派遣した」

 

 さすがに彼女がそんな大物だった、というのはアレクをして想定外だったのだろう。呆然とこちらを見つめている。

 

「あ、はは……。すごいね、ヒデヨシくん。きみはつまり、その魔王を御している、ってこと?」

 

 おそるおそる、といった様子で訊ねてくるアレク。

 だが、その答えは否だ。

 

「いや、必ずしもそうじゃないさ」

 

 そもそも、彼女が俺に従っているのも召喚時に植え付けられる親愛の情があることが大きいし、こちらが縛り付けているわけでもない。

 それでもなお、こちらに従っているのは彼女なりの思惑があるからこそ。それがなんなのか、というのは何となく分かっているが……。

 

「……ふぅん?」

 

 こちらを疑わしい目で見てくるアレク。別に嘘をいってる訳じゃないのだが……。それでも疑わしい、と思われるのも仕方ない。

 俺には俺の、ジャネットにはジャネットの、そしてアレクにはアレクの思惑がある。言い方を変えれば、ダンジョンの、魔界の、そしてルシオン帝国の思惑が。

 

 そんなこと考えてる合間にアレクが俺の側へ近づいていた。その顔はにやり、と野良猫のようにイタズラっぽく笑っていて――。

 

「ふふっ……。ねぇ、ヒデヨシくん?」

 

 その幼い見た目から想像できないほど、妖艶に笑い、自身の首筋に手を掛け、上衣を肌蹴させて――。

 そこで反射的にマズイ、と思った俺は彼女の肩へ手を置いて止めようとする。が――。

 

「ここまできて、それはダメ。……ね、ヒデヨシくん。――ん、ちゅ」

「ん、むぅ――!」

 

 アレクは手を払い除けると、こちらの首裏へ腕を絡めさせ、抱きつくようにキスをしてきた。

 あまりのことに一瞬混乱してなされるがままとなる。

 まさか、この娘がここまで大胆なことをするとは……。

 だが、これ以上好き勝手させるわけには――。

 

 ――そう、考えていた俺を見透かすようにアレクは唇を離すと、耳許でささやく。

 

「ん、ふっ――。……据え膳食わぬは男の恥、なんでしょ?」

 

 その言葉に俺はアレクを押し返そうとした腕が止まる。その言葉をどこで――。

 

 ……いや、考えるまでもない。セラだ。かつて、俺はルードがセラを娶るとき、そう言って発破をかけた。それをアレクは彼女から聞いたのだろう。

 まさか、あの時の言葉がそのまま返ってくるとは……。口は禍の門、ともいうが――!

 そんな俺の混乱をよそに、アレクは指を互いの股へ這わせ――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダンジョンマスターの、いや、コアの間の入り口を守っているハンス。

 直立し、警備している部屋の奥からは、艶やかな少女の声が響いている。

 だが、ハンスはその声に反応することはなかった。

 あくまで彼の使命は部屋の入り口を守ること。そして、彼自身アンデッド。既に生命を終えた者なのだから――。

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