鮮血のダンジョンマスター──彼が史上最悪の魔王と号されるに至るまで── (旧題名 ダンジョンマスターもの)   作:想いの力のその先へ

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今後への話のために

 このタイミングでクラン女男爵が通信を繋げてくるのは予想外だった。まぁ、彼女にも緊急時には通信を繋げるよう通達していたのだから致し方ない面もあるだろう。

 それより、彼女が繋いできた件だ。

 

「それでクラン女男爵、なにか問題でも?」

「えっ、あ、あぁ……」

 

 呆然としている女男爵。さもありなん、まさかここに主君が、リーゼロッテがいるなんて考えてもなかったろうからな。

 彼女は気を取り直す、というより自身を落ち着かせるため、んんっ、と咳払いする。

 

「ルディアの街で消費されている物資だが、避難民が想定よりも多いこともあって、このままの場合早晩物資が枯渇する可能性が浮上してきた。それで――」

「……なるほど」

 

 それを聞いて、俺も頭を抱える。気のせいか、ズキズキ、と頭も痛みだしたように感じる。

 それに、街の物資不足はそれだけじゃないだろう。何せリーゼロッテが帝国軍を伴って帰還したのだ。

 総勢3000からなる軍隊、それが急に現れたならば物資を消費するも必然。いくら輜重(しちょう)隊がいるとはいえ、とてもじゃないがまかないきれるわけがない。

 ならばどうするか。簡単だ、現地調達すればいい。まぁ、流石に無法はしてない様子。当然だ、一応帝国は公国解放を大義名分として進軍してきている。それが無法を行おうものなら大義が揺らぐし、兵たちの士気にも関わる。そして何よりリーゼロッテが敵にまわる。

 それを帝国の指揮官。あのボクっ娘が放置するわけない。それこそ、下手人の首を刎ねて網記粛正に利用くらいするだろう。

 喜ぶべきか、悲しむべきか。そのような事態には現状、陥ってないようだが。

 

 それはともかく――。

 

「物資の件、了解した」

 

 俺の返答を聞いてか、明らかにクラン女男爵はホッと安堵している。彼女の権限を使えば、それこそ城塞都市エィルから物資を調達する。ということも出来なくはないだろう。

 それをしない、ということは何らかの問題――。……あぁ、そうか。

 

「――それで? エィルの方は、なんの物資を必要としている?」

「……っ!」

 

 クラン女男爵は息を呑むとともに目を見張る。心なしかギクリ、と身体も強ばっている。やはり、か……。

 女男爵の判断か、もしくは都市長の判断か。物資の出し渋り……、いや、節約を判断している。今後の、リーゼロッテが帰還した後の事を考えていたんだろう。

 何せ、今こそ貿易の街と化していたが、もともとエィルはさきほども言ったように城塞都市。彼女が帰還した後は招いて首都奪還まで仮の本拠として機能させるつもりだった、と考えるべきだ。

 そう考えるとルディアへの融通を渋るのも理解できる。リーゼロッテを迎えたのは良いが物資欠乏で身動きがとれなくなる。などという事態に陥れば対外的にも問題だし、何より公国側の貴族たちが見限って離反しかねない。それだけは絶対、避けなければいけない。

 内部に獅子身中の虫を飼うなど公国の大きさでは死活問題。これが王国や帝国の国土と同程度の力があれば、まだ耐えられただろうが……。

 

「ふぅむ……」

 

 しかし、物資について訊きはしたが、実際に答えるとなると難しいだろうな。何せ、あちらは天下の往来。いくら昨今繁栄し始めた開拓村だから人が少ないとはいえ、どこに不穏分子が紛れ込んでいるとも限らない。

 それだけじゃない。俺は女男爵が映されているホログラムから視線を外す。そして、視線を不思議そうにこてん、と首をかしげ目をぱちくり、と瞬かせているボクっ娘へ向ける。

 

「……ん? どうしたんだい?」

 

 こいつは……。惚けているが、こちらの意図に気付いている。ここで物資の話などしようものなら、内心小躍りしながら頭の中へエィルやダンジョンの情報を刻み込むだろう。

 やはり、今後の事を判断するなら――。

 俺はあえてボクっ娘やリーゼロッテに分かるようダンジョンマスター用タッチパネルを出現させると、それを使ってルードへ通信を繋ぐ。

 ボクっ娘は未知なるものの出現に目を輝かせてワクワクし、リーゼロッテは頭に疑問符を浮かべながら困惑する。

 

「ルード、聞こえるか」

「……はい? なんでありやしょう、マスター」

 

 通信は無事繋がり、クラン女男爵が写っているホログラムの横に新たなるホログラムが出現。そこへルードが映し出される。

 その、映し出されたルードを見て、口を半開きにしてポカン、と呆けるリーゼロッテ。声は間違いなくルードなのに姿は2メートル超えの巨漢が映し出されているのだから、内心混乱しているのが丸分かりだった。

 だからこそ――。

 

「ル、ルードなの……?」

 

 彼女の口から震える声が漏れでる。その声でようやくここに来客がいることに気付いたルードは嬉しそうに声を弾ませた。

 

「おや、その声は……。リーゼロッテの姐さんですか! ご無事の帰還、何よりです」

「あ、ありがとう……?」

 

 2人の間の抜けたやり取りに、思わず吹き出しそうになる。ルードとしては純粋に無事なことを喜んでいるだけだが、リーゼロッテはあいつが進化したことなんて知る筈もない。その意識の相違が漫才のようなやり取りにしてしまっていた。

 

「……くっ、ふぅ――。こほん。とりあえず、あいつについては後で説明させてもらおう。ルード、とりあえず貴様はクラン女男爵へ転送についてレクチャーを」

「えっ……。良いんですかい?」

「構わん、この際だ。今後の事を考えると彼女もこちらに出入りできるようにした方がやり易い。それでクラン女男爵?」

「な、なんだろうか……?」

 

 自身の話題の筈なのに置いてきぼり食らった彼女は、ちょっと混乱で動揺しながらも返事する。

 

「物資に関してだが、後で書類に纏めてほしい。こちらで精査させていただく。その後、返答させてもらおう。よろしいか?」

「あ、あぁ。それなら問題ない。それではこちらはすぐに作業へ入ろう。よろしく頼む」

 

 そのままプツリ、と二人への通信が途切れた。それが確認できた俺は――。

 

「それでは、改めて。……お話、といこうかお二方?」

 

 リーゼロッテとボクっ娘、二人へと向き直るのだった。

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