鮮血のダンジョンマスター──彼が史上最悪の魔王と号されるに至るまで── (旧題名 ダンジョンマスターもの)   作:想いの力のその先へ

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運命共同体として

 女たちがルードを取り合う、なんていう珍事……。まぁ、本人たちからすれば大事なことなのだろうけど、それはともかくとして。思わぬことで時間を食ってしまったが、時は有限でなおかつ貴重なものだ。

 その時間を浪費した分を取り戻すためにも、いま出来ることをやっておかなくては。その為にはまず――。

 

「ルード、悄気ているところ悪いが村長どのと話し合いたい。いま可能か。不可能な場合、いつ頃都合が良いか確認を取ってくれ」

「へ、へぇ……」

 

 自分の世界に入っているところに俺に話しかけられて吃驚したようで、ルードは肩をびくり、と震わせると震える声で返事をして駆け出していった。村長のもとへ向かったのだろう。もっとも、同時にこの場から逃げ出したかったのかもしれない。女二人が発する嫉妬の視線に巻き込まれていたのだから、然もありなん。

 まぁ、それはそれとして。

 

「さて、セラさん、だったな?」

「はぁい、マスターさま」

 

 先ほどまでのファラに対する刺々しさはなんだったのか、と言いたくなるほどおっとりとしたようすをみせる彼女。僧侶、という役職柄おおらかにみせる必要があるのだろうが、その瞳には理知的な光が宿っている。おそらく俺が何を望もうとしているのか理解している。

 

「あなたも村長どのとの話し合いに同席して欲しい」

「えぇ、もちろんです」

 

 やはり、理解していたようだ。そして、それが自身の地盤を固めることも理解している。だからこそ、すぐに快諾した。この分なら今後、外交官としても期待できるだろう。

 さっそくセラさん。いや、セラと呼び捨てにするべきか。ともかく、彼女に役目を与えられたことに焦りを覚えたのか、ファラが自分にも何かないか、と確認してくる。

 

「あの、マスターさん! あたしにも――」

「焦るな、焦るな。それに貴様は身重の身だろうに。まず、元気な子を産むことだ」

 

 苦笑して指摘すると、ファラは恥ずかしそうに顔を赤くする。そして、セラはそのことを知らなかったようで羨ましそうに見ている。

 それから意を決したように、こちらを見る。

 

「あの、マスターさま?」

「そちらも焦るな。それにルードの気持ちも慮ってやれ。まだあいつも気持ちの整理が着いてないんだ」

 

 セラがルードの子を欲しがるのは否定しない。だが、それでも順序というものがある。

 

「なぁ、セラ。貴様が欲しいのは、ルードの胤だけか? 愛は欲しくないのか?」

「そんなこと――!」

「だったら少し待ってやれ。それに、あいつとそこのファラも最初から円満だった訳じゃない」

 

 その言葉に驚き、セラは目を真ん丸に開いてファラを見る。ファラは恥ずかしそうに、そして少し不満をこちらにぶつけるように視線を動かす。なんでそのことを言ったんだ、といったところだろう。

 だからこそ言ったんだ。そうすれば敏い彼女のことだ、自分にも入る隙間がある、と理解する。そうなれば、焦る必要もなくなるからな。

 

「そう、そうですか。じゃあ、ゆるりといきましょうか」

 

 事実、セラから先ほどまでの焦りは失われ、ふわり、と軽やかな笑みを浮かべている。俺の思惑通り理解できたようだ。

 

「マスター、村長からいつでも良いと……。何があったんです?」

 

 いつの間にか帰ってきたルードが先ほどまでと全く違う雰囲気に困惑している。その姿を見て、俺は薄く笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 それからしばらくして。

 俺は先ほどの広場から、村長の家に改めて通信を繋ぎ直し村長と話していた。

 

「村長どの、ある程度ルードから話は聞いているが、村長どのの目から見て、村の様子は大丈夫ですかな?」

「おお、ダンジョンマスターどの! こちらはルードどのの手伝いもあってか、順調そのもので。ゴブリン部隊にしても、最初は村の者共も警戒しておりましたが、いまは大分打ち解けたようですの」

 

 と、嬉しそうに破顔する村長。目尻に刻まれたシワや、白くなった髪が彼の生きた時間の長さを物語っている。

 

「それは良かった。こちらとしても安心できるというもの」

 

 実際、村長に対する気休めなどではなく、本当にそう思う。せっかくリーゼロッテと約束したのに仲違いで殺し合いになりました、などとなったら彼女にあわせる顔も――というよりも、こちらも殺し合いになりかねない。そんなのは、本当にごめんだ。

 

「それで、今後のことについてだが……。まず、村長どのに確認なんだが、現状、開拓村は新規に人を入れるとして、どの程度許容できる? これは食料などは考慮せず、住居だけで考えて欲しい」

「ふむ、そうですなぁ……」

 

 俺の問いかけに、村長は顎髭を扱きながら考え込む。しばらく考え込んでいた村長は、考えがまとまったようで口を開いた。

 

「いまで主を失った家が何件かありますからの。2、30人程度であれば……」

「その程度なら、即座に可能と」

「そうなりますの。むろん、食料などは――」

「もちろん、こちらで援助させていただく」

 

 言質をとった村長はにこり、と笑う。食料程度ならそこまでDPは消費しない――それこそ食料だけで考えればDPは消費よりも供給の方が多い、単純に黒字だ。もちろん、それだけにDPを使う訳ではないが。

 しかも、開拓村の人間が増えれば増えるほどその黒字は拡大する。こちらからすれば増やし得、という訳だ。

 

「住居の拡大は?」

「幸い、ここには材料は豊富ですからの。ただ、大工の数は少ないので……」

 

 そりゃ、そうだ。元々住人が少なかったのに、あの襲撃まで受けたんだ。と、なるとどうしても手数が足りなくなる。こちらはどうするべきか……。

 

「……まぁ、時間がかかっても増やせるのなら重畳。ゆっくりと拡張していくべきでしょうな」

「そうですな」

 

 出来れば、DPは防衛力強化に使いたい。と、なればやはり住人たちに頑張ってもらう他ない。かと言って、いま送れる人員は……。やはり、少し冒険するか。

 

「ルード」

「なんでやしょう?」

「貴様の部下2人はダンジョンに戻してもらうぞ」

「……えっ? ですが、ここの防衛は――」

「その代わり、ゴブリンたち。……そうさな、10人程度をそちらに送る」

「…………はぁっ?!」

 

 俺の宣言に驚きの声をあげたルード。それも当然だ。なんと言っても10人と言えばダンジョン内にいるゴブリンのほぼ全てと言って良い数だ。なにせ、既に開拓村にはゴブリンアーチャー10人がいるのだから、それを含めれば20人。開拓村住人の約半数のゴブリンが村に駐屯。そうなれば、それだけダンジョンが手薄になる、ということなのだから。

 

「マスター! それはさすがにダンジョン防衛に支障が――」

「現状は問題ない」

 

 そう、問題はない。それはダンジョンと開拓村の位置関係にある。簡単に言ってしまうと、ダンジョンは開拓村よりもさらに帝国国境に近い位置にある。そしてなおかつ、このダンジョンはあまりその存在を知られていない。

 むろん、公国首都を襲撃した王国には知られている可能性はあるが、リーゼロッテたちを探すとすれば人里。開拓村を優先するのは目に見えている。つまり、開拓村がダンジョンの盾になる形だ。すなわち、開拓村が無事な限りはこちらが危険になる可能性は低い。だからこそ、こんな無理な形の戦力抽出が出来る。

 前も言ったように既にダンジョンと開拓村は運命共同体。ならば、共存共栄するためにも絶対に開拓村は死守しなければならない。その為の戦力抽出、そのためのゴブリン派遣だ。

 それに、ゴブリンがいなくなったとしてもダンジョンには他にコボルト2人、スライム10体。それにボスモンスターのストーンゴーレム1体とお供のサンドゴーレム2体がいる。

 正直、いまの認知されていない状況であれば、ゴーレムだけでお釣りがくるだろう。

 それに、今後ダンジョンの方はスライムを主軸として防衛しようと思案しているところだ。うまく行けば面白いことになるだろう。

 それでも敢えてルードの部下たちをダンジョンに戻すのは万が一を考えてのこと。伝令や、ダンジョンに残した5人。ルードの子供たちを教育するためだ。それにどうやらアランもゴブリンの子を孕んでいるようで、少しづつお腹が大きくなってきている。その子らの教育も考えてのことだ。

 

「ともかく、こちらのことは心配しなくて良い。多少戦力が少なくなっても、それは一時的なことだからな」

 

 ルードを安心させるため、俺はそう告げて諭すのだった。

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