鮮血のダンジョンマスター──彼が史上最悪の魔王と号されるに至るまで── (旧題名 ダンジョンマスターもの)   作:想いの力のその先へ

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提案

 アルデン公国が誇る姫騎士、リーゼロッテ・アルデンは目の前に座る男。ダンジョンマスターがいまいち信用できずにいた。

 もともとダンジョン、モンスターと人間が敵対関係にあると言えばそれまでだが、それを抜きにしても彼女はダンジョンマスターからなにか危ういもの、危険な香りとでも言えばいいか。そのようなものを感じ取っていた。

 

 ――でも、ねぇ……。

 

 内心、独りごちる。彼女の直感は間違いなく危険だと、警鐘を鳴らしている。しかし、同時に彼の決断があったからこそルード、あのゴブリンが派遣され、結果的に開拓村が救われた。彼女の理性は、それをちゃんと考慮すべきだ、と問いかけている。

 それに、そうでなかったとしても彼は会談のため、自身の急所となるダンジョンコアの部屋へとリーゼロッテたちを案内している。武人としてのリーゼロッテは、それだけの覚悟を示した彼を疑いたくないのが本音だった。

 そして、そんな彼がここまでしての提案。少し興味を惹かれているのを自身でも自覚していた。だが、そんな彼女の興味は色々な意味で裏切られることとなる。

 

「……その提案とは、村長どの。村をダンジョン所属に、否。もっと直接的な物言いをしようか。村ごとダンジョンへ取り込まれるつもりはないか?」

「……は? はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――?!」

 

 あまりにもあんまりなダンジョンマスターの言葉にリーゼロッテは素っ頓狂な、絶叫にも等しい叫び声を上げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 姫騎士どのと護衛の女騎士は、俺の言葉に眼を白黒させた後、剣呑な雰囲気を身にまとう。まぁ、その反応はおかしくない。なにせ、取りようによっては、というよりもどう考えても俺の気が触れたが、もしくは裏切りにしか聞こえないだろう。

 実際、村長も俺の提案を聞いて顔を強張らせている。なんにせよ、これで否が応にも衝撃を与えられることが出来た。あとは、これをうまく使えるか――。

 

「あぁ、勘違いされているかもしれないが、これはもちろんそちら側にも利のある提案だ」

「これのどこが――」

 

 姫騎士どのが感情の赴くまま激発しようとする、が。

 

「話は最後まで聞いていただきたいものだ。村長どの、今の村にまともな防衛戦力は存在しないのではないかな?」

 

 村長は俺の問いかけには答えない。当然だ、そんな重要なこと部外者、どころか敵対者になりかねない俺に答えられる筈がない。しかし彼の反応が、びくり、と身体をすくませた反応が、それが事実であると如実に示していた。

 

「然もありませんな。……もし、防衛戦力が存在していれば、あそこまで一方的に村が蹂躙されるなどなかったでしょう」

 

 さも、そのことを痛ましく思っているように俺は顔を歪ませる。……本当にそんなことを思っているわけではないが、そういったポーズもまた、彼らを説得する材料になる。

 

「だからこそのダンジョンです。村の範囲内をダンジョンに収めれば、モンスターを村に常駐。すなわち、あなた方からすれば防衛戦力を労せず手に入れることが出来る」

「それは……!」

 

 姫騎士どのは苦虫を噛み潰したかのような、苦々しい顔をしている。こちらはルードが村を救出した実績、村人を襲わなかった実績がある。

 ……こちらとしても、ルードを含め危ない橋を渡ったんだ。このまま只働きで終わらせるつもりなど毛頭ない。

 幸いにしてこちらが人類に協力した、という実績を得ることが出来たのだから、それを最大限利用させていただくとしよう。

 

「それにこれは言い換えれば現状の追認でしかない。いまも我らのゴブリンたちが村の警備についているのですから。そうでありましょう?」

「ぐっ、むぅ……」

 

 俺の嘲るような物言いに押し黙る姫騎士どの。実際、彼女もこちらを信じたこそ護衛の女騎士をこちらに連れてきたのだ。だからこそ、俺が発した現状の追認という言葉に言い返せずにいる。

 

「……そ、それであなた方になんの利益がある、というのです」

 

 苦し紛れな姫騎士どのの言い分。こちらにも勿論、十分な利がある。だが、それを馬鹿正直に教える義理もない。

 

「はてさて、利益とは。……まぁ、一つ言えるのは無いのであれば、作り出すのもまた一つの手段。そういうことです」

「……あの、わしらはそれでいったい何を要求されるのでしょうか?」

 

 戦々恐々とした様子でこちらを窺ってくる村長。そこまで恐れなくても良いのだがなぁ……。まぁ、不安を払拭させるためにも答えるとしようか。

 

「別になにも? ……強いていうのであれば、どこぞの神――、失礼。どこぞの誰かが言ったように『産めよ、増えよ、地に満ちよ』と言ったところでしょうか」

 

 この世界に、聖書に準じた書物があるのか分からないからな。それに、下手に神だと何だと言って宗教的な問題が出来るのは避けたい。が、どうやらそれらは杞憂だったようだ。村長はともかく、姫騎士どのたちもそこまで気にした様子はない。

 あるいは世界的に宗教観がおおらかなのかもしれない。あちらの世界、地球では異教徒への弾圧。別宗派との抗争、というのは凄惨極まりないものだった。そんな地獄に巻き込まれるのはごめんだ。

 

「そんなことでよろしいので……?」

 

 俺の答えを聞いて呆然とする村長。だが、今のこちらからするとそんなことが良いんだ。

 今のDPでも、なんとか村の位置までダンジョン化させることは可能。そして忘れていけないのは、侵入者がダンジョン内で生存していると定期的にDPを手に入れられるという仕様。ファラ一人で月間300DPを生成していたわけだが、村の生存者は意外と多く50人いるという。

 ならば、それらの生存者が生成するDPは300×50の15000DP。しかも、人数が増えれば増えるほどこちらの利益は上がっていく。まさしく左団扇と言って良い。

 

 もちろん、村の防衛をする以上、防衛設備や罠の設置。人員の配置、場合によってはDPによる雇用も検討しないといけないことから出費も嵩むし最初はとんとん、もしくは赤字になる可能性は十分ある。だが、それを考慮しても十分元を取れる。それどころか、村を守る。という名目でダンジョンの侵入者を殺害できる、というのがすごく良い。

 なにせ、()()はこちらにある。村人を守るために戦うのだからもちろん感謝されるし、姫騎士どのも否定しない、というより否定できないだろう。

 自国の民と賊徒、どちらが大事かという話なのだから。それを考えたらモンスターを使って殺したとして、こちらを非難できる訳がない。

 

「……わかり、ました。その提案、受けたく――」

「村長――?!」

 

 村長の決断に大声を出して驚愕する姫騎士どの。しかし、村長は姫騎士どのを見て、ふるふる、と力なく首を横に振る。

 

「リーゼロッテ姫殿下のご懸念ありがたく。しかし、わしはあの村の長。村を重んじ、民たちの安んじる責任があるのです」

「村長どの、よく決断していただけました。そうなれば、ダンジョンと開拓村。ともに手を携えて栄えていくこともできましょう」

 

 村長に向けてにこやかな笑みを浮かべる。俺が村長に言ったことも本心だ。なにせ、彼らが繁栄すればするほど、こちらにも恩恵がもたらされるのだから。

 それに、姫騎士どのも困ったような表情を浮かべているが、否定していない。それが、ダンジョンの傘下に入ることが最善手ではないが、ベターであることは彼女だって理解できているのだから。

 

「では善は急げ、とも言います。村の皆様への説明もありましょう。詳しい詰めはまたいずれ行いましょう。村へ帰られるとよろしい。……ルード」

「へい、マスター」

「貴様は村長どのの護衛として、今一度村に赴いてもらう。その後はしばらく村で待機。村長どのの手伝いをしろ。村長どのも、それでよろしいか?」

「……ええ、村の英雄の一人。ルードどのが一緒に説得してくだされば、村人たちも納得しやすいでしょう」

「では、それで。……ルード、頼むぞ」

「へい、了解しやした。ですが……」

 

 そう言って、ちらり、と姫騎士どのたちを見るルード。流石に完全な護衛なしな状態で、この場を離れるのは不安なようだ。

 その不安、分からなくもない。というよりも、俺自身不安はある。しかし、部下であるルードが命を張っている以上、俺が逃げるわけにもいかない。それに今は命の張りどころでもある。

 

「こちらは心配するな、行け」

 

 俺の命令を受け、ルードは村長とともに部屋を退室する。そして部屋には俺と姫騎士どの。そして護衛の女騎士が残されるのだった。

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