鮮血のダンジョンマスター──彼が史上最悪の魔王と号されるに至るまで── (旧題名 ダンジョンマスターもの)   作:想いの力のその先へ

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懐かしきもの

 ざわざわとした喧騒渦巻くエィルへ入城したわたくしは、一路目的地である都市庁舎を目指します。

 ですが、やはり少し足が鈍ってしまいます。無理もありません。ここに、エィルに来たのは本当に久しぶりで――。

 

「おや、セラちゃんかい? 久しぶりだねぇ!」

「……女将さん、お久しぶりです」

 

 今も宿屋の入り口を清掃していた女主人さんから声をかけられました。あの人には一時期お世話になり、色々と助けてもらいましたから。本当に懐かしいものです。

 そのことを思い出して、自然と笑みが浮かんでしまいます。

 

「元気だったかい? それに、また一段と可愛らしくなったねぇ。()()でも見つかったのかい?」

 

 イタズラっぽく笑った女将さんは握りこぶしを作ると小指だけを立てて、こちらへ見せてきました。

 その指摘にわたくしは、あの可愛らしいゴブリンさん。ルードさまのことを考えて頬が暑くなるのを感じます。

 あくまでからかいのつもりで言ったのであって、そのつもりがなかった女将さんはポカンとした顔を見せます。

 ですが、すぐに満面の笑みを浮かべられて――。

 

「おやおや、まぁまぁ。本当に好い人ができたのかい! できればうちの宿六と交換してほしいねぇ」

「あ、ははは……」

 

 女将さんの実感がこもった言葉に、頬がひきつってしまいます。

 確かに好い人は好い人なのですが、彼はゴブリン。一応、モンスターに分類されます。それを旦那さまと交換、と言われましても……。

 それになんだかんだ、女将さんと旦那さまの夫婦仲は良好――女将さんが尻に敷いている、とも言いますが――なのですから。

 まぁ、わたくしがこの都市から離れている間に夫婦仲が……。という可能性は否定できませんけど。

 でも、それはないでしょうね。女将さん、顔こそ真剣ですが、声が半笑いでしたから。きっと今も良い仲なんでしょう。

 

「それでこっちにいつ帰ってきたんだい?」

「ついさきほどですよ。まぁ、帰ってきたと言うより用事があって立ち寄った、というのが正確ですが」

「まぁ、またお仕事かい。僧侶、というより神官さんは大変だねぇ」

 

 純粋にわたくしの心配をする女将さんを見て、少し罪悪感を覚えます。わたくしは女将さんが思うほど立派な人間ではないのに……。

 でも、それを悟られるわけにもいかず、わたくしは曖昧な笑みを浮かべます。

 

「まぁ、なんだ。セラちゃん頑張りなよ!」

 

 笑顔を浮かべて激励してくれる女将さん。わたくしは深々と礼をすることを返礼として先を急ぐことにしました。

 ここにこれ以上留まるとボロを出してしまいそうで怖い、それだけを思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 その後も何度か知り合いに呼び止められ、雑談を行いながらも、わたくしはなんとか当初の目的地。都市庁舎へとたどり着きました。

 ここに来るのも久方ぶりですが、かつてと同じように役人の方々が忙しなく動き回って仕事をこなしています。

 また、一部の役人さんはここへ訪れた市民への対応に追われているようです。とはいっても、険悪な雰囲気は感じないので、何らかの問題が発生したなどということではないようですが。

 ともかく、わたくしもようやくここへたどり着いたことですし、マスターさまに頼まれた仕事をこなすといたしましょう。

 

「もし、少しよろしいですか」

「あっ、はい。なんでしょうか?」

 

 小走りで移動していた役人さんを呼び止め、話しかけます。

 そのことに嫌な顔もせず、応対して見せたことできちんと教育されている。と、場違いな関心をしてしまいました。

 それよりも、今は用事を済ませないと。

 

「さきほど、門番の衛兵さんから早馬が来たと思うのですが……」

「あぁ、はい。確かに来られましたね……。もしかして、あなたが?」

「はい、聖神(せいしん)教の僧侶。セラと申します」

「都市長への会談をご希望とか……」

「ええ、そうです。取り次ぎをお願いできますか?」

 

 わたくしが取り次ぎをお願いすると役人さんは、少し困ったような顔で微笑まれました。なにか問題でもあったのでしょうか?

 

「取り次ぎは可能なのですが……。今、都市長は来客の対応中でして。もしかしたら、少しお時間をいただくかもしれません」

「そんなことですか。構いませんよ」

 

 その程度のことなら、いくらでも時間を待ちましょう。問題という問題じゃなかったことに内心ホッとします。

 もともと、こちらがアポイントメントを取ったわけでもない以上、ある程度待たされるのは織り込み済みです。

 確かに仕事を終わらせるのは早ければ早いほど良いでしょうが、それで雑になっては本末転倒ですから。

 

「それでは少々お待ちください」

 

 そのまま役人さんはこの場を離れていきます。さて、どれほど待たされるか……。

 

 

 

 ――と、思っていたのですが。

 なにやら、それほど時間を待たずに。と言うよりも、移動時間を考えればほぼ直ぐにさきほどの役人さんがこちらへ戻ってきました。はて……?

 

「えっと……。都市長がお会いになる、と――」

「……? 来客の対応中だったのでは……?」

「はい。ですが、一緒に会う、と……。なんでも『懐かしい顔を見るのも良いでしょう』と、仰られていましたが……」

 

 懐かしい顔……? なんのことでしょうか?

 役人さんも訳が分からないようで、困惑した顔を見せています。

 まぁ、分からないものはともかくとして、早く会える分にはこちらとしても良いでしょうし、会いに行くとしましょう。

 

「それでは案内をお願いしても?」

「はい、わかりました」

 

 わたくしは役人さんにお願いして都市長室へと向かうことにしました。……一応、場所は知ってるのですが、()()()()()()は部外者ですし、身勝手に動くのも憚られましたから。

 

 

 

 そしてわたくしは役人さんに案内され、都市長室へと足を踏み入れたわけですが――。

 小太りの中年男性。この都市の都市長がいるのは当たり前なのですが……。

 

「あら……」

「うげぇ……」

 

 部屋に入ってきたわたくしを見て、正反対の反応をする二人。

 確かにわたくしにとっても、都市長にとっても懐かしい顔。

 わたくしがかつて各地を放浪している頃に出会った銀色の髪をした姉と桃色の髪をした妹。

 二人のエルフの姉妹がいたのですから。

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