鮮血のダンジョンマスター──彼が史上最悪の魔王と号されるに至るまで── (旧題名 ダンジョンマスターもの)   作:想いの力のその先へ

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傭兵団の団長、豪腕のグレッグ

 ルードが村の中を縦横無尽に駆け巡っている頃、リーゼロッテとアリアは煙がもうもうと立ち込める場所へと走っていた。

 彼女の勘であるが、そこに敵の親玉がいる。と思ったからだ。

 そしてその勘は正しかった。ごう、と勢いよく燃えている建物の近く、おそらく村の広場に初老の男性が簀巻きで拘束され、それを見るように他の傭兵たちよりも身なりの良い、短めの髪を逆立てた男が話しかけていた。

 

「おい、爺。もう一度聞くぞ、あの姫騎士さまはどこにいる?」

「し、知らぬ! ワシは知らぬぞ!」

「……強情な爺だ。それとも、本当に知らないのか?」

 

 頭を掻きながら、心底困った。と言いたげに困惑した声をあげる男。

 その男こそが傭兵たちの長であり、開拓村襲撃の元凶だった。

 

「見つけた! ――やめなさい、私はここよ!」

 

 後ろからリーゼロッテの凛とした声が聞こえ、男は振り返る。

 そこには男の標的としていた姫騎士、リーゼロッテ。そして護衛騎士、アリアの姿。

 獲物の姿を確認した男は目を細める。

 

「ほう、そんなとこにいたのか、姫騎士さま? ……しかし」

 

 彼女の立ち位置を確認する男。あの道は村の外へと続く道であり、そこから姫騎士があらわれた、ということは――。

 

「やれやれ、俺たちはとことん外れを引いた。ということかい?」

 

 自身が、傭兵団の団長が村へ襲撃をかける前。もっといえば王都から脱出を許した際に彼女らの鎧は返り血で汚れていなかった。

 その後の追撃で、多少の損耗が発生したのは確認しているが、それでも彼女らの返り血はまだ完全に乾いていない。つまり、新しすぎる。その答えは――。

 

「あいつら、勇んだな。しかも返り討ちとは……」

 

 洞窟の方を確認しにいった分隊。それがおそらく全滅したということ。まぁ、あの武勇誉れ高き姫騎士相手に勇み足で挑んだらそうなるのは目に見えていた。だからこそ、団長はたとえ見つけても深追いはするな、と命令を与えていたのだが……。

 

「功名を逸ったか……。まぁ、良い」

 

 団長は背負っていた身の丈ほどある大剣を構える。

 

「俺はグレッグ。貴様らの命、もらい受けるぞ」

「グレッグ……?! ()()のグレッグか!」

 

 傭兵団団長の名乗りに聞き覚えがあったリーゼロッテは驚きの声をあげる。

 

 ――豪腕のグレッグ。

 

 公国近隣の小競り合いに出没し、身の丈ほどある大剣を、棒切れのように振り回し、敵を瞬く間に殲滅することから豪腕の二つ名を持つ腕利きの傭兵である。

 だが、しかし――。

 

「貴殿が傭兵団を率いていた、などということは聞き覚えがないが……。それにこの無法。常に正面から敵を叩き潰すことを心情とした貴殿らしくもない!」

「なんとでも言うが良い。俺は傭兵、頼まれた仕事をこなすだけよ」

 

 グレッグの人となりを知っていたリーゼロッテはそう問いかけるが、当の本人は関係ない、といわんばかりに一言で切り捨てる。

 しかし、その一言にリーゼロッテは激昂する。

 

「それでも! 傭兵にも矜持というものがあろう!」

「……ないな! 殺して殺して、殺し尽くして。そしていつかは殺される! 我らはそんなろくでなしの集まりよ!」

 

 男と女、騎士と傭兵による言葉の応酬。己の誇りを、あるいは己の生きざまを示す言葉をぶつけ合う二人。

 そこに身分の貴賤、力の上下関係などなく、己が正しいと思う道を往く。それこそが二人にとって、唯一共通する事柄であった。

 

 そして二人は相容れぬ者どうし、ならば後できることは1つしかない。

 

「この、バカ者め……!」

「こぉい――!」

 

 己が正しさを証明するため、相手を討ち倒すのみ。

 

 

 

 

 

 腰に佩いた鞘から剣を抜き放ち、リーゼロッテは斬りかかる。しかし、そんな見え見えの攻撃に当たってやるほどグレッグも優しくない。

 

 ――ギィン!

 

 リーゼロッテの斬撃は彼の大剣に阻まれる。それだけではなく――。

 

「ぬぅん――!」

「きゃあっ――!」

 

 力任せに弾き返す。その膂力は凄まじく、リーゼロッテは木の葉のごとく吹き飛ばされた。

 だが、彼女も空中でくるり、と体勢を立て直し着地。油断なく相手を見据える。

 

「そら、次はこっちの番だ!」

「はや――」

 

 大剣を、鉄の塊を持つとは思えないほど軽快な挙動でリーゼロッテの目の前まで躍り出たグレッグは叩き付けるように大剣を振り下ろす。

 その威力は凄まじく、どぉん、という音とともに地面を陥没させ、クレーターを形成するほど。

 ただし、そのクレーター内にリーゼロッテの姿はない。彼女は間一髪、回避に成功していた。

 

「……さすが豪腕」

 

 彼女は感嘆の言葉を吐きながら、つぅ、と冷や汗を流す。もし、回避ではなく防御を選択していたらその上から叩き潰され、挽き肉となっていただろうことは想像に難くない。

 

「だが……!」

 

 確かに一撃の重さでいえばグレッグに軍配が上がる。しかし、ならばその他で勝負すれば良いだけの話だ。

 彼女は自身に風をまとわせる。それによって素早さをあげようというのだ。

 

 当たれば危ない? ならば、当たらなければよろしい。

 一撃が軽い? ならば、有効打になるまで打ち込み続けるだけだ。

 

 それを可能とするのが、風をまとう戦法。名付けてシルフィードドレス。彼女独自の加速法である。

 轟、と風をまとい突撃するリーゼロッテ。風の推進力を得た彼女のスピードは目を見張るものがあり、一息の合間にグレッグの懐に潜り込む。

 

「やぁぁぁぁぁぁぁ――!」

「ぐっ……!」

 

 そして繰り出される剣による連撃。彼女の攻撃により、グレッグの身体は僅かとはいえ傷ついていく。だが――。

 

「……ぬるいわぁ!」

「くぅ……!」

 

 確かに懐に潜り込まれては大剣は使えない。しかし鍛え抜かれた身体は、拳は使える。そうやってリーゼロッテを殴り飛ばした――まではよかった、が……。

 

「……ぐぬ、ぅ」

 

 殴り飛ばした筈なのに、グレッグの拳、腕がズタズタに切り裂かれている。

 それはある意味必然だ。グレッグが殴り飛ばしたとき、リーゼロッテはシルフィードドレスを、風をまとっていた。

 そして、それは彼女のスピードを早めるだけでなく、身体を守るための風の防壁。すなわち、彼女の周囲にはかまいたちの結界が張られていた。

 つまり、シルフィードドレスとはただの加速法ではなく、攻防一体の鎧でもあった。

 そんなところに手を突っ込んだのだから切り裂かれるのは当然の話だ。

 

 さらにいえば風自体がクッションとなり、打撃、斬撃の威力を削ぐおまけ付き。

 その証拠に、殴り飛ばした筈のリーゼロッテはさしたるダメージも受けずピンピンしている。

 

「厄介な。さすが姫騎士さま、か」

 

 思わず愚痴るグレッグ。そんな彼をリーゼロッテは油断なく見据えていた。彼がこの程度で終わる傭兵ではないことを知っているから。

 彼女は真剣な眼差しで正眼に剣を構える。

 

「往くわ、豪腕の。決着をつけましょう」

「――望むところ!」

 

 二人は決着をつけるため、互いに間合いを詰める。いよいよ二人の戦いは佳境へと入っていくのだった。

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