鮮血のダンジョンマスター──彼が史上最悪の魔王と号されるに至るまで── (旧題名 ダンジョンマスターもの)   作:想いの力のその先へ

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侵攻部隊

 城塞都市エィル郊外、遠目から都市の城壁が見える地点に鎧をまとった人間の一団があった。

 その中の一人、プレートアーマーを着た兵士が他の人間より少し豪華な装飾を施された鎧をまとった人間へと話しかけた。

 

「……隊長、本当によろしいのですか?」

「おいおい、ここまで来て尻込みか?」

「いえ、そういうわけでは……」

 

 隊長、と呼ばれた人物のからかいを含んだ言葉にどもった兵士。彼を安心させるように男は軽口を叩く。

 

「なぁに、あくまで我々は前座だ。そもそも、この数で城攻めなど正気の沙汰ではない」

「では、なぜ……?」

「言っただろう、前座だと。今回の奇襲、総大将は誰だか分かっているな?」

「はっ、はぁ……。レクス殿下でありますが……」

 

 自身の隊長の言に困惑する兵士。今さらすぎる質問だったからだ。

 今回のアルデン公国奇襲軍の大将、司令官の名前はレクス・ランドティア。ランドティア王国の王子にして後継者、すなわち嫡男であった。

 そんな今さらすぎる質問をあえて投げ掛けてくる意味。その理由が見えず、兵士は困惑していた。

 

「我々は今回、公国首都を電撃奇襲、占領し公王一族を捕えることに成功した。ここまでは良いな?」

「はっ、それはもちろん。自分も参加しておりましたので」

「本来なら、それだけで手柄という意味では十分なんだが、我らがレクス殿下は勤勉であらせられる」

「……もしや、まだ足りない、と?」

 

 兵士の疑問にこくり、と頷いた男。そして彼はおもむろに一言呟く。

 

「――姫騎士」

 

 その単語だけで、自身たちの司令官が何を望んでいるのか察した兵士の顔色が悪くなる。

 

「もしや、あの化け物を捕えよう、と……? む、むちゃです! たったこれっぽっちの戦力で!」

 

 もはや、悲鳴ともいえる声色で叫ぶ兵士。事実、彼も自分たちよりも早く追撃に出た傭兵部隊。グレッグたちが未帰還なのは知られていた。……おそらく、返り討ちにあって命を落としたのだろう、という予測もついていた。

 グレッグ傭兵団。その団長たるグレッグが腕利き、精鋭であるというのは周知の事実。で、あるが、それ以上にかの傭兵団は規模が大きいということで有名だった。

 なにせ姫騎士-リーゼロッテを追撃する際、率いていた数は100名余り。現在エィルを包囲しようと進軍している軍集団である200名の半分以上。しかも、今回王国が奇襲のため動員した兵士の数が約800のため、実質的に主力の一部として計算されていた。

 

 その部隊が姫騎士一人のために壊滅したのだ。彼らが警戒するのは当然だといえた。……もっとも、実際には副団長で片腕のアリアの奮迅や、ダンジョン側の協力というイレギュラーがあったわけだが、そんなこと彼らが知るよしもない。

 それはともかくとして、実際のところ数自体は倍近いとはいえグレックのような腕利きのいない、訓練を受けているとはいえ実質的な雑兵の集まりともいえるこの部隊が姫騎士に挑んでも、撃退され、最悪壊滅するのは火を見るよりも明らかだった。

 そのことから兵士が怯えるのは当然の話だったし、咎めるつもりも毛頭ない。だが、彼が悠然と構えていたのはちゃんと理由があった。

 

「なぁに、まさか上も俺たちが姫騎士に勝てる。なんて考えてないさ。あくまで、俺たちの任務はエィルを攻め込む()()()()()姫騎士の居場所の調査。逃げ込む場所にはうってつけだからな」

「た、確かにあの場所は帝国にも近く、籠城するには適していますが……」

「そして居場所が分かってしまえばこっちのもの。あとは悠々と本隊に帰還して、あの()()()()()()勇者さまに丸投げって寸法だ」

「な、なるほど! その手がありましたね!」

 

 隊長が告げた方法を聞いて、兵士は喜色の笑みを浮かべる。

 そも、ランドティア王国が傭兵を含め1000に満たない数で奇襲を掛けたのか。公国に察知されないように少数で行動しなければならない、という制約があったのも確かだが、それ以上に。

 公国に姫騎士あり、というのであれば王国に勇者あり。一騎当千の猛者には同じく一騎当千の猛者をあてればいい。という考えのもと行動を移していた。

 実際勇者、()()の力があったからこそ王国が公国の奇襲を成功させたのは事実であり、その戦力を当てにするのは当然の帰結だった。

 もっとも、ある意味運良く、あるいは運悪く勇者と姫騎士が相対することなく首都が陥落。姫騎士が落ち延びる、という事態に発展してしまったのだが……。

 

「ともかく、そういうことだ。分かったか、ここで俺たちがそこまで頑張る必要がない、ってことが」

「はい、それはもう。よく!」

 

 元気良く返事する、現金な兵士に隊長は苦笑いを浮かべる。確かに命の危険がないのであればその方が良い。しかし、こうまであからさまだと怒るに怒れなかった。

 

「まったく、貴様は――。……ん?」

「ははっ……。どうかされました?」

 

 呆れた表情を浮かべていた隊長だったが、ふと怪訝な顔で目を細める。違和感を覚えた兵士は、彼に声をかける。すると……。

 

「なに、いま人影が……。エルフ、だったような……」

「エルフ、でありますか?」

 

 隊長の言葉に、今度は兵士が怪訝な表情になる。公国は裏はどうだか分からないが、表向き他二ヶ国と違いエルフの奴隷を禁止していた。

 しかし、それでも二ヶ国に囲まれた地形、ということもあってエルフを含めた諸部族連合は外交に消極的で旅行者などもっての他の筈。となれば見間違いか、もしくは――。

 

「公的な訪問か……。一応、公国と諸部族連合は友好国、だった筈だ。――よし」

 

 しばらく熟考していた隊長だが、考えが纏まったのか隊員たちへ号令をかける。

 

「我が隊の諸君。これから我らはエィルへ牽制をかけながらエルフの探索を行う」

「……よろしいのですか?」

「よろしい、よろしくないで言えばあまりよろしくない。が、それでもエルフを生け捕りにできれば帳尻、どころかお釣りが出る」

 

 そう宣言して、にやり、と笑う。

 

「ここで手柄を挙げれば恩賞は思いのままだ。では諸君、励むとしよう!」

 

 ――おぉぉぉぉっ!

 

 辺りに配下の男たちが放つ野太い鬨の声があがる。それを聞き、満足げに頷くのだった。

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